不動坊の難しさ

2024-02-08 00:00:00 | 落語
柳家権太楼師匠による古典落語『不動坊』をオーディオブックで聴く。落語の要素の一つは演者の身振り手振りであり、とりあえずそれは想像しながら聴くことになる。

最初の場面は、長屋の家主が店子の利吉へ、ある話をするところから始まる。それは、縁談。

長屋きっての美人のお滝さんは講釈師の不動坊火焔の妻だった。ところが不動坊は地方への巡業中に急病に罹り、急に亡くなってしまう。ところが不動坊は生前の乱脈生活で借金が100円溜まっていた。お滝さんは返そうにも家具一式を売っても50円にしかならず、水商売に行くしかないと家主に相談があったとのこと。利吉は長屋にいる独身男性の中で一番の働き者で蓄えもあるだろうから、100円払ってお滝さんを引き受けたらどうだろうか、という話だ。


一方、利吉の方は、以前からお滝さんのような女性と結婚できないかと前々から念じていたようで、話は即決。早くも、今夜にも祝言をということになってしまう。そして家主は、部屋を片付けることと、銭湯に行って綺麗な身なりになっておくことを言い渡す。

ということで、突然の吉報に舞い上がった利吉は銭湯の中で、長屋の住人に事の成り行きを話してしまうが、ついでに他の独身者が選ばれなかったのは、それぞれ不細工だからだろうと勝手な憶測をしゃべってしまう。

その話は瞬速で不細工仲間に広まり、仕返しをしようということに決定。手法は幽霊。売れない落語家を連れてきて、不動坊の幽霊として空中遊泳させ、「四十九日も済まないうちに再婚するとは許せない」と語ることになっていた。

そして、深夜、屋根裏から木綿さらしで吊り下げられた幽霊が、口上を述べたのだが、逆に借金の件を非難されることになる。そして10円札を渡されて、追い返されることになったのだが、吊るしていた男たちはさっさと逃げ出していて、宙に舞うのは売れない落語家という図に仕上がるわけだ。


この落語は、利吉が銭湯で浮かれる場面が、かなり長い。嬉しくて我を忘れて次から次へと妄想をしゃべりはじめて、その中に、長屋仲間の悪口が入ってくる。一方、最後の場面では、幽霊と言う怪しい存在に対して、理路整然と正論で反論するわけだ。この二つの場面の演じ方が難しいのだろう。まったく違う人物の様に豹変してしまうと観客には嘘っぽく感じられるだろう。俗に言う二枚舌。信頼できない政治家と同じだ。そうではなく、同一人格の中で「我に返った」感で話さなければならない。

演者により、さまざまな変化が加えられながら生き延びている古典のようだ