相撲小説『金星』(もりたなるお著)

2011-02-22 00:00:14 | 書評
sumo一時の話題も、やや忘却の世界に近づいているのが、八百長相撲発覚事件である。今思えば、民主党のごたごたの目隠し用だったのかもしれないが、その役には立たなかったようだ。一場所休場して、「ある程度の八百長も日本文化ではないだろうか」というような場所に落ち着きそうであり、メール関連力士および親方を処分して、また旧態に戻り、NHKも放送再開するのだろう。角界の中では、そういう事件があったことすら風化するのだろう。

ただ、ファンは半減し、チケットは一向に売れず、まあ事業は縮小していくだろうが、それで縮小均衡できるのか、大破綻が待っているのか、よくわからない。当面、再開した直後の場所での「ごっちゃん相撲」は厳禁だろうから、けが人続出になるのか、大関、三役がぼろ負けするのかよくわからない。

ところで、相撲小説家といえば、もりたなりお氏の右に出るものはいないだろう。七編の短編小説からなる『金星』を読む。

「金星」相撲の親方と金星のおかみさんのそれぞれに意外な秘密が。
「しにたい」未成年取的のくせ、酒がなければ力が出ない力士の悩みが。
「擦り足」定年退職したのに相撲部屋に通う元記者のせつない思い。
「相撲の花道」永年勤続表彰の老サラリーマンが、贔屓にする古参力士。
「相撲梅ケ香部屋」素行の悪い親方が、親方株を換金しようと画策するが。
「十両十三枚目」関取が部屋にたった一人。もうやめたいのだが陥落防止工作で。
「相撲の骨」肉体の巨大さゆえの悲惨な晩年に耐え続けた出羽ケ嶽。

まあ、こういうのを読むと、角界の古い因習がたくさんわかるわけだ。話題の八百長相撲は「ごっちゃん」という言い方をされている。

「相撲の花道」では、連続出場記録を更新中の青葉谷が、必勝の相撲をわざと負けたりするところが書かれている。要するに長く相撲を取るための彼なりの手段なのだろう。8勝以上の勝負はすべて、将来への貯金みたいなものなのだろう。

そして、「十両十三枚目」は、もろに「ごっちゃん相撲」のことが書かれる。部屋のたった一人の関取である高田龍は、三役も経験しているのだが、既に年齢は35歳。十両下位でかろうじて幕下陥落を免れているのだが、それは、部屋の工作活動の結果である。それでも十両最下位である十三枚目で三回踏ん張っている。

やめたくてもやめられず、とうとう、自ら新弟子を都内で発掘し、これを最後の場所と決め奮戦を始める。どういうわけか白星が先行し、十両優勝も見えてくるが、まずいことに先場所で星を借りた相手と対戦することになる。どうも先場所、カネでかたをつけることができなかったそうで、星で返すしかない。そういう相手が続く場合、不戦敗という超法規的な戦いを使うわけだ。



結構、はっきり書いているわけだ。