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来島海峡西側での船舶衝突沈没事故

2021-06-01 00:00:11 | 災害
5月27日23:55に来島海峡西側でケミカルタンカーと貨物船(RORO船)が衝突し、20分後に転覆。その後28日02:45分に沈没した。貨物船の乗員12名のうち3名が行方不明になる。船体は60m下の海底に船底を上にして沈んでいるようで、その後、潜水士による捜索によって船内から1名のご遺体が発見され、捜索は続けられている。船内に空気溜まりがあれば、まだ生還は可能だろう。

事故の直接原因は後述するとして、まず両船のこと。ケミカルタンカーは『ULSAN PIONEER』日本流に言うと3000キロ積みの石油化学品タンカー。2016年の韓国での建造。事実上の船主は韓国の会社(本船のクルーは韓国8人、ミャンマー5人)だが、運航会社は日本の船会社だ。2015年から2016年にかけてほぼ同じタンカーが4隻建造されている。タンクがステンレスなので、石油化学製品だけではなく、今回のように酢酸なども輸送する。日本、韓国、中国、台湾など近海航路用で最大速度は12ノットと力不足気味。全長は90m。今回の航海は、長江の奥、南京市の手前の鎮江から上海を通り東シナ海で関門海峡から瀬戸内海に入り、大阪へ向かっていた。

貨物船は『白虎』。船主は日本企業で、運航会社はプリンス海運。プリンス自動車(現日産自動車)の時から自動車、自動車部品の輸送を行っていて、本船は自動車部品を輸送していたが、通常は車両約800台を輸送。RORO船といって、自動車をクレーンで吊るすのではなく、フェリーのように車を自走させて積み込む。一部報道でフェリーとあるが間違い。驚くことに2020年6月に就航している。つまり1年経っていない最新鋭船で全長も170mとケミカル船の約二倍である。最大速度は21ノットとかなり速い。神戸から苅田(福岡)へ向かっていた。

FNNより
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そして、問題の衝突だが、日本で最も危険な航路ともいえる(危険なところは他にも色々あるが)来島(くるしま)海峡だが、潮流によって航路が変わるし、さらに基本的に瀬戸内海なのだから東と西に向かうべき航路のはずが、島の配置によって南北方向にS字にカーブで通過するわけだ。当日深夜はスーパームーンの翌日でもあり、天気は晴なので月光で視認することは両船とも可能だっただろう。少なくても来島海峡で居眠りはないだろうし、乗員数から言っても海峡通過時は2~3名は当直に立っていたはずだ。

来島海峡は簡単に言うと二つの航路がある。左側の航路と右側の航路である。基本的には船は右側通行なのだが逆流側が西(南)側を通過することになっていて、事故当時は年に数回の潮流の速さ(10ノット)だった。

つまり、事故当時は来島海峡内は左側通行であり、入口と出口で左側通行から右側通行に変えなければならず、クロスしてしまうわけだ。事故は貨物船の左後側にタンカーが突っ込んだわけで、居眠りではないとすれば、相手船の速度を見誤ったことになる。貨物船のスピードが遅かったのか、タンカーのスピードが速かったかということ。潮のせいで、両方とも相手の速度を見誤ったうえ、自分の速度も間違えたということだろう。

来島海峡にはライブカメラもあれば、交通安全センターが24時間監視してが、船舶に指示を出したのだろうか。

朝日新聞より
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そして行方不明者の中の船長。佐藤保さん(山形県鶴岡市)となっている。鶴岡の佐藤姓というのは一族の多くが船員になっていることで有名だ。以前、海運会社にいたことがあるが、3名も鶴岡出身の佐藤姓の船員がいた。船員一族なのだろう。そうなるとシーマンシップ精神という古典的概念に行きつく。つまり船長の責任である。船長の頭の中には船員救助しかなかったのだろう。

なお、タンカーの場合、口には出さない不文律のようなものがあるとも聞いたことがある。衝突が避けられない場合は、船首をぶつけるということ。腹にぶつかられると大爆発・大炎上の危険があるからなのだが、今回の場合はそういうことではないと思える。

スエズ運河を独り占め

2021-03-29 00:00:30 | 災害
3月23日にスエズ運河で座礁した『エバーギブン』はいまだ離礁できず、船長400メートルの船体が運河の両岸に船首と船尾を乗せたままになっている。

現場の写真から想像するに岩礁ではなく、砂とか土という感じなので、とりあえず浸水にはなっていない。座礁と言わず座洲ということが多い。が、本来、船の重さは水の浮力で受け止めるものなので、現在の状況は20万トンを船首と船尾の船底で支えているわけで、徐々に船底がゆがんだり、船の中間部分から折れたりしかねない。

また小型のブルで砂を掘っているようだが、うまくやらないと船がこけて横倒しの大惨事になるかもしれない。まずいことに荷物を降ろすにしても、そもそもコンテナヤードには特殊な積み下ろしの設備があるが、砂漠には何もないし、地面が平らでないと重ねておくのは危険だ。水深数千メートルの太平洋の中央だったら、荷物は海に投棄することを考えるだろうが運河に沈めたらそれをまた引き揚げなければならない。

船の渋滞だが、そもそもスエズ運河は鉄道の単線と同じように、往復すれ違いではなく、主に中間にある湖を待機場所に使い上りと下りを交互に運航している。このため、約300隻が、運河の南(紅海)と中間の湖と北(地中海)に分かれて存在している。運河の中にいた船は自力またはタグボートで、その三か所に移動しているようなのだが、南側は海賊がたくさんいる場所で、これも困るだろう。

それで、原因とか被害額とか責任とかの話だが、今までにニュースに登場していない人たちもいるので整理する。

積み荷の所有者・・要するに荷主。コンテナ船の場合、コンテナの中身の所有者はたくさんいるはず。中国の港に荷物を持っていき、まずオランダの港まで行き、それぞれのコンテナはまた別の場所に運ばれる。無数の荷主をたばねるのが、カーゴブローカーで、荷主と運航会社の間にいるが、所有権には関係ない。

運航会社・・台湾の長栄海運。通称はエバーグリーン。世界屈指の運航会社だ。輸送に関する一時的な責任はこの会社にあるといえる(というか、当面の被害は荷物の所有者で、その運送契約は基本的にはエバーグリーンと結んでいるはず)。

船体所有会社・・いわゆる船主。今回の場合は正栄汽船。四国の地方銀行などから巨額な借金をして船体を建造し、船員の配乗や船の設備管理の全部または一部を船舶管理会社に委託する。船員を乗せた船を、定額(一か月あたり何億何千万円といった額)で運航会社に貸し出す。モーリシャスで座礁した船は、船主が多くの所有船の中で1隻だけ自社運航していたと言われる。基本的に船員は外国人で、労働条件の管理とか無理なので、船舶管理会社に丸投げすることが多い。今回の船舶管理会社は、Bernhard Shoulte Shipmanagement社というらしい。なお、通常、船ごとにパナマ法人の会社をつくり便宜置籍船とする。基本的には、営業利益を出すと法人税を払う必要があるため、次々に船を作って、償却費で利益を消す手法が使われる。

船舶管理会社・・船舶管理会社といっても、「独立系」「運航会社系」「船主系」とさまざまだが、大手の運航会社がイエスと言わないような会社は排除されるはず。今回の管理会社については情報がない。

水先案内人・・スエズ運河や日本の瀬戸内海、東京湾などは、現地の水先案内人が乗船する。スエズの場合は大勢で乗り込むようだ。問題は、技能が劣る水先案内人もいて、下手な操船をして事故があっても、船長の責任になる。大問題のルールだが何ともならない。


不可抗力宣言・・間違いなく船長は、事態のどこかで悪天候による不可抗力宣言をしているはず。わたしたちの責任ではないということ。


砂嵐による大風で流されたと説明されているが、確かにコンテナ船は横風に弱そうだが、船には前後に進む船尾のスクリュー(プロペラ)と舵(かじ)の他にバウスラスターといって胴体の左右を貫通するパイプ状のトンネルがあり、左右に小さいプロペラがついていて、これを使うことによって船の向きを左右に調整できる。想像なのだが、現地の水先案内人が、これをつかわず舵だけで方向を変えようとして手に負えなくなったのではないだろうか。

ポイントは、予期できない不可抗力として、免責という可能性。一義的には船主責任となって、それは船舶管理会社の責任として争わる可能性。また、損害の算定方法は国によって大きく異なる。実害方式か遺失利益方式かによって大きく異なる。

また、この船の事故による間接的影響で、足止めされた300隻も明らかに被害があるが、この被害額算定方法も諸説あるだろう。世界の多くの海事専門弁護士が、仕事が増えて大喜びしているだろうと推定できる。

その地震、被害あり

2021-02-22 00:00:03 | 災害
13日夜の福島県沖地震、横浜は震度4で、地震直後に室内を確認したが自作詰将棋の15手詰の紙ファイルが落下しただけのように思えていたのだが、実はこの揺れによるダメージが発生していた。

6日後の朝、洗面台を使っていたら、妙な断続音が鳴り始めた。少し前には屋外のヤモリの鳴き声が聞こえたこともあったので、そういうものかと思っていたのだが、もっとすぐそば、足元の方から聞こえてくる。洗面台の下の両開きのドアを開けると、・・・・水浸しだった。顔に石鹸が残っているのに、慌てて水栓をしめようとするが、硬くて閉まらない。

こういう時に、力任せはいけない。水栓が壊れて大惨事になる。慎重に左右に回して固着をほどいてやっと熱湯の漏水をストップ。

床下から上がってくる温水側の水道管と洗面台の温水混合栓の間の細い管に穴が開いている。構造的には金属の管の外側に樹脂系の被膜で覆われているのだが、この飛膜が内側から噴き出したように外側にめくれている。おそらく地震の横揺れで管にひびが入り、一週間の間に徐々にひびが拡大し、ついに被膜が破れて破裂したのだろう。

こういう時に頼んではいけないのは、しょっちゅうポストに投函される磁石の業者。ということでネットで普通の業者を探すにしても、良い業者か悪い業者か見分けがつかない。あたりをつけて電話してきてもらうと、まず経年を聞かれ、「20年」というと業者の目が急に輝いたように思えた。調べること3分程度で、「配管とシャワー付きの蛇口は分離できないので、一式交換ですね。すでに修理部品もないし。7万7千円です。」と宣告され、目の前が暗くなる。

しかし、20年も使って、鏡も一部破損し、色焼けもしていて、プラスティック部分には細かなひびが入っていて、そろそろ買い替えかなと情報収集中だったことを思い出す。全部で工賃込みで15万から25万の間だろうと思っていたのに、蛇口と配管に7万もかけるわけにはいかないわけだ。ということで、工事をお断りすると、「5万5千円でいいです」と軟化。まあ五十歩百歩だ。点検調査費3,300円ということになり、今度は設備業者探しをしなければならない。

ところで、ひびが少しずつ拡大して、ついに破裂した今回の状況だが、何か巨大地震のメカニズムと似ている。少しずつ前震が続いて、その後に本震が来る。防災用品も買い替えが必要かな。ヘルメットは30年前のものだし。

日本産だった『NEW DIAMOND』

2020-09-10 00:00:04 | 災害
スリランカ沖で発生したタンカー火災の件、いわゆるVLCC(very large crude carrier)。30万トン級である。経歴を調べると2000年の11月に三井造船千葉造船所で竣工している。つまり船齢約20年の老朽船。

当時の船名は、IKOMASAN。海運会社は商船三井。商船三井は船舶に「山」をつけることが多い。「川」を付ける会社もある。本当は「生駒山丸」にしたいのだろうが、いくつかの理由で日本船籍では成り立たないのでパナマ船籍になっている。

もっとも商船三井といえば、モーリシャスの事故もあるが、スリランカの事故にはまったく責任はない。2013年に海外売船している。その時についた船名がDIAMOND WARRIOR。さらに一年後には今のNEW DIAMONDという平凡な船名に変わっている。現在の所有者はギリシアの船主。インドの船会社が用船していて、インド国営石油会社の原油を運んでいる。一説によれば7月からのようだ。

8月23日にクウェイトで原油を約27万トン積込み、インドの製油所に9月5日に到着予定だったそうで、火災は9月3日に起きている。

出火場所は船尾にある機関室(エンジンルーム)内ということだが、VLCCのエンジンルームはすごく大きい。小学校の体育館クラスだ。その中に、様々な装置があるので原因特定はまだ先になるのではないだろうか。報道では燃料のディーゼル油が一部流出と言われているが、公開されている画像を見ると、出火当時に比べ、わずかに傾いているようで、船内に海水が入ったのか、あるいは消火剤の重みで傾いているのかもしれない。

船の燃料といっても様々で、この船には3種類の燃料タンクがあるようで、海洋航行用の重油なのか、出入港する港内用の重油なのか、発電用の燃料なのかも不明。多くて1000トン位ではないだろうか。沖合で流出しても、しばらくして蒸発する可能性がある。

もっとも完全に鎮火していないと原油に引火する危険はある。原油は精製前なので、ガスも多いしガソリンに近い留分も入っている。積込み量は27万トンなので、モーリシャスの270倍にもなる。

被害は、船舶はただに近い。もともと20年経つとスクラップ代になるといわれる。鋼材は4万トンぐらいで、最近の日本でのスクラップ相場はトン12,000円なので、4億8000万円だが、解体費、輸送費が差し引かれるだろう。


原油の値段だが、日本円で90億円弱となるが船は沈んでないので、別のタンカーに積み替えるだろう

気になるのが、鎮火のための国際協力。スリランカとインドの合同チームにたまたまスリランカにいたロシア海軍の軍艦2隻が協力している。報道通りとすればロシアはスリランカと合同軍事演習していたことになる。油断のならない国だ。

ところで、
2000年の竣工当時につけられた「IKOMASAN」だが、「生駒山丸」という実在した船(3000トン級)もいた。大正5年に竣工し、25年後の昭和16年に日本軍に徴用され、輸送船として使われていたが昭和18年に台湾出航後台湾北西にある馬祖島付近で米軍の潜水艦攻撃を受け、意図的に座礁したものの航空機による攻撃を浴び、船体全部が破壊された。

この馬祖島だが中国大陸のすぐ傍にあるのに台湾が実効支配している。金門島も同じように大陸の目の前にあるが台湾が実効支配している。要するに台湾海峡は自由主義国家側にあるわけだ。

「WAKASHIO号」モーリシャス海岸座礁の件

2020-09-02 00:00:57 | 災害
WAKASHIO号座礁の件については、8月14日「モーリシャス座礁船(いくつかの観点)」の中で、いくつかの怪しい問題点と、本船が燃料油による油濁防止のための二重底(二重殻)構造になっていなかったこと、さらに座礁した後、何日もタンクから燃料を抜き取らず放置したことを指摘した。

その後、乗組員や船長の話として、コロナ禍で何か月も船から降りていないので、乗組員家族との通信手段としてWifi接続できるモーリシャスの沿岸に近づこうとして岩礁に乗り上げたという、話が聞こえてきた。さらに、乗組員の誕生パーティで、ブリッジ(船橋)での見張りを怠りパーティに全員が参加したというとんでもない話も聞こえていた。

そして、船は二つに折れてしまい、船首部分は3000mの海底に沈められてしまった。

山ほど問題はあるが、まず船長と一等航海士が地元の警察に話した内容自体が明らかにならないので、乗組員が外部でしゃべっている内容が正しいのかすら、わからない。船は密室なのだ。すべて後々の裁判で有利になるような口裏合わせしているはずだ。フランス語話せる船員はいないようだし。


1.船体の半分を海に沈めたこと
まず、事故の話の前に気が付くことだが、船体の前半分を海に沈めた件。領海ギリギリの距離の場所なので、自国領海内ではないかと推測できるが、その鉄の塊は誰のものかというと岡山県の大船主であるN汽船のパナマ法人のはず。N汽船(の海外法人)が主体なのか、モーリシャス政府が買い取って自国の費用で沈めたのか。

壊れた船は、鉄塊扱いなのか、ゴミ扱いなのか。いずれにしても、海洋法では領海の内外を問わず、ゴミ投棄は禁止のはず。深さ3000mだからいいというような問題ではないはず。


全体責任としては壊れた船体の所有者に責があると思われるが、会社はパナマ法人。通常は1隻ごとに別会社にすることが多い。日本政府が出ているが、本来はパナマに登記料を払っているのだから、パナマにうまい汁を吸わせる手はないはず。


2.船主、乗組員の件
船主の件だが、N汽船の単独所有なのか、日本の地銀が中心になってプロジェクトファイナンスをしているのか。その場合、分割所有となりN汽船は代表船主ということになる(真相は不明)

N汽船のHPを見ると大型の貨物船やタンカーを各種合わせて11隻所有していることになっていて、内外の海運会社に船を貸していることがわかる。そのうちの一社が商船三井ということ。N汽船の発表では、11隻中、この『WAKASHIO』だけが自社による船員配乗となっている。

では残り10隻はどうなっているかというと、船体だけを商船三井といった海運会社(オペレーター)に貸し出して、オペレーターは自分の息のかかっている船員配乗会社に任せてしまうことになる。船主は船だけを貸すので、ベアボートチャーター(裸用船)という形態だ。本船は船主の船員という意味は、船主が直接に船員配乗会社から安い船員を派遣してもらって船員と船体を一緒にしてオペレーターに貸す場合で、本件はそういうことなのだろう。中間型もあるが。船員配乗会社(マンニング会社)は、韓国やシンガポールにある。日本にもあるが、あまり使われない。

そうなると、なぜ1隻だけが船主が配乗した乗組員だったのか。二つ考えられる。一つは、精神論に近いが、銀行の融資とくっついて保険会社やオペレーターの言うなりになって、社員もほとんど不要で何も考えずに各種契約書にポンポンとハンコを押すだけで、海運会社と言えるか!という気持ちで、一隻だけは伝統的船会社の面影を残しているケース。もう一つは、せこい話だが、オペレーター(商船三井)から受け取る必要人数分の妥当な船員費見合いの金額から、安い単価と人数の削減により、さらに利益を上げようとしたかというケース。当事者しか事情は分からない。

船員数は20名と報道されていたが、きちんとやろうとすると23名必要ということが多い。(その数から合理的に省力化装置により数人減らすことは可能なので、必ずしも20が悪いとは言い切れない)
通常は、船長1、通信員1、航海士6、甲板員6、機関士6、司厨員(コック)3の合計23人。
基本的に3の倍数なのは、三班に分かれて、4時間ずつ交代勤務して1日2回8時間働くわけだ。残り時間は休憩時間。つまり1日8時間労働だが、土日の休みがない。そのため、3ヶ月ほど乗船したら1ヶ月ほど自宅で休むというのが通例なのだが、問題は、ほとんどが派遣型社員なので、船主の方は乗組員が休みを取っているかどうか、よくわからないわけだ。

本船の場合は、2名だけが継続して乗っていて、あとは初めてこの船に乗ったともいわれている。自動車と違って、船は一隻ずつが注文生産なので、計器や操船法も違うのだが。



3、インド洋での航跡
大型船は常にGPSで位置情報を把握し、自船の位置情報を発信している。それによる位置情報をイスラエルの会社が解析して、日本の報道にも登場している。その図を拝借すると、わずかに不思議なことがある。前回のブログでも書いたが、マラッカ・シンガポール海峡を抜けて喜望峰まで行くのだから二点間の直線を引けばいいだけだ。しかし5日間、やや南寄りに進んだ後、微妙に航路を北方向に修正している。これはなんだろう。

そもそも、見張りをしているのは航海士なのだから、5日間、針路を変えないというのも考えにくい。最短コースではないと時間がかかり、燃料を多く使うことになるので、予定針路からずれれば、つど修正していく。またwifiのため陸地に近づいたような人為的なコース変動が見当たらない。

コースについてはN汽船も商船三井も、コース逸脱ならすぐに修正するように船長に言うはずだ。

合理的に考えると、もともと途中で変針してモーリシャスに近づこうと思っていたのではないだろうか。近づいてからの方向転換は目立ちすぎる。各所から叱責される。一旦、予定コースより南に下がり、変針時にモーリシャスに最接近しようと方向を変えたのではないだろうか。

座礁の直前には自動操舵にしたまま全員が見張りをやめてパーティに出たというのはとんでもない話だ。この航路は最短コースなので、西に向かう時も東に向かう時も同じコースなのだから正面衝突のリスクがある。さらに、見張りの基本は現在地の確認なのだから、

4.商船三井の責任は
道義的責任は別にして、商船三井は、各船舶に対して毎日定時「noon report」の報告を求めている。最大ポイントは適切な航路(目的地に遅れるのは最悪)や燃料消費量。刻々と座礁に近づいていたことを知る余地はあったはず。(派遣社員がnoon reportをまとめているらしい。)漫然としていたというか、座礁後も適切な指示を出したのだろうか。

さらに、流出した燃料だが所有権は商船三井にある。

5.私見的まとめ
今までに出ている情報から推察すると、

本船はインド洋に入った段階から9日後にモーリシャスでwifi接続をしようと船長が画策。一旦、やや南寄りの航路をとったあと5日後にやや北寄りに変針し、そのまま直進を続け、陸地に近付き過ぎていた。

しかも、通常なら見張の航海士が現在位置と海図を照らし合わせて、危険を察知できたものの、乗組員の誕生パーティのため、あろうことか見張不在の時間をつくってしまい、そのまま岩礁に乗り上げた。

しかもその後何日も、離礁を期待して何も行動を起こさなかっため、ついに燃料タンクから燃料用の重油が流出してしまった。

さらに、本船は燃料タンク周辺の漏油防止のための二重殻構造が義務付けされる直前に竣工しているので、漏油を防ぐ手段はなかった。

背景には、世界的なコロナ禍の影響で、主にブラジルと中国とを往復している本船では乗組員の陸上への下船もままならない状況で私用での家族との連絡方法がなかったことがあるが、そういう問題は、船主あるいは商船三井へ要望すべきだった。

ということになる。なにぶん情報が少しだけ漏れているというようなことなので、確証は得られない。

モーリシャス座礁船(いくつかの観点)

2020-08-14 00:00:00 | 災害
WAKASHIO号(20万トン)がモーリシャス島の南東0.9海里(約1700m)で座礁したのが7月25日。その後、8月6日に燃料タンクから重油が漏れ出して海洋汚染が始まったと言われる。流出量は約1000KLと言われる。(町中を走るローリーは20KL積みなので50台分)船の所有者は岡山の個人船主のパナマの会社。運航会社はMOLと言われる商船三井(あるいは)海外法人。

座礁してから燃料が流出するまで12日もあるのに、なぜ燃料を抜き取らなかったのだろうか、とか疑問だらけだ。



まず、なぜモーリシャスかと言うと、本船は中国からブラジルに向かう途中だった。画像から見ると鉱石、つまり鉄鉱石を積むように思える。また、座礁時は空船なので、船底は浅く、かなり座礁しにくい。Google Earthで確認すると、マラッカシンガポール海峡の出口と喜望峰を結んだ直線上にモーリシャスがある。ところが、本船は全長が300mもある大型船にもかかわらず、領海(12海里)を大きく下回る0.9海里で座礁したとは異常だ。通過船については、軍艦以外は領海内の通過は世界中で認め合っているが、それにしても近過ぎだ。

座礁といっても現象的には、暗礁といわれる海面下で見えないことがほとんどで、基本的には海図に書かれているが、位置から言って陸に近過ぎる。座礁するに決まっている。

可能性としては、自動操舵で進行方向だけ決めておいて、時々修正するような航法を取っていて、その間に汐の流れや風によって針路が北側に流されていた可能性がある。もう一つは、何かの原因で発電機が故障して機器が動かなくなって汐まかせに漂流していたという可能性。偶発的に座礁したのではなく、島に直接乗り上げないように、意図的に座礁させて船を止めた、ということも考えられる。

船員の件。船長はインド人でクルーはインド、スリランカ、フィリピンの混乗。ごく普通だ。日本人船員が乗っていないという非難の声もあるが、基本的に船員の給与は普通の陸上会社員よりは高いし、勤務時間も1年通して考えれば陸上社員と同じなのだが、どうしても希望者が少なく、どこの国でも自国民より給料の安い国の船員が働くのが普通だ。インド・フィリピンは英語も得意だし。

実は気が付いたことがあるのだが、本船の竣工時期。2007年5月30日にユニバーサル造船の津造船所で船主に渡されている。この前年の2006年3月に世界中の国が加盟している海洋環境保護委員会の第54回会議で貨物船の燃料タンクの二重構造化(ダブルハル)が議決され、2007年8月1日から発効されることになった。タンカーでは以前から実施されていたのだが、貨物船でも大型船は4000KLほど燃料を積むので、燃料タンクの回りには空間が必要になり、座礁しても海にこぼれないようになる。本船の竣工はその期限の2か月前。違法ではないが、なにか割り切れない。

今後の油濁除去費用等。まず船主の入っているPI保険(損害賠償)を使うことになる。油濁の場合、その付保額(驚くほど少ないという説あり)を超えることがあり、その時は、各国が拠出している世界的な基金が負担するのだが、加盟の程度によって、もらえる金額が変わる。モーリシャスがどういう負担をしているのか不明。

油濁の影響について、現地では20年~30年と言われているが、たぶんそうだろう。ナホトカ号の重油の痕跡は、まだ東尋坊の海岸に残っている。被害額が確定するまでにも長い時間が必要だろう。

追加情報
8月14日朝の情報では、
1. 事故のあった25日夜には直前に乗組員の誕生パーティが行われていた。
2. Wi-Fi接続のために陸地に近づいた。
と警察に話しているようだ。

1については、パーティ中だったのではないかとの疑念を感じる。船の操船は、最も高い位置(ブリッジ)で行うのだが、画像的には5~6階のように見える。食堂は下の階にあるだろうから、全員が食堂に集まって、船は設定方向に自動的に航行していたのではないだろうかという疑念だ。当日の月齢は4.6齢ということで三日月より少し明るい。岩礁が海面より上なのか海面下の暗礁だったのかは確認できない。陸の近くと言うことは見張要員がいれば見えたはず。

また、地図でわかるとおり、このコースは合理的な最短コースなので、そもそも前や後ろから船が近づいてくる危険は常にあるはずだ。

2については、そもそも事務所との連絡ラインはあったはず。衛星か無線か。Wi-Fi探しは何かの私用のためと思われるが、1と関係あるかもしれない。単にスタバから漏れ出すWi-Fiを店外で無線利用する金欠の若者と同じリクツなのだろうか。確かにまったく陸地のない海の航路で、2014年に起きたマレーシア航空の自殺機長の墜落機も唯一の手掛かりである破損機体の一部が漂着したのは、モーリシャスのすぐ近くにあるフランス領の島だった。

しかし、もっともまずいのは、座礁してから沈没が始まるまでの長い期間中に燃料油を放置したことだろう。


船長!またですか

2020-06-17 00:00:57 | 災害
横浜港大桟橋に停泊中だった「飛鳥Ⅱ」が6月16日に出火し、同日午後鎮火した。原因はまだわかっていないが、新型コロナ対策中ということで、工事関係か、消毒用のアルコールに関係するかもしれないという説もあるようだ。

ところで、このクルーズ船には通常の船長の他に、もう一人名誉船長という方が決まっている。

加山雄三氏(83)。

10年ほど前に名誉船長に就任し、毎年「若大将クルーズ」といってディナーショー付きの3日間のショート・クルーズが行われていた。

2020年も7月20日17:00から7月22日の09:00までの3日間(40時間だが)。横浜発横浜行の旅であったが、5月7日に中止になっている。

氏は、2年前には、自身の終の棲家と考えていた光進丸を船火事で失い、高級ケアハウスに移住しているそうだが、またガッカリ事件が起きてしまったということかもしれない。

今現在、今回の火事について氏のコメントは出ていないようだ。


ところで、この飛鳥Ⅱだが、船齢は非常に古いが「電気推進船」という革新的な構造の船なのだ。船は船尾にプロペラ(スクリュー)があるため、伝統的にその回転軸の延長上にエンジンを置いて、直接エンジンの動力を機械的にプロペラに伝える必要があった。自動車の動力も長い間エンジンの動力をシャフトを使って直接にタイヤの回転に伝えていた。電気自動車が現れて、常識が一変した。

電気推進船とはエンジンで発電機を回して、その電気でモーターを使ってプロペラを回すという方法で、発電機とモーターの間は電線で繋ぐため、場所が直結ではなく離れていてもいいということで、古くは軍艦。最近はクルーズ船に積極的に使われたわけだ。軍艦の場合は、そもそも戦闘目的優先の設計が必要だし、原子力潜水艦に限らず潜水艦はモーターとバッテリーで動く。クルーズ船は上級な客室ではエンジン音が聞こえないようにするために、エンジンは客室から離れた場所に任意に配置できるわけだ。

問題としては、船の機関士はエンジンには詳しいが、モーターにはあまり詳しくないという点だが、今回の火事とは関係ないと思う。長期停船の時は、船内で発電しないで、陸上側から電気を買うのが一般的だ。

鉄塔が倒れたから停電が続くのではない

2019-09-13 00:00:13 | 災害
千葉県には友人や親戚もいるので、色々と心配もあるのだが無暗に連絡しても迷惑千万だろうから数人に聞いているだけなのだが、やはり千葉県南部の被害は深刻で、生死の境みたいな感じだ。根源的には電気がない、ということによって水も出ないし食べ物もなくなり、開業医の方の中でも自宅(医院)が損傷して開業困難になっている人もいるようだ。

あまり冷めたことを書くのも気が引けるが、半島状の地域で停電があった場合、簡単には復旧できないことは直観的にも想像がつくはずなのに、当初、1~2日で復旧できるようなことを発表したことに疑問を感じていて、やはり長期化してきたことから、発電所、送電線、変電所の場所などを確認していったのだが、公開されている情報が少なく、断言できないが、理由は後述するが、主に二つの点が言えるのではないだろうか。

1. 高圧線の鉄塔倒壊が停電が長引いている理由ではなく、千葉県南部に変電所がないことが、復旧が遅れた理由。

2. 高圧線の鉄塔倒壊の影響は首都圏全体の電力供給能力を低下させている。

まず、電力自由化に伴い、発電と送電を行う会社と電力を販売する会社に分かれているわけだ。さらに東電と中部電力は発電部門のうち火力発電所(主にLNG、石炭)についてはJERAという共同出資会社を作っている。

ということで、千葉県については、発電は主にJERA社、送電は東京電力パワーグリッド社、販売は電力販売各社ということになっている。今回の問題は、この東京電力パワーグリッド社の問題で、その影響がJERA社と販売各社(つまり市民)に影響していることになる。

その発電所だが、千葉県は発電王国なのだ。千葉市から南に向かう沿岸に、千葉、姉ケ崎、袖ケ浦、富津と大規模なLNG火力が並んでいて、しかも富津火力は516万KWと日本最大級(実質は日本最大)で首都圏の8%程度の供給を担っている。

そして、発電所と送電線、変電所の関係だが、図面はなぜか転載禁止になっているので、サイトを記すが、倒れた鉄塔は、この富津火力発電所と新木更津変電所の間にある。

外輪系統図

富津火力からは基本的に新木更津変電所を経て、外環道路のように内陸部につながっている高圧線網で都心や神奈川の方に送電されていることがわかる。東京都も神奈川県にも大きな発電所はなく、この千葉のLNG発電所群と茨城県の鹿島火力が主力を担っている。

つまり、鉄塔倒壊により、富津火力の発電は止まったか激減しているはずだ。現に9月10日には、東電エリアのピーク予想電力量に対し、余裕供給能力が不足し、外部から購入している。論点2が先になっているが、昨年のように北関東で猛暑が続いている時だったら、悲惨な状況になったかもしれない。東京湾に地下ケーブルを敷設していれば、全体供給問題は大幅に改善されるはずだ。

論点1の南房総の停電だが、この場所に限るわけではないが、変電所が少ないと思われる。

南房総に送電しているのが新木更津変電所なのか、その北部の別の変電所なのかはわからないが、いずれにしても南房総の中心ではない。房総半島は紀伊半島につぐ大きな半島なのだから、もう少し南に変電所があってもいいはずだ。

変電所を少なくするメリットは変電所と高圧線の鉄塔を建てるコストが要らないこと。一方で、遠い変電所から家庭まで長い電線を引くことになる。よくある物流問題で、中間倉庫を置いて倉庫間を大型車で輸送して、最終配送を小型で行う方がいいのか、倉庫を廃止して直接運んだ方がいいのかという問題と同じである。コストなら中間地廃止がいいし、安定供給なら中間地利用がいい。

整備計画

これについて、変電所の投資計画図を見ても、新木更津変電所の能力増強が2022年に予定されているだけだ。

そして、修復までの予定時間が、当初発表よりもはるかに長引いて、最後に自衛隊出動に至るまで後手を引いた理由だが、「内閣改造の発表」に忖度したのだろうと疑ってしまう。そもそも大臣交代となれば、官僚は貴重な時間を割いて「引き継ぎ書」を書かなければならないのだから、災害対策は後回しとなってしまう。誰かが解明すべき問題だ。

京急神奈川新町駅付近踏切事故について

2019-09-09 00:00:55 | 災害
9月5日午前に京浜急行の神奈川新町駅近くの踏切で、線路内に取り残された柑橘類を積載した13トントラックに下りの快速特急が衝突。死傷者が発生した。電車が横転に至らなかったこと、上り電車の時間とずれていたこと、電車内の乗客が衝突前に少しでも後部に逃げたり、身構えていたことから、被害が事故の規模からいって少なかったのだが、京急の側の問題と、トラックの側の問題について考えてみた。


まず、京急の方。実は数十年前にはじめて、京急の快速特急に初めて乗った時に感じたのだが、あまりの速さに怖くなるわけだ。それまでJR快速や地下鉄の速さに慣れていたため、住宅密集地の中の異次元の速さに驚いたわけだ。京急は特急の上に特別快速があって、横浜、川崎、品川という間は途中の無数の駅を炉端の石のように猛スピードで秒殺していく。

京急は関東の私鉄では珍しく、JR(狭軌)などに対して線路の幅が広く(標準軌)安定しているためスピードが出せるわけだ。事故の時でも横転するリスクが下がる。さらに事故に備えて先頭車両を重くしていた(モーター付き)そうだ。逆に、阪神地区では私鉄のほとんどが標準軌であったことからJRが対抗して安全対策不測のまま、速度を上げたため、福知山線のカーブで脱線し、大惨事に至っている。

京急は、標準軌である点を競争有利にするために「速度」にこだわったとも言える。といって、京急に快速特急がなくなったら魅力がなくなってしまうとも言えるので判断は難しい。

さらに、京急は運休に強いという特色があって、いわゆるダイヤの線引きをベテラン社員が行っていて、運航トラブルの影響を最低限に抑えることが知られている。かなり人間に頼っているわけだ。運行システムの中に人間の判断を多く介在させているようで、こういう事情がどう影響したのかという点がある。線路内に人や電車が立ち入った時に自動的にブレーキがかかるシステムが導入されていなかったことも言われている。

事故と直接は関係ないが、今、横浜市が打ち出しているIR誘致で京急はIR関連銘柄と言われている。IR予定地には京急線は通っていないのだが、羽田~横浜の路線を持っていることと、京急の地元の上大岡を地盤にする超大物議員の支援を期待しているようで、社内ではIR推進室が盛り上がっているようだ。それどころではないような気もする。


一方、トラック側。運転手が亡くなられたそうで、なぜ先が細くなっている道路に迷い込んで、一か八かの右折をしたか、直接聞くことができないので推測しかないが、おそらく最初は、ほんの小さなミスからではなかっただろうか。たとえば曲がるべき角を間違えて修正しようとしたが、道探しは簡単ではなかったが、スマホのナビを操作しようにもトラックを止める場所がなく、勘で少し走ったとか、スマホのナビが大型トラックという状況を無視して細い道を指示したとか、地図上の道の太さを無視して進んでしまったとか。その結果、もはやバックモニターのないトラックを後退させて広い道に戻るのが困難な状況になる一方で、納入時間が近づき、強行突入に至ったということではないだろうか。私も、以前、後付けの韓国製ナビを使っていた時に、岡山県の日生で3キロ近いすれ違うことが困難な曲がりくねった山道を走って、冷たい汗を流したことがあった。

例は悪いが、日本が戦争で大破綻したのも、軍拡の結果、戻れなくなった結果ともいえるし、大韓民国の現在もいささか似ている。宮沢賢治の「注文の多い料理人」もそうだが、ごく普通の毎日を送っていた人間が、ほんの小さな問題から始まったに過ぎない現実のほころびから、いつの間に悲惨な運命に向かってしまうということだったのではないだろうか。

京急とJRは特に横浜と川崎の間は並走しているのだが、事故現場も含めあちこちで、僅かに間隔が開く(と言って線路間が徒歩数分の距離という程度だが)場所があり、ほとんどは住宅や鉄道会社の施設に利用されていて、線路ギリギリに道路がある。こういうように線路や川や高速道路の側道と言った、片側が完全な直線であり、片側が民家などの私有地である場合、その結果として、道幅が不規則になる。すれ違い問題の前に、通れないとか曲がれないという問題が起きるのは、そういう場所であるし、トラックの場合は樹木のはみだしやアンダーパスの高さ制限もある。


なお、長い距離のバックだが、ドイツBMW社のニューBMW X5シリーズには『リバース・アシスト機能』というのがあり、ハンドルから手を離して、ゆっくりとアクセルとブレーキを操作すると、そこまで進んできたルートをそのまま正確にバックで戻ってくれるそうだ。

もちろんBMWは高級車ではあるが、この機能はどの車の自動運転装置にでもつけられるだろうから、普及が進むだろうとは思うが、あくまでも自車の後ろにも迷い込んだ車がいた場合にはうまくいかないかもしれない。


なお、「おおた家」の家訓として「先頭車両には乗らない」というのがあって、原則的には守っているのだが、実際の事故の時には二両目も危ないわけだ。さらに二両目は弱冷房車であったり、三両目が女性専用車だったりする場合もあるわけだ。

二度目の蜂退治

2019-08-06 00:00:54 | 災害
狭い庭を蜂が飛び回るようになった。嫌な感じだ。慎重に蜂の動きを観察すると、臨家との近くの屋外水場の水桶の下に潜り込んでいく。蜂の種類はわからないが、大型の蜂でやや危険を感じるし、臨家に迷惑がかかる可能性もある。思えば、ちょうど3年前の8月3日「蜂には悪いが・・」に書いた時には、敷地の入り口にアシナガバチが巣を作っていて、各種配達員の方の安全にかかわるので、重装備で駆除したことがあった。

ということで、近づかずに望遠レンズで水場の下の空間を撮影。地上から20センチのところなので這いつくばって撮影。暗い場所なので、画像処理をしてみると、巣の形状や蜂の脚や背中の柄がわかり、普通のアシナガバチであることがわかった。

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アシナガバチは肉食で害虫も食べるということで、いわゆる益虫なのだが、刺された時の毒性がスズメバチに次ぐそうで、結構危ない。痛さはスズメバチ以上のようだ。また、アシナガバチの幼虫を狙ってスズメバチが襲撃することもあり、放置してはいけないらしい。

蝶のように美しい昆虫が害虫で、蜂のように危険な昆虫が益虫とは皮肉なものだ。今の日韓関係もK国から見ると、美しいJ国が害虫で、危険な北国が益虫のように見えるのだろうか。

さて、3年前は重装備の上、市販の噴射型の殺虫剤を使ったので、同様の作戦を考えてみたのだが、場所が閉鎖的な場所なので巣の奥の方に噴射できないのではないか、さらにその巣を片付けるときに生き残った蜂に刺されるのではないか、と心配を感じた。

そのため、区役所に相談すると、業者をとりまとめている組合を紹介していただく。こういうものにも組合があって、役所と直結しているというのが驚きだ。そして、組合に実態を話すと、「スズメバチでなければ自分で駆除した方がいい」と言われる。「作業場所が狭く失敗しないだろうか」と心配していると話すと、元テニスプロの芸能人が言うように「あなたならできる!」というようなことになる。合わせて「業者に頼むと2万円」とも念を押される。

そして、実は内心もう一つの問題点と思っていたことがあった。臨家のすぐ近くなので、事前に窓閉めをお願いし、数十秒ではあるものの殺虫剤の匂いとか蜂ブンブン状態とかのお願いに行くことが必要なのだが、仏教的な信心の強い方なので、殺生に反対とか言われたらどうしようかと思っていたのだが・・・


ということで、問題を片付けた後、冬物の防炎作業服に防護メガネ、厚手のゴム手袋の上に軍手をはめ、顔はタオル巻きで、頭部は衝撃吸収型ヘルメットで全身防御し、芝生の上をほふく前進で最大噴射距離5メートルのスプレー缶を構えながら突撃することになった。

携行缶でのガソリン購入に身元確認?

2019-07-29 00:00:21 | 災害
京都アニメーションでのガソリン放火事件を受け、総務省は石油連盟(元売)と石油商業組合(ガソリンスタンド)に対し、ガソリンの携行缶への給油の場合、購入者の身元確認と用途聴き取りの徹底を要請した。

今回の事件では建物側の構造不備についても若干の問題点が言われているが、確かに煙突的な螺旋階段とか、防火扉での遮断が行えない大フロアでの作業といったことはあるのだが、そもそもガソリンを撒いての放火ということになれば、被害建物に限らずほとんどの建物で大災害の発生を防ぐことは難しいと思われる。あえていえば、作業の状態から見ると、防災上は事務所というよりも組み立て工場という発想が必要だったのかもしれない。といっても、自分の働いている会社はオフィスであって工場ではない、と思うのが普通だろう。いずれにしても被害者を責めるのは酷すぎる。


今回の総務省の要請先が石油連盟(石連)と石油商業組合(石商)ということだが、石連に入っていない商社系元売りもあるし、石商に加盟していないガソリンスタンドも多い。そもそも「要請」ではなく、何らかの法令で対処すべき問題と思う。

例えば、今回の事件では20リットル缶×2で40リットルである。多量過ぎる。クルマで走れば東京から大阪まで走れる。上限値は必要と思う。一度に使えない数量はユーザー在庫ということになるが、それも危険要因だ。ガソリンについては10リットル以下の公認の容器でしか売らないという方がいい。

また用途面では、ガソリンはなんらかのエンジン(発電機、モーターボート、農機具、芝刈り機、ゴルフカートなど)に対して使われる。ガソリンだけを使いたいという人間は放火魔しかいないだろう。つまり銃と銃弾の関係に似ているわけだ。エンジンを登録させて、それによる期限付きのガソリン使用許可証を呈示した人だけがガソリンを買えるようにすればいい。銃の場合、管轄は警察だが、エンジンの場合は消防署かもしれない。

あとはガス濃度検知器というのもあるが、基本的に事故防止用なので計画的犯罪の場合、かいくぐることもあるだろう。

さらに、今回は犠牲者が多かったから今頃政府が動き出したが、大規模災害は何回も起きている。
2001年の弘前武富士放火事件(爆発)、2003年名古屋での人質籠城爆発事件、2013年福知山で祭りの屋台でガソリン缶に引火。自動車解体作業中の燃料タンク爆発も時々起きる。今までの事件でも、その場に多くの人がいればもっと多数の犠牲者が出たと思われる。


一方、いかに法令により買いにくくしたとしてもリスクはゼロにはならない。最近は聞かないが「ガソリン泥棒」という犯罪があった。他人のクルマのガソリンを抜き取る犯罪だ。得るものよりリスクの方が大きいため、はやらないが、ある方法でホース1本でもできるとも言えるのだが、だからといって錠前破りがいるから戸締りしないというのは違っていると思うわけで、できるだけ犯罪者が買いにくくする努力は必要だろうと思う。


なお、同様の事故としてスプレー缶のガス抜き時の爆発でいくつかの事故が起きているが、中身はほとんどが可燃性のガス(例:ブタンガス=カセットボンベ)であるし、ガス抜きをしたといってもボンベの中にはゼロではなく構造上1気圧分のガスが残っているのである。つまりガスを抜いても危険であることは間違いないのだ。しかもブタンの生ガスを空中に放出すれば、オゾン層の破壊につながるわけだ。

ヴァイキング・スカイ号の事故で思い出す

2019-03-25 00:00:07 | 災害
ノルウェーの西海岸沖でエンジン故障により漂流の危機にあった『ヴァイキング・スカイ』だが、ヘリで少しずつ救助している間に4基のエンジンのうち3基が復旧し、自力航走が可能になり近くの港湾(モルデ港)に入るようだ。4基のエンジンが同時に止まったということで、通常のエンジントラブルとは異なる要因があるのだろうが、そこは明らかではない。

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十年間ほど船舶運航会社にいたので、断片的な話を聞いて、情報を調べていると、かなりまずいような展開と思っていた。クルーズ会社の発表では、本船の竣工は2017年と新しく、総トン数は47,800トン、全長227m、喫水が6.65m(浅くてバランスが悪そうだ)、乗客は930名となっていた。メディアの画像を見ると、アンカーチェーンが海面と45度近く、アンカー(いかり)が海底からはずれそうだし、日本製ではないチェーンを使っていると切れるかもしれない。手前の海面に棒のようなものが突き出しているのは、緊急用の遭難信号発信装置と思われる。

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*乗客乗員が1300名で、乗客定員930名といえば乗員が370名になる。乗客/乗員の比率は2.51となる。通常、2.0に近いと豪華客船といい、3.0に近いと並ということになるので、ちょうど中間。カジュアルな北欧旅行用なのだろう。

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しかも、会社のツアーガイドの画像では片側に3台の救命ボートが見える。ということは反対側にも同数あるとすると、6台。乗客乗員が1300名とすると、1台に217人が乗らないといけないが、そんな大きなボートを見たことはないだろう。奥にもう一台あるのだろうか。それではいざという時の役には立たないだろう。もしかしてタイタニックか?さらに、船体の図面をみると客室とラウンジは7層構造。つまり海に浮かぶ7階建てのビルがぐらぐら揺れていて、風がビュンビュン吹いているのに、屋上からヘリに脱出するような話だ。

発表の中で、エンジン作動に向け作業中とタグボートが一隻そばにいる、ということが書かれていたが、海の上の船を制御するのにタグボートが一隻では不足だ。両側や前後から引っ張らないと抑えきれない。浸水しているのでなければ、嵐が収まるまで船体維持ということが最低条件だ。また通常は船内の機関士の手に負えなくなったエンジンを修理するのは、エンジンメーカーの社員で、はるか遠い国から小型機やヘリをチャーターして船の上に到着するわけだ。時間がかかるし、それで修理できるかどうかもわからない。

船内の家具が嵐によって前後に行ったり来たりしたことで大勢のけが人が出ていたこともあり、船長は修理、タグボート、船外脱出を同時並行的に行うことでダメージを最小限に食い止めようとしたと思われる。

ともかくヘリで200名以上が脱出した後、エンジンが復旧したというので、あとは後始末ということなのだろう。事故の第一報とともに、会社は「次の航海はキャンセル」宣言していたが、いわれなくても故障船に乗るのはお断りだろう。こういうのは、しばらくすると船名が代わり、場合によっては別の国の別の船会社が格安で購入して、改造して使ったりする。


ところで、原油タンカーの運航を担当していたことがある。数十年前の6月のことなのだが、中東から東京湾に向かう25万トンのタンカーが満載状態で沖縄の近くまで来た時に、台風に直撃された。激しい雨風で、煙突の近くの鉄板が損傷して上部から浸水して機関室が漏水し、電気が全部ブラックアウトで、エンジンも止まった、というものだった。しかも、沖縄方面に向かって漂流中という話だった。夏の初めの沖縄の海岸が・・・ということだ。しかも第二報では、船が危ないので、積み荷を投棄したいが(共同海損宣言)いいだろうかと訳がわからないことを船長が言い出した。積み荷は原油だから投棄したら大変なことになる。ただし、法律上は船長に決定権がある。

結局、積荷の廃棄は思いとどまらせて、沖縄のすべてのタグボートを繰り出して台風が収まるのを待つことになる一方、長崎の造船所からエンジニアを飛行機、ヘリで船の上に連れて行き、応急処置が間に合い、難を逃れた。後日、船に行って事情調査をすると、船長も船員も全部K国人。この件の1週間前にもスリランカ沖で船員が急病になり、急遽、1日の寄り道をしたために燃料が足りなくなって継ぎ足すというアクシデントがあったのだが、普通、そういう緊急事態にそなえて最低5日分は燃料の在庫を持っているはずなのだが、会社のポリシーとして余分な燃料は1滴でも多く積まない主義と言い張るわけだ。

下船前に船内のトイレを使ったのだが、トイレ中に何枚ものK国では有名な某教会の教祖(今の大統領と同姓)の額入り肖像が掲げられていた。

間違いだらけのサッポロのスプレー缶爆発記事

2018-12-18 00:00:33 | 災害
16日夜に札幌市豊平区で発生した爆発炎上事件だが、火元のアパマンショップで行われた消臭スプレー缶のガス抜き作業の結果、滞留したガスの爆発限界でなんらかの火花(タイマーのスイッチとか)に引火し爆発した結果、破損している二本のプロパンガスの20キロボンベから漏れたプロパンガスに引火したものと考えられている。

隣の(同一建物を三分割しているので建物としては火元と同じ)和食居酒屋が大破し40人以上が負傷した。さらに隣にはケンタッキーやロイヤルホストがあったのだが、さすがに木造じゃなかったのだろう。

報道ではスプレー缶100本に穴を開けてガス抜きをしたと言っていたが、危険性の前に違和感がある。また、報道ではスプレー缶の中にはLPGが使われていると言っていたが、一口にLPGといってもプロパンとブタンがあり、プロパンは液化するのに10気圧ほど必要なので20気圧に耐えられるようなよく見る灰色の厚い鉄板性のボンベを使う。スプレー缶やカセットコンロ用、およびタクシーの燃料に使われるのがブタンで、こちらは2、3気圧で液化するため、小型のボンベが使われる。火力も少し弱い。

もともとスプレー缶にはフロンガスが使われた時期もあり、これが地球のオゾン層を破壊するということになりブタンに変わったのだが、実はこれも地球にはあまり優しくないし、そもそも高い。ということで、最近ではアルコールの親戚のようなジメチルエーテルが使われることがある。

アパマンでガス抜きされたのは、燃え残り画像から追跡すると「ヘヤシュ」という製品で、天然植物性分解消臭剤ということになっている。ブタンだと植物性ではないため、植物起源のアルコールから作られたジメチルエーテルではないだろうか。もっとも化学物質なので植物性であるかどうかは何の関係もない。ブタンより燃えにくい(ブタンの半分くらいと定性的にあいまいなことを書いておく)。

では、なんで100本かというと、やはり裏の話が見えてきた。この「ヘヤシュ」はアパマンと関連のある会社が作っているわけだ。そしてアパートの主が変わるたびに、次の借主に対して、強引に消臭作業を押し付け、高い料金を取っている。例えばワンルームなら13,000円位、4LDKなら26,000円位である。

この製品は、使い切りタイプになっていて、部屋の中央に置いて開栓すると、中からこのガスと消臭剤の混合物が部屋を満たして匂いを除去することになっている。つまり、そもそもガスが漏れるのではなく、ガスを部屋の中で放出して使うことになっていた。

ではなぜ100本かというと、この店舗だが一時閉店して改装予定であり、倉庫にあった使用済みの缶を処分する必要があったらしい。まとめてやるからこういうことになるのだが。考えたくないが、使い切らなくても消臭料金は取っていたという可能性もある。誰だって、消臭中の部屋の中にいて、全部使われるかどうかチェックしたりはしない。

次に、スプレー缶を捨てるときに缶に穴を開けることだが、大変危険だ。おそらく不燃性だったフロンガスの時の名残ではないだろうか。爆発や炎上の危険だけでなく、ガスを吸い込むことになり、その成分によっては窒息をはじめ何種類もの健康被害が考えられる。

一方、使い切ってそのまま捨てるという場合も問題がある。使い切るということはできないわけだ。例えばブタンでは最大3気圧程度で液化しているのだが、使い切った段階ですべて空中に放出されたわけではなく、缶の中には1気圧分のブタンが残ってしまう。もちろんジメチルエーテルでも同様だ。

完全に抜くにはやはり大きな穴を開けて空気とガスが混じりあうようにすればいいのだが、それは危険である。1気圧なら大したことは起こらないと割り切るしかないわけだ。

宝運丸はなぜ関空連絡橋に衝突したか(推測)

2018-09-05 00:00:32 | 災害
台風21号の強風(関空での最大風速は58m/秒)により宝運丸(日之出海運所有2591トン・長さ89m)が関空連絡橋に衝突した。船員11名は今の段階では船内にいるようだが、機関室への浸水がなく、エンジンも停止して、積荷(ジェット燃料油)も船内にはないのであるから、とりあえず火事や沈没は考えられず、波による転覆が問題だが、タグボートを横付けすれば問題はないだろう。台風が北側にあるので、ずっと南から吹いている風と波とで橋に押し付けられているのが逆に幸いしているような気がする。

もともと船会社にもいたことがあるので、資料を寄せ集めてみると、いくつかの推論が組み立てられた。

まず、事故と直接関係ないのだが、船舶は古い。1996年竣工で、そもそも所有者は別の会社だった。老朽船である。現所有会社の元請けにあたる船会社が所有していて、船名も異なっていた。しかも、竣工した時は、東京湾内だけを航海することにしていた。成田空港のジェット燃料油を空港の持っている東京湾内のタンクに運ぶ専用船だった。ということで、このサイズの船としては少し小さいわけだ。通常は長さが105m程度であるから1割ほど短い。

しかも東京湾内専用ということで、比較的外洋を航海するのが設計的にやや苦手のわけだ。東京湾は完全な入り江だが、関空は瀬戸内海でもないし、大阪湾の一番外の方であり、紀伊水道から風も波も入ってくる場所である。

そして、成田第三滑走路や羽田のD滑走路により、東京湾ではこのタンカーでは経済性が合わなくなり、2013年に改造した上、今の所有会社に売却の上、関西空港を主な航路とすることになったわけだ。


事故は、走錨(そうびょう)という現象で、海底に引っかかっている錨(いかり)が、強い力により海底からはずれてしまい船体を支えることができなくなる状態を指す。同様に、錨を繋いでいる鉄の鎖が切れることもあり、鎖についてはほとんどの場合日本製の鋼材を使う。錨そのものは鉄の塊なので中国製でもOKということになっているが、後日、錨を巻き上げた時に破損していないか点検する箇所だろう。

そして、最大の問題は、バラスト水を張っていなかったことなのだ。が、それにはある理由がある。

バラスト水というのは、こういう嵐の時に荷物のない空船状態で航行すると転覆の危険があるため、油を積むタンク(通常は10タンク)のうち何ヶ所かにある程度の量の海水を積んで、船体の水面上の体積を減らすことで、風による影響を抑えることである。車高の高いクルマで橋の上で横風に吹かれると危険なのと同じである。冬の北海道のなどではよくあるケースだし、技術的に難しいことはない。橋に衝突した船体を見ると、船底近くまで海面上に見え、ちょっと信じられない。

一方、ある理由というのは、運ぶものがジェット燃料油であることに起因する。ジェット燃料油の成分はほとんど灯油と同じなのだが、水分を徹底的に排除するわけだ。理由は、燃焼する場所が高度1万mだからだ。氷点下であり、水分が凍ってしまい配管内が詰まり、燃料が正常にエンジンに届かずに大惨事になる可能性があるわけだ。海水をタンクに張ると、そのあとかなり洗浄しても100L位は配管内に残るとされる(傾斜があったり配管の曲がる部分とかに)。積み荷は4,500,000Lなので、まさに0.002%位のミクロの話だが。

ということで、通常はジェット燃料油を運ぶ船は、ジェット燃料油か灯油かの二種類を積み続け、バラスト水は使わない。他のガソリンや軽油を積んだり、緊急にバラスト水を使った場合は灯油を数回積めば配管内の水分はなくなるので、その後、ジェット燃料油を運ぶことができる。では、そういう複雑なオペレーションをするとまずいのかというと、コスト的にはあまり変わらないわけだ。タンカーは何百隻もいるのだし、要するに、「面倒」ということなのではないだろうか。たとえ、少し高くても、橋にぶつけるのとは大違いだ。

では、実際はどうだったのだろう。「船の安全のために海水を張る」と「次の航海のために海水を張らない」と相矛盾する行為を決断するのは、船長の権限であり義務である。おそらく、どこかの誰かに指示を求めて電話を掛けたに違いないだろう(忖度して掛けなかったかもしれないが)。その結果、バラストを張らずに事故を起こしたのかもしれない。その場合の責任は誰にあるのだろうか。実は、船長なのである。クルマの運転で助手席の人間が「赤だけど走れ」と指示をして、その通りにして事故があっても運転者の責任であるのと同様だ。