真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「とろける新妻 絶倫義父の下半身」(1999/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/スチール:津田一郎/現像:東映化学/出演:荒井まどか・村上ゆう・麻生みゅう・熊谷孝文・久保新二)。
 殺風景ながらもフォトジェニックに捉へられる山間の原つぱに停められた、一台の黒塗りのセダン。車中は助手席に芦田聖子(荒井)と、運転席には彼氏の粟野邦洋(熊谷)。交際半年、仕事も出来ればぼちぼちイケメンの彼氏を先手で詰めんと、聖子の方から、邦洋の家族に紹介して呉れるやう求める。その夜、御馴染み水上荘の粟野家では、邦洋の父親で専門は社会生物学の大学教授・洋二(久保)と後妻である美津江(村上)の、家に来る息子の恋人を揃つて楽しみにしつつの夫婦生活。そんなこんなで聖子が粟野家を訪ねた当日、どうにも微妙な雰囲気が漂ふ中、藪から棒に家に来たばかりの聖子に風呂を勧めたのに続き、矢継ぎ早に久保新二一流の小ネタが振り抜かれる。脊髄反射で当惑する聖子に洋二が、サッパリするやう促した上で口に含んだ茶に茶葉が入つてゐたらしく、さうすると「チャッパリ」。サッパリとチャッパリ、プリミティブ過ぎて、逆に独創的だ。久保チン以外には、誰にも辿り着き得ぬ地平に違ひない。聖子が湯を浴びる風呂場に、お得意のアシャアシャ笑ひとともに忍び寄つた洋二は、何といふこともないかのやうに浴室内にもチン入、もとい闖入。昭和の時代の、スポーツ新聞エロ面か。聖子の美身を軽く堪能するや、「鮫肌のやうな餅肌」の持ちネタも当然の如く披露する。血相を変へ入浴を早々に切り上げた聖子が、邦洋に洋二の乱行を訴へたところ、まるで意に介さない邦洋も邦洋で、平然と美津江と風呂に入るといふ。愕然とする聖子を、挙句に洋二が今度こそ犯す。アパートの自室に逃げ戻り缶ビールを自棄飲みする聖子ではあつたが、不思議なことに洋二に火を点けられた体の疼きはまるで納まらず、自慰に狂ふ。一息ついたいはゆる賢者タイム、聖子は美津江に連絡を取ると、改めて粟野家の外で会ふ手筈を整へる。
 麻生みゅうは、そんな次第で美津江との公園での会談―ここと聖子自室の撮影は、於東京?―を経て、水上荘を再び訪れた聖子を火に油を注いで驚愕させる、洋二に抱かれてゐた美津江の連れ子・久美。母親達とは同居してゐないといふ不自然気味の設定は、聖子宅に飛び込ませるための無理からな方便か。
 少なくとも異性間全方位乱交に気軽に戯れる恋人一家に、初めはいふまでもなく度肝を抜かれてゐたヒロインが、何時しか感化され自らその一員に加はるに至る。一般的には異常極まりないが、ピンク映画的には麗しく順当な桃色ホーム・ドラマ。洋二が適当に振り回し、サブ・モチーフとされる牧歌的な利己的遺伝子論は、この期には寧ろ微笑ましく通り過ぎ得よう。兎にも角にも、荒井まどかの美しさが決定的。素直に美人な容貌と最も適度な大きさの美乳も映えつつ、腰から尻にかけての艶(なまめ)かしいラインがとりわけ素晴らしい。六十分の小篇とはいへど更に薄さを感じさせぬでもない物語を、弛ませるでなく強靭に牽引して行く。芝居勘も案外悪くなく、麻生みゅうとの百合にはあらぬ絡みに際しては、深町章作にしてはらしからぬ、ライトで瑞々しい風情も振り撒く。聖子が腹を決めた後の水上荘での、器用にバスト・トップだけを光りの中に浮かび上がらせた裸の立ち姿に、うねるシンプルな官能性。オーラス直前、夜中に台所に水を飲みに現れた洋二を、聖子の側から誘惑する件の妖艶な幻想性。勿論撮影部の卓越まで含め、終盤火を噴く二つのショットの映画的な威力は絶大。全篇を叙述すると同時に、フィニッシュにさりげなく叩き込まれるモノローグが、表面的には穏やかにも映画をピリリと締め括る。物語自体は敢て一歩引き主演女優を心ゆくまで堪能させるべき、女優映画のスマートな完成形、深町章流石の妙技が冴える一作である。
 備忘録< オーラスのモノローグは「可愛がつてあげてね、可愛い妹のこと」


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