真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団地の奥さん、同窓会に行く」(2004/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/製作協力:Vシアター/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勳生/撮影:広中康人/照明:高田賢/録音:瀬谷満/編集:金子尚樹/助監督:堀禎一/監督助手:躰中洋蔵・伊藤一平・朝生賀子/撮影助手:小宮由紀夫・田宮健彦・邊母木伸治/照明助手:岩渕康/制作:永井卓爾・坂本礼/録音助手:西岡正己/編集助手:張本征治/ネガ編集:小田島悦子/タイトル:道川昭/音響効果:福島行朗/タイミング:安斎公一/録音スタジオ:福島音響/現像:東映ラボ・テック/協力:岩越留美・白石香織・上井努・菅沼隆一・海上操子・杉山規子・江尻健司・滝野みち子・榎本敏郎・竹洞哲也・大西裕・田尻裕司・鏡早智・友松直之・加藤遼子・中村幸雄・金森保・新里猛作・鎌田義孝・絹谷隆広・小泉剛・松江哲明・佐々木靖之・松本唯史・三和映材・東洋照明・NK特機・不二技術研究所・コダック株式会社・フィルムクラフト・㈲キリシマ・高津装飾美術・ホテルたてしな・わび助・鳥はる・ビートウェーブ・ベストワン・ホテルコンツェルト/出演:川瀬陽太・佐々木ユメカ・向井新悟・風間今日子・古館寛治・小林節彦・伊藤猛・間宮結・本多菊次朗・女池充・華沢レモン・清水大敬・下元史朗/劇中撮影スタッフ:上野俊哉・橋本彩子・坂本礼・宇野寛之・河西由歩・櫻井雅章)。劇中撮影スタッフの六人が、正確には華沢レモンと清水大敬の間に入る。
 タイトル開巻、団地の画を噛ませて、にしては内装がよすぎるやうに思へなくもない寝室。寝てゐる祐司(川瀬)と明子(佐々木)の川瀬夫婦、祐司が催すも、明子は生理を偽り断る。台所に逃げミネラルウォーターを喇叭飲みする明子に、祐司はなほも纏はりつく。ピンク映画俳優部の祐司は久し振りの現場で、さういふ日は何時も滾つてゐた。ピンクの仕事が金にならないとバッサリ斬つて捨てる明子に対し、祐司は夢だのピンクだつて映画だからだの力ない抗弁に茶を濁すものの、「ちやんとした映画館にかゝらないやうな映画なんて、屁みたいなもんよ」とかぞんざいに止めを刺される。立位後背位の、腰を振りもせず。斯くも血も涙も一滴(ひとしづく)の潤ひすらない無体な遣り取りを通して、この二人の関係が終息してしまはないのが不思議で仕方ないが、さて措き漸く満足に腰を振り始め、朝つぱらから夜の営み本起動。依然乳尻は器用に拝ませないまゝに、ひとまづ完遂に至る。祐司が出撃支度を整へる傍ら、粧し込む明子もその日は高校か大学か、あるいは謎の同窓会だつた、後述する。
 配役残り、祐司が遅刻した、これが多分新宿駅西口のスバルビル(2018年解体)付近の定番集合場所なのか。ビリング順に古館寛治と小林節彦に河西由歩は、助監督の村上と氏名不詳の監督に、普通に可愛い推定演出部。櫻井雅章と橋本彩子の間に祐司が割り込んで、車は出発。全く予想外の形で駆け抜けて行く下元史朗は、余所行きの装ひでエレベーターに乗つた明子を冷やかす下卑た御近所・角川。バカアホと罵られ蹴りを喰らつた挙句、「あばよリストラ」なる情け容赦ない捨て台詞を放られる、何てレス・ザン・慈悲な映画なんだ。一方仮称コバタケ組の撮影現場、最初で最後の国映参戦で、別に普段と変らない風間今日子が祐司の相手役を務める愛子。女池充は愛子のマネージャー・佐伯で、宇野寛之が撮影部。片やホテルたてしなの同窓会会場、十時の方向から時計並びで本多菊次朗と伊藤猛に、清水大敬と矢張り最初で最後の国映参戦となる間宮結は、名なしの同窓生と明子挿んで幹事に、幹事の対面に座る風間と、ひとつ空けて本多菊次朗の対面に登喜子、伊藤猛が割と髪が長い。といふか、声を発するまで画面奥の伊藤猛が誰なのか判然としない、バラ売り素のDMMのゴミ画質はもう少しどうにかならないのか、金取つてるんだぞ。向井新悟はたてしなに遅れて、しかも思くそカジュアルな格好で現れる明子の元カレ・久保真悟。華沢レモンも後述するとして問題が、上野俊哉と坂本礼は何処にも見切れてゐた気がしないのだが、特に上野俊哉。村上組に、一人識別不能のキャップがゐるのはゐる。
 国映大戦第三十七戦は、それどころでない状況の収束した仮定で、昨年石川欣に「SEXYダイナマイト マドンナのしづく」(昭和63/買取系ロマンポルノ/脚本:吉本昌弘/主演:菊池エリ)以来実に三十二年ぶり、純然たるピンクに限定すると「痴漢バス バックもオーライ」(昭和62/脚本:吉本昌弘/主演:長谷川かおり)以来更に一年増えて三十三年ぶりとなる新作の場を提供した―連れて来たのは髙原秀和―大蔵が、驚天動地の超召喚でも仕出かさなければサトウトシキにとつてピンク映画最終作。如何せんいまおかしんじの名前も脳裏を掠めると、この辺りの面子は厳しいか。といふか実際のところサトウトシキ云々よりも、通算第八作「双子姉妹 淫芯突きまくり」(2002/主演:安西ゆみこ)から第九作「愛人熟女 肉隷従縄責め」(2008/主演:沙羅樹)まで六年ほぼほぼ戦線から撤退してゐた時期の、清水大敬を改めて見ておきたかつた志向性の方が実は強い。
 団地の奥さんが同窓会に行く一方、宿六の撮影は明子との濡れ場にコバタケ監督が頑なにオッケーを出さないどころか、村上が苦し紛れの打開案に本番を提案し火に油を注いで膠着する。例によつてで恐縮、といふのも失礼極まりない話か、偉大なる先達を避けて通る訳に行くものか。m@stervision大哥が呆れ返つてをられる、裸映画を丸裸にする一見ラディカルなやうでゐて、その実は精々他愛ないか自堕落な自嘲かブーメランも兎も角、東京都庁第一本庁舎の如く屹立する二本柱を成すツッコミ処の片割れが、佐々木ユメカと清水大敬が全体何の同窓生なのかといふ強大な疑問。向井新悟が少し下でも、佐々木ユメカと間宮結の三人はザックリ同世代。十個くらゐ上の、伊藤猛と本多菊次朗も大体同世代。その時点で既にな年齢差を遥か遠く大概にオーバーラン、清大とユメカなんて、普通に父娘で全然おかしかないぞ。挙句応援団的なヒエラルキーで、久保が風間を顎で使ふのが不完全無欠に意味不明。そんな口跡から覚束ないナメたガキ、シメッちまへよ清大。尤も今の世では甚だ通り難いシークエンスながら、久保に何某か余興を強ひられた風間が「僕、やります!」。「何をやるんだ」、「旧姓今井明子さんと、この場でヤリます!」と犯し始める無茶苦茶を、力づくで固定するのが清水大敬の突破力。ただ同時に不思議なのが、その唯一無二な人外の馬力を、自らの監督作に於いてはあまりでなく活かせられてゐないやうな気がするのは・・・・別に不思議でもないのか。
 貧相な同窓会に泣きだしその場を離脱、往来に飛び出した明子がちやうど同じタイミングでたてしなに辿り着いた久保と鼻尖を鉢合はせる、不調法なカット割りは十年前から限りなく全く進歩してゐない反面、本番撮影を巡る悶着に、当然の如くキレた愛子のカザキョンキックに文字通り蹴り飛ばされた佐伯が、窓を突き破つて宙に舞ふロング―もしかして上野俊哉か坂本礼が落下スタントしてる!?―は、とてもそんなサトウトシキが撮つたとは思へない見事な出来栄え。風間今日子の何時も通り不遜な佇まひとオッパイ以外に、この映画が輝いたのは精々そこ程度かな。明子と久保の焼けぼつくひは、伊藤猛よりも朴訥とした、無頼気取りの久保が最終的には無様な保身に走り、端から行き詰まつたピンク映画残酷物語はこの際忘れ、コバタケの新作を降りたか降ろされた祐司と、久保と別れた明子が、各々の帰途偶さかに遭遇。消沈する祐司に対し、明子が「夢つて大きい方がいゝと思ふ」、あれ?「現実とか想像より、もつともつと遥か大きい方がいゝと思ふ」、あれれれれ?よもやまさかの、力技で逆転サヨナラエモーションをカッ飛ばすのか、と思ひきや。結局な着地点は、アタシが働くからアンタは夢を追つて。あのさ、財布に金が入りきらなくて困つてゐるやうな人間が、その手の四畳半臭い物語を、綺麗に仕立て上げる分にはまだしも芸になるか知れないけどさ。直截か端的に筆を滑らせると、見てるこつちの方が恥づかしいんだよ。女に食はせて貰つて、金にはならない仕事をしたい。然様な惰弱な願望を臆面もなく形にするくらゐなら、三枚目のダメ男に何故か美人か巨乳か女子高生が次々膳を据ゑて下さるチープな商業ポルノの方が全然マシで、といふか量産型娯楽映画的には寧ろ大正道にしてジャスティス。華沢レモンを村上監督デビュー作のヒロイン・礼子に、相変らず乳尻も満足に拝ませもせず、要はエピローグで使ひ捨てる不誠実な態度は根本的に如何なものか。三番手がアバンに飛び込んで来る、まゝある奇襲戦法の変型と考へればなかなかユニークな手法ではあれ、何れにせよ女の裸を十全に愉しませてからの話。礼子相手に案外淡々とした風情でエッサカホイサカしながら、祐司は自らに言ひ聞かせる。「コツコツと、ただひたすらに、コツコツと」。しみつたれてんだよ、ナニを勃たせて欲しいといふのは百歩譲つて諦める―本来それを放棄しては駄目なのだが―にせよ、せめてスカッとさせて呉れないか。


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コメント
 
 
 
Unknown (通りすがり)
2021-06-19 22:01:32
遠い昔に観た記憶があるのですが、コンコルゲン古館が出ていたとは驚きました。もう一回観てみます。
 
 
 
>遠い昔に観た記憶 (ドロップアウト@管理人)
2021-06-19 22:34:32
 コンコルゲンは存じ上げませんが(笑、見逃す方が無理な役です。
 
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