真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 淫コースは夢いつぱい!」(2016/製作:ラブドワンフィルムズ/提供:オーピー映画/監督・脚本:小山悟/脚本:鬼多麿/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:松島匡/スチール:阿部真也/音楽:膳立煙猫/助監督:躰中洋蔵/撮影助手:福島沙織/制作応援:山口通平 《有》アウトサイド/MA:EEスタジオ/仕上げ・効果:東映ラボ・テック/美術協力:相川瑞紀/衣装協力:羽生研司/ロケ協力:BAR KICK-ASS/出演:きみと歩実・広瀬奈々美・岡田智宏・金井みお・倖田李梨・青山真希・世志男・大瀬誠・柳東史・北川帯寛・鎌田軍団・射内妖造・小鷹裕・森羅万象)。出演者中、北川帯寛以降は本篇クレジットのみ。
 シーズンオフのトレーニング中に、管理部長・後藤(終始電話越しの声しか聞かせない主には辿り着けず)にオーナー室への聞くからキナ臭い呼び出しを受ける、弱小プロ野球球団「鮫島ドルフィンズ」の元エースながら、目下は長く二軍ことファーム“農場”に燻る水野聡(岡田)の姿と、自らドルフィンズの熱烈なファーム女子たる鮫島優子(きみと)による、ファーム選手の心と体のお世話をする、要はさういふ塩梅のファーム女子のイントロダクションを噛ませてタイトル・イン。相川瑞紀の作か、イルカとサメのマスコット・キャラクターが並ぶ、ドルフィンズのロゴが結構な出来。ついでにドルフィンズの個人オーナーは鮫島といつて、別に清水大敬ではない。
 痴漢する男(森羅)と、何事か弱みを握られてゐるらしき佐々木千春(金井)が大概破天荒なプレイを仕出かす痴漢電車―乗客要員が鎌田軍団―に食傷しつつオーナー室に出向いた水野に、オーナーの鮫島奈美(倖田)は戦力外を通告する。水野は度重なる肘の故障からの復帰後、セオリー通りとかいふアウトコースのドロップを嫌つた、キャッチャーの壁田壁男(世志男)が要求するインハイを投げ損じ、対戦相手「西京スコーピオンズ」のトマホーク島田(柳)の頭部に危険球。以来車椅子の島田は廃人状態、水野はイップス―精神的要因に基く運動障害―に陥り投げられなくなつてゐた。壁田は奈美への捨て身の直訴で水野の一人自球団トライアウトの機会を勝ち取り、優子も巻き込んだ三人四脚で、水野の復活を目指す特訓を開始する。
 配役残り大瀬誠と、今上御大・小川欽也のデジタル時代も独自の地平を飄々と爆走する最新伊豆映画「エロ番頭 覗いてイヤン!」(2015/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三=小川欽也)からピンク映画二戦目となる広瀬奈々美は、愛称が何でだか“ジョーズ”のドルフィンズ若手ピッチャー・高田望と、ジョーズを喰ふ、もといお世話するファーム女子・久万里由香。広瀬奈々美は「覗いてイヤン!」時よりも幾分以上に、リファインされた印象を受けた。北川帯寛は島田の急死を受け―さうとも知らず―痛飲する水野を、取材するスポーツ紙記者・吉村。青山真希は、千春を事実上飼つてゐた森羅万象の、飼ひ主となる東海林瑠美。水野と千春がいい雰囲気で会話する背景に、こだまする森羅万象の悲鳴が笑かせる。他一名と小鷹裕(=膳立煙猫)とされるドルフィンズその他ファーム選手が、何処で見切れてゐたのかは失念。大瀬誠に話を戻すと、何気にジョーズと奈美が男女の仲といふ次第で、倖田李梨までもが本濡れ場を敢行するお年玉布陣には油断してゐて軽く吃驚した。
 いんらんな女神たち勢の中で一人飛び抜けた小山悟の単独第三作は、元日封切りの栄えある大蔵伝統の新春痴漢電車。とは、いふものの。男主役の水野が乗るんだからいいぢやねえかといはんばかりに、幾分ドラマ上の救済措置も施されるにせよ三番手―と不脱の五番手―しか乗らない痴漢電車は正直申し訳程度。水野が握りかけたボールを落とした時点で、この物語に始めから電車は走らなくとも特にも何も一切影響はない。といつて、さういふ偏狭な難癖はこの際些末にすら当たらず。
 小山悟の正月痴漢電車の、痴漢電車要素が取つてつけた為にするものである点は、本来ならば量産型娯楽映画中の量産型娯楽映画たる定番映画的には真偽に関る重大な問題ともいへ、だからそれどころではない。「貴方はまだ終つてない」、「一生詰まんない顔して生きて行くのか?」、「俺達は何時までも農場の家畜ぢやない」。再起を図る負け犬達の物語はインハイに150キロ越えの剛名台詞をドカンドカン叩き込み続ける、強力にエモーショナルなダメ人間映画。加へて、可愛い女の子が失墜した者の背中を観音様で押して呉れる。現実的には宝くじが当たるよりも確率の低いファンタジーを、裸映画の下駄を履き堂々とフルスイングしてのけるのも麗しい。ピンク映画六戦目のキャリアで培つた地力できみと歩実(ex.きみの歩美)が撃ち抜く、「貴方はまだ終つてない」にはここだけの話ジワッと来た。穴のない女優部以上に特筆すべきは、凡そ二十年選手にして、ここに来てのキャリアハイをも思はせる岡田智宏の陰のある二枚目ぶり。壁さんの44番の背番号越しに、水野がゆつくりとマウンドに上がるスローモーションのロングは、裸映画から裸を差し引いてなほ決定的な超絶にカッコいい一大名ショット。それだけに、最終的には果敢に大きな嘘をつききれなかつた結末が重ね重ね残念無念。さんざ積み重ねておいて、セオリーだかリアリズムだか知らないが、外角低めの落とし処なんてスカッとしないぜ、壁さんに説教して貰はないかん。城定秀夫の電撃大蔵上陸作に際して同じやうな、といふか全く同じ与太を吹いたが、ベタなりダサさをものともせず大魚を釣り上げる、覇気に土壇場で欠いた狂ほしく惜しい一作。尤もきみと歩実の「貴方はまだ終つてない」一撃の威力で、個人的には今作の方が「悦楽交差点」よりも全然強い、面白いといつてゐる訳ではない。最後の最後に銀幕のこちら側に残る問題は、新春痴漢電車まで任された小山悟の、その後が聞こえて来ない件。限りなく限られたパイを奪ひ合ふしかない現状で、なかなか以上に難しいところでもあるのだらうけれど。


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