真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫妻 愛されたい想ひ」(2003/製作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/監督:吉行由実/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/音楽:磯部智子/編集:鵜飼邦彦/助監督:松岡誠/撮影助手:岡部雄二・広瀬寛巳/監督助手:竹内宗一郎・西村智大/録音:シネキャビン/スチール:本田あきら/現像:東映化学/協力:服部光則、金善玉、佐藤吏、横井有紀、松岡邦彦、木村朗子、ブライアン・デービス、セメントマッチ、アプレ/出演:つかもと.友希・片桐カナ・吉行由実・本多菊次朗・岡田智宏/友情出演:佐々木浩久)。佐々木浩久の正確な位置は、吉行由実と本多菊次朗の間に入る。
 小さくてお気づき頂けないやも知れないが、主演は“つかもと友希”ではなく、“つかもと.友希”である。読む時はどう読めばいいのか、苗字と下の名前の間にドットが入つてゐる。ポスター本篇クレジットとも、そのやうに表記される。といふ訳で戯れに調べてみたところ、つかもと.友希は牧本千幸名義で1988年にAVデビュー。1997年にドット無しのつかもと友希に改名。AV畑では、あるいは公式(?)には2005年に今作と同じつかもと.友希に再び改名。更に彼女の歴史は続き、デビュー二十周年を迎へる今年、芸名をデビュー時の牧本千幸に戻し現在も活動中とのこと。音楽担当の磯部智子は、ex.クララサーカス。
 旧家令嬢の美緒(つかもと.)は、親同士の決めた相手と社会に出ることもなく二十三で結婚する。それから六年、古美術商を営む夫の小早川達郎(本多)は年の半分を買ひ付けの洋行で家を空け、その間子供もなく独り家に取り残される美緒は、根つからのアンティーク好きで天職ともいへる仕事に精を出す夫を横目に、傍目からは経済的に何ひとつ不自由ない生活ながら、索漠とした満たされないものを感じてゐた。例によつて小早川は日本を離れたある日、街で美緒は大学時代の同級生・霧島尚也(岡田)と不意に再会する。再会ショットの二人を背中から捉へ、映り込ませたショウ・ウィンドウの中で芝居させるといふアイデアは酌めなくもいが、スペックの如何かバジェットに左右されたのか、出来上がり的には普通に撮つてゐた方が宜しくはなからうかと思へて仕方のない出来栄えではある。卒業後も誰かの下で働くでなく、起業した個人ビジネスを次々に変へ世間をアクティブに渡り歩く霧島の姿に、美緒は憧れも込め瞳を輝かせる。さういふ次第で、籠の中に捕はれたといへなくもないが贅沢な心の隙間を抱へたお嬢様が、再会した昔の同級生の、自らの境遇とは両極端に位置する甚だ不安定とはいへ同時に活き活きとした姿にコロッと感化され、偶さかよろめいてしまふ。そんな古典的なソープ・オペラ、より直截にいふならばハーレクイン・ロマンスに毛でも生やしたかのやうな、といふかそのまんまな物語。に更に加味されるのは、この時点では拭ひ難く、モジモジあるいはヤキモキと居心地の悪い気分にさせられるばかりの吉行由実の少女趣味。美緒を霧島は「アリス」と呼ぶ、美緒の旧姓が有末のゆゑ、学生時代の友人からはアリスと呼ばれてゐたといふのだ。この時点で、苦笑するのは実は未だ早い。
 霧島は、現在は詰まるところはハメ撮りのAVを監督して、知人の店を通して捌いてゐた。上手く呑み込めずに立ち止まりかけるのを仕方がないので先に進むと、片桐カナは過去に霧島のビデオに出演し、その後は霧島の紹介でトルコ嬢となつたナツミ。出張ホストのやうな仕事もこなす霧島は、偶には心置きなく奉仕されたいナツミの下へと呼ばれ出向く際に、美緒も同席させる。吉行由実は、韓国人といふ人物造形にどういふ意味があるのだかよく判らない、日本に出稼ぎに来てゐるメイヒ。霧島はメイヒの下へビデオ撮影に向かふに当たつても、美緒をつれて行く。ピンク映画としてのジャンル的要請に従つたまでといへばそれまでなのかも知れないが、幾ら心に隙間を抱へた世間知らずのお嬢様にしても、さういふ霧島のやうな、何処から見ても堅気には思へないダーティーな稼業の男に、易々とついて行くといふ無理のハードルも些か高い。高過ぎる、棒高跳びか。
 霧島が自分にも作つて呉れるやう希望する、美緒のビーズの小物。美緒の誕生日に、霧島は美緒を動物園につれて行く。動物園といふのは、単に霧島が行きたい場所であつた。一方新婚旅行の行き先も自分では決められなかつた美緒は、実は屋久島にずつと行きたかつた。そんな屋久島を、二人で目指す。と、最終的なエモーションを喚起する目的で美緒と霧島を繋ぐ、伏線としての小物はセオリー通りに揃ふ。無理を承知でその上で吉行由実が論理的にその壁を越えようとした形跡は、窺へなくもない。が、如何せんそもそも、籠の中のお嬢様、もつといへばお姫様が、自由で活動的な王子様と出会ひ、自らも籠の外へと羽ばたく、王子様に羽ばたかせて呉れることを夢見る。さういふ物語は、年端も行かぬ女学生が大学ノートの片隅にでも勝手に綴るならばまだしも、選りにも選つてピンク映画で堂々と展開してみせるには、どうにもかうにも厳しい。つかもと.友希・片桐カナ・吉行由実と、文字通りの三本柱が遜色なく並んだ筈の桃色方面に関しても、土台がプロットと連ねられる濡れ場自体が齟齬を来たしてゐるとあつては、粒が揃つてゐる割には官能も上滑るばかり。全体的な出来上がりとしては平面的には非常に丁寧な仕上がりであるだけに、ここは非常に勿体ないところである。
 美緒との屋久島行きも控へつつ、霧島は一仕事に向かふ。簡単な仕事の筈だつたがチンピラ二人組み(何れも不明)と出くはした、どうやら金銭トラブルを抱へてゐるらしき霧島は追はれる破目に。結局霧島との連絡は途絶えたまゝに、小早川が帰国する。夫も戻つて来た家でテレビにぼんやりと目をやる美緒は、<霧島殺害を伝へる>ニュースに絶句する。オーラスにワン・カットだけ登場する佐々木浩久は、そこでのアナウンサー。呆然とする美緒のモノローグで堂々と、「アリスは、不思議の国に行けなかつた・・・・」などといはれてしまつても、「何だかなあ・・・」と頭を抱へるほかはなく、いよいよ映画は完全に詰まれる。ことこゝに至ると却つて清々しくすらあるともいへば、チャーミングな一作とはいへようか。

 クレジット中にその名前は見られなかつたが、今作に於けるつかもと.友希のアフレコは、吉行由実の盟友・林由美香がアテてゐる。確認するつもりで挑んだものの、今作の時点に於いては、現行使用中のブタさんがトコトコ歩いて来る、オフィス吉行のカンパニー・ロゴは見られず。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 人妻女医と尼... 後妻と息子 ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。