真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「赤い暴行」(昭和62/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:周知安/企画:朝倉大介/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:五十嵐伸治/監督助手:渋谷一平/撮影助手:中松俊裕/照明助手:小田求/スチール:津田一郎/録音:東音スタジオ/現像:東映化学/出演:橋本杏子・風見怜香・春原悠理・鈴木幸嗣・山本竜二・池島ゆたか)。脚本の周知安は、片岡修二の変名。
 ファースト・カットは湖畔に車椅子を並べる二人の老婆―メイクのハシキョンと風見怜香―ではなく、端から当てられてゐる黒電話に続き、ピンスポで闇の中から浮かび上がる橋本杏子。池島ゆたかの声が「さあ奥さん、貴女は今家にたつた一人でゐるんです」と大雑把に語りかけ、野沢亜紀子(橋本杏子/里見瑶子)に対する催眠治療が開始される。他愛ない遣り取りは薄らぼんやりしながらも普通に交してゐた亜紀子が、電話が鳴るや途端に狼狽。観察する精神科医の佐伯恭司(池島ゆたか/なかみつせいじ)と妻でインターンの悦子(風見怜香/水原香菜恵)を一拍抜いて、電話機を破壊し始めた亜紀子を佐伯が慌てて制止。呼ばれた悦子も注射器を手に駆け寄ると、波面に競り上がり式のタイトル・イン。簡単な粗筋に目を通した際脊髄で折り返した確信は、日が東から出づるが如く的中する。
 安普請を豪快に開き直つた矢張り湖畔、でもなく適当な椅子を二つ向かひ合はせに置いただけの砂浜。佐伯が、亜紀子の夫である俊介(鈴木幸嗣/平川直大)に療後の面談。電話の受信音に異常に反応し極度の興奮状態に陥つた末、何気なく電話に出ようとした野沢に出刃を向けた挙句、電話線をブッた切る結構な刃傷沙汰を起こした亜紀子を、遂に見かねた野沢が佐伯のクリニックに入院させたものだつた。亜紀子の異変に野沢が最初に気づいたのは三ヶ月前、何か起こらなかつたかと佐伯に促された野沢は、洋服を新調する亜紀子に付き合つて外出した折、会社の会合で二三度会つた程度の面識があるといふかしかないといふか、兎も角取引先である「黒崎工業」の若くして部長・沼田明(山本竜二/牧村耕次)とバッタリ出くはした、他愛ない出来事を器用に思ひだす。出演者残り、今作に於いては額面通りの三番手に納まる春原悠理は、課長である野沢の部下兼、不倫相手の江藤倫子、藍山みなみの役。
 忘れた頃に再起動した国映大戦第三十四戦、深町章昭和62年第三作は、2006年第一作「淫絶!人妻をやる」がほぼ忠実にカバーした元作。スラッシュ挿んで不可解に煩雑な配役表記は、「淫絶!」版を併記してゐる。いはずもがなを幾度でも繰り返すが、片岡修二に書かせた脚本を、我が物面するのはよくないぞ。
 電話を起爆剤に壊れるやうになつたヒロインが、療養先で劇中二度目の再会を果たす大筋と、沼田が始末されるに至る顛末は全く同一。サブスク最高と改めて「淫絶!」に軽く目を通してみたところ、細部に関しても雄琴はまだしも、トルコまで馬鹿正直にトレースしてゐる、あと城南公園。逆に異なつてゐるのは俳優部の面子のほか、津田スタと水上荘といふ―主に―野沢家とそれに伴ふ周囲のロケーションに、手切れ金の有無まで含め倫子の扱ひ。とこ、ろが。2006年の新作映画で特殊浴場を称してトルコはねえだろ、土政府激おこどころか、この期にはノーマークにさうゐない。とかいふのは早とちりであるのが、最大の相違点。完全新規で設けられた四十年後のプロローグとエピローグで挟んだ「淫絶!」の本篇時制は、最も単純に考へると実は昭和41年、ソープランドなんて言葉使ふ訳がない。深町章らしく最後の最後まで溜めた一ネタを、明かしたそのまゝの勢ひで“終”を叩き込む。かに思はせたものの、不用意なストップモーションをしかも御丁寧に二つクロスさせ絶妙に後味を濁す今作と比べると、別にまどろこしくもなく、「淫絶!」の方が丁寧に形を成してゐなくもない。あと明らかにいへるのは、部長感一本勝負ならば牧村耕次の圧勝、寧ろそこで何故山竜を連れて来たのか。裸映画的には風見怜香のユッサユッサ悩ましく弾むエクストリームなオッパイに、もう少し尺を割いて欲しかつた含みを除くと大体互角。約二十年の時と時代を超え世紀をも跨いだ、橋本杏子と里見瑶子の竜虎相搏つ激突は見応へがありつつ、さうなると今度は沼田に関する逆で、正しく下手な憔悴メイクを施してみた分「淫絶!」の分が悪くなりもする。一長一短が色々白い、元々の一作。だけれど人が書いたものを、自らの筆によるやうな顔をするのはあまりでなく感心しないのも大幅に通り越して、端的にけしからん。

 一旦脱稿後一時して気がついたのが、新東宝が十月に「淫絶!」を、「赤い凌辱」なる改題で新版公開してゐやがる、十年ぶり二度目。片岡修二―と志賀葉一=清水正二―が黙つてゐれば誰も気づきやしないとでも思つたか、新東宝もシレッとキナ臭い真似をしてのける。


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