真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「女子大生セックス占ひ」(昭和59/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川和久/撮影:柳田友春/照明:内田清/編集:金子編集室/脚本:水谷一二三/助監督:細山智明/音楽:OK企画/監督助手:石崎雅幸/撮影助手:古谷巧/照明助手:田中照/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:三条まゆみ・立花裕子・しのざきさとみ・杉佳代子・風間美香・大山潤次・椙山拳一郎・山本竜二・速水健二)。クレジットには大蔵映画株式会社配給とあるものの、オーピー映画提供としたのは白黒オーピー開巻に従つた。脚本の水谷一二三は、小川和久の変名。
 スッケスケのネグリジェの三条まゆみが、人目も憚らず窓辺にて溜息ひとつ、曇天の街景ロングを抜く。ところで三条まゆみが公称を真に受けると、日曜日封切りは考へ難いゆゑ今作公開時点で二十五歳。正直女子大生役には疑問符も浮かばざるを得ない山口圭子(三条)宅のベッドには、既に会社には間に合はない、恋人で雑誌編集者の真木(大山)が勝手に焦れてゐる。ヤリたくてヤリたくて辛抱堪らん真木に対し、性行自体に未だ乗り気でない圭子の立ち位置を案外手堅く見せた上で、ベッドを引きで捉へた画から、手前に置いたお花にピントを送つてタイトル・イン。a.k.a.柳田“大先生”友貴のカメラがカット頭では画角に凝つてみたり、特に何もないところにスーッとパンして、何事もなかつたかのやうにシレーッと元の位置にまた戻る。前人未踏ないし理解不能の―黒―魔術的カメラワークを仕出かすこともなく、寧ろ拍子抜けするほど順当な仕事ぶりを披露してみせる。初戦をザクッと中途でブッた切つての、最早開き直つたか真木が慌てるでもない出勤風景。圭子も圭子で大学には行かず、週刊誌に与太記事を書いて貰ふ縁で真木から紹介された、「平田セックスクリニック」の助手的アルバイトに。原稿を受け取る用件がありつつ、同伴出勤は流石に気が引け、お茶でも飲んでと一旦雑居ビルの表で別れ文字通り茶を濁して来ようとする真木に、朝食でも摂つてゐたのか店の中から往来の二人を見てゐた平田(椙山)が接触。けだし慧眼とでもいふべきか、平田は圭子の性感未開発を見抜いてゐた。もひとつ、ところで。椙拳のこめかみ付近、生え際に違和感を覚えるのは気の所為かなあ。
 配役残り、圭子らが常用するバーの、バーテンダーは多分細山智明でカウンターの一人客は小川和久。立花裕子としのざきさとみが、圭子の友達・砂原昭子と苗字不詳のエミ、昭子がタチでエミがネコの関係。椙山拳一郎と夫婦共演の杉佳代子は、夫婦生活のマンネリ解消を相談しに平田のクリニックを訪れる、人妻の会田美沙。といふか美沙の主たる出番はサシで平田の診察を受けるカウンセリング濡れ場につき、ある意味リアル夫婦生活ともいへるのか。昭子とエミから乞はれる形で、圭子は二人のマン拓と簡単な陰毛の生え具合を平田に渡し、平田が名を馳せるセックス占ひを依頼。予想外の登場を果たす山本竜二と速水健二は、山本竜二が平田がエミにマッチングする―となるとクリニックの患者である―堅物青年実業家の橋爪で、昭子にマッチングする速水健二は性的に何の問題を抱へてゐるのか全く不明な高倉、普通のプレイボーイにしか見えない。そして、茂みの中でキスこそすれそれ以上には至らないものの、綺麗ないはゆる瓜実顔で実は作中最強の美人である風間美香が、高倉の婚約者・朱実。
 ザッと探して見た感じ恐らくソクミル最終戦となる、今上御大和久時代(昭和51らしい~1998)の昭和59年第九作。が、我ながらな引きの強さに呆れるべきなのかはたまた単純な確率論の問題か、性器に跨つて、もとい世紀を跨いで二十年の時を経た、2004年第三作「痴漢義父 新妻をいたづら」(主演:水来亜矢)のパイロット作。セルフリメイクの元作ではあくまでなく、“パイロット作”とするところのこゝろはセックス・カウンセラーの平田啓介(なかみつせいじ)が、圭子(水来亜矢)のビーナス丘線―要は観音様のアウトライン―が白百合型であるのに狂喜する。といつた主モチーフを共有する程度に二作の近似は止(とど)まり、「痴漢義父~」に於いては会田でなく宮田美沙(小川真実)が看護婦で、エミならぬ藤木恵美(真崎ゆかり)は患者。そもそも圭子が息子(兵頭未来洋)嫁であつたりと、物語的には概ね別物である。
 一応十万人に一人とかいふ抜群の素質を圭子が持つにも関らずな、腰の重さといつたテーマをアバンであつらへたにしては、以降の軸は些かならず定まらない。各々高倉と橋爪を宛がはれた昭子とエミが時間差で男の味に目覚め、百合の結束が緩む展開は面白くもあれ、所詮は本丸を囲む外堀。エミが橋爪と、昭子は朱実から強奪する形で高倉と普通に結ばれる一方、性の悦びにいよいよ目覚めた圭子が、求婚を争ふ平田と真木をまとめて袖に振り、最適解を求めての男性遍歴を期す。といふ結末はそれらしくなくもない、とはいへ。致命的な悪手が、不可解極まりない全ての絡みを中途で端折る完全未遂。そのため圭子の終なる覚醒が十全には描かれず、着地点の微妙な心許なさは如何ともし難い。jmdbにもnfajにも名前の見当たらない、謎の逸材たる風間美香の不脱といふ画竜点睛の欠如も当然厳しく、開巻とオーラスを飾らない曇り空の如く、どうにもスカッとしない漠然とした一作である。


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