真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ツンデレ娘 奥手な初体験」(2019/制作:フィルム・クラフト/提供:オーピー映画/監督:小関裕次郎/脚本:井上淳一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:坂本礼・女池充/監督助手:植田浩行・今村嶺/演出部応援:山嵜晋平/撮影助手:宮原かおり・中津愛/スチール:本田あきら/ヘアメイク:佐倉萌/車両:鈴木英生/協力:渡邊元嗣・加藤義一/エキストラ《順不同》:西山真来・若林正浩・近藤新・石田三紀・宮澤あかね・飯島真紀・井上妙子・蛭田智子・鎌田一利/音楽:どるたん+しゃあみん/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/制作協力:飴屋当兵衛商店/出演:あべみかこ・月ヶ瀬ゆま・美原すみれ・市川洋平・ダーリン石川・西本竜樹・須藤未悠・しじみ・山本宗介・可児正光・安藤ヒロキオ・和田光沙・佐倉萌・森羅万象)。出演者中、森羅万象は本篇クレジットのみ。
 小屋で観るよりも、明るく映るOPPロゴ。真紅と認識してゐたので、茶色に片足突つ込みかけた鮮やかさに些か面喰ふ。田舎駅のホームを端に向かつて歩く主演女優の背中に、一人称のモノローグ起動。“線路は続くよといふ歌は、私にとつて何処か余所の国の話だつた”。駅は終点で、線路はホームから野球の球を投げても届きさうな距離で途切れてゐた。澤井村役場に勤める畠山ちひろ(あべ)に、“職場ぢやいへない話”と呼び出された同僚にして幼馴染の浄土恭平(市川)が後を追ひホームにやつて来る。用件を問ふ浄土に有無もいはさず、無人駅なのかホームからそのまゝ往来に出ると、ちひろが浄土のチャリンコも強奪して向かつた先が、よもやまさかのラブホテル。入室しようとする部屋の、内側から擦り硝子越しに二人を抜いてタイトル・イン。あべみかこの口跡が独白だと些か硬い反面、相手と交す通常の会話であれば普通に発せられる模様。
 “処女拗らせちやつて気がついたらもうすぐ三十”だとか、最短距離にもほどのある的確な自己分析に到達したちひろが、人畜無害といふ―だけの―理由でロストバージンの介錯に目星をつけた浄土は、浄土も浄土で風俗経験さへない、正真正銘の完全童貞であつた。兎も角先にザクザク脱いだちひろが頬にチュッとして、「処女と童貞か、いいぢやん」と捌けた余裕を見せ、たところからカット跨ぐと浄土も裸でちひろに覆ひ被さらうとする。それまで案外長く回す丁寧さと、無造作な飛躍が同居するちぐはぐさは否めない。大好きな綾波零子(美原)のAVを想起しながら、浄土がAV通りにちひろのお乳首を弾(ひ)くまでは順調であつたものの、いざ本丸たる観音様に対するに、モザイクの向かうに霞む攻め方が判らず手が止まる。さうかうしてゐる内に中折れた浄土を、ちひろがらしからぬ積極性で尺八を吹き復活させつつ、今度は口内に暴発してしまひ完全に試合終了。帰宅した浄土がテレビの液晶から出て来た零子と失敗を復習する一方、何気に枕元には少女マンガも並ぶちひろのベッドにも、カリスマAV男優のベレッタ黒岩(山本)がスマホから現れる。ベレッタ黒岩て、カッコよすぎんだろ。ソリッドな山宗の、ベレッタ感。さて措き可児正光が零子と相対する男優部・大和亮二で、しじみがベレッタに抱かれる女優部・広瀬すずめ。瞬間的なほんの束の間ではあれ、十二分に煽情性を叩き込む絡みをしじみも披露する。
 配役残り和田光沙は、村が開いた婚活セミナーの講師、少なくとも苗字は和田。シリーズ―多分―最高傑作「妖女伝説セイレーンXXX 魔性の悦楽」(2010/監督:芦塚慎太郎/脚本:港岳彦/主演:まりか)の男主役が今も記憶に深く且つ鮮烈に刻まれる、西本竜樹はセミナー参加者で、浄土の従兄でもある小笠原勇之介。一人だけ突出した地力が、浮いて見えなくもない。安藤ヒロキオがその他台詞ありセミナー参加者、後ろに立つてゐる月ヶ瀬ゆまとダーリン石川は、ちひろと浄土の先輩・根本緑子と、緑子とは四年間の不倫にもある課長の沢村道明。エキストラは、女の参加者を首都圏在住に当初限定する意味の判らない、終盤の屋外パーティー込みの婚活部。セミナー会場安藤ヒロキオの後方に、鎌田一利と女池充が座つてゐるのだけは看て取れる。坂本礼が連れて来たにさうゐないが、西山真来の名前があつたのには驚いた。役場に見切れる中年の後姿も入れると男衆の数が合はないため、内トラがもう若干名ゐると思はれる。佐倉萌は浄土の母、クッソ爽やかなスナップを爆裂させる森羅万象が、不甲斐ない倅とは対照的にグイグイ来た―母談―浄土亡父、出演は写真のみ。須藤未悠は、行きそびれる姉を明確に邪険にする、ちひろの妹・史乃、農協男と結婚予定。須藤未悠が本職はスチール部らしいが、超絶のキャスティングの妙を何気に際立たせる地味な飛び道具。
 緊急事態の宣言解除も話題に上りこそすれ、小屋が開く見通しは依然不透明な中、スターボード発売の新作DVDで助監督修行六年を経ての小関裕次郎初陣。かういふ御時世になつてしまつた以上、エク動を自前で構へるエクセスも返す刀で含め、大蔵には新作配信のピッチを上げるなり、旧作を大量に投下して欲しい。VODと円盤の、どちらがより儲かるのかは知らないけれど。とこ、ろで。江尻大のEJDに対称させ、当サイトではこれまで小関裕次郎の略称をOZUとして来たものだが、予告篇をよくよく見てみるにこの人オゼキではなくコセキ、KSUとしなければならなかつた。勝手に間違へて、黙つて修正する。
 双方初物同士でもたもた右往左往する、ぎこちない初体験、乃至は恋路。もしくは終始キョドッた糞デカウェリントンに、職場の女子が代る代る連日膳を据ゑて呉れる非現実的なファンタジー。主役の男女が互ひにAV女優・男優をメンターとする形で、オーソドックスな恋愛映画を裸映画的にも綺麗に加速。予告に目を通した時点では、どうも色濃く感じた竹洞哲也スメルは、幸にも情報の不足した早とちり。沢村との正直腐れて来た関係に終止符を打つ腹を固めた二番手が、ちひろと浄土に先行する形で走り、あるいは生き始める力強さは、竹洞哲也が忘れたか失つて久しいエモーション。色男の高みから撃ち下すベレッタと、マジョリティーの強みから容赦ない史乃。ちひろには火の玉ストレートの正論がドカンドカン畳み込まれ、浄土は緑子が些か乱暴に、満を持して飛び込んで来る小笠原こと西本竜樹が、余裕を持つて背中を押す。どるたん+しゃあみんが頓珍漢なユニット名に脊髄で折り返した危惧をいい意味で裏切り、堂々とした正攻法を敢行する劇伴も始終を美しく補完。観客あるいは視聴者の涙腺を、遂に決壊させる詰めの一手を随所で放つ。十余年ぶりで各々の立ち位置を変へたちひろと浄土が初めてホームにて向き合ふ、アバンも見事に回収したクライマックスは一撃必殺。この役なら櫻井拓也で別によくね?といふ量産型娯楽映画的な疑問さへ飲み込めば、佐倉萌によると初めからさういふ二兎を追つた企画ではなかつた、プラスのフェスに選ばれなかつたことに疑問がそこかしこから語られたのも肯ける、心温まると同時に結構磐石のデビュー作。締めの濡れ場を完遂させない小癪さも兎も角、蛇足気味な助言部のラスト一言二言なんて感動のあまり耳にしなかつたプリテンド。但し、ギリギリのギリッギリまで尺を使ひ果たした結果、スタッフを一緒くた一遍に放り込むクレジットは、あんな真似をされては小屋では意味を成すまい、エキストラなんて絶対に読めなかつた。

 御多分に洩れず図書館も閉まつてゐるため、如何にも面倒臭さうな脚本家が―OPとKSUに―吠えてゐやがるらしい、月刊『シナリオ』誌には辿り着けず。宣言解除の時期尚早を囁く声も根強い、このザマでは再開するのも何時になるのか知らないが、覚えてゐたら目を通す。


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