真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「馬小舎の令嬢」(1991/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/企画:田中岩夫/撮影:稲吉雅志/照明:小川満/音楽:WAVE/編集:酒井正次/助監督:梶野考/監督助手:田尻裕司/照明助手:広瀬寛巳/スチール:佐藤初太郎・大木寛/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:雪之丞・浅井理恵・水鳥川彩・仲原美樹・小林節彦・今泉浩一・杉浦峰夫)。依然所々屈しつつ、写真部セカンドの大木寛は、夢野史郎の本名。
 今度はNFAJ国立映画アーカイブ開巻、馬小舎に御馬様とセーラー服の雪之丞。闖入したゴーグル装着の杉浦峰夫(あくまで別役/紀野真人がex.杉浦峰夫)が、雪之丞を犯す。流星と名を呼ばれた、馬は勃つてゐた。一転東京、のプロジェクターがあつらへられた小室。頭の中に馬の声を聞くとかいふ雪之丞を、東京音響研究所の沢田(杉浦)がカウンセリングする。砂嵐バックのタイトル・インに、色濃く漂ふ佐藤寿保の空気。マネキンを満載したキャンピングカーが、片田舎を目指す。主はアーティスト(笑)の浅井理恵で、助手の今泉浩一がカメラを触り、同じく小林節彦がハンドルを握る。実家の木崎か城崎牧場は廃業してなほ、流星を飼育する雪之丞は、虚空にガンマイクを向け、何もない音を録りに来たとかいふ沢田と再会。素頓狂な者同士ウマが合ふのか、男女の仲には至らないまゝに行動をともにする。気持ちボーイッシュな雪之丞が、飄々と広げる大風呂敷。雪之丞はWAVEなる独自の方法で、馬のバイオリズムにアクセスし得るとしてゐた。
 配役残り水鳥川彩と仲原美樹は、当地に滞留する浅井理恵以下三名の前に現れる、ホクトスターの父親である流星を訪ねて来た競馬サークルの女子大生。正直純然たる濡れ場要員にしては、肝心の濡れ場を質量とも満足に見せないのは―演出部の―頂けない不誠実。
 「馬と女と犬」(1990/主演:岸加奈子・佐野和宏)の大ヒットを受け二匹目の泥鰌ならぬ馬を狙つた、佐藤寿保1991年第六作。「馬と女と犬」よりは全然マシではあるものの、全く飛ばないといふ訳でもない、プリントが。佐藤寿保の獣姦ものは都合この二本きり、一本も撮らない監督の方が、寧ろ大半を占めるとはいへ。幾分御祝儀製作費も出たのか、頭数から増えた割には三番手以降は殆ど仕事をさせて貰へず、年増が消えたにせよ女優部のデチューンは否み難い。男優部は杉浦峰夫の役へのハマり具合もあり、佐野の大穴はあれ然程の瑕疵は感じさせない。尤も無視された雪之丞に、今泉浩一がトランシーバーで捨て台詞を投げるカットには、この人が出て来ると、元々線の細い叙情性と表裏一体にヌルい荒木太郎のみならず、どんな映画も途端にダサくなると改めてかこの期に苦笑した。爆走するWAVE奇想の陰で、まんまAKIRAなホルマリン漬けのホース・パーツと、馬の魂を吸ひ取つた鏡がひつそりとでもなく追走。ドミノ式に全員死んで行く無造作な修羅場は相変らずか性懲りもないながら、終に彼岸と此岸の境界が決壊するスペクタクルは、限りなくノーに近いローバジェットの美術を力技で捻じ伏せる、照明部決死の奮闘にも加速され圧巻。ラストの出し抜けな凶行があれよあれよと死体の山を築くのは、今も変らぬ佐藤寿保の十八番。主演女優の性的訴求力がそもそも高くなく、御馬様と致す売りの見せ場も申し訳程度。要は「馬と女と犬」に気をよくした新東宝を余所に、佐藤寿保×夢野史郎が好き勝手に自分達の映画を撮つたと思しき風情が清々しい。規定回数の絡み―と女優部の頭数―さへあればあとは自由、との口を開けば語られる割に、実質的な意味の如何は如何なものかなピンク映画らしさが、アイコニックに表れた一作ではある。


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