真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「花井さちこの華麗な生涯」(2005/『発情家庭教師 先生の愛汁』《2003》のディレクターズ・カット一般映画版/製作・配給:新東宝映画株式会社・国映株式会社/製作協力:Vシアター/協賛:報映産業株式会社/監督:女池充/脚本:中野貴雄/企画:朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・森田一人・増子恭一/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽・アニメーション:岸岡太郎/撮影:伊藤寛/録音:小南鈴之介/編集:金子尚樹/助監督:永井卓爾/特殊造形:むくなしよる/特殊メイク:小川美穂/ガンエフェクト:ビル横山/アニメーション撮影:沖野雅英/ミサイル・エンドクレジット:清水康彦/挿入歌:溢れてまs guitar&drums オカニワフミヒロ bass こひやまる子 guitar 辻 drums,piano&trunpet タロー/監督助手:松本唯史・重信彰則・清水雅美/応援:田尻裕司・堀禎一・坂本礼・大西裕・伊藤一平/撮影助手:鏡早智・中島美緒・松下茂・柳澤光一/照明応援:大澤秀幸・増谷文良/録音助手:中尾憲人・小南敏也/特殊メイク応援:太田昭子/ネガ編集:松村由紀・小田島悦子/リレコ:福田誠/タイトル:道川昭/タイミング:安斎公一/スチール:田尻裕司/バカヤロー!:吉田修/協力:岩越瑠美、榎本敏郎、大野敦子、木全公彦、佐々木靖之、菅沼隆、竹洞哲也、西山秀明、真弓信吾、上田耕司、江利川深夜、大塚幸子、小泉剛、佐瀬佳明、ダーティ工藤、沼田和夫、三浦俊、柳田友貴、永井家の方々、藤井謙二郎、新井直子、作美はるか、石井幸一、林田義行、NK特機、OMB、タオ・コミュニケーションズ、ティ・ニシムラ、東映ラボ・テック、ナック・イメージテクノロジー、オノライト、スノビッシュ・プロダクツ、高津装飾美術、ティファナ・イン、東京衣裳、フィルムクラフト、ブロンコ/フィルム提供:報映産業株式会社・PG/出演:黒田笑・速水今日子・水原香菜恵・螢雪次朗・松江哲朗・川瀬陽太・小林節彦・アグサイ レザ・本多菊次朗・松原正隆・野上正義・久保新二・元井ゆうじ・吉岡睦雄・葉月螢・絹田良美・石川裕一・伊藤猛/《声の出演》:中野貴雄・佐藤啓子・キム アンソニー)。(声の出演)の正確な位置は、石川裕一と伊藤猛の間に挿む。
 何気にコンクリート打ちつぱなしの殺風景な部屋、金髪のみならず特服の山田君(川瀬)に、パッツンパツンでキワッキワのタイトスカートと、ガッバガバに開いた―といふか開けた―胸元がエクストリームに悩ましい、花井さちこ先生(黒田)が他愛ない英語の授業。スタイルは超絶な主演女優の、最終的には垢抜けない面相と端から議論の余地なく、覚束ない口跡に関してはこの際気にせず先に進め。密着とチラどころでない見せを連べ撃ちでカマして来るさちこ先生に、ライオンファイアした山田が猛然と起動。フィニッシュは途方もない量オッパイに大射精、するのは家庭教師プレイ専門のイメクラ「ホームティーチャー」に於ける、罰金百万円で禁じられた本番行為、判り易い罰ぽさも清々しい。山田のお痛は不問に付したさちこが、退勤後に現れたのは小林節彦が店主の、“社長”(電話越しの声が中野貴雄)と待ち合はせたオーソドックスな店構への喫茶店。なのに店内で流れてゐる似つかはしくないノイズが、挿入歌なのかなあ。客はほかに何某か取引事をしてゐるらしき、北朝鮮の工作員・キム(伊藤)とアラブ系の男(アグサイ)。“社長”から見えるやう入口近くに移動しようとしたさちこが、コバタケが水拭きした床に足を滑らせキムらのテーブルに倒れかゝり、アグレザの手荷物が暴れ大ぶりな口紅状の、金属製の円筒が床に落ちる。一方、三億ドルもの大金を振り込んだにも関らず、アグレザがブツを失くした様子に、キムは脊髄で折り返し凄まじいマズルフラッシュで発砲。至近距離から胸を撃ち抜かれ、即死したかに見えたアグレザを二発目で仕留め、三発目の流れ弾が、さちこの額に命中する。おでこの真ん中に大穴を開けたまゝ、ふらふらと店を出ようとするさちこの手鞄に、コバタケは円筒をさちこの持ち物かと誤認して放り込む。
 無駄と紙一重に豪華な配役残り、本多菊次朗は新宿コマ劇場前でへたり込む、さちこを拾ふ警備員。菊の御紋がなく、警官の制服には見えない。寄る気の皆無な不誠実の誹りも免れ得まい警備員戦の事後、さちこは漸く自らの前額に開いた、弾丸の覗く銃創を認識。何をトチ狂つたかアイペンシルで傷口を突いてみたところ、ザックリした断面図で弾は脳の深い領域に達し、た弾みでさちこは超天才に覚醒する。水原香菜恵は白昼うづくまるさちこを心配して声をかけるOLで、松原正隆は、予知能力をも得たさちこが水原香菜恵の最期を幻視する、屋上青姦の末にOLを突き落とす、不倫相手の課長。野上正義はガッチガチに哲学系の品揃へを、ガード下にて広げる路上古本屋、しかも一冊百円。“人類の叡智の結集”と図書館に感激するさちこが、蔵書を破つて食べ始めたのには「おゝい!」と怒髪冠を衝きかけつつ、実際には破損したのはぼちぼちよく出来た小道具、まあ許す。螢雪次朗が大学の研究室にまでさちこが訪ねる、当該著作『形而上学的現実に対する論考』を書いた哲学教授の佐伯俊夫。速水今日子は俊夫の妻・加代子で、今をときめかない松江哲朗が息子の守。実家が竜巻に巻き込まれたとか藪蛇か闇雲な方便で、さちこは佐伯家住み込みの家庭教師に。ノンクレジットで飛び込んで来る田中要次は、キムが張り込むさちこの部屋に荷物を届けに来る、しろねこ宅急便の配送員。a.k.a.朝倉大介の佐藤啓子が、さちこにまゝかりと米を送つた母親の声。首から上はジョージ・W・ブッシュの写真といふ、商業映画として成立してゐるのか否か際どいビジュアルで攻めて来る久保新二は、第四十三代アメリカ合衆国大統領。女池充六作前、即ちデビュー作の「白衣いんらん日記 濡れたまゝ二度、三度」(1997/脚本:小林政広/主演:吉岡まり子)があるガミさんはまだしも、ザッと探してみても見当たらないゆゑ、普通に、もしくは普通のピンクを作つてゐた昔日はさて措くと、久保チンが狭義の―あるいは現代的な―国映作は今作が最初で最後となるのではなからうか。「白衣いんらん日記」も、厳密にいふと新東宝作ではあれ。元井ゆうじと吉岡睦雄は、遂に件の円筒こと“大統領の指”を奪還したキムと、さちこを佐伯家の玄関口にて急襲する吃驚するほど役立たずの黒服。吉岡睦雄に至つては、得物を持つてゐるだけで素人以下の的。キム アンソニーは偉大なる将軍様の声で、葉月螢と“ぶーやん”絹田良美にもう一人ノンクレの太るとも細らない巨漢女が、地下道か洞窟の奥深く、最終兵器“ゼウス・エクス・マキーナ”に辿り着いたさちことキムを包囲する暗殺部隊の皆さん。破滅的な、といふかガチのマジで破滅するラストにいゝ感じの生温さで花を添へる石川裕一は、椿の落ちる如くポロッと弾が取れるや元に戻つたさちこを、ナンパするサーファー。
 俺達のインターフィルムさんがex.DMMのピンク映画chに新着させて呉れた、女池充通算第七作―全八作―の、大幅に再編集した一般映画版で国映大戦第三十九戦。これまでもバラ売り素のDMMで別に見られたとはいへ、今回新着のサブスク―かバラ売りex.DMM―で見た方が、どうせ画質は全然いゝといふのはどうかしたツッコミ処。
 二十五分短いピンク版(六十五分)―故福岡オークラか駅前ロマンで、観た記憶は残つてゐない―にあつて、文字通り地球規模にオッ広げてみせた大風呂敷がどれだけ削り込まれるかトッ散らかし倒す、壮絶な代物と化したのかは正直想像に遠い。クライマックスの舞台となる洞窟だか地下道周りを筆頭に、確かにピンクの小屋―に於ける上映環境―では甚だしく見え難かつたにさうゐない、徒に暗いカットも散見される。心配せずとも伊藤猛のよくいへば無二な滑舌は、どうせ何処で観てゐても聞こやしない。尤も、余程女池充に対しては腹に据ゑかねてをられたのか、m@stervision大哥が木端微塵に酷評なさるほどには何故か腹の立たないのも通り越し、素の劇映画と裸映画の両面とも思ひのほか楽しめた。如何にもレギュレーションに沿ひましたといはんばかりに、夫婦生活を披露するですらなく瞬間的に駆け抜ける速水今日子は兎も角、矢張り一幕限りの水原香菜恵が水原香菜恵はそこそこの濡れ場を披露するのに加へ、ビリング頭は誰かしら相手の絡みよりも寧ろ、発作的に襲はれる発情で恵まれた肢体を大いに愉しませる。カテキョ衣装のタイトなスカートに勝るとも劣らない、終盤のジーンズがまた大いなる眼福。突き出したおヒップをデニムでキュッと包み込む、ど定番のジャスティスも忘れない。侵入してみたさちこ宅の荒れた様子に、呆れがてら片付け始めた挙句、洗濯機まで回す案外家庭的な一面まで含めキム113号のハードボイルドな造形は結構な完成度。一々大仰なブローバックはプロらしからぬが、長い体躯を活かしての銃を向ける姿は逐一画になり、同級生のよしみで店を貸したのに、これ以上汚さないで呉れよと泣き言を垂れるコバタケを「判つた」と同時の一発で葬つた直後の、「これで最後だ」には伊藤猛の手柄といつてしまへばそれまでながら、女池充が斯くもカッコいゝシークエンスを撮れるのかと痺れた。プレジデント方面の迸る安つぽさと、“ゼウス・エクス・マキーナ”のリアリティが上手く埋まらない辺りには貧しさなり限界も否めない反面、目出度くなく釦を押したところで、さちこの憑き物が落ちて以降のラストが、ゲッター線を浴びたさちこが地球を奈落の底に呑み込む、オーラスが蛇の足に思へて仕方ないくらゐ秀逸。サーファーに声をかけられた佐知子もといさちこが、海の家の焼きそばにホイッホイ釣られついて行く長閑さか間抜けさの遥か彼方で、空に刷かれるアディダス調の三本ライン。静かに世界が終る、鮮烈な砂浜のロングは見事に映画的。安普請のビデオ合成を施す諸刃の剣の、豪快なキネコ画面にさへ目を瞑れば。如何なる形にせよ、この期に及んで「発情家庭教師 先生の愛汁」と比較対照する手立てが全く見当たらないのが如何せん苦しいものの、話が一応綺麗にまとまる「花井さちこの華麗な生涯」を見た限りでは、予想ないし経験則―あるいは偏見にも似た先入観―を覆して全然面白かつたといふのが、偽らざるところである。

 さりげなく特筆すべき一点、「花井さちこの華麗な生涯」(2005)と「発情家庭教師 先生の愛汁」(2003)で有無からクレジットの差異は検討出来ないが、翌年の「定食屋の若女将 やめて、義父さん!」(2004/脚本・監督:野上正義/主演:三月瞳)に制作協力で参加してゐるため、必ずしも最後のピンクとはならないが全体この時、“大先生”柳田友貴は何をどう協力してゐたのか。


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