真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「中沢慶子 ザ・昂奮」(昭和63/製作:?/配給:新東宝映画/監督:小路谷秀樹/脚本:山中秀男/プロデューサー:大橋達男・古野克己/撮影:斉藤幸一・佐藤文男/照明:吉角荘介・井上英一/助監督:生田聡・吉村典久・大内裕/音楽:外河浩/編集:酒井正次/メイク:秋山由季/録音:銀座サウンド/制作協力:ディレクターズユニオン・東京U.T.・VALIS INC/出演:中沢慶子・外波山文明・新村由紀・田村寛・佐分利真三郎・外田勉・瓜生由美・稲村幸子・益子英子・中野千秋)。
 ビデオ題「中沢慶子 性-さが-」でのタイトル開巻、銀座サウンドがある辺りビデオ用にあつらへた代物にも思へないのだけれど、フィルムからの翻刻を謳ふ、nfajとクレジットに差異が散見されるのはどうした次第なのか。早朝の繁華街、ゴミの中から口に入れるに値するものを探す浮浪者(外田)が、倒れてゐる女に気づく。軽く突いて反応のないのを確かめ、財布を漁る浮浪者は通りがかつた牛乳配達のチャリンコにその場を離れる。女(中沢)を家まで送るつもりで自転車に乗せた村沢(外波山)は、女がアタシが誰で、何処から来て何をしようとしてゐるのか、全部忘れちやつたみたい。とか天井の抜けた心許ない口跡同様、雲を掴むやうな女をとりあへず独居の安アパート―風呂無し―に連れて行く。村沢は女の求めに応じ、結構な朝方にも関らず隣人の割烹着(稲村)から借りた金盥に、給湯器で湯を張り簡易風呂を設営。女が湯を浴びる間村沢が買物に出てゐる町の様子も、見た感じ夕刻ぽく映る時空の歪みは如何なものか。
 配役残り、nfajには水商売風の女とされる益子英子は、そもそも女の登場人物がほかに見当たらないゆゑ、村沢が買物から帰宅すると、車で男が迎へに来てゐた割烹着の更に隣の隣々人?流石に牛乳配達だけでは食へないらしく、今でいふダブルワーク的な次の仕事で、村沢は女をヤサに残し店番するゲームセンターに。遅れて来た村沢に憎まれ口を叩く、村沢と交替する形の若造は不明。ゲーセンへの道すがら、昨晩のゴミ捨て場に寄つてみた村沢は女の持ち物と思しきハンドバッグに手帳と、漫画家・中山ケイの名刺を見つける。瓜生由美と中野千秋は、村沢が名詞の電話番号にかけてみたところ、先生が消えた非常事態にお手上げのアシスタント・ユミと、乳繰り合つてゐる彼氏のカトウ。新村由紀はケイが幻視する、廃工場の少女、田村寛が少女に声をかける労務者。崩壊する締切―馬鹿に綺麗な目をした、下膨れの『週刊パンジー』編集者も判らん―もよそに、男性恐怖症の割に結婚願望の明確なケイはブライダルコンサルタントに赴く。応対する職員が、ノンクレながらnfajによると梅田清子。そして佐分利真三郎が、梅田清子がケイに紹介する加藤道郎。佐分利真三郎だのと、人を喰つた名義の正体は末次真三郎の変名。再々度nfajを参照するに、西村卓昭和62年第六作「ハードにつゝこめ」(主演:秋本ちえみ)にも佐分真名義での出演が僅かに確認出来るが、全く以て、小癪な真似をしくさる。錯綜の、毒を盛らはば皿まで。今篇とnfajにVHSジャケット各々の女優部表記を、比較し易いやうビリング順に並べてみると
    今篇:中沢慶子・新村由紀・瓜生由美・稲村幸子・益子英子
    nfaj:中沢慶子・瓜生由美・新村由紀・稲村幸子・梅田清子・益子克子
 VHSジャケ:中沢慶子・山岡麻美・新村由紀・稲村幸子・益子英子・園田順子
 益子英子と益子克子の何れが正しいのかも兎も角、山岡麻美や園田順子といふのは全体誰なのか。更に、ex.DMMがVHSジャケの六人に加へて―端役である―中野千秋の計七人タグづけを施してゐるものの、中野千秋は男ではないかといふ以前に新村由紀は幼女に片足突つ込んだ未成年で、なほかつ稲村幸子に至つては恐らく新村由紀のお母さん通り越して、お婆さんにより近い年恰好だぞ。
 小路谷秀樹のロマンXを二本発表後、最初で最後のフィルム映画。更にその後的には小路谷秀樹がAVを主戦場とする傍ら新日本プロレスの公式映像でも名を馳せ、近年はUFO映画でプチ山当ててゐる。
 侘しい寡暮らしの中年男が、今でいふ解離性健忘の若い女を拾ふ。忽ち村沢がときめく一方、ケイが辿り着いた記憶を取り戻すメソッドが、よもやの絶頂。画期的に秀逸な方便を、ど真ん中に火の玉ストレートを投げ込む作劇で加速。完全に回復するまで村沢宅に置いて欲しいと乞ふケイの“もうひとつだけお願ひ”が、「思ひだすまで抱いて下さい!」。空前絶後に麗しいファンタジーを見事構築し得た、小路谷秀樹の勝利は約束されたも同然。とその瞬間には、確信しかけたのだけれど。村沢がゲーセンに出勤してゐる隙の、ソーセージ自慰―自体は堂々と完遂する最大の見所―で幼少期のトラウマに基づくスランプに苦しむケイが、車中にて加藤から犯される。即ち冒頭の夜明けに至る顛末を懇切丁寧に追つてゐるうちに、一旦握り締めたかに思へた途轍もないエモーションの前髪を、まんまと手から逃がしてしまふ。オッパイはいはゆる美乳の範疇、画期的に美しい御々足を中心に、伸びやか且つたをやかな肢体と、精悍な馬面の美人。平成以降なかなか見ないルックスの主演女優を擁し、公開当時四十ないし四十一歳。既に出来上がつた外波文が、偶さか舞ひ降りた天使と昼夜を忘れヤッてヤッてただひたすらにヤリ倒す。エクストリームな裸映画になつてゐて全然おかしくなかつた萌芽は芽生えてゐただけに、力任せに当てた照明が白々しい、キメに来たショットも空振りする中途半端なロマンティックは重ね重ね惜しい一作。車中で揉み合ふケイと加藤が、へべれけな弾みでダブルノックダウンに陥る、壮絶に仕出かしたカットにはうわあ!と頭を抱へた。


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