真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 夢見る桃色なすび」(2020/制作:鯨屋商店/提供:オーピー映画/監督:小関裕次郎/脚本:深澤浩子/撮影監督:創優和/助監督:小鷹裕/録音:小林徹哉/編集:鷹野朋子/選曲:大河内健/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄・やよいあい/整音:Bias Technologist/監督助手:高木翔・河野宗彦/応援:菊嶌稔章/撮影助手:赤羽一真・酒村多緒/設定協力:M・B・スプリングレイン/出演:佐倉絆・卯水咲流・鳥越はな・ケイチャン・竹本泰志・可児正光・加藤義一・鎌田一利・広瀬寛巳・郡司博史・津本奏雅・廣田篤紀・里見瑤子・和田光沙・津田篤・森羅万象)。出演者中、加藤義一から廣田篤紀までと、またしても森羅万象は本篇クレジットのみ。
 左隅から水平に細く糸を引き電車が走る、夜景にクレジット起動。図面筒を抱へ外回りする後々の描写を窺ふに、建築系―の営業―と思しき清水優壬(可児)が草臥れ果て寝こける帰りの通勤電車。寝てゐる清水も起こして、誰彼構はず豆菓子を勧めて回る豆オジ(視覚的に特定可能な形で抜かれはしないが、鎌田一利かなあ)の徘徊噛ませて、ピントは可児正光にのみ合はせた帰途のロング。画面を清水が通り過ぎたのちの、薄ぼやけた光にタイトル・イン。しかし、全体木に何を接ぐ気なのかといふ、煽情性に振れてみせる訳でさへ別になく、雲を掴むやうな公開題ではある。ピンクはまだしも、茄子は何処から出て来た。閑話休題、明けてコンビニ弁当も食べかけのまゝ、目覚まし時計に叩き起こされた清水が再び揺られる通勤電車の車中に、時機を失し気味の監督クレジット。加藤義一から廣田篤紀までの乗客要員は出し惜しまず一気に全軍投入した上で、菊りん入れてもまだ頭数が一人分多く、更に幾人かの降車時には、後姿の脚本家も男の背丈に隠れてゐたのが現れる。
 サトウトシキよりはまだマシな不調法な弾みで心理療養士・灰原丁子(卯水)のお胸に顔を埋めた清水は、丁子の方から清水の手を取りオッパイに誘ふ、白日夢に囚はれる。声しか聞かせない、部長(森羅)に電話でドヤされる賃金の発生する時間の無駄風景挿んで、再々度電車の再度痴漢電車。隣に座る土門未己(佐倉)が胸元に差した、何をあしらつたものか何か和風のブローチ―正体は簪の模様―に魔が差した清水は痴漢を働き?、声をあげられる。以降再三再四登場する、原つぱにポカーンと置かれたベンチに逃れた清水は、フレーム逆側から追つて来た未己に捕獲され、廃工場に連れて行かれる。電車痴漢に際しては下手に拘泥すると誰が誰に何をしてゐるのかしばしばよく判らなくなる、不用意なリアリティは潔く廃し、豪快に振り切れたか開き直つた、より実戦的なシークエンスを展開する。
 配役残り、廃工場で清水を待つケイチャンと竹本泰志に鳥越はなは、自称“光の戦士”のリーダーで火担当の穂村翔丙と、穂村とは大学の同窓生で木担当の森田甲太郎に、金担当の鈴木加乃恵。土担当の土門と水担当の清水を含めた五人は、穂村いはく五行の力を持つ選ばれた戦士で、文字通り菱形に走る「大和菱形線」と、その四頂点を結んだ「新京縦横線」。二路線が形成する鉄の結界―“鉄の結界”なる劇中用語は凄えカッコいい―で封印された龍の心臓を巡り、龍を目覚めさせんと暗躍する“闇の戦士”と戦つてゐる。とかいふ今となつては懐かしきか甘酸つぱい、転生者系の盛大な戦士症候群を開陳。当然の如く、清水を画期的に煙に巻く。ラストを殆どカメオ感覚のジェット・ストリーム・アタックで駆け抜けて行く里見瑤子と和田光沙に津田篤は、眠つてゐた龍が終に再起動した気配を、「暫くお休みしなくちやね」と受け止める何某かのお師匠ぽい葵生川露子と、「別件入つちやつた」と仕事の電話を切る根本乙希に、「あゝゝ始まつちやつたか」と菓子パンをパクつきながら静観する金子辛之介。忘れてた、未己が過剰に反応する、ダブル・ミーニングで軽い自動車事故現場に見切れる男女三人は、遠目に背格好を見た感じ全員若さうゆゑ、加藤軍団(超絶仮称)でなく内トラの気がする。
 一撃必殺のクライマックスを見事撃ち抜いた、デビュー作「ツンデレ娘 奥手な初体験」(2019/脚本:井上淳一/主演:あべみかこ)に続く小関裕次郎第二作は、五本目の加藤義一単独三本目の小山悟をも追ひ抜き、史上最速デビュー二戦目での栄えある2020大蔵正月痴漢電車。今更改めて気づいたのが、今年は運休してたんだな、盆の怪談もどうなることやら。
 “光の戦士”―もしくは“暁を告げる者”いはく“黄昏の守護者”―は消耗したライフを、各々特定のメンバーとの交はりで回復する。森田の案外フランクな求めを清水が頑なに拒み通す、咲かずの薔薇込みでなかなか秀逸な方便を設け、裸映画的にはまあまあ安定。舌足らずが実際さういふ女の子がそこいらにゐさうに思はせる逆説的な口跡と、マキシマムによくいへばわがまゝボディとを、カット跨ぎの騎乗位で猛然と飛び込んで来る威勢のよさまで含め、三番手はそこそこ以上に楽しませる。尤も、大きめのロイドに玉がちやんと入つてゐるのは天晴な反面、加乃恵が未己にリカバリーして貰ふ、順番的には締めの大百合に際して。眼鏡クラスタ的にはあり得ないほど皮脂で大概汚れてゐるのは、少なくとも銀幕では誤魔化せない残念ポイント。あるいは液晶なら、液晶でも見えるぢやろ。未己のホイミは穂村が行ふ佐倉絆は、上に乗られたケイチャンは全く映さない画角での、両義的に単騎で堂々とした完遂を披露。卯水咲流に関しては、それ以上の見せ場が用意される。さうは、いへ。半ば確定的故意に基き頑なに必要な情報を与へられない、ただでさへ突飛な状況に放り込まれた主人公が翻弄され倒した挙句、尺的に決して予測不能のサプライズではないともいへ、いよいよ終局の火蓋が切られたところで、裁断されるかの如く映画が終了する。今作を観た百人のうち、五百人が想起するにさうゐない、エヴァQにも似た壮絶なエンディングには唖然とした。待てよエヴァQにはまだ続きがあんだろといふのと、何がエンディングか、終つてねえ。予め規定された上映時間が尽きるか満ちれば、起承転結の途中で平然と映画を強制終了する。竹洞哲也の師匠たる大御大こと小林悟が得意とした、映画殺しの荒業「起承転」をよもやまさか令和の世に、孫弟子が継承するなどとナイトメアにも思はなかつた。いはゆる闇堕ちした未己が、清水に名を呼ばれぼんやりと振り返る。画的には首の皮一枚キマッてゐなくもないカットに、一切合切何もかんも完結してゐないにも関らず悪びれもしないで叩き込まれる“完”には、最早突つ込んだ方が負けのレベルなのか。斯くも壮大な伝奇ロマンをオッ広げておいて、逆の意味で見事に放り投げて済ます体たらく。どれだけ性急に刻み込まうとよしんば壊滅的にへッべれけであらうとも、身の丈を超えたオーバーフロー風呂敷もとりあへず畳みはする、国沢実の方がまだマシなのかもとネガティブに再評価する日がこの期に来ようとはといふのも、それこそお釈迦様でも夢精、もとい夢想だにしまい、無駄口を叩くのがそんなに楽しいか。
 お話的にはあくまで未己の筈なのに、清水のベクトルが女優部三本柱の何れに向いてゐるのか、絶妙に不鮮明なのも地味なアキレス腱。そんな中、暫し退場と同義の雌伏する中盤を経て終盤大いに気を吐くのが、もしかすると現代ピンク最強の二番手・卯水咲流。龍の覚醒を自由への解放と説く丁子が、超絶の天候にも恵まれた正しく抜けるやうな青空を背負つての、世間体社会性倫理観etc.etc.、人を縛る全ての軛をデストロイした上での新世界の創造を、恵まれた肢体が奏でるドラマチックな身振りも交へ堂々と謳ひ上げる分単位の長台詞は、その間傍らでションボリしてゐるだけの主演女優を余所に、十二分の強度に足るハイライトを根こそぎカッ浚つてのける。もの、の。流石に斯くも物語が派手に未完であると、竹洞哲也2019年第三作「平成風俗史 あの時もキミはエロかつた」(脚本:当方ボーカル/主演:友田彩也香)に於けるやうな、一発大逆転サルベージには如何せん遠い。劣等感の塊で、自己肯定感の限りなく稀薄な男主役がオッサンは兎も角、エクストリームにキュートな佐倉絆なり、オッパイの大きなメガネ女子から兎に角仲間と受け容れられる。俯いたダメ人間を何が何でも絶対にアグリーメントする、力技の南風、を吹かせ得た可能性。エモーションの前髪も決して見当たらなくはなかつただけに、勿体なさも否めない一作。軽くググッてみたところ、綺麗に引退した佐倉絆のみならず鳥希に改名したらしい鳥越はなの活動も怪しいが、卯水咲流が捕まれば何とかなる。捲土重来を期した、続篇―といふかより直截には完成篇―の企画は検討されてゐないのであらうか。

 あと、清水が最初に水の力を発揮する、段ボールを幾つかバラした程度のゴミ捨て場のプアな美術は、もう少しヤル気を出して欲しい。


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