大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2012年06月03日 | 写詩・写歌・写俳

<275> 蝶の仲間たち

        一山に 及ぶ働き 蝶の夏

 我が国の自然界では、春になると黄色い花が彩りを見せ、夏になると白い花が多く見られるとよく言われるが、夏を迎えたこの時期、大和の山間地を訪れると、白い花がよく目につく。樹木で見れば、ウツギやガクウツギがあり、ノイバラやミヤコイバラなどがある。それにガマズミの仲間、ミズキの仲間、スイカズラ等々、みな白色系統の花が咲く。この中で殊に旺盛で賑やかに見られるのがユキノシタ科のウツギとガクウツギである。少し詳細に言えば、ウツギは卯の花のウツギで、これは平野部にも見られるが、大和では山裾や林縁、渓谷沿いで多く見られる。ガクウツギはガクウツギとコガクウツギとに判別されるが、大和にはどちらも見られ、低山帯に多い。

 これらの花はみな虫媒花で、ハチやチョウがよく来るが、ウツギの仲間には、大型のチョウが訪れる。今日はそのチョウたちをカメラで追ってみた。撮影場所は川上村の山間地。まずは、黒いアゲハチョウの仲間のモンキアゲハの雌、スイカズラの花に来ていた。次にこれも黒いアゲハチョウの仲間のオナガアゲハの雌。イタドリの葉にとまっていた。ほかのアゲハチョウではアオスジアゲハの姿が見られた。速いスピードで飛ぶのでファインダーからすぐに飛び出し撮影し難いチョウである。次にシロチョウの仲間のモンシロチョウ。ウツギの花と同じ白い色なので姿がわかり難い。二千キロに及ぶ旅をすると言われる南西諸島方面からの来訪者アサギマダラ(マダラチョウの仲間)もほんのわずかな間だったが、姿を見せた。大台ヶ原山にはアサギマダラが卵を産みつけるイケマの群落がある。渡りは鳥でも言えることであるが、毎年ほぼ同じ時期にやって来るから不思議である。

 これら、チョウはみな軽やかに花から花へと飛び回るが、アサギマダラはほかのチョウたちの飛び方が重たく感じられるほど軽やかに飛んでいるのがわかる。その軽さだからこそ二千キロもの旅が出来るのだろうと思われる。それにしても、チョウの動きは一山に及ぶ働きを思わせるほどで、その花とチョウ(昆虫)は持ちつ持たれつの関係にある。一方は蜜の馳走に与かり、一方は雄しべと雌しべの間で花粉の授受を手助けしてもらう。生においてこれほど良好で幸せな関係はなかろう。牧野富太郎は「もしも今昆虫が地球上におらなくなったら、植物で絶滅するものが続々とできる」(『植物知識』)と言っているが、それは、「もしも今植物が地球上になくなったら、昆虫で絶滅するものが続々とできる」と言っていることにも通じる。つまり、そこには持ちつ持たれつの関係性が成り立っているのがわかる。

                                                

 写真は左からウツギの花にとまったモンシロチョウ、スイカズラの花から蜜を吸うモンキアゲハ(オス)、イタドリの葉に翅を休めるオナガアゲハ(メス)、ウツギの花に来たアオスジアゲハ、ウツギの花の回りを飛び交うアサギマダラ(いずれも川上村の山間で)。