虫も殺せないイエスマン。転入3ヵ月目、真摯実直だが、発言を控える彼への裏評価。その彼が、職場の机に顔を伏せていた。
窓越しに見た彼の背中は男泣き。知らぬ顔をして「帰るか」と誘った。秋の日暮れ道、彼は明るくふるまった。翌日から、意識して彼の発言を促した。1年。自ら意見を出し始めた。
転勤する彼の送別会。一言も言わず目をみつめ、私の手を握った。力強い握りに彼の自信を感じ、うれしかった。
先日「定年、街づくり活動をしています」とはがきが届いた。書添えられたバラの絵、二十数年前の、秋の夕暮れの空と同じ橙色だった。
(2007年6月22日 毎日新聞「はがき随筆 四季特集「虫」掲載)
今朝、エッセイサロン代表のOさんから電話で掲載を知らされた。正直喜んだ。課題への応募は初経験だった。これからの大きな励みになる。
(写真は四季特集「虫」掲載紙面の1部)