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☆加藤典洋「太宰と井伏――ふたつの戦後」感想

2007年04月29日 17時32分38秒 | 文学
太宰と井伏――ふたつの戦後加藤典洋の「太宰と井伏――ふたつの戦後」(講談社)を読んだ。
本の衝撃度から言えば、猪瀬直樹の「ピカレスク 太宰治伝」には及ばないが、これはこれでおもしろかった。「ピカレスク」の、加藤典洋による感想文のようなところがある。
「ピカレスク」で、さんざんに叩かれた井伏鱒二を少し救出しているようなところがあって、正直言うとそこが少しだけ不満なところではある。

ポール・ハギス監督の映画「クラッシュ」を見ると、アメリカ社会は差別ばっかりで毎日毎日人種差別の存在を感じ続けなければならないような気がするが、たぶんそんなことはないだろうと思う。(アメリカに行ったことがないから知らないけれど)
社会や人間をある切り口だけで見ようとすると、それだけが見えてしまって、ほかのことに全く目が行かなくなってしまうことがある。
井伏鱒二についても「ピカレスク」では盗作問題だけを取り上げて描いていたようなところがあるので、太宰治は井伏鱒二のことを実は憎んでいたというような印象を受けてしまうが、実際のところはいやなところもあったし愛すべきところもあったし、という感じだと思う。それはわれわれが普通に生活していて人付き合いをしている感じと昭和の文人といったって変わるところはないだろうと思う。
だから加藤典洋が井伏鱒二を少し弁護している感じなのも判らなくはないのだが、そこが当たり前すぎておもしろくない。猪瀬直樹みたいにめちゃめちゃに叩いてくれたほうが読み物としてはおもしろい、と思った。

「太宰と井伏」のなかでもっとも良いのは、
《「太宰」とは誰か。「太宰」とは、こういうとき、こんなふうに素朴に、怒ることのできない人間のことではなかったのか。》(91ページ)
というところだと思う。
確かにそうだ! 太宰はこんなときにこんなふうには怒らないよ。忘れてた!
と僕は素直に驚きました。
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