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村上春樹『一人称単数』

2023年04月27日 00時47分56秒 | 文学
村上春樹『一人称単数』(文春文庫)。
久しぶりの村上春樹。ゆっくり読みたい。

「石のまくらに」
噛みしめたタオルの歯型、凧糸で綴じた歌集など思い浮かぶイメージは強い。
ただここに、はっとするような短歌が一つでもあれば良かったかなと思う。おそらく村上春樹自身の作だろうが、そういう短歌はなかった。

「クリーム」
行ってみたら誰もいない話。
キリスト教の宣教車。
想像できない円の定義。
ちょっと、というかぜんぜんよくわからない話だが、イメージだけは相変わらず強烈。

「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」
チャーリー・パーカーなどぜんぜん知らないが、ボサノヴァが流行る前に死んだということで、ボサノヴァを演奏するはずもないのに、そういうレコードが存在したかのような評を書いた語り手。
チャーリー・パーカーなどに詳しい人だったらもっと愉しめるのかな。

「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」
初めてのガールフレンドの家に行くと彼女はいなくて、お兄さんがいて、芥川龍之介の『歯車』を朗読することになる話。
ガールフレンドと芥川龍之介は睡眠薬自殺つながりか。
奇妙な話で印象に残る。

「『ヤクルト・スワローズ詩集』」
書いてあることはほぼ全て事実なのだろう。フィクションがあるとすれば母親が阪神タイガースの選手のテレフォン・カードを大量に購入していたところだろう。あそこは出来すぎている。
阪神タイガースは阪神タイガー「」じゃないんだなと思ったのと、テレフォン・カードって『ノルウェイの森』だったか何かの小説では「電話カード」って呼んでなかったかな。丸くなったなと思った。
エッセイだかなんだかわからない、”黒ビールみたいな”話だった。
この短篇集のここまで読んだなかでいちばんおもしろいかもしれない。

「謝肉祭(Carnaval)」
ここまで読んだなかで最もおもしろい。まさに村上春樹の短篇小説といった感じ。
醜い女性の話。関節をぽきぽき鳴らすところで声を出して笑ってしまった。
シューマンの「謝肉祭」を聴いてみる必要がある。

「品川猿の告白」
しゃべる猿の話は昔もたしかあった。
しかしそこまで「しゃべる猿」というものに興味も関心もない方なので隣の部屋にあるその本を探して読んでみる気にはならない。
猿のしゃべりはどことなく谷崎潤一郎の作品を思い出させた。『盲目物語』とかかもしれない。
敢えて言えば、この話のテーマは何なのだろう?

「一人称単数」
普段はスーツを着ない語り手がスーツを着て出掛けるというところから話は始まるが、これは谷崎潤一郎の「秘密」を意識しているように読める。谷崎潤一郎の「秘密」では女装してお高祖頭巾(おこそずきん)をかぶって出掛けるが、村上春樹はポール・スミスのスーツを着て出掛ける。
後半は太宰治の「親友交歓」のような話になる。
「威張るな!」が「恥を知りなさい」に変わる。
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