今回の東日本大震災の教訓の一つに、もしかしたら
遺言書を残しておく必要性が改めて挙げられるようになるかもしれません。
家族で東北を旅行中に今回の津波に遭遇し、波平が死亡
相続人であるカツオ(フネ、サザエ、ワカメの誰でも同じです)が
行方不明のままになっているとしましょう。
遺言書は死後が近づいてきた時に書くものだ、と思われてはいても
「人生は何が起こるか分からない」の言葉に従って
波平が、(+)と(-)の財産が整理された遺言書を残してくれていたら
コト相続に関しては、残された遺族はどんなにか楽ができたことでしょう。
一方、波平の遺言書がないときは話が面倒です。
この場合は当然、遺産分割協議が必要ですが
相続人であるカツオが欠けているのですから話し合いができませんし
また、預貯金の引き出しにも相続人全員の同意が必要ですから
それもできないことになります(*)。
遺言があれば、それによって相続分及び遺言執行者が指定されますから
遺産分割協議は不要になり、遺言執行者が行方不明者に代わって
遺言通りに手続きを進めることができます。
(遺言がない場合の対応は下記、弁護士談の中に触れられています)
(*)今回の震災では例外的な措置として、金融機関の窓口で預金者本人の情報
行方不明の状況、預金者との関係、ご家族の状況等を確認したうえで
葬儀費用として一定金額の払い戻しに応じている金融機関もあるようです。
今回のお話と直接関係はありませんが、その他の例外的処置
* 相続放棄の期限(3カ月)の延長 * 生命保険における行方不明者の扱い
・・・・・・・・・・被災地で無料相談をした弁護士の経験談・・・・・・・・・・
高齢の両親が逃げ遅れて津波に流され、父は遺体で発見されたが
母が行方不明の場合の相続の仕方の相談が2件ありました。
いずれもお父さんには結構な預貯金があり、残された子供たちは生活が大変なので
お父さんの預金を早く払い戻ししたいが、どのような手続をすればよいかとの質問です。
相続人としては、成人した子供が数名いますが、この問題は簡単そうで実は面倒です。
戸籍上、遺体が発見された父については死亡届が提出できますが
行方不明の母はできないからです。
つまり、母は戸籍上は生きたままなので父の相続人となり
相続人は全員揃わないと遺産分割協議を開けず
その結果としての遺産分割協議書がないと、父の預貯金の払戻しもできません。
行方不明者の「民法」に依る死亡認定には、大震災から1年の経過が必要で
1年経過後家庭裁判所に申し立てしても決定が出るまで更に相当の期間がかかります。
また、津波行方不明者に対する「戸籍法」の認定死亡制度適用の道も
今後、警察或いは海上保安庁の取扱いが変わらない限り、現時点ではなさそうです。
とすると、この場合の相続は原則に戻り、行方不明者の母について
家庭裁判所に不在者財産管理人(*)の選任申立てをして
選任された人(その地域の弁護士・司法書士等専門家が多い)が
母に代わって遺産分割協議に加わり、家庭裁判所の許可を得て
形式上の相続人全員による遺産分割協議をしなければなりません。
その結果、ようやく父名義の預貯金の払い戻しが可能になります。
この申立後、1ヶ月程度で家裁は不在者財産管理人を選任してくれますので
併行して相続人間での遺産分割協議を重ね
選任と同時に家裁に遺産分割協議成立許可申請をして許可を受けることも可能で
2ヶ月程度で目的の預貯金払戻が実現できる可能性はあります。
(*)不在者財産管理人…法定代理人の一種です。
家を出たまま“行方知れず”の相続人がいる場合
日頃から遺言書を作成しておく必要性が高いようです。