超大手広告代理店女性社員の労災認定

2016-10-10 00:00:56 | 市民A
各紙がとりあげているように、広告代理店D社の入社1年目の女性社員Tさんが自殺した件で労基署が労災と認定している。

最初に書いておくが、原因がD社およびD社の従業員であって、被害者がTさんであるのは間違いないので、誰かを弁護しようということではなく、ややその分野に詳しいので、全体像の理解というか不明な点とか各紙の記事のおかしな点とか、行政的な課題とかまとめてみようという主旨なので。

まず、『過労死認定』とする紙面が多いが、そのあたりから各紙の内容が信じにくくなる。今回、全体としてもっとも正確に見えるのは毎日で、正確には「過労死」ではなく「過労自殺」である。働き過ぎて、心臓や脳に障害が生じて亡くなるのが過労死で、長時間労働や業務に起因するストレスでうつ病になり、自殺するのが「過労自殺」で、自殺しなくてもうつ病になった段階で労災になることがある。本件も社宅で自殺というのは、まったく典型的なケースだ。

基本的事項として、労基署(労働基準監督署)というのは、一般市民の世界で言うと、裁判所ではなく警察署にあたるわけで、労災認定するかしないかの紙に書かれた基準によって判断する。つまり労基署の所長が判事のように自分の判断を入れて判決を下すようにはならないわけだ。

また基本的事項だが、今回の決定についてD社は、詳細を聞いていないのでコメントできない、というようになっているが、実際に、ご遺族に結論を伝えた後、D社に対しては、文書で、うつ病と業務についての関係性について具体的な数値などで指摘され、それに対する業務改善命令が届くと思われる。その中に、うつ病発生の原因が書かれているので、それを見ないとコメントするのは難しいということだろう。

あと、この種の事件の常として、次に控える民事訴訟を意識して、どちらも貝のようになってしまい、結局真相がわからなくなることも多い。もともとの労基署の認定の内容について細部においては現実と異なることは多々あるだろうが、自分に都合の悪いところだけを主張するために、真実がゆがむ時がある。

さらに報道では割愛されているが、時間外労働が105時間となっているが、「時間外」の考え方が労基署的には週40時間を超える時間という基準だが、D社の社内規則が1日8時間とは考えにくく、仮に1日7.5時間であったとしたら週37.5時間なので、1ヵ月に約11時間の差がある。この部分は、どこにも書かれていないために考察不能なので、とりあえず、週40時間を超える時間外労働が昨年10月には105時間だった、として考え始める。11月や12月の時間外が報じられないのは、11月のある時期にうつ病が発症したと認定されているようで(SNSの書き込みでもそう思われ、11月の後半には希死念慮の兆候が感じられる)、そうなると発症前の1ヶ月間の勤務時間が問題になる。

ところが、発症までの1ヵ月の時間外労働時間の認定基準は、100時間ではなく、160時間なのだ(あるいは3週間で120時間)。その前の月(8月や9月)は40時間程度だったようで、単純には長時間労働が原因とは認定されないはずだ(新聞記者なんかこれぐらい普通じゃないだろうか)。こういう件に詳しい労務担当者は日本中に大勢いるので、かなり不思議に思っている人も多いと思うが、やはり毎日は細かく、「労働時間の急増」「繰り返されるパワハラ」と原因を並べている。ひらたくいうと合わせ技ということ。

心理的負荷が強となる事例(労災認定の基準)の一覧表の『仕事の量・質』の中に、「仕事量が著しく増加して時間外労働も大幅に増え、1月あたりおおむね100時間以上となる」という例があり、これが該当する。40時間→105時間(2.5倍)。

さらにSNSに書かれた内容から、土日出勤のことが書かれているのだが、同じく『仕事の量・質』の事例の中に「2週間(12日)以上連続勤務を行い・・」という基準がある。土日出勤の代休日がないと12日間連続勤務になる。この間に深夜労働の有無が問題になる。

あとはパワハラだが、SNSの内容から想像すると、業務上の叱責とは言えないパワハラ発言が続いたと思われるが、この部分は「言った、言わない」ということになりやすく、録音がある場合は別だが、労基署の捜査が行われたかどうかは不明なので、認定の理由に挙げられているかは微妙かもしれない。しかし、パワハラの認定があった場合、その原因者(上司)には一般的な健康配慮義務の違反だけではなくさまざまな問題が起こる可能性は否定できない。

Tさんの経歴や性格について考えると、いわゆる普通のメランコリー型うつ病のように思えるが、最近若年層で増加しているのは「新型うつ病」というものであり、理想と現実の差が少しでもあると現実が許容できずに短期間で発症するというもので、日本人に特有な現象らしく研究も遅れているようで、従来の基準を使ってもいいのかという心配もあるようだ。


外で見て言うのは簡単なのだが、D社の実態を知って、「さらに頑張ろう」と思わず「さっさとやめよう」と思うことこそが唯一の解決法だっただろうか。大学卒の30%、高校卒の50%が3年以内に転職する時代なので、T大卒という転職向きの学歴があったのだから、パワハラおやじにこだわる必要なかったのにと思ってしまう。以前、勤めていた会社は同じビルの中にD社とウォークマンのS社との合弁企業があって、エレベーターの中で社員を観察する限り、超古典的な老齢企業としか思えなかったわけだ。

なお、労災自殺を労災認定するきっかけとなったのが1991年に起きたD社の2年目社員の自殺事件なのだが、もしかしたら「カネで解決する文化や風土」があるとしたら大問題だが、とりあえず本件とは別問題と思われる。


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