密約調査に関して

2010-01-04 00:00:44 | 市民A
1月の政治ショーは、国会における不正献金追求と普天間基地移設問題の迷走の二本立てのように見えるが、おそらく1月後半に発表される日米密約問題が最大級の爆発ぶりを見せるのではないだろうか。

まず、今回外務省が調査している密約は、4件である。

一 1960 年1 月の安保条約改定時の、核持ち込みに関する「密約」

二 同じく、朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する「密約」

三 1972 年の沖縄返還時の、有事の際の核持ち込みに関する「密約」

四 同じく、原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」


一は、60年安保条約を締結する際に、核兵器を日本国内には常駐させない代わりに、艦船や航空機で一時的に在日米軍基地を通過することは認める、という内容のいわゆる「核密約」。

二は、同じく60年当時、朝鮮半島の戦闘再開の際には、日本国内の米軍基地を第二次朝鮮戦争用に米国が自由に使用することを認めたといわれる密約。

三は、沖縄の日本返還後、極東地区有事の際には沖縄の嘉手納をはじめとする基地には核兵器を持ちこんで核基地にすることを認める、という密約で、先月、佐藤信二元通産相が父親の佐藤栄作元首相の遺品の中にあった密約文書が公表されている。

四は、沖縄返還の際の諸費用について、日本側が負担するという密約。古くは毎日新聞西山記者がスクープして、その後、存在の有無が裁判で争われた。

この他にも、在日米兵の裁判権などに関する密約もあるらしい。たぶん、他にもいくつかあるのだろうか。

ただ、一から四の中で、四については、現代的な感覚では、「カネで領土問題にカタがつけば、それでいいではないか」という感じもする。もちろん現在の日本国の予算が底抜け状態では、金銭感覚がマヒしているのかもしれないが、いつの時代、いずれの場所でも領土とカネを交換してカネの方がよかった、ということはないだろう。

そして、1969年11月19日にサインされた「密約」だが、原文と読売新聞訳をつけてみる。

TOP SECRET

AGREED MINUTE TO JOINT COMMUNIQUE OF UNITED STATES PRESIDENT NIXON AND JAPANESE PRIME MINISTER SATO ISSUED NOVENBER 21,1969

United States President:

As stated in our Joint Commu-nique, it is the intention of the United States Government to remove all the nuclear weapons from Okinawa by the time of actual reversion of the administrative rights to Japan and thereafter the Treaty of Mutual Cooperation and Security and its related arrangements will apply to Okinawa,as described in theJoint communique.However, in order to discharge effecttively the international obligations assummed by the United States for the defense of countries in the far East including Japan, in time of great emergency the United States Government will require the reentry of nuclear weapons and transit rights in Okinawa with prior consultation with the Government of Japan. The United States Government would anticipate a favorable response. The United States Government also requires the standby retention and activation in time of great emergency of existing nuclear storage locations in Okinawa: Kadena, Naha, Henoko and Nike Hercules units.

TOP SECRET

Japanese Prime Minister:

The Government of Japan, appreciating the United States Government’s requirements in time of great emergency stated above by the President will meet these requirements without delay when such prior consultation takes place.
The President and the Prime Minister agreed that this Minute, in duplicate, be kept each only in the offices of the President and the Prime Minister and br treated in the strictest confidence between only the President of the United States and the Prime Minister ofr Japan.

Washington, D.C., November 19, 1969

Richard Nixon

Eisaku Sato

TOP SECRET


 極秘

 1969年11月21日発表のニクソン米大統領と日本の佐藤首相による共同声明に関する合意議事録

 米国大統領

 我々の共同声明にあるように、沖縄の施政権が実際に日本に返還されるまでに、沖縄からすべての核兵器を撤去するのが米国政府の意図である。それ以降は、共同声明で述べているように、日米安全保障条約、および関連する諸取り決めが沖縄に適用される。
 しかし、日本を含む極東諸国の防衛のため米国が負う国際的責任を効果的に遂行するため重大な緊急事態に際して米国政府は日本政府との事前協議の上、沖縄に核兵器を再び持ち込み、通過させる権利が必要となるだろう。米国政府は好意的な回答を期待する。米国政府はまた、現存の核兵器貯蔵地である沖縄の嘉手納、那覇、辺野古、ナイキ・ハーキュリーズ基地をいつでも使用できるよう維持し、重大な緊急事態の際に活用することが必要となる。

 極秘

 日本国首相

 日本政府は、大統領が上で述べた重大な緊急事態に際し、米国政府が必要とすることを理解し、そのような事前協議が行われた場合、遅滞なくこれらの必要を満たすだろう。大統領と首相は、この議事録を2通作成し、大統領と首相官邸にのみ保管し、米大統領と日本国首相との間でのみ、最大の注意を払って極秘に取り扱うべきものとすることで合意した。

 1969年11月19日

 ワシントンDCにて

 リチャード・ニクソン
 (直筆署名)
 エイサク・サトウ
 (直筆署名)


satoサイン直前の写真では両首脳が笑顔で応じているが、佐藤栄作首相というのも内心はビクビクだったのだろう。事前の打ち合わせでは、密約へのサインはイニシァル(E.S.)だけの予定がニクソン大統領がフルネームを書いたので、全文字を書いたとされている。

文書には、日本を含む極東の危機の場合には、沖縄は再び核基地となる、と明記されている。ただし、日本には直接危機が及ばないと思われる事態、例えばベトナム戦争とかの場合はどうなるのか?

英語では、『for the defense of countries in the far East including Japan』となっていて、なんだかはっきりしない。

佐藤栄作首相は、「どうせ、そういう事態になれば断れないのだから、いいじゃないか」と思ってサインしたらしい。米国側は、69年段階では60年に結んだ核密約が生きていると判断しているように思える。

このあたりの経緯については、今月中にはっきりするのだろうが、いくつか思うことを並べると、

1.米国外交というのは、かなりの部分が「密約方式」に依っているのだろうか。となると、大統領があちこちで首脳会談を行っているのだが、かなり「密約を乱発」しているのではないだろうか。そうとなると、日本国だけで密約を暴いたりしてもいいのだろうか。

2.これらの密約の効力はどうなっているのだろう。まだ有効なのか。それは大変だ。密約を解除するには、それも密約で締結しなければならないのだろうか。そんな話は聞いたこともない。

3.一方、密約というのは、国会で批准したりしないのだから、両国の首脳が知っているだけで。一体、どのように有効さを担保するのだろう。

つまり、秘密の約束でも、守らないと痛い目に会うという相対関係において実質的効力を発揮するのだろう。60年当時は、「核密約」に同意しないと、沖縄は返さない。というギブアンドテーク関係が成立していた。

では1969年の密約では、守る対価は何だったのだろう。要は沖縄返還後もこの密約を守り続ける意味ということ。たぶん、有事の際の日本の防衛ということなのだろう。

いずれにしても、日米中三国のパワーバランスに変化が起きることは慎重な対応が必要となるだろう。ASEAN各国は、どちらかというと日米連合に近いポジションで頑張っていたのに、日本が米国から離れることで、中国にすり寄るしか道がなくなる可能性が高いわけだ。

そして、この密約問題を今取り上げることで、国民が密約アレルギーに慣れさせることを目的にしているのではないかと、まず思うわけだ。それは日ロ交渉の場で「新たな密約」を締結しようと思っているのではないかと、少し感じているのである。(北朝鮮と密約を結ぶのは、やめた方がいいだろう。理由は色々あるが省略。)


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2 コメント

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怪しい記憶 (ysJournal)
2010-01-05 04:10:30
今頃、密約、密約と騒いでいますが、日本政府が調べようが無いので、その当時、米軍が核を持ち込んでいるは、何か当たり前と考えられてませんでしたっけ?(子供でも分かる類いのもので、当時の政権もどこか、そんな事分かっているでしょうという、ニヤニヤした対応だった様な気がします.)
マスコミも当時西山記者を見殺しにしたくせに(自分たちの調査能力不足!?)今頃、民主党と一緒になって騒ぐのは、変です。
敗戦国日本が何とかアメリカと折り合いをつけようと、頑張った結果の様な気がします。
(自分で調べた事はありませんが)アメリカの公文書は最終的には公開されるので、密約と言うより外交上の当たり前の事としてやったのではにでしょうか?
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Unknown (おおた葉一郎)
2010-01-05 06:40:02
ysJournalさま
サンタクロースの存在みたいなものでしょうか。「こどもは知らないほうがいいよ」というような。

私は、今頃急に密約騒ぎになったというのは、別のこと。つまり日ロ間の領土問題で何らかの要求がロシアからきているのではないかと睨んでいます。
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