スリムビルの未来は?

2005-11-25 21:49:43 | 市民A
志村けんに似た男が釈明会見をしているのをテレビで見た。姉歯という一級建築士が、せっかく作った設計図を、一旦、強度計算で満足な数値を得たあと、設計改ざんして、鉄骨や鉄筋の本数を減らし、ノーチェックの民間建築確認士を利用し、21棟(内6棟は建設中)がすり抜けていたということ。どうも家族の病気とかあるらしいが、何ら言い訳にはならないだろう。姉歯の下の名前が「秀次」という歴史上不吉な名前であるのも気になる。

何となく商売をしている市川というエリアから、同窓生ではないかとの疑念があったのだが、さすが全国組織のNHKが出身情報を公開したらしい(放火犯をつきとめるのには時間がかかるくせに)。まったく違う筋だったので、遠慮なくマナイタに乗せることにする。

そして、まず思い出してほしいのは、今年7月23日に東京で起きた地震だ。一部の地域では震度5強を記録したにもかかわらず、非常待機要員だった都庁職員が近くの住宅から登庁しなかった件だ。実際には、ビルは何一つ倒壊しなかったが、実際こんな設計士がいることを考えれば、大問題となった可能性もある。世の中、予想もできない恐ろしいことをする人間がいるということだ。

一方、建築基準法違反で一級建築士の資格剥奪というように進んでいるが、建築士免状がなくなるのは当然として、果たして何か重罪に問えるのだろうかという問題がある。単に建築士法第18条(業務執行)の違反だけなのかもしれない。本人が吠えていたように、間違いや不正行為を見つけるのが確認検査機関の仕事で、見逃した方が悪い、というのも一理ある。

ef6cb38b.jpg次に、一介の建築士が、独自行動として改ざんを一手に引き受けていたのだろうか。あまりに杜撰な設計であり、図面を見れば一目で危ないということは、係わったすべての業者が気がついたはずなのだが、・・というところが、この事件の深さにつながるのだろう。単独犯罪なのか、共同謀議なのか。実際に建物が倒壊したわけではないので、「未必の故意」が適用になるには難しいかもしれない。

そして、単に建築基準法の観点からいうと、あくまでも「建築確認」の制度は、「建ててしまってから、違法建築だった場合、取り壊すのでは経済的損害が大きいから、事前に審査して、さらに中間検査を行い、完成してから再度完成検査をしましょう」という主旨なのである。許認可ではなく、あくまでも建築確認なので、民間機関でもできるようにしようということである。最終的には、都道府県などの長が違反建築物に対する措置を行うことができるとされている。つまり、単なる確認行為の検査機関のイーホームズがずさんであったとしても、せいぜい資格が取り消しになるだけなのかもしれない。


ところで、この事件の背景を考えていくと、いくつかの事実が見えてきた。まず、2003年後半から2004年にかけて、偽装が始まったのだが、この時期に鉄鋼価格(鋼材価格)が急騰している。調べているうちに、2004年4月15日付で、(社)全国建設業協会から、石原国交大臣あてに「鋼材価格の急騰対策について」という要望書が提出されていることがわかった。文書の中には2003年後半から2004年3月までの間に、H型鋼が52%、異型棒鋼が39%もアップしているので対策を建ててほしいという内容になっている。そして、奇妙なことに、この文書が出された2004年4月以降、価格はそのレベルでほぼ横ばいに推移している。

実は、この鉄鋼価格というのは曲者で、大口需要家の場合、ある数量までは大口価格(レギュラー価格)で買い、一部をスポット価格で買うのが一般的だ(もちろん、下請けと鋼材込みの条件で握ることがあるとも聞く。)。スポット価格の方が値動きが荒いわけだから、スポット比率の高い会社は、現在のような鋼材不足の時期は苦しい。

しかも、将来の鋼材価格をあらかじめヘッジするのは極めて困難であるにもかかわらず、受注価額は先決めしなければならない。現在のように高値でも安定している場合は、受注価格を決めるときに織り込めばいいのだろうが、2003年後半の急騰時には、どこかの段階でカブらざるを得ない状況だったのではないだろうか(もちろん鋼材価格下落時は丸儲けなのだが)。そして、その時の施主(あるいは建設会社)からの強い圧力に負けて、ちょっとだけ設計改ざんしたのが、癖になり(あるいは、つけこまれ)深みにはまったのではないだろうか。

次に、疑惑を感じたのは、この民間確認検査機関のこと。この制度は1999年から導入されたらしいが、それまでは、都道府県にいる建築確認主事という公務員が担当していたわけだ。実は、個人的に以前住んでいたマンションで、南側にマンションが建つことになって、反対運動に参加したことがあったのだが、途中で、建築中のマンションに設計ミスがあることがわかった。ところが、それをはっきり認めると、建築確認を出した役所の方が業者に訴えられることになるため、驚くことに規定以上に日照権を奪われる住宅に住んでいる第三セクターの社員に見えざる手が伸びてきたことがある。このように、うかうかと公務員が審査を行っていると、厄介に巻き込まれる危険があったわけだ。そして、もちろん今でも建築確認主事は公務員として存在するのだが、その仕事の性格上、公務員を退職後に民間の確認検査機関に再就職することが多いということらしいのだ。(が、イーホームズの方々の前職については今のところ、つかんでいない。)

ところで、今回の大部分の違反建築は取り壊すしかないのは、素人にも想像がつく。まさか、マンションの外側に倒壊防止用の支えを取り付けるわけにはいかない。そうなると、おカネの話になる。なにしろ高額でクルマのように大量生産品ではないので、直ぐに交換ということはできない。住民側から言えば、実は、ここでは二つの方法があるのだろうとは思える。一つは、瑕疵物件として契約破棄(というか契約が成立しなかった)という方法である。これは、あくまでも正しいのだが、問題は契約がなかったとして代金が返ってくるかということだ。シノケン社は解約に応じるというので、残念でも、それは解約して現金で受取るのが一番だろう。

しかし、ヒューザー社は、解約されても、代金は返せないと言っている。こうなると、売買契約は成立したものとして、「誰かに」損害賠償を請求するしかないのかもしれない。実際には、誰から補償をもらってもいいのだから、関係者を列記して請求するのだろうが、これがまた裁判所が心細い。あまり、購入者側に有利な判例はないらしい。しかも、ヒューザー、木村建設、姉歯と並べてもどこからも回収できそうにない。木村建設は、早々と破産整理を宣言し、これ以上の損害を被らないようにしてしまった。会社を残されて、只働きを続けさせられる危険を感じたのだろう。

何しろ、瑕疵の件は、民法635条に規定されていて、注文者が契約解除できることになっているのだが、但し書きがついていて「但し、建物その他土地の工作物ついてはこの限りにあらず。」と念入りに書かれている。要するに契約解除は認めずに、直して使え、ということだ。



先の話だが、もう一つ注目すべきは、解体後の鉄骨の行方だ。話題になっているのは耐震性の話ばかりだが、耐火性の問題もある。火事になると鉄骨が熱くなり、急激に強度が落ちていく。そのため鉄骨に厚さ15ミリ以上のモルタルでコーティングしなければならない。実はニューヨークのグラウンド・ゼロの廃鋼材は、もともと新日鉄製だったこともあり、中国と韓国の会社がたちどころに持っていってしまったそうだ。今回の建物の鋼材は、流れからいってあまり高級品とも思えないが、溶接ではなくボルト締めなので、そのままの形でも使えそうな気もする。どこに持っていくのかというのも見ておきたい。


ところで、震度6対応を1.0として、各建物の耐震検査を行った結果が公表された。その中で、最弱の0.28という数値のマンションが港区にある。シノケン社の「ステージ大門」。震度5で危ないとされる数字だ。そして、そこに行ってみると、ずいぶん細身のマンションだ。阪神淡路以降、ベランダが外に飛び出す設計は見ないのだが、ここはそうだ。1階が駐車場で9階建で8戸。つまり、一階に一戸という縦型展開だ。そして、まわりにはびっしり民家が立つ。崩れたら、間違いなく道連れになる。場所はJR浜松町から徒歩7分ほど、東京駅まで20分くらいだろうし、羽田までのモノレールは浜松町発だし、念のため書くと、夜行の高速バスの始発ターミナルもある(ここに住んでいる人には無縁だろうが)。

ef6cb38b.jpgそして、この建物から1ブロックで、あのスーパーDAIEI本社がある。こちらは、超巨大な床面積だ。肥満に悩む団塊世代の生活習慣病のようなもので、こちらも倒れかけている。横断歩道で信号待ちしていると、企画部らしい社員同士が新たな閉鎖店舗の相談をしていた。雪の多い大都市の名前を二つしゃべっていたが、ここには書かない。そして、このステージ大門とDAIEI本社を結ぶ直線をさらに延ばすと、こればかりは倒れては困るものがある。
それは「東京タワー」だ。倒れると、韓流ドラマが放送できなくなり、NHKの不払いはさらに増えてしまうはずだ。


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