カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

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賃金を高くするにはどうするか   日本の景気は賃金が決める

2013-08-02 | 読書
賃金を高くするにはどうするか
日本の景気は賃金が決める/吉本佳生著(講談社現代新書)

 働き方には多様性があるから、その働き方に賃金の差があるのは必ずしも悪い事とはいえない。しかしながら、その働き方に選択が無く格差が生まれているとしたら、それは確かに問題である。この本の題名通り、仕方なく派遣や契約などで働いている人の賃金をいかに上げるかということを考えると、日本の景気にもダイレクトに影響がありそうだということは分かった。またその方法も提示してある訳だ。
 しかしながら景気と賃金はどちらが先かという問題を素直に見ると、賃金があがるから景気があがるというより、景気があがるから賃金があがるという関係というのが従来の考え方であったはずだ。事実ももちろんそのように連動しているはずである。日本の高度成長というのは、そういう背景で日本人の賃金を押し上げて来たはずである。しかしながらご存知のように高度成長は止まってしまった。そうしてむしろマイナス成長に転じており、結果的に賃金低下という事態に陥っているように見える。これはやはり平均的な値を考えてそうなっている現実があるから、深刻ではあるがなかなか難しい事だ。
 労働人口が減り続けている中で経済成長をするには、一人当たりの生産性を上げる以外に無い。既にサービス業が中心となった国内労働事情にあって、労働生産性を上げる方法というのは、そんなに簡単なことなのではない。この本で書かれてあることではないが、日本の賃金格差の本当の姿というのは、高齢化が進んで賃金をもらう人が大幅に減ったことが第一の原因であるはずだ(これは確定した事実である)。少子化もあってさらに労働人口が減り続ける中で、さらにサービス産業という働き手の賃金を上げるという方法は、今話題になっている労働時間に影響を受けるという事実がそれを正確に表していると思われる。労働時間と賃金というのは比例するのが当たり前だから、サービス産業はブラック化しやすい宿命を持っている。
 処方箋として都市に益々労働人口を集中させるということがある。日本の高度成長を支えて来たのは、日本の豊富な労働力であった事は間違いが無い。農村から都市へ人口が移動したことで、日本の高度成長は支えられてきた訳だ。日本は多くの人口を抱えた大国だったからこそ、成長することができた。近年であっても三大都市圏へさらに人口流入は進み、地方であっても政令指定都市のような場所にどんどんと人口集中は進んで行くだろう。地方の時代という言い方は耳触りはいいのだが、事実上いかに効率よく都市部へ人口が集中できるのかというのが、日本の明暗を分けることになるだろう。処方箋の切り札はたぶんそれに尽きる訳だ。
 それにしてもこの本のデータで一番驚いたことは、諸外国の比較による日本の特殊性かもしれない。その中でも特に、長く勤めるからといって賃金格差が少ないという諸外国の在り方かもしれない。初任給から定年(という形は日本と同じではなさそうだが)までの人の賃金格差が低いというは、公平なようでありながら、もっと別の意味がありそうな気がする。今のところ想像でしかないが、解雇規制の在り方にもからくりがあるかもしれない。そういうことに簡単に手がつけられるのかどうは分からないが、労働の在り方というのは諸外国とは最初からかなり違うらしい。日本がおかしいというより、そういうことがもう少し明確にどのように違うのかという比較がなされなければ、働き方の良いあり方というのは、そう簡単に提示できないのであるまいか。
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