カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

読んだ本。お勧めから①

2023-12-31 | なんでもランキング

 まずは今年読んで啓蒙させられたものをいくつか。

Black box/伊藤詩織著(文春文庫)
 凄まじい戦いの記録。というか、密室の強姦って、ここまで立証が難しいことなのか……。

日本語からの哲学/平尾昌宏著(晶文社)
 僕はふだん「である体」で書いてるけど、無意識だったなあ。凄いです。

送別の餃子(ジャオズ)/井口淳子著(灯光舎)
 中国の農村ってここまでミステリなのである。貴重な体験記。

日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか/内山節著(講談社現代新書)
 バカされなくなったのは、僕らがバカだからかもしれない。

現代思想入門/千葉雅也著(講談社現代新書)
 これは、ぜひ読んで居酒屋で語ろう!



 素直に読んでいて楽しかった。そんな風に世界を見てなかったよ。

うちのカメ/石川良輔著(八坂書房)
 カメって実は謎多き生き物かもしれない。
 
いただきますの山/束元理恵著(そうさん出版)
 狩猟で生きる、女の子偏。楽しいけど、大変なのだ。

海のアトリエ/堀川真理子著(偕成社)
 絵本なんだけど、こんな体験したことなかった。

続きは、もう来年だな。皆さん、よいお年を!
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いわゆる思春期思考実験映画   スポンティニアス

2023-12-30 | 映画

スポンティニアス/ブライアン・ダッフィールド監督

 高校三年生の生徒が、何の前触れもなく爆発してしまう(要するに死ぬ)。もちろん大事件になるが、その後も爆発してしまう生徒が続出していく。その理由が分からないし、もしかしたら伝染病かもしれない。または、何かの呪いのようなものなのか。誰がいつそうなってしまうのか分からない恐怖に、当事者たちはおおいに戸惑い逃げ惑う(当たり前である)。そういう中でも高3なので、それなりに青春を謳歌し恋愛したりしている。受験のようなものもあるし、卒業後は離ればなれだ。多感な時期に最も過酷な状況に置かれていると言えるかもしれない。そうして恋人との関係は深まり……。
 妙な映画には違いない。ヒロインも一般的に言って特に魅力的な女の子ではない(いわゆる女優的な美女であるとか、アイドル的な可愛さとは別のものだ)。しかし今どきの皮肉の利いた女の子であって、おそらく反抗期だ。廻りの人間はこの子に対して、このような状況に巻き込まれていることに同情して、温かく見守っている。そうではあるが、当人は、周りに当たり散らし、傍若無人にふるまい人々を困惑させる。ネットではこの子が原因でこうなっているのではないかとまで書き込まれ、それなりに落ち込んではいるのだが……。
 文章に書くとショッキングな学園ホラーっぽいかもしれないが、人が死ぬのはショッキングだけれど、内容的には実は、かなり内省的な青春思想物語である。多感な時期に多感なことを刺激された多感な女性が何を考え、どう行動するのか、ということなのだろう。一種の思考実験のようなこともあって、アメリカ的にはありそうなことなのかもしれない。事件はあるが恋愛をして、お互いの愛を深めていく。そうしてそれは、無残にも破壊される訳だ。もう学校も親も関係なくなるのかもしれない。親友とも距離が出てしまう。皆、分かってはいるのだが、本当にわかってもらえている実感が無い。そこにあるのは、つまるところ自分だけの世界と、想いだけになってしまうのかもしれない。
 それなりに評価のある作品だったが、まあ、たいしたものではなさそうである。おもしろくなりそうな雰囲気はあるけれど、そうはならない。ちょっとアイディアを使って、考えすぎてしまったかな、という感じだ。大人もみんな弱い存在で、しかしこれは仕方ないのである。卒業しても頑張って下さい。
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今年観た映画 番外編

2023-12-29 | なんでもランキング
番外編

※惜しくも次点、なんだけど面白かったものを。

共謀家族/サム・クアー監督
 ほんとは被害者なんだけど、人を殺すと考えなきゃ。というトリック。

すばらしき世界/西川美和監督
 さすがのすばらしき世界は、僕らにとってはどうなんだろう?

少年の君/デレク・ツァン監督
 この世界観は僕は知らなかった。こういう恋愛もあるのかも。

声もなく/ホン・ウィジョン監督
 裏社会の話だが、生きていく厳しさがリアル。

こんにちは、わたしのお母さん/ジア・リン監督
 コメディファンタジーだけど、感動するかも。

ベイビー・ブローカー/是枝裕和監督
 是枝作品でも、韓国映画的になるのは、俳優がうまいからだろう。

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド/マリア・シュラーダー監督
 コメディとして面白いが、人間の偏見の根強さも考えさせられる。

13人の命/ロン・ハワード監督
 ニュースで知ってたけど、こんな話だったんだ!

ドリームプラン/レイナルド・マーカス・グリーン監督
 さすがアメリカンドリームって感じ。彼らのわがままって凄いです。


※戦争ものと伝記
ヒトラーに盗られたうさぎ/カロリーヌ・リンク監督
 戦争反対ってこれ見て思うよ、ほんとに。

トーベ/ザイダ・バリルート監督
 ムーミンの作者の伝記。芸術家としては落ちこぼれだったのかも。

クーリエ 最高機密の運び屋/ドミニク・クック監督
 友達って大切だよな、と思うかどうかは観た人次第。


 ※ 痛快アクション
ガンパウダー・ミルクシェイク/ナヴォット・パプシャド監督
 こういうハードボイルドは大好きです。

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス/ダニエル・クワン、ダニエル・シュナイナート監督
 なんだかよく分からんが、戦わなくては。

シン・仮面ライダー/庵野秀明監督
 なんだかよく分からんが、戦いに勝ってるのか?

トップガン マーヴェリック/ジョセフ・コシンスキー監督
 時代を越えてこれだけ価値観が変わらず生きて行けるって凄い。


※なんか変だけど、まあいいか
神が描くは曲線で/オリオル・パウロ監督
 サスペンスとして感心しました。彼らの理屈は面白い。

オール・ユー・ニード・イズ・キル/タグ・ライマン監督
 トム・クルーズなのでかっこつけかと思ったら、努力の人でした。

エルヴィス/バズ・ラーマン監督
 エルヴィスって搾取されてたんだ。ピンク・レディーだけじゃなかったんだ。

さかなのこ/沖田修一監督
 何故か、さかなクンを「のん」が演じて違和感なし。



※ふつうにホラーで変である
LAMB/ラム/ヴァルディミール・ヨハンソン監督
 ずっと変な感じが続いて、結局最後まで……。

エスター/ジャウム・コレット=セラ監督
 ホラーとして面白いです。ずるいけど。

X/タイ・ウェスト監督
 古くさい感じの映画。その古さがいいのだが。

ノープ/ジョーダン・ピール監督
 こんな感じの空想を子供のころにしてました。

マイ・ブロークン・マリコ/タナダユキ監督
 これ、若い男が演じたら平凡な話だったかも。

長江哀歌/ジャン・ジャンクー監督
 中国は広いのかもね。ちょっと分かりにくいところも。


※これは最悪、みないでね
MEMORIAメモリア/アピチャッポン・ウィーラセタクン監督
 絶対早送りしたくなると思います。忍耐が好きな人はどうぞ。

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実は観たことがあったが……   プリズナーズ

2023-12-28 | 映画

プリズナーズ/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

 途中途中でもかなり感心し、面白く観ておきながら、最終最後の場面で、ふと、なんだか見覚えがあると感じた。実際のところ知っている展開のあるところがあって、以前予告編でも見たことがあるんだろう、と思っていた。ブライアン・ウィルソンの役をやっていたポール・ダノも出ていて、こんな役もやってたんだな、などと思いながら観ていたわけで、まったく迂闊だったのだが、過去の僕のブログの記録を見返してみると、8年前に見ていた作品だった。楽しく見たんだからそれでいいじゃないか、とも思えるが、覚えていなかったことにも呆れるとともに、これを選択してしまった動機にも、同時にあきれ果てたのだ。それというのもU-NEXTの配信の終了が12月中で切れるものがいくつかあって、だいたいにおいてマイリストというのは追加順で作品が並んでいるのだけれど、たまにそのようにして、実はいますぐに観るべき順では無いのだが、作品がどんどんたまって来て(180くらいは溜まっている)、配信が無くなるものも気になって観るようになってしまっている。それと映画の尺もあるから、今日見るべきかどうかの選択に、そういう要素も加わって来る。この作品は150分以上あるので、分割して観るか、腰を据えて観るかということも考慮しなくてはならない。それで食事して風呂に入ったタイミングが少しいつもより早くて、この日は少し時間的に余裕があって、新し目で観る作品より、これでも観てみるか、と急遽気が変わったのである。間がさしたとしか言いようが無い。今はただでさえ忙しい12月で、今後の予定を考えると、夜に落ち着いて映画なんて見る余裕はそんなにないはずなのだ。それにもかかわらず観たことがある作品を観たことがあるということを忘れてまた観てしまうなんて。呆れてものも言えない。こうして書いてしまうことはできるが。
 作品としては、娘が誘拐された可能性が非常に高い状況で、その事実を知っていそうな極めて怪しい人物を、私的に監禁拷問して口を割らせようとする狂気にある。その人物は知的な障害があるのか、又は精神に何か異常がありそうで、考えていることをうまく口に出すことができない(これも後になぜそうなったのか分かる訳だが)。何か知ってそうなことを口にすることがあって、父親は娘の誘拐事件と関係があると確信している。しかしやっていることは明らかに行き過ぎているわけで、既に踏み外しているからこそ、あと戻りさえできない。事件に関連しているかもしれない変質的な人物は他にもいて、そうして別の事件が分かったりもする、終始暗い恐ろし気な予感を感じさせられる展開が続いて、物語はそれなりに意外な方向へ進んでいくのだった。
 比較的難解な作品を作るヴィルヌーヴ監督なのだが、今作品に限って言えば、それなりに分かりやすい映画と言えるだろう。分かりやすいとはいえ、複雑に考えさせられるものではあるのだが。そういう作品だからこそ、面白い訳で、さらにほぼ忘れていたからこそ、また楽しんだ。やはり事実を受け止めて、素直に感謝すべきなのかもしれない。どのみちこれからも映画は観ていくわけであるのだから……。
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(映画)今年観たベストテン

2023-12-27 | なんでもランキング
今年観たベストテン

 こうしてみると、なかなか傑作が多かった。皆面白い作品ばっかりで良かったです。
 

  • リコリス・ピザ/ポール・トーマス・アンダーソン監督
 恋愛の駆け引きは面白い。それが年下の男の子との間のことであっても。
  • サーフィルムにのって/松本壮史監督
 ほんとはこれがイチオシかも。とにかく楽しかった。
  • セールス・ガールの考現学/ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督
 すべてのモンゴル観を覆す衝撃。おそらくだけど。
  • 由宇子の天秤/春本雄二郎監督
 人間の正義感のもろさ。そしてマスコミや大衆の恐ろしさ。
  • ある画家の数奇な運命/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督
 なんというか、自分の得意なことと才能との関係に気づかされるかも。
  • あのこと/オードレイ・ディヴァン監督
 妊娠ってホラーだったんだ、という衝撃。
  • 秘密の森の、その向こう/セリーヌ・シアマ監督
 少女という神秘性を存分に。
  • 別れる決心/パク・チャヌク監督
 わけわかんないけど、ひどく面白い。
  • キングメーカー大統領を作った男/ピョン・ソンヒョン監督
 やれることは何でもやれってやれって選挙の凄まじさ。
  • ハケンアニメ!/吉野耕平監督
 アニメの世界はここまで激しいのか? そうかもしれない。

※ この時点でまだ見てなかったが、「ナポレオン」も良かったです。僕は悲しい男が好きなのかもしれません。


番外編は後日。
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おそらく固定観念が覆される   セールス・ガールの考現学

2023-12-26 | 映画

セールス・ガールの考現学/ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督

 女子大生の主人公は、そんなに仲良しでもない同じ大学の友人がケガをしたために、代理でポルノ・ショップでアルバイトをさせられることになる。客はまばらだが着実にモノは売れるようで、バイヤグラなどの薬なども扱っていて、商売は堅調のようである。閉店後はその店の女性オーナーのマンションの部屋に売上金を届けることになっていて、この女性オーナーと不思議な縁のようなものができるようになっていくのだったが……。
 モンゴル映画で、劇中に大草原が出てくる場面はあるものの、しかしほとんどは都市の空間でのエピソードが中心になっていて、さらにアダルトグッズばかり見せられるし、いちおう裸もある。映像や音楽の使い方も斬新で、なかなかにポップで素晴らしい。物語に深みもあり、友人や犬などのエピソードもなかなかに示唆的で、妙に感心させられる。主人公の女性は、最初はちょっとやぼったい感じに見えていたけれど、だんだんと魅力が増していくような印象を受けた。別段エッチな魅力なのでは無いが、不必要に裸にもなるし、素晴らしいのではないか。科白は多くは無いが、語るべきところではちゃんと語る訳で、そういうところに芯の強さも感じさせられる。おとなしいけれど、怒るところは怒って反抗する。女性への脱皮の物語かもしれないし、自由な生き方への成長物語なのかもしれない。妙な題材を使いながら、実に見事で面白い。モンゴル映画なのに意外だという声は事前に聞いていたのだが、確かにこれは、僕らが持っているモンゴルの印象を、ほぼ書き換えることになるだろう。モンゴルは、強い相撲取りを生み出す大地の国だけなのでは無いのかもしれない。そんなのあたりまえのことなのだが、僕らはそんな印象で、自分の殻に閉じこもっているだけのことなのである。
 モンゴルにも大学生はいるし、アダルトグッズを必要とする人々がたくさん住んでいる。ロシヤとの関係もあるし、金持ちもたくさんいるようだ。草原に住んでいる人ももちろんいるけれど、その人たちが必ずしも中心となっている国民ではない。だからこそこのような映画が作られて、そうしてこれを観る人々がいるはずなのである。それをまた観る僕のような外国人もいるわけだが……。こんなに楽しい映画が作られているのなら、もっと輸出して欲しいものである。
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行ってみたくなるというか、なんというか   近畿地方のある場所について

2023-12-25 | 読書

近畿地方のある場所について/背筋著(KADOKAWA)

 フィクションをあたかもドキュメンタリのような感じで記述する手法でつづられたホラー作品。モキュメンタリというらしい。面白いという紹介があって手に取ったが、確かに読んでいて妙な感慨があって、そのまま読んでしまった。子供のころや十代の後半、又は働き出してヤンキー系の友人と遊んだ時に聞いたような話が羅列してあって、こういうのって古いんだか新しいんだかよく分からないものがあるんだな、と思った。いや、新しめの工夫が随所にされていて、ビジュアル的にも恐ろしい話が多かった。確かにこんなことになったら困るだろうな、というのが出てきて、それなりにゾクゾク来る。読み終わっても仕掛けがある訳で、著者名も含めてなんだかよく分からない。構成上そういう事にも気を配って作られた本だということが、改めてよく分かる。ほんとに面白い作品である。
 実のところ、雑誌などでこういうものが書かれているといしても、まず読むことは無い。以前はテレビでも、こんなような話は取り上げられていて、それなりに騒ぎながら観ていたこともあるのかもしれないが、今はもう大人になったので、そんなことはしない。しないというか、したくもない。興味がないと言えばそうかもしれないし、そういう気分というのは、ある程度若い感じじゃないと共有できない面白さのような気もする。ところがこれを手に取って読んでみて、そんなに違和感が無いのである。今でもいけるんだ、という妙な感覚があって、それがまた妙な感慨にもなっていく。中ダレするようなところも無い訳では無いが、繋ぎの妙もあって、興味は復活する。やっぱり普通はそれは無いよな、とは思うものの、いや、やっぱりそういう事もあるかもしれない、というか、あってくれても面白い、と思うようになる。いわゆるハマり込んでしまう訳で、そうなると手が付けられないというか、いつの間にか最後まで読んでしまうのではないか。それは彼らの思うつぼなのであるが……。
 という訳で、こういう体験もあるのだな、ということに興味を持つ人があれば、迷わず買いである。おそらく、妙な気分になりながらも、ハマりこんでいくのではあるまいか。ちょっと責任は持てないというか、そういう逃げの気分もあるのだが、それは読んだ人にしか分からない感覚なのではなかろうか。お勧めしながら、やめときなさい、という気持ちが読後感に残るのであった。
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酷い事をされたが、愛は勝ったのかも   ある画家の数奇な運命

2023-12-24 | 映画

ある画家の数奇な運命/フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督

 この映画は、実在の画家であるゲルハルト・リヒターの半生を描いた伝記ものである。ただし、この画家は存命であるため、登場人物や背景などはずいぶんと創作で色付けされているらしい。戦中から物語は進むので、それなりにいろいろなエピソードがちりばめられていて、人が生きていく物語というのは、当然だがなかなかに複雑なのである。
 産婦人科の医師でありナチの高官だった父親を持つ娘と恋に落ち、恋人は妊娠するが、それを良しとしない父親から病気と偽わられ、堕胎させられる。しかしこの行為は逆に二人を強く結びつけ、結婚する。いろいろあるが社会主義国で絵を描くことに疑問を感じ、西側へ亡命する。そこでの芸術に対する考えに様々なインスピレーションを受けるのだが、行き詰まり、苦悩の末にある物事をきっかけに、後に著名になる絵画の描き方を見つけるに至るのだった。
 尺は長いのだが、義父との確執や妻との愛の繋がりや、過去に殺された叔母の事件との絡みが、物語のつながりになっていて、一貫性があって見飽きない。エピソードの描き方もそれなりに丁寧で、印象的である。もともと正確に文字や絵を描くことに長けていて、それが芸術の素地になっていることも後になってわかる。実在のリヒターの絵画は、絵としていったい何が何だか分からないものも多いので、そういうものがあってこそだというのは、面白い現象ではないだろうか。社会主義時代のドイツの空気もよく分かるし、西に移って影響を受けただろう教授のエピソードなども、芸術だけでなく、人としてどう生きるのかというヒントになるだろう。言語でなく、そういうものだということを理解させる映像の力を感じさせられた。
 この映画を観たせいでリヒター関連の本を、いくつかクリックして買ってしまった。そういう意味では散財させられる映画だったかもしれない。本が届くのが楽しみだけど……(※ 現在すでに手に取って楽しんでおります)。
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蒐集する人の楽しみと悲しみ   ビニール・ジャンキーズ

2023-12-23 | 読書

ビニール・ジャンキーズ/フレット・ミラノ著(河出書房新社)

 ずいぶん前に村上春樹のエッセイで紹介されていて、買っておいて途中で置いていたのだと思う。ふとまた手に取って読みだしたら面白くなって、改めて読んでしまった。副題が「レコード・コレクターという奇妙な人生」とある。著者自身が大変なコレクターのようだけど、この本で紹介されているコレクターはみな狂気めいている。文章が軽快で面白くて笑えるのだが、しかし内容自体が異常だ。ちょっと前の本だから、今ではずいぶん事情が違うのではないかとも思われるが、しかしたぶんいまだにジャンキーズはいるには違いなくて、ちょっと恐ろしい(が笑える)。
 村上春樹自身が大変なレコードコレクターであることは間違いなくて、おそらく世界的なコレクションを持っているに違いない。ただし彼は「レコードでも」であって、CDでも配信でも聞いているはずだろうと思う。コレクションにはこだわりあるだろうけど、そのすそ野も広いことだろう。
 問題は彼だけのものではなくて、世界一でも日本一でもなくて、その他大勢の人々なのである。特に熱心なコレクターでなくとも、レコードを買ったり集めたりしたことのある人は、たくさんいるだろう。その後のCDでもそうだろうし、音楽の分野によってもずいぶん違うだろう。よく分からないが音楽配信になっても、これを一種のコレクションとして、いわゆる集めている人は更にたくさんいるに違いない。数学的には無限ではないものの、音楽というのはどんどん生み出されていて、さらに積み上げられている。集めようと思ったらどんな方法でもよくて、集められる。そうして人は、集めてしまう生き物なのである。
 しかしながらビニールのジャンキーズである。当時は既にCDの時代になってからのものだと思われるが、それでもビニールにとりつかれている人はたくさんいた。好きな音楽のレコードを聴くのが最初だったはずだけど、そのミュージシャンの関連のものが気になって集めるのは普通のことで、しかしそれに別の盤があるらしいという事を知ってしまって、例えば英国盤と米国盤が違うなどということを知ってしまうと、両方欲しいということになる。日本盤がまた違うなどと聞くと、やはり集めたくなったりするのではないか。またそれをだれが所有していたということでも、価値が違う。ミュージシャン本人が持っていた作品が流失したと聞くと、落ち着いていられなくなる人もいるのではないか。
 まあ、そういう類の話が、実にごまんと紹介してある。文章が気が利いていて、なかなかに考えさせられるところもあって、この変な人々に対して、愛を感じさせられる。それはコレクター同士の悲哀のようなものへの、理解の深さなのだろう。僕はコレクターでは無いが、同情も込めて、やはりこれらの人々に哀悼の意を捧げるものである(死んでないだろうけど)。
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悲しい愛の男   ナポレオン

2023-12-22 | 映画

ナポレオン/リドリー・スコット監督

 ナポレオンのことを知らない人はほとんどいないと思うが、改めてこのような映画でナポレオンを見ると、もちろん映画的な解釈や事実の改竄はあると思うものの、それなりに意外な姿なのだった。
 フランス革命で貴族たちが次々にギロチンにかけられ、暴行を受けたりして市民から殺されていく中、様々な理由で捉われた囚人たちも、何万と解放される。ナポレオンはそういう中で、軍を率いての戦術の立て方が見事なのが見込まれて、イタリア出身の若手でありながら抜擢され、権力を掌握していく。そうして戦に次ぐいくさに勝ち抜き、ついには皇帝の頂点に上り詰めるのは、歴史通りである。
 そのような争いと並行して、ナポレオンの生涯にわたる恋愛の相手であるジョセフィーヌとの関係が、細かく描かれている。実際ナポレオンはジョセフィーヌにぞっこんだったようで、映画でもセックスばかりしている。もっとも権力を掌握する中で、後継ぎの男児を熱望していたということもあるようだが、浮気癖もあるジョセフィーヌを何とか自分のものにしようとして、かえってそのために彼女の支配に置かれてもいる関係、という感じかもしれない。演じている女優さんもツンツンしていて、それでいて包容力があって、確かになかなか抗えない男としてのナポレオンが面白い。子供ができないために、母親から愛人を介して別の若い女と関係をむすばざるをえなかったり、それなりに大変である。別段戦争が好きだったという訳ではなかろうが、負けず嫌いだったり権力欲があったり、さらにカリスマ性もある訳で、なかなかに無茶な男であり、かわいらしい人でもあったようだ。もちろん映画的な造形ではあろうが。
 珍しく映画館で観たというのもあるのか、戦闘場面は大迫力だし、なるほどナポレオン的な戦術がいかに優れていたのかも垣間見られる。もっとも負けて戦死者をたくさん出したものは、やっぱり見栄を張って無理をしたりしているわけで、そういうところはナポレオンが素晴らしかったからというよりも、単に時の運や相手の都合でそうなったとも考えられる。要するに当時の戦力の勢力の違いのようなものが、単に運命を左右させただけのことなのかもしれない。フランスの貴族による(ヨーロッパ全土にわたるものかもしれないが)恐怖政治への反発の時代背景があったとしても、むしろナポレオンは強力な専制政治を築き上げたとも言えて、その背景が軍事力だったということを歴史は語っているのかもしれない。そうして多くの人命がさらに犠牲になって、その反省をもとに次の時代へと変遷をとげていったものなのだろう。
 映画としては悲しい男の愛の物語といったところで、なかなかに面白かった。まあ昔の人は馬鹿かもしれない、というのはちょっとあったけれど、そういうバカさ加減が無いと、命を張った生涯なんか送れないということなのだろう。
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少し楽しみが減り、しかしホッともする

2023-12-21 | 音楽

 渋谷さんが病気療養してしまって番組はどうなってしまうのだろうかと心配していたが、療養は一応長期になるということなのか、代打として伊藤政則さんが番組を仕切るようになっている。最初は思いっきり、なんというか、リクエストなんかも、ずいぶん昔だったら渋谷さんもかけたかもしれないストレートなものが多くて、のけぞってしまった。ツェペリンはもちろんかかるし、ニール・ヤングにスプリングスティーンである。翌週はピンク・フロイドもきた。確かにそうなのだろうが、あえてそういうリクエストでは、あんまり直球じゃないものをかける傾向のある人だったように思うし、かえって代弁者としては良かったのではなかろうか。少なくとも、聞いている僕らには、届いた。しかしまあ、年末特集というのは、やはり無い事なんだろうな。残念である(※ところがその後、大貫憲章と伊藤正則二人でやることに決定した)。
 中村さんの報告にもあったが、グラミーのノミネートは、ほとんど女性陣が独占しているという。まあ、そうだろうな、という年ではあった。ずっとテイラー・スイフトが何枚ものアルバムをヒットチャートに乗せたままでいたことと、アメリカ経済を引っ張ってもいるとさえ言われる巨大なツアーを組んで、ものすごいお金が飛び交ったという。とにかくスケールがでかすぎるわけで何が何だか分からない。ずいぶん昔からいる人のように思うけれど、最初はまじめで清楚な感じすらしたけれど、今はもうマドンナよりも女性を象徴する存在かもしれない。すでにカントリーはやってないようだし。マイリー・サイラスは街中でもなんとなく聞こえていたし、シザはやっぱり聞きやすいし、印象に残る。そうして今は何でもロザリアになってしまった。まだ若い子だけど、なんとなく成熟したような曲を書く。そうしていい意味で予測ができない。でもまあ僕としてはボーイジーニアスが、一番ロックっぽいところあるように感じて好感がもてる。僕ら男に対して歌っているわけでは無いのだろうけど。
 でもまあ特に総括したいわけでもないし、グラミーに興味もない訳だが、こういうものに賞がつくというのは、やはり何らかの思惑でもあるのだろうか。売れている人にさらに何かやらなくたっていいようにも思う訳で、例えばボブ・ディランがノーベル文学賞を取ったりすると、かなりシラケる。そういうのとらなくたって彼は素晴らしいので、上からやるようなことをすることは無いのである。グラミーがどうなのかは、やはり分からないが、でもまあ授賞式にいたっては、皆嬉しそうにして感謝しているようである。泣いている人もいるかもしれない。そういうのをみていると、やっぱり茶番めいてもいる。そうか、感謝する場を与えるという意味では、売れた人に言ってもらいたいのかもしれない。
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自分限定で閉じこもるとどうなる?   みなさん、さようなら

2023-12-20 | 映画

みなさん、さようなら/中村義洋監督

 ある事件をきっかけに、これまで育ってきた団地内だけで生きていく決心をして実行していく少年(のちに大人になるが)の物語。性遍歴もあるので一種の「ヰタセクスアリス」といえる。外に出ないので、限られた女性との付き合いになるのだが、中学生から引きこもるので、それより前からの知り合い限定である。そうしてその女性役が、波瑠に倉科カナなのである。いわゆる清純派のような感じのする女優さんが、若いころにこういう演技をしてたんだな、と感慨深い。それだけでも見るべき貴重な映像なのではないだろうか(エロとしてなのだが)。
 設定には多少無理があるかな、とは観ながら思うのだが、ちゃんと理由があって、一種の病気というかトラウマなのである。そんな人がぜんぜん居ないともいえないし、実際にいるかもしれないとは思う。治療すべきだが、病院は団地の外なのだろうから、やはりだめなのだろう。しかしながら団地内なら生活できるので、学校は断念して引きこもりのまま義務教育も終えて、そこに住んでいる。同級生もしばらくはたくさん住んでいるのだが、年を経るごとに徐々に減っていく。同級生どころか、そもそももの住人は高齢化していき、代わりに外国人などが住むようになり、外国人だけでなく怪しい人も増えて、いわば治安も悪くなる。そういう社会性のあるドラマ展開をするが、主人公はそれに対応できる日々の鍛錬もしている、という仕掛けもある訳だ。そういうところは、このキャストが最大限活きていることと言えるかもしれない。ある種のカタルシスもある訳で……。
 妙な映画だとは思うが、その妙なところが味にもなっていて、不思議と印象には残る感じはする。繰り返しになるが、波瑠が演じるような同級生のお隣さんという存在が青春時代にいるだけで、その人生は大きく変わるのではあるまいか。まあ、幻想なんだろうけれど、優等生で女性で生きていく厳しさというものも体現している訳で、なんとなくそんなものかもしれないと思わせられたのである。世の中は、やはり女性に厳しいものがあるのだろう。
 さてしかし、全体的に成功しているのかは、やはりよく分からない。ダークな日本社会で生きていく困難という比喩はありそうで、さらに個人的には一種の繭の中で生きることも試してみるが、それはやはり保護している存在なしには無理なのであろう。そういう脱皮に至るまでは描かれているので、その後は皆さん頑張っていきましょう。
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支配される教室

2023-12-19 | ドキュメンタリ

 「支配される教室」という番組を見た。内海崎貴子先生という方が、体験型の特別授業を行う様子が映されている。生徒たちにじゃんけんをさせて、負けた方にリボンをつけさせる。生徒役の人たちは、小学生になったつもりになってもらって、先生の授業を受けている設定である。付けた人と付けてない人には違いがあって、徹底的にその属性の通りの答えを、先生は求める。生徒役になって参加している人々は、その先生の要求通りに、自分の考えとは違った考えであったとしても、回答としての正しいものを答えるようになっていく。
 なかなかに恐ろしい特別授業なのだが、実はこれ、男女の属性と思われるものになぞって教育がなされてきたということを、暗にというか、逆に露骨に示しているものらしい。生徒役が若ければ、むしろ先生の考えを忖度し、すぐに順応していた。大人になった人たちは、笑いだして、ふざけたように考えを曲げるようになる。恐ろしさに耐えられなくなって、笑いでごまかしているのだろうと、先生は言っていた。なるほど、そういう人間心理に陥るという事か。
 もちろん授業が終わった後に、皆でディスカッションして、このような状況をどう思うのか、討議する。そのことがより重要なようで、若い人たちは既に反発心の方が強く、拒絶的な感想を多くの人が持っていた。当然と言えば当然だろう。そういうものがある中であっても、今はそれなりに属性に縛られない状況になっているのだろう。一方大人たちは、これまでの自分たちの体験になぞらえて、いわば反省なり、喪失感を味わっていたのではないか。実際に女性として機会を奪われてきたことを、振り返る人もいた。それも男性たちの善意によるものだったという、二重の偏見にさらされていたのだ。そもそもそれは、女性には無理だという配慮であって、一方的な考えの押し付けではあっても、逆らえない社会の圧力があったのである。
 そのような時間は、もはや取り戻せない。しかしそのような考えの再生産が、現代に全く残っていないとは、やはり言い切れない。形は少しずつ変わってはいるのかもしれないが、やはりいまだに多くの制服では女の子はスカートをはいているのだろうし、子供であれば、ランドセルは赤や黒が多数だろう。トイレの色は、ほぼ赤は女性だろう。男女にくっ付いている属性のすべては取り払うのは不可能そうだし、それがすべて悪いという事でもない。しかしそれらしさを求められることは、やはり差別を含んでいるのだ。たとえそれが心地よい事であったとしても。
 恐ろしい先生を演じていた内海崎先生は、その先生像を自分の体験から作り出したと言っていた。実は僕も、このモンスター先生に授業を受けた経験があると感じていた。いや、ほとんど同じと言っていいほど、たくさんの先生が内海崎先生の演じている教師と同じだった。僕らの中に差別的な感情があるとすれば、それは日本の教育が、いわば洗脳してきた時間だったのかもしれない。それこそが恐ろしい訳で、彼らや彼女らは、この番組の題名通り、支配する手段としてこれを利用していたのかもしれない。そうであれば、おそらくいまだに再生産されているものは、残っている疑いが強い。授業を効率よく進めるには、それは手段として最強である。そうしてこの授業は、それを打破するささやかな取り組みであったり、抵抗であったりするのかもしれない。これは皆で受けることを必修化すべきではないだろうか。
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病はどこで発症するかだ   死刑にいたる病

2023-12-18 | 映画

死刑にいたる病/白石和彌監督

 24人もの若者を拷問にかけた後に殺したとされる犯人から、手紙が来る。この手紙を受け取った青年は、もともと犯人が捕まる前にやっていた、パン及びカフェ店の常連だった過去がある。それで刑務所に面会に行くことになり、徐々にパン屋の犯人の話にのめり込んでいくことなる。殺された人の中に、犯行を否認している被害者がいて、その謎を追うことになっていく。それ以外の被害者に共通するのは、パン屋に通っていた高校生で、皆頭がよくいい子ばかりなのだ。しかし殺人鬼パン屋は、その慕ってきた子供たちを精神的にも肉体的にもズタズタにして、その心を裏切る快感のために殺してきた、ということのようだ(妙な快感だが、シリアル・キラーというものは、そういう存在なのかもしれない)。ただ、最後には魔が差したのか、捕まえた獲物に逃げられて事件は発覚する。ただ、それらの一連の事件は、手紙を出した青年とも何らかの関連をにおわせるものに変化していくのだった。
 既に連続殺人犯としては逮捕され、死刑判決も出ている。しかし手紙を出した青年とのつながりと、過去の事件に関連する人々との間にも、まだまだ謎が数多く残されており、この連続殺人犯とは別に殺人事件が起こったのではないか、という疑問がわいてくるのだった。このような特異な事件が同時期に別の形で起こるはずはないとされ、一緒くたにされてしまったかのように扱われているのがおかしいと、殺人鬼は語る。そうして青年にも家族間に問題を抱えていて、母親は過去に殺人鬼と知り合いだったことも明らかになるのだったが……。
 猟奇殺人なので、気持ちの悪い場面もあって、なかなかに観ていてつらいものもあるのだが、この犯人の異常性とその影響力の大きさに、一連の事件だけではわかり得ない謎が連続していることが明らかにされていく。そこにこの物語の仕掛けそのものが眠ってもいて、結末には、観ている人間そのものを巻き込んでしまう出来事も用意してある。手が込んでいるわけだが、さて、そのように感じる人たちがどれくらいいるものだろうか。
 まあ、正直に言うと、すべてパン屋と関連のある人々が殺されていくので、こういうのはいずれ発覚するものだとは思う。また、原作にはあるだろうけれど、犯人の異常性には、それなりに原因があるはずで、しかし映画ではそこのあたりの説明はされない。あえて語らないことで、そこのあたりの精神的な恐怖をあおっているのかもしれない。しかし、僕のような人間にとっては、そういう部分こそリアリティを担保するようにも感じられるので、欲しい部分だったかもしれない。
 おそらく誰もが持っているかもしれない異常性に目覚める人がいると、新たな事件も起こる可能性がある。それが死刑に至る病という題名にも通じているのであろう。
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必要とされる女性たち

2023-12-17 | 境界線

 ちょっと前の会議で、構成のメンバーの選出について、やはり女性メンバーを複数人入れようということになった。ご時世ということもあるし、その前にそんなことは当たり前ではある。しかしそもそもその協議会の会員に、女性メンバーが少ないのである。委員や役員の構成に女性が少ないのは、ある意味ではそういう事と比例している。是正すべきはそういう根本的なところにあるはずだが、これはやはり簡単ではない。代表で出てこられる方々にそもそも女性が少ないのは、おそらくなのだが、今後もそれなりの時間をかけないと変わっていかない事のように思える。それでいいという意味ではないが、社会的な啓蒙活動が必要そうだ。
 それでそれぞれ知っていそうな方に打診のお電話をしたのだが、これがなかなかに難航した。いろいろ事情があるそうで、引き受けてくれないのである。ウーム仕方ないな、ということで、複数の人でお願いに行って、なんとか一人口説き落とした。それで良かったな、と胸をなでおろしたのだが、その方が言ったことが少し引っかかった。「女性が必要だと言われて役職をもらった時から、どんどん役職が増えすぎて、もうほとんど身動きできない。もう女性が必要だという考えを、みんなには捨てて欲しい」というようなことを言われたのだ。なるほど、その方は確かにしっかりしていらっしゃることもあって、さまざまなところで活躍されているのだろう。しかし女性枠がさらに彼女を苦しめているのかもしれない。
 さらに別の会議の折、ご年配の会長さんが、全体に質問を求めた。一人くらいは質問があったようだが、その後皆がしーんとなった。もう質問が無いのなら終わりかな、と思ったら、出席しておられるご婦人に「女性としてのご意見をぜひお聞きしたい。我々の会には女性らしい優しい視点が欠けている。そういうことをぜひ知りたい」とおっしゃった。そうしたらそのご婦人が「このような会議が必要なのは分かるが、私たち女性は忙しいのだからもっと遅い時間に開いて欲しい(この会議は地域のもので、夜7時から開会していた)」というようなことをおっしゃった。うーん、本音ではあろうが、そういう背景を変えないことにはどうにもならんな、と思った。さらにだが、会長が言われる女性らしい内容の発言を女性に求める時点で、ダメなのではなかろうか。この世の中はそう簡単に変わるものでは無いのだな、と思うとともに、やはり世代交代自体が必要なのかもしれない。まあ、しかしこのような集まりは、ご年配の人の活躍の場としてあるような気もするので、僕らを呼ばないでやって欲しいのがもっと切実な希望でもある。しかしそうすると、世代交代はままならない。僕らの世代がもう少し先ながら次であるのかもしれないのなら、わざわざせかすことになるかもしれない。そういう矛盾を自分の中に抱え、もうどうにもなるものではないと、暗澹たる気分になるのだった。
コメント (2)
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