前日の会議はかなり眠いのを我慢した以外はするすると意見もなく滞りなく終わって、懇親会もあったから、懇親で酒を飲んだ。沖縄ではなんで「すば」というのかという話題になって、沖縄はさしすせその「せそ」という発音が無くて、「そ」の音は「す」に転じるのだと説明を受けた。なんだかわかったようなわからないような気もしたが、そうなのか、とその時は納得したふりをした。しかしながらソーキそばなどの沖縄そばというものはやはり不思議で、ラーメンでもちゃんぽんでも蕎麦でもない。だからと言ってまったく外国の麺類という感じはしない。日本的であるというものとも少し違うが、食べていると懐かしいような気分がある。沖縄との距離感を、ちょうど表している食べ物かもしれない。
さて二次会にも連れて行ってもらって沖縄民謡などを聞いて島ラッキョウなどを食べていたのだが、現地の人でもめったにこんなところには来ないという。ふだんの生活でメンソーレなどとあいさつすることもない。現地の人も観光地は、やはり観光のようなものなのだ。そんな話でも結構盛り上がって楽しかったのだが、さてしかし僕は風邪気味だったことを改めて酔いながら思い出し、コンビニで日本酒を買って帰った。
翌日は帰るだけなのだが、それは午後の便で、事務局がせめてもの配慮らしく時間が余った。しかし翌日は、当初は用事があって帰らなければならないはずだった。そうだったのだが出発間際に雪でいろいろと予定が変わってしまって、予定は中止になったらしい。こういうのは喜んでいいのかどうか、やはりよく分からない。わからないが歩く時間はあって、朝食後もチェックアウト後も、ずっとぶらぶらしていた。さすがに足が痛くなって歩くのをやめたいのだが、やめたからと言ってやることは無い。文庫本は持っていたが、飛行機や鉄道の中で読むために持ってきたわけで、動けるのに読むのはどうかとも思う。おみやげは買ってくるなと家人に言われていて、店をひやかしてもやることが無い。外はだんだんと小雨が降ってきて、そして風も出てきた。本屋に入ったりもしてみたが、想像以上に大きな書店で普通なら楽しいのだが、出張中なら並びを眺めて覚えても仕方がない。本屋で買い物をするのは、そのようにして通ってみて、何か目新しいことが起こるような感覚で買うべきなのである。それは勝手な思い込みかもしれないが……。
そうやって傘をさしたり閉じたりして、さすがに疲れ果ててしまってモノレールに乗ってしまった。空港に着いて改めて気づいたが、昼時の込み具合は大変である。人々があちこちに並んでいるのである。一人で並んで食べることくらいつまらない気分は無いので、タイミングを見ていたが、しかし昨夜話していたソーキそばくらいは食うべきかと、あきらめて店先で名前を書いたら、それなりに回転が良くて10分くらいで食にあり付けた。こういうのはやはり現地で食べてみるべきものであって、最後の思い出に良かった。昨夜の三枚肉も旨かったのだが、やはり沖縄は豚肉の文化なんだよな、と思いながらそば、いやすばをすすった。軟骨までコリコリ言わせながら齧ってしまった。
しかしながら飛行機の方は一時間以上遅延して、待ちくたびれて眠くなって、持ってきた本の文字をうまく追えないのだった。順に特急と新幹線の時間もずれ込んで、予定より帰りは遅くなった。特急列車の隣に座った若い女性は終始鼻をずるずる言わせていて、暗くなった車窓の外は吹雪いていた。沖縄から比べると二十度以上気温が下がっていて、一気にブルブルする世界に迷い込んでしまった気がした。明日の予定が中止になったのが、せめてもの救いかもしれないと思ったことだった。