馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子馬の尺骨骨折 発症当日にDCP固定

2024-06-03 | 整形外科

夜間放牧明けの子馬が左前肢のひどい跛行で、どこが痛いかわからないので診て欲しい、との連絡。

午前中の手術が終わった隙間時間に診たら、肘の下が腫れて、触ると痛い。

X線撮影したら、骨折線は開いている。

跛行もひどいので、「手術した方が良いです」

午後の手術予定を2件延期してもらって、器具の滅菌が終わったら手術することにする。

尺骨骨折を発症当日に手術するのは珍しい・・・

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上のX画像で2本の骨折線が見えているが、これは外側皮質と内側皮質の骨折線がそれぞれ見えているから。

きれいに真横に折れているのではないことは、内固定手術をする上でも注意が必要。

私は尺骨骨折プレート固定手術も仰臥位でやるのを好む。

これは教科書には反している。

尺骨頭側は成長板がプレート近位端を置く場所になる。

骨折線より近位にスクリュー2本しか効かせられる長さがないことは、この骨折の問題。

だから最近位のスクリューは成長板ギリギリにキメた。

6.5mmを使おうかと考えていたが、高いネジ山が成長板を傷つけそうなので4.5mm皮質骨スクリューにした。

compression が働くように遠位から2番目のスクリュー孔にドリリング。

ところがcompression を働かせると、尺骨が「へ」字に曲るのを指で感じる。

それで、

先に近位側2番目のスクリューを入れて、

遠位側から4番目のスクリューをニュートラルポジション(compression をかけない)で入れてから、

最近位のスクリューと遠位から2番目のスクリューを締めた。

それぞれ1mm DCPを押すので、2mm骨折線を圧迫したことになる。

遠位側の骨折線は見えなくなった。

残りのスクリューを入れてプレート固定は完成。

7ヶ月未満の子馬では、橈骨と尺骨の別々の成長を妨げないように、スクリューは橈骨には届かさない方が良い。

近位側から3番目のスクリューを最後に入れた。

わざと斜めに入れてある。骨折面を貫いていたら固定の強度を増してくれる。lag screwにはしなかった。

間違っても肘関節へ出ていないことは十分な注意が必要。

尺骨骨折をプレート固定したら、手術の終わりに肘関節を動かしてみて、違和感がないことを確認した方が良い。

スクリューが尺骨の内外へはみ出していないことを確認するための頭-尾方向撮影も大事。

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LCP/LHSを使う方法もある。

その方が強度を作り出せる

固定強度が必要な成馬ならLCPを選択すべきかもしれない。

しかし、LHSはLCPに垂直にしか入らないので、本症例を含めて子馬の尺骨骨折では、

DCP固定の方がスクリューを入れる方向に自由度があり、スクリューが尺骨からはみ出す失敗もしにくい

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compression もかかって骨折線も圧迫固定できたし、発症当日に手術できたので、骨癒合は早いはず。

お母さん馬はとても気性が激しい(たぶん子馬を蹴った)ので馬房へ閉じ込めるとイラつくだろう。

6週間ほどでプレート・スクリューは抜きたい。

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朝の散歩コースにクマが出たらしい。

温泉の駐車場で見かけられた、のだとか。

看板が立てられ、林の際に柵が置かれ、

発電機が焚かれ、照明具が設置されていた。

ヒグマの姿が見かけられたと言っても、人や牛を襲ったとか、ゴミをあさってしまったとかではない。

温泉の朝風呂もいつもどおり営業している。

このくらいが正しい対応なのだろう。

私もいつもどおり散歩。

ポケットにクマ除けスプレーを持っていったけど;笑

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



2 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2024-06-03 06:33:10
 ぎりぎりエッジを攻めた固定ですね!
>7ヶ月未満の子馬では、橈骨と尺骨の別々の成長を妨げない
 ギリギリすぎて、骨形成されてくっついちゃうということにはならないものでしょか?
 もう神の領域ですね。

 熊ねー。過敏ともいえる反応にちょっと辟易します。普段の熊はエッジを見極めて人を避けているのに、わざわざ刺激してないか?と思うのです。
 出っくわしちゃって熊スプレーの出番とならないことを願います。
 似た景色の動物園の駐車場のクマ出没看板を母親に読んでもらったお嬢ちゃまが「熊見てから帰る~」となって、お疲れ気味の母親が「熊ならうちにも来るでしょう~」からの「そうだね」って会話を後ろで聞いてにやけが止まらなかったこと、思い出してまたにやける朝。
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>はとぽっけさん (hig)
2024-06-04 08:34:26
発症当日に内固定すると、骨折線の寄りはいいもんだな、と再確認しました。
橈骨と尺骨は、スクリュー孔付近の骨増生で骨癒合する可能性もあります。

人里へ降りて来るのは子連れの若い個体が多いようです。人身事故もけっこう起きていますから警戒方法も難しいですね。人任せ、役場、警察をあてにしないで自分の身を守る意識がたいせつかと。
「熊ならうちにも来る」??
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