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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

輸液とは?

2008-10-31 | 馬内科学

輸液にまつわる雑談

 そもそも輸液とはなにか?

よく牧場の人が誤解しているのは、輸液が栄養になると思われていることだ。

輸液によく使われるリンゲル、生理食塩水などの電解質液にはカロリーはまったくない。

5%ブドウ糖液はブドウ糖を含んでいるので、カロリーはある。

1?の中に50gのブドウ糖が入っている。つまり200kcal。

5%ブドウ糖を10?輸液することはそうそうないと思うが、10?でやっと2000kcalだ。

成馬は1日に数万キロカロリーを必要とするので・・・・・5%ブドウ糖を使う普通の輸液では、カロリー補給としての効果はほとんど期待できない。

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では輸液とは何をしているのか?

  人や動物の体は6割がた水でできている。

細胞の中に40%、細胞の間や血液として20%。

病気になったり、体調が悪いとこの水の量が減ったり、電解質の濃度がおかしくなる。

その時、治療のためにとりあえずできるのは血管内に水分や電解質を入れてやること。

つまり、輸液とは細胞外液を補給したり補正することだ。

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Pa310184 腕節の剥離骨折で来院した競走馬。

過長蹄尖・弱踵蹄 long toe under-run heel になっているので、

関節鏡手術したあと削蹄してやろうと思ったが、

麻薬取締官の立ち入り検査があり、削蹄している暇がなくなった。

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 予告。

来週、7日午後、北里大学で生産地の馬の臨床についてしゃべります。

馬の臨床に興味がある人、来て講義を盛り上げて下さい(笑)。


輸液と補液

2008-10-30 | 馬内科学

輸液にまつわる雑談

 馬医者がする内科治療にもいろいろあるのだが、よく行われて効果があるのは、輸液と抗生剤投与だろう。

輸液は多くの場合、原因療法ではなく対症療法なのだが、その効果はご存知のとおり。

獣医師だけでなく、牧場にも効果は知られていて、「点滴しなくていいですか?」と聞かれることもある。

しかし、獣医療では「輸液」ではなく「補液」と呼ばれることが多い。

輸液と補液はどう違うのか?

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輸液は英語で infusion.だが、 輸血は英語で transfusion. たぶん、輸血に引き続いて創られた翻訳語なのだろう。

某獣医科大学の教授が、獣医療では人医療で行われているほど、完全に失われた水と電解質を補給してやることが現実的ではない。必要最小限を補給してやるだけにとどまることが多い。だから、「輸液」ではなく「補液」と呼んではどうか。と「補液」という用語を提案されたと何かで読んだことがある。

しかし、人医療でも「補液」と呼ばれることもあるようだ。

ただ、正式な用語は「輸液」のようだし、今や獣医療の器具や薬剤も進歩して、必要なだけ治療することもできる。

「補液」という用語には、「輸液」と呼ぶには充分ではない、「いくらかでも補っておきましょうか」という逃げを感じてしまうのは私だけだろうか。

とりあえず、輸液と呼ぶことにして、輸液にまつわる雑談を始めたい。

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今日は、慢性鼻炎の馬の検査。

手術の用意もしていたが、副鼻腔蓄膿にはなっていないようだった。

競走馬の腕節の剥離骨折の診断。

右前の剥離骨折なのだが、速歩では左前の跛行。

左前は蹄叉腐爛だった。

午後は1歳馬の離断性骨軟骨症の関節鏡手術。

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Pa290180 玄関のドアにとまったバッタ。

もう逃げる元気もないようだ。


耳瘻管摘出

2008-10-28 | その他外科

Pa230163_2  耳の根元近く、前側の耳介縁に穴が開いていて、そこから分泌物が出てくる。

この病気を知らない人は、抗生物質軟膏を注入してみたり、ひどいときは穴のあたりを切除して縫ったりするが、やがて再発する。

分泌物はきれいではないが、化膿しているわけではない。

分泌腺が内部にあるので、それを摘出してしまわないと治まらない。

こんな部位にあるが、歯に関係していると考えられている。

x線検査すると、側頭骨のそばに実際にできそこねた歯がある症例もある。

分泌物が出てくる瘻管はその歯の方へ続いているので、少なくとも袋状の管は盲端になっているところまで摘出しなければならない。

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Pa230166この馬の瘻管は、今まで診たなかでも太かった。

入り口も乳頭状に膨らんで、突出している。

しかし、管は深くまでは続いておらず、途中で塞がっていた。

その奥も索状物になって続いていた。

そして、その奥は・・・・側頭骨から固く尖ったものが突き出ていた。

骨ノミで叩いて折って、骨鉗子でつかみ出した。

歯の周囲は管腔状にはなっていなかったので、それで再発はしないと判断した。

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Pa230165  あとは、死腔がないように縫合しておしまい。

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耳瘻管も生まれつきの障害だと思われるが、あまり生まれてすぐには気づかれることはない。

当歳の秋以降、遅ければ1歳になってからだろうか。

というわけで、これも季節ものかもしれない。

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Pa230171 戦いすんで日が暮れて・・・・・・

日暮れが早くなった。


大腿骨内顆の骨嚢包 Stifle Bone Cyst

2008-10-27 | 整形外科

そろそろ大腿骨骨嚢包の季節のようだ。Stiflebc11

離断性骨軟骨症も、骨嚢包とおなじく、関節内の軟骨下化骨の障害による軟骨と骨の病気だが、離断性骨軟骨症はいろいろな関節で当歳馬でも見つかる。

しかし、大腿骨内顆の骨嚢包は当歳馬で見つかることはほとんどない。

多いのは1歳の秋から2歳にかけてだ。

私の推測だが、この障害が起こるには体重がかなりの要因を占めているのだろう。

Bc12 また、セリに向けての「食わしこみ」も要因になっているのかもしれない。

そして、騎乗運動が始められると跛行が見つかるようになるのだろう。

見つかったときには、骨にできた穴はけっこうな深さがあるので、骨軟骨の病変はかなり前から始まっていると思われる。

         -Stiflebc12

跛行は特徴的で、後肢が前へも出ないし、負重も嫌う混合跛行を示し、常歩でも痛い肢を内側にして円運動させる と跛行が増強される。

直線運動だと、速歩させても跛行が弱まったりする。

そして、かなりの症例で、左右両側に病変があるので、痛くなさそうな肢もよく観察した方が良い。

(右上の写真は右後膝、右の写真は同じ馬の左後膝)

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Bccolor12 ん~っと。

画像保存用のコンピューターの機能を使って、カラー表示させて見ました。

鮮明度が増したでしょうか。

私は意味ないと思います(笑)。

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Pa230170

膝を屈曲させて超音波診断装置で見ると、関節面が凹んでいるのがわかる(左)。

最近は関節鏡手術で掻爬しないで、超音波で病変の位置を確認しながらトリアムシノロンを注入することもしている。

ショックウェーブ療法を試みることもある。

しかし、かならず膝を曲げて行わなければならない。

膝を曲げていない時、馬が立っている時には、脛骨と当たる部分に病変があるので、ショックウェーブは絶対に病変には当たらない!

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Pa270172朝は良い天気だったが、寒かった。

そのうち霙(みぞれ)混じりの雨も降り出した。

稚内や、道内各地の峠では雪も降ったようだ。

そろそろ冬が来るね~。


牛のHenderson式去勢

2008-10-25 | 牛、ウシ、丑

私のところでは、ここ数年、馬の去勢はほとんどHenderson Castrationで行っている。

牛では豆作先生が「豆作式捻転去勢法」を発表されているので(笑)、Stone社の捻転式去勢法も紹介しておこう。

Pa220142_2 Stone社では牛用のHenderson Castration Tool も製造・販売している。

やはり電動ドリルに着けて使う。

電動ドリルはコードレスで、回転の速さが調節できるものが使いやすい。

          -Pa220143

右のような刃物つきの鉗子も使って陰嚢を切開すると速くて楽なようだ。

Pa220144 陰嚢は左のように切開される。

睾丸は自然に垂れ下がる。

この方法は、少し月齢が経った、大きい牛でとくに有効なようだ。

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Pa220146 Stone社のヴィデオでは、睾丸の片方ずつに鉗子をかけて別々に捻じ切っているPa220147(左)。

引っ張らず、捻じ切れるまでまわすと、精索は何重にも捻れていて、睾丸を圧迫しても血が流れ出ることもない(右)。

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Pa220148 左写真の上が馬用。

下が牛用。

う~ん、兼用できそうじゃん。

月齢がいった牛で、立位で去勢できるなら、尿道の発達が阻害されることもなく、尿石による尿道閉塞の発症も減らせるかもしれない。

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東京では脳出血の妊婦さんの救急病院への受け入れがいくつもの病院に断られたために1時間50分遅れたことが問題になっている。

脳内出血の疑いがあることが伝えられたかどうかも要点だったようだ。

いくつも思うことがある。

このあたりは分娩できる医院そのものがほとんどなくなってしまった。

脳外科と産科を備えた病院がある都会へ行くだけで2時間以上かかる。

脳内出血は、脳外科で早くに処置されても救命が難しい症例も多いだろう。

産科医の養成も、週末の病院に余剰の医療者を待機させるのも、コストの問題でもある。

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Pa170122

うちには麻酔をかけた馬を乗せるエアマットは二つ用意してあります。