喉嚢炎の内視鏡像オンパレード。
まずは最好発部位、(写真は左)喉嚢の内側嚢天井部。
いかにもカビという粉を吹いたような病巣が、見事に内頚動脈と迷走神経、舌咽神経上に乗っかっている。
しかし、本当の病変は見えている以上に粘膜内深くまで浸潤していることも意識しておく必要がある。
やはり左喉嚢の内側天井部。
みごとに内頚動脈上に、これも粉を吹いたような膿性のかさぶたが乗っかっている。
カビは動脈が好きなんじゃないか?
動脈の血流を止めることが病変を小さくするのではないかと考える人がいるのも理解できる。
しかし、私は、病巣が内頚動脈上にできやすいのは、単にそこが喉嚢へ入る空気が当たるところだからだと考えている。
それは手術して動脈の血流を止めても病巣が早く小さくならないことを経験してきたからだし、
左のように喉嚢の内側でも動脈上でなく中隔(左右の喉嚢を分ける壁)の上に病巣ができている症例も数多く見てきたからだ。
左のように中隔状に病変がある症例は注意が必要だと思っている。中隔を破って反対側へ病変が移行することもあるし、
どうも中隔は内頚動脈の支配域ではなく、内頚動脈を閉鎖しても出血するようだ。中隔には大きな動脈は無いのだが、それでも指を切るのと同じでかなりの出血を起こす。
この左喉嚢は珍しいことに外側嚢に病変がある。
実は、外頚動脈は内頚動脈より太い。
喉嚢内で下顎動脈へ分岐していて、顔や眼や下顎を支配している。
根元を結紮しただけでは各支流からの逆流があるかもしれないし、結紮することで視力障害や顔面麻痺を引き起こす可能性もありやっかいだ。
これも左喉嚢。
左喉嚢がやられることが多いのではなく、左ばかりそろえた方がわかりやすいだろうから。(なんて親切なんでしょ!)
内側嚢にも、舌骨上にも、外側嚢にも病変が拡がっている。
どこから出血したか特定するのは非常に難しい。
内頚動脈だけを閉鎖するか、あるいは外頚動脈も止めなければいけないか?
私は、内動脈から出血するのが8割以上であることや、外頚動脈の閉鎖で併発症が起きた報告があることから、内頚動脈を閉鎖するだけにしたいと考えている。
これも左喉嚢。
内側、外側、舌骨上に病巣がある。
出血したせいかかさぶたの色が黒っぽい。
出血したばかりの、血餅が残っている場合もある。
左や右のような場合は内頚動脈から出血したのがわかるので、すぐ内頚動脈を手術する
決断がつく。
しかし、喉嚢内が血だらけで病変がどこにあるか確認できないこともある。
そういう場合も確率論で内頚動脈だけを手術すれば良いと考えている。
しかし、できれば病変部位を確認してから手術したいので、鼻血を出してすぐではなく翌日か翌々日に来院してもらうことにしている。
中には1回目の出血で死んでしまう馬さえいるので、そのあたりは難しい判断になる。
大量の動脈血の鼻血が出たあと黒い鼻血が続くのは、喉嚢に貯まった血が流れ出ていることが多い。
そういうときの喉嚢の入り口の様子は左のよう。
新たに動脈から出血しているのではないので、これ自体はそんなに心配しなくても良い。
馬の喉嚢真菌症は、発症率は高くないが、非常に致死率の高い病気だ。
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もっと馬の内視鏡検査について勉強したい人はこちらの本をどうぞ。
以前の内視鏡の教科書はかんじんの写真が良くなかった。ヴィデオスコープが普及してきていたが、まだ画像をデジタルで保存・処理できていなかったのだろう。
しかしこの新しい本はすっかり写真が良くなった。
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天高く馬肥えた晩秋。
今週、疝痛が4頭。
3頭は馴致、調教を始めた1歳馬。
運動、飼料の変化は疝痛の要注意要因だ。