馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

フレグモーネ 蜂窩織炎の治療

2018-06-02 | 馬内科学

フレグモーネ 蜂窩織炎は皮下織の細菌感染で、馬では良く見られる。

フレグモーネの治療をどうすれば良いか、馬の獣医さんが居ない地域の人から訊かれもしたので、整理しておきたい。

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考えておかなければいけないのは、よくある病態なのだが、こじらせると治らなくなるということだ。

皮膚が自潰を繰り返し、皮下織に肉芽が増勢し、下肢の感染と循環障害が慢性化すると完治は困難になる。

皮下織の感染だけだと考えていると、関節や腱鞘内に感染が波及して重症化することもある。

強い痛みが続くこともあるので、対側肢が蹄葉炎を起こすことがある。

強い抗生物質を使うので腸炎などの副作用も警戒しなければならない。消炎鎮痛解熱剤は胃潰瘍を心配しなければならない。

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細菌感染症なので、有効な抗生物質を選択し、攻撃的に使うべきだ。

原因菌を分離・培養したいが、こじれて自潰しでもしないと採材できない。

Staphylococcus aureusStreptococcus equi zooepidemicus が原因菌として可能性が高い。

治療歴があったらE.coli など抗生物質が効きにくい細菌に替わっているかもしれない。

膿瘍化していると、嫌気性菌が関与しているかもしれない。

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抗炎症剤も使われる。

しかし、漫然と使い続けることはお勧めしない。

炎症はそもそも体本来の防衛反応で、熱も高い方が免疫能が亢進することが知られている。

とくに副腎皮質ホルモン剤は、抗生物質が効果をあげているのが確認できたときに、リスクより効果が期待できるなら、という条件付きで、1回だけの使用にとどめるべきだ。

病気の本態が細菌感染であり、副腎皮質ホルモンはまちがいなく免疫を抑制する。

私は、フレグモーネで副腎皮質ホルモンが投与されていて、膿瘍化した症例を何頭も診ている。

蹄葉炎も副腎皮質ホルモンの副作用で起こることがある。

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馬のフレグモーネが特有なのは、下肢がむくみ易い動物だからだ。

運動させないだけでも下肢がむくんでしまいがちで、下肢の循環の悪さが感染を助長し、治癒を遅らせる。

人ならむくみをとるために脚を高くして寝ていることができるが、馬はそうはいかない。

バンデージを巻いて下肢が過剰に腫れないようにしてやることは、その点で意味がある。

症状がひどくないなら曳き運動して歩かせることも効果がある。

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関節や腱鞘に感染が波及していないか注意する必要がある。

細菌性関節炎や細菌性腱鞘炎を起こしていたら、関節腔や腱鞘腔の洗浄や抗生剤の腔内投与が必要かもしれない。

フレグモーネが下肢だけなら、Regional Limb Perfusion が有効だ。

駆血帯で血行を絞め付けた遠位の静脈に全身投与する用量の抗生剤を投与し、一定時間(私は20分間にしている)そのままにする。

抗生剤が血管から滲み出し、駆血した部位より先が抗生剤漬けになる。

馬がじっとしていられるなら立位でも行うことができる。

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消炎鎮痛解熱剤を使っていないなら体温で経過や抗生物質の効果をモニターできる。

血液検査するなら白血球数、フィブリノーゲン、αグロブリンなども炎症の指標に使えるが、現在はSAA(血清アミロイドA)が急性炎症マーカーとしてとても優秀だ。

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きのうは、

4歳競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。重症。

当歳馬の上顎切歯骨骨折のワイヤー固定。放馬して親に蹴られたのだそうだ。

角膜炎の診察。

午後は、2歳馬の去勢。捻転式去勢棒で。

1歳馬の球節OCDの関節鏡手術。

2月生まれの当歳馬の突球のオキシテトラサイクリンRegional Limb Perfusion療法。

夕方、牧柵激突・顔面陥没骨折の連絡。数日後に手術することにした。

 

リンゴの花が咲きはじめた。

                   

 

 

 

 

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ロドコッカス肺膿瘍の初期の画像診断

2018-05-18 | 馬内科学

子馬のロドコッカス感染症は、30日齢から45日齢で発症する子馬が多い。

それ以降に発症するのは、初期症状がないか、見逃しているのだろう。

おかしいと思ったら血液検査をして、炎症像がないか調べてみるのが良い。

あるいはロドコッカス感染症が発症する牧場は、日齢によって血液検査してみると良い。

炎症像があったら気管洗浄して、ロドコッカスが分離されないか検査すると良い。

ロドコッカスが分離されたら、肺に膿瘍ができていると思った方が良い。

肺の膿瘍は、表面を超音波でスキャンできる部位にあれば、超音波検査で大きさを知ることができる。

                 -

先日来院した、肩跛行があって、気管洗浄でロドコッカスが分離されていて、抗生物質を1週間近く投与されている子馬。

右肺、後葉中央に径2cmの膿瘍が見つかった。

その子馬の胸部X線画像。

右から。

左から。

右から、の拡大像。

左から、の拡大像。

超音波で確認できた肺膿瘍はX線画像では判別できないが、肺炎像だ。

Rhodococcus equiに効果がある抗生物質の投与をお勧めした。

                    ////////////

診療受付表であり、予定表であるホワイトボード。

来客 「これ全部手術ですかっ!?」

「全部が手術じゃないけど、診療予定です」

(1/3くらいは急患で、予定を押しのけて割り込んでくるんですけど・・・・)

              -

「時間が空いているときに診てほしい、って言ってます」

「じゃあ時間は空いてないなら診なくてイインだな」笑

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弁膜症

2017-11-14 | 馬内科学

馬の心臓をテーマにした先日の講習会。

その後、心雑音がある繁殖雌馬の心臓超音波検査を頼まれた。

大動脈弁の異常のようだった。

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今日は、心雑音がある1歳馬の心臓超音波検査を頼まれていた。

初診をした先生もすでにポータブルの超音波装置で、弁に異常があることを確認していた。

お見事!

左側で心音を聴くと異常は感じない。

しかし、右側で心音を聴くとひどい収縮期雑音。

馬の弁膜症は左側に多いのだが・・・・・・

今日の1歳馬は右の房室弁に大きな塊がついていて、弁も肥厚し、収縮期に閉じずにひどい逆流があり、弁先が心房側へ逸脱していた。

とても競走馬になれそうにないので、そのまま剖検することになった。

心臓は弛緩。右心が肥大している。

右房室弁には超音波で観たとおりの大きな疣がついていた。

弁の肥厚。

切り取った膿瘍となった塊。

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馬医者がより丁寧に心音を聴くようになれば、今以上に心疾患が見つかると思いますよ。

手前味噌ながら、たいへん有意義な講習会だった。

講師先生に感謝。

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小樽には赤岩と呼ばれる岩場があり、北海道一のロッククライミングの練習場になっている。

大学の山岳部員だったとき、6月や9月には練習に出かけた。

雨が降ると岩登りはできないので、散策路を歩いて、小樽水族館へ行った。

19歳だった私は、そこでこいつに会った。

そして、「絶対オレよりこいつの方が偉い」と思ったのだった。

どうしてだかわからない。

でも、水の中で会ったら、ぜったい敵わない。と直感したのだ。

戦うとかいうのではなく・・・・存在感かな。

 

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馬に深呼吸させる方法

2017-10-02 | 馬内科学

馬の肺野を聴診するとき、深呼吸させたい。

しかし、指示しても人の様には深呼吸してくれない。

簡単には、馬の鼻孔を押さえる方法がある。放すと、深呼吸する。

しかし、1-2回深呼吸したら、普通の静かな呼吸に戻ってしまう。

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しばしば咳をする繁殖雌馬。

検査のために来院した。

ビニル袋で鼻を覆っておくと、しばらくすると呼吸が速く、深くなる。

あまり苦しくなるようなら、少し新鮮な空気が入るようにする。

これで、馬の広い胸腔の呼吸音をゆっくり聴診できる。

re-breath bag と呼ばれる。

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枯れたイタドリも秋の色だ。

スポーツの秋だ!

 

                             

 

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アブ対策 アブキャップ

2017-07-31 | 馬内科学

今年はアブが出てくるのが遅かったが、けっきょく例年どおりにやってきた。

診療室にも馬と一緒に入ってくる。

ハエよりドン臭くて、殺虫剤で退治するのは簡単だが、

馬にまとわり付いて、馬も落ち着かなくなる。

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きのうは、そとで跛行診断や神経ブロックをする症例もあったのが、落ち着いてやっていられない。

疝痛の馬も来たのだが、曳き運動しているとアブにたかられるので早々に厩舎へ入れて様子を観た。

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こういうのも市販されている。

アブキャップ。

発熱体に寄ってくるアブの習性を利用しているらしい。

けっこうな値段だが、試してみたいな。

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そういうと、相棒にはアブは寄ってこない。

夏でもセーター着てるから熱が洩れてないからか?

それが毛皮を脱がない理由か?

 

 

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