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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

蹄関節炎からのStaphylococcus aureus の分離

2024-09-08 | labo work

10日ほど後肢の”砂のぼり”で跛行している繁殖牝馬。

蹄球部へ自潰して良くなるかと思われたが、球節周囲まで腫れて、負重困難になった。

蹄関節炎を起こしていた。

その関節液から・・・・・

血液寒天培地に白く盛り上がったコロニー。

周囲に完全溶血環がある。

不完全溶血環はない。

私たちは、牛の乳房炎から分離される Staphylococcus aureus のコロニーは見慣れているのだが、コロニーの外観がちがう。

しかし、ラテックス凝集反応で陽性。

コアグラーゼ・ポジティブ staphylococcus だ。

コアグラーゼは、血漿を凝集させる酵素。

フィブリンを固めて病巣の周りに壁を作るので膿瘍化し、治癒しづらく、治療が難しくなる。

病原性も強いので、関節周囲炎も起こし重篤化していることが多い・・・・

                                      ー

そのStaphylococcus aureusの抗菌剤感受性試験。

ペニシリン、アンピシリン、セファゾリン、セフチオフルはsensitive だが、

テラマイシンはresistant 、

そしてエンロフロキサシンもよろしくない。

ちょっと意外。

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図書館にあったので借りてきて読んだ。

香山リカさんは、コメンテーターとしてTVに出ておられるのをときどきお見かけしたことがある。

新聞のコラムを連載しておられるのも読んでいる。

語り口も、発言内容も、書かれることも、とても優しい。

むかわ町穂別の診療所に赴任されたのも知っていた。

その経緯がわかって面白かった。

私と同い年だったんだな・・・・

恐竜好きも共通点;笑

しかし、なんとも軽やかな方だ。

「へき地」に住んでいる人は、「へき地」とは呼ばれたくないだろうけどね。

 

 

 

 

 

 


ロドELISAが検出している抗体

2024-05-17 | labo work

ロドコッカス感染症の診断法としてのELISAには false positive も false negative もあることを書いた。

血清診断法ではあるのだが、「補助診断法として有効である」と私は抄録に書いている。

採血して、検査室へ送るだけなので、少ない手間で、多頭数実施することができる。

症状がない子馬たちの検診に使うもの良いだろうし、

病状把握の一部として使うこともできる。

確定診断法ではないので、少なからぬ致死的リスクが伴う抗菌剤治療の前には、気管洗浄液から菌分離を試みて確定診断しておくことが望ましい。

            ー

新生子馬だけがロドコッカスに感染するのはIgGレベルが低いからではないか?

とは誰でも考えることだ。

私たちは、700頭ほどの子馬で、IgGとロドコッカス感染症の関係をかつて調べた

IgGが800mg/dl以上の子馬と未満の子馬では、2倍ほどロド感染発症の率に差があった。

しかし、統計的には有意さは示せなかった。

IgGが低い子馬は、早く生まれたとか、小さく産まれたとか、生まれたときに弱かったとか、病気したとか、母馬を亡くしたとか、様々なマイナス要因を抱えていることが多い。

それらも感染要因、発症要因に含まれてくることも考えると、

IgGだけでは子馬をロドから守ることはできないのだろう。

そして、Rhodococcus equi 強毒株という奇妙な病原性を持った細菌に対する抵抗性で、大きな働きをしなければならないのは液性免疫よりは、細胞性免疫なのだろう。

           ー

母馬をロドELISAで調べて抗体保有状況を調べようとする人も居る。

学術報告にもなっていて、年齢層が高い繁殖牝馬が抗体保有率が高いと述べられていたりするが、ウソだ。

同じ環境に居ても、母馬たちはロドコッカスなど物ともせず生活している。

抗原刺激を受け、抗体産生し、液性免疫で感染から身を守っているのではないのだ。

           ー

診断用のロドELISAに用いている菌株はR.equi強毒株ではない。

強毒株を抗原として用いたELISAも行うことはできるが、どの子馬も強い反応を示して、感染子馬をスクリーングするのには役に立たない。

どの子馬も強毒株に感作され、強毒株への抗体を急いで作るのだ。

しかし、病巣を作られてしまった子馬は、病原性プラスミドを持たない株への抗体も量産してしまう。

それが血清診断にも使える、ということだ。

強毒株への抗体と相関しているかもしれないが、通常行っているELISAで検出しているのは強毒株への防御抗体ではない。

           ー

同じ牧場に生まれて、同じ管理をされていてもRhodococcus equiに暴露されることに耐えていく子馬、

感染して病巣を作られてしまうが自力で克服していく子馬、

症状を示し病巣が大きくなり治療が必要になる子馬、

治療しても治らず予後不良になる子馬、と差が出る。

根本に何が違うのかは難しい。

風邪をひきやすい人と風邪なんて滅多にひかない人の差もわかっていないし、

コロナ(COVID19)で重症化する人とそうでない人の差も、年齢層や基礎疾患以外には知られていない。

COVID19ワクチン後も抗体価の推移だけが取り上げられているが、それは調べる方法があり調査しやすいからで、もっと大事なところはわかっていないのだろう。

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ほとんど病気したことがない丈夫なヤツだった。

10歳寸前で血管肉腫で死んだ。

ゴールデンレトリーヴァーの宿命であり、天寿であったかもしれない。

 

 

 


Rhodococcus equi のELISA抗体検査 false negative と false positive

2024-05-13 | labo work

ロドコッカス感染症が多発している。

ロドコッカスELISA抗体検査の依頼も多い。

このロドコッカスELISA検査を運営しているのは世界でうちの検査室だけではないだろうか。

もう30年になる。

          ー

1995年に横浜で開かれた世界獣医学会 World Veterinary Congress で発表した。

ロドELISAは、0.3以上を”陽性”としている。

それは健康子馬の平均OD値+標準偏差値×3というのがその根拠。

ただし、それが血清診断あるいは感染子馬のスクリーニングとして使えるかどうかは検証が必要だ。

ロドELISAは”抗体価”と表現されることがあるが、私はそれはまずいと思う。

(実は私も抄録の中で”抗体価”と書いてしまっている)

抗体価と言えば、0.6は0.3の2倍、1.2は0.6の2倍、という印象を与えてしまう。

しかし、それぞれ2倍希釈しても1/2にはならない。

抗体量を表す数値ではなく、あくまで測定値そのものでしかない。

           ー

1993年と1994年の2年間に1073頭の子馬のロドELISAを行い、153頭がOD値0.3以上を示した。

呼吸器症状を示した子馬が124頭(81%)、消化器症状が17頭(11%)、関節炎が7頭(5%)であった。

34頭(25%)は0.9以上という高いOD値を示した。

呼吸器症状を示した子馬のうち27頭では気管洗浄液を採取し、OD値0.3以上の子馬では18頭中17頭(94%)でロドコッカスが分離された。

OD値が0.3未満だった子馬では9頭中2頭(22%)でロドコッカスが分離された。

気管洗浄液から分離されたのは全て85あるいは90kbの病原性プラスミドを保有する強毒株であった。

           ー

この成績をもとに、ロドELISAは子馬のロド感染症の補助診断法として有用である、と結論づけた。

           ー

病気の診断方法では、陽性あるいは陰性と判断して当たっていれば問題ない。

陽性と判断してその病気でなければfalse positive、陰性と判断してその病気であったら false negative ということになる。

ロドELISAでは、0.3未満であった子馬でも22%の子馬からロドコッカス強毒株が分離されているので、false negative は”かなり”ある。

0.3以上の子馬の中にロドコッカス強毒株に感染していない子馬がどれくらいいるか、はとても難しい。

少なくとも、呼吸器症状がある子馬では94%からロドコッカス強毒株が分離されたので、

ロドELISA0.3以上と呼吸器症状を併せると、false positive は10%未満だと考えてもいいのではないか。

           ー

この季節、うちの検査室には100件以上の気管洗浄液が持ち込まれる。

ロドコッカス強毒株の分離率は、例年60~70%ほどだ。

子馬の呼吸器感染症のすべてがロドコッカス肺炎だというわけではないのだろう。

ただし、ロドコッカスによる肺膿瘍があるからといって、いつも気管洗浄液からロドコッカスが分離されるとは限らない。

完全に披嚢された陳旧化膿瘍や、膿瘍の痕を持っている子馬では、気管洗浄液からロドコッカスが分離されないことが考えられる。

そういう子馬だと、ロドELISA0.3以上、しかし気管洗浄液からはロドコッカス分離は陰性、という検査結果が正しいのだ。

false positive ではない。

            ー

子馬のロドコッカス感染症は子馬の肺、その他、リンパ節、腹腔内、骨髄、筋間に膿瘍を作るやっかいな病気なのだが、診断、治療、予防策、は難しい。

30年の間に、状況が変わったこと、進歩したこともある。

若い獣医さんたちは、30年の経緯もご存じないだろう。

長くなるので、いくつかに分けて、考えてみたい。

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夏鳥がやってきて新顔が環境に慣れないせいだろうか

窓にぶつかってウッドデッキに落ちていた。

ビンズイかな。

幸い即死ではなかった。

しばらく休んだら回復して飛んでいった。

 

 

 

           

 

 


子牛の下痢便のロタとクリプトの検査

2024-01-22 | labo work

土曜の午後はlabo work。

私は、馬の虫卵検査と子牛の下痢便の検査を担当した。

馬の虫卵検査はショ糖浮遊法で。

線虫卵いっぱい。

しかし、その線虫卵が、動脈栓塞させる普通円虫の卵かどうかは考えてみる必要がある。

条虫卵はなかった。

しかし、本当に条虫が寄生していないかどうかは考えてみる必要がある。

葉状条虫はあまり卵を産まない。

虫卵が検出されないからといって、寄生していない、ということにはならない。

            ー

子牛の下痢便はロタとクリプトスポリジウムを検査して下さい、という依頼。

今はロタウィルスもクリプトもイムノクロマト法のキットで検査する。

線が2本現れたらロタ陽性。

はい、陽性。

こちらのスティックは、線が2本現れたらクリプト陽性。

コントロール部に1本だけなら陰性。

はい、クリプト陰性。

便利だが、これらのキットは高い。

クリプトスポリジウムは人にも感染するので、扱いに注意が必要。

しかし、全国の医療機関でヒトがクリプトに感染した例は年間、数えるほどしか報告されていないようだ。

診断されずに見過ごされているのではないだろうか。

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イチゴは誰も食べなかったね

 

 

 

 


暑い夏には・・・

2023-07-31 | labo work

ことしの夏はどうやら北海道も暑いようだ。

湿度も高く、不快指数が高い日が続いている。

もう雨も3週間ほど降っていない。

先週は私は検査当番。

熱中症の血液検査が数件来ていた。

体温40℃近く・・・・

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これは馬回虫の卵。

下等生物なので1匹でも大量の卵を産む。

その産卵する成虫は、1匹1匹が、小腸を這い出て血流に乗って肺へ至り、気管支から喉頭へ出て、そして嚥下されてまた小腸へ寄生している。

大量に、だ。

これも季節ものと言えば季節もの。

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Prototheca たぶんzopfii

葉緑素を持たない藻類の1種で、まれに牛の乳房炎から分離される

夏に限るわけではないが、暑さで免疫が落ちて誘発されたのかもしれない。

そして環境中の水や土壌の中でも暑さで増殖しやすいのだろう。

乳房炎検体からのPseudomonas の分離も増えているように思う。

これも暑くて牛舎の水回りの汚れの中で増殖しているのかもしれない。

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でも7月も終わり。

北海道のこんな暑さはあと1-2週間だろう。