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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

8月末日

2006-08-31 | 日常

 今日は、球節の肢軸異常を矯正したスクリューの除去手術。

その後、飛び入りで14ヶ月の黒毛和牛の尿石症の手術。

予定していたサーモグラフィーのデモンストレーションをしてもらって、

飛び入りで、結腸捻転の開腹手術。

並行して検査室業務をやっつけて、2時過ぎから昼食。

時間をずらしてもらって、肢軸異常のスクリューを入れる手術。

私自身は尿石症の手術を手伝っただけで、ほかは補助作業をしただけ。楽と言えば楽。気を使うと言えば、気を使う。

「暇になってきましたね~」と実習生が言う。

ここに居た数週間で、彼もアドレナリン中毒になったのかもしれない。

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P8310015 今日の河口のようす。

今日まで、釣りは黙認らしい。

釣堀のように賑わっている。

しかし、まだウライも立っていないし、鮭は寄って来ていない様だ。

秋まで、もう少し。

P8310018


獣医臨床実習生いろいろ

2006-08-30 | How to 馬医者修行

P8300014 実習生第4グループ。プラスJRAからの「交換実習生?」

人垣で馬が見えん。

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実習生を見ていて思うこと。

学年の差は大きい。臨床の授業をまだ受けていない3年生は卵にもなってない。臨床獣医学的な話をしても、通じない。

臨床の授業が始まっている4年生は、卵。しかし、実習を受けてないと手術の助手をさせるのに手洗い、手袋のはき方から教える必要がある。

5年生は個人、研究室による差が大きい。臨床講座、とくにうちでの仕事だと外科の学生は慣れている。

つまるところ、1年1年どうすごすか、何を身につけるかでたいへんな差になるということだろう。

それは、臨床獣医師になってからも同じなのだろう。

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 笑い話。

関節鏡手術で、骨片を取り出した。ふと振り向くと、滅菌された器具台に置いた骨片を実習生が指でつかんで眺めている。

「駄目だ! 触るな!!」

注意したら、あわてて滅菌された器具台に戻そうとした。

「駄目だ!戻すな!!」

間に合わなかった。

彼女は怒鳴られた理由を理解しただろうか?

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 8月、9月は実習生のマンパワーに助けられているのも真実。

そして彼らは私たちにとっても刺激になってくれる。

「あれは正しくは何というんだったか? あれはどの教科書に書いてあるんだったか?」

当たり前と思っていることも、あらためて正確に説明するとなると、知識も確認しなければならない。

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 そして私も実習生の成れの果て。

この時季、「馬の獣医師になりたいんですが」と言う相談もされる。

実力や努力以上に、運やタイミングが必要になってしまう馬の世界の狭さが残念だ。

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「この子」、獣医師、そして子猫殺し

2006-08-30 | 日常

 いつ頃からだったか、実習に来た学生達が馬のことを「この子」と呼ぶようになった。

「この子はどこが悪いんですか?」

産業動物、経済動物の世界に身を置くものとしては抵抗があった。患畜をこの子と呼んでいて、厳しい決断をくだせるか?

聞いてみると大学の小動物臨床の先生が「この犬、この猫と言ってはいけない」と教えているらしい。

 そんなものかと思っていたら、ある小動物の先生が北海道獣医師会雑誌に、この子と呼ばなければならない風潮を嘆く文を書いておられた。

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 獣医師は伴侶動物だけではなく、産業動物、経済動物、そして実験動物も扱う。

アメリカ獣医師会雑誌などでは、small animal 小動物、equine 馬、food animal 食用動物と分けて論文掲載されている。

それぞれの分野の知識や技術には共通の部分が多い。しかし、理念が異なるのだ。哲学と言っても良いかもしれない。

 獣医師が扱う各分野にもし最低限の共通項があるとしたら、それは生きているものへの敬意ではないかと思う。

傷ついたものを修理するのが臨床だとしても、完全に壊れてしまうと2度とよみがえりはしないことを知っていること。

生き物の精巧な、未だに理解さえ及ばない部分があることを学んでいること。

生きること、死ぬことには時としてひどい苦しみを伴い、それは和らげる工夫をできることを教わること。

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動物に無用な苦しみを与えないことの責任は、獣医師が心に留めなければいけないことだと思う。

だから、「猫に避妊手術を受けさせず、生まれた子猫を殺すこと」は認めるわけにはいかない

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 一年に数度だけ釣りをする。釣った魚は食べる。食べない魚は釣らない。が、私と息子とのルールだ。


尺骨骨折

2006-08-27 | 整形外科

Photo_125 尺骨は肘の後にあって、体重は支えていないが、肘を引き上げ、肘関節を伸ばすための働きをしている。

筋肉で引っ張るためのレバーの役割をしている骨なので、壊れてしまうと、肘を引き上げることができず、腕節を伸ばして立つことができなくなる。

左は繁殖牝馬の尺骨骨折のX線像だが、生産地で遭遇する尺骨骨折はほとんどが、子馬だ。

 他の馬に蹴られて折れるのがほとんどだと思っている。

年に数頭、尺骨骨折のX線写真を見せられる。

すぐに手術を決断するわけではなく、数日は経過を診て、骨折線が開いてこなければ手術をしなくても骨癒合することが多い。

しかし、尺骨頭に近い部位の骨折ほど開いてくることが多いようだ。

開いてしまった骨折線を整復して内固定するのは、開いていない骨折を内固定するよりは難しくなる。

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Ulnafx この子馬は肘関節へ骨折線が抜ける位置で骨折した。

数日経過を診たが、骨折線が開いてきたので手術することになった。

子馬の尺骨骨折では、プレートでただ頑丈に内固定すれば良いというわけにはいかない。

骨折線には圧迫をかけた方が速く、良好に骨癒合することが知られているのだが、金属で固定している間、尺骨は成長できない。

それで橈骨と尺骨の成長に差ができてしまう。

肘関節の後側は尺骨でできているので、そこにずれがおきてくる。

内固定で骨折線を圧迫すればなおさら尺骨の成長を阻害することになる。

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プレートを止めるスクリューも、尺骨だけにとめて、橈骨まで挿さない方が良いと最近は考えられている。

上の症例も、基本的にはその考えで内固定したが、尺骨は薄い骨で、とくに子馬の場合とても弱い。それで1本のスクリューは橈骨へ入れて止めざるを得なかった。

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Ulnafx2 整形外科のテキストには、尺骨骨折の内固定は12週間で取り外すことになっている。

子馬の場合どうするか書かれた馬小児整形外科の教科書はまだない。

経過を追ったX線写真で骨癒合の状態を見て、プレートをはずす時期を決めた。

プレートは骨に埋まりかけていた。

1本のスクリューは抜くときに折れた。相当力がかかっていたのだろう。

折れたスクリューを抜くための道具もあるのだが、骨の孔を拡げなければならず、残しても問題ないと判断した。

肘関節には大きなずれを作らずにすんだようだ。内固定のときに骨折線をもっと圧迫するようにすれば骨癒合は速いだろう。しかし、その分、尺骨は短くなってしまう。

プレートを早く抜けば、抜くのも楽だし、尺骨の成長を阻害する期間も短くできる。しかし、骨癒合は完全には終わっていない時にプレートを抜くことになる。

 手術するかしないか。どのくらい圧迫をかけて内固定するのか。いつプレートを除去するのか。

症例ごとの微妙な判断であり、馬整形外科医が決めるしかないのだ。

馬小児整形外科の教科書は、まだ、ない。

 


人医療と馬医療の違い

2006-08-25 | 人医療と馬医療

 人医療と獣医療ではずいぶん違いがあって、単純にまねることも、学ぶことも、比較することもできないのだけれど、人医療での問題を知っておくことは獣医療を考える上でも参考になることが多い。

 私が、RSSを利用して読んでいるブログに、フリーの麻酔科のお医者さんのブログがある。

http://anesthesia.cocolog-nifty.com/freeanesthe/

非常に参考になる。たいへん考えさせられる。

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 馬獣医療は、人医療をモデルに考えられることも多い。

インフォームドコンセントの概念も然り。獣医療の中で発展してきた概念ではない。人医療で求められてきたものを、そのまま獣医療に当てはめようとされている。

しかし、獣医療では、インフォームドコンセントにしてもまだまだ環境が整っているとは思えない。

情報を開示して、「選択するのはクライアントです」と言ったところで、「獣医さん決めてや」と言われてしまう。

 医療訴訟も然り。人医療で医療過誤が問題にされるにつれ、獣医療でも問題になってきている。

しかし、獣医療では事故が起こらないためのあらゆる環境を整えよう。という風にはなっていない。

医療費ひとつをとっても、人医療とは雲泥の差があるのだから。

人と同じように手術の数日前から術前検査を繰り返し、術後は数日入院するのは当たり前。というわけには行かないのだ。

にもかかわらず、「リスクは獣医師が負え」、「結果が良くなければ賠償しろ」、というなら獣医療は成り立たなくなるだろう。