今年の夏は遅くまで暑かった。
熱射病が来院するかと思ったが、典型的なのはなかったように思う。
北米が暑かったかどうか知らないが、USAの馬医者達はanhidrosis 無汗症についてディスカッションしていた。
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馬の無汗症は慢性的に汗をかかないか、あるいは汗が極端に少ない状態で、
突然起こることもあるし、ひどく発汗する状態の後に起こることもあるし、徐々に汗をかかなくなることもある。
臨床症状は、汗が少ないかあるいはまったく汗をかかなくなること、高体温、呼吸数増加、食欲不振、水分摂取の減少、脱毛、被毛失沢、沈鬱、である。
terbutaline(テルブタリン;交感神経作用薬で、相対的にβ2作動活性が強く、主に気管支拡張薬または早産防止薬として用いる)による発汗テストが診断に用いられてきた。
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かなりの率で無汗症の馬が居るようなのだが、私は診たことも、相談されたこともない。
以前にその暑さについて書いたことがあるフロリダ大学からの報告。
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An epidemiologic study of anhidrosis in horses in Florida
フロリダにおける馬の無汗症の疫学的調査
Eric B.Johnson, Robert J. MacKay, Jorge A. Hernandez
J Am Vet Med Assoc 2010; 236: 1091-1097
目的-フロリダにおける馬の無汗症の罹患率を明らかにし、関係する要因を調べること。
デザイン-横断的、症例調査
方法-質問を構成し、牧場の所有者あるいは管理者に送って、馬の無汗症の診断と、無汗症に関係する要因があるかどうか調べた。
調査した牧場、馬、それぞれのレベルでの要因の頻度を、無汗症の馬・牧場と、無汗症でない馬・牧場の間で比較した。
結果-牧場ごとには無汗症は11%で発生していた。馬ごとには2%に無汗症を認めた。
フロリダ中央部と南部では、北部の牧場に比較して、無汗症のオッズはそれぞれ2.13、4.40倍であった。
ショウや乗馬指導に使われている馬は、牧場に居る馬に比較して無汗症のオッズはそれぞれ5.26、15.40倍であった。
動物レベルでは、品種(サラブレッドと温血種)、生まれた地域(USAの西部あるいは中西部)、無汗症の家系、が明らかに無汗症発症に関係していた。
結論と臨床的関連-本研究はフロリダの馬の無汗症の罹患率と要因について新しい情報を提供する。
家系的に無汗症になりやすい馬は、高温・高湿の気候で運動させる前に、無汗症についての獣医師の診断を受けるべきだ。
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MacKay先生にはフロリダ大学へ研修に行ったときにお世話になった。
その頃は内科の准教授だった。
「マケイン?」「MacKay!」「マッケイ?」「MacKay!」「マッカイ?」「Ya! MacKay!」
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無汗症は、高温・高湿の気候への反応として分泌されたエピネフリンによる汗腺の刺激が延長した結果として起こる生理現象として記載されてきた。
汗腺は血中の高エピネフリン濃度に適応し、結果として感受性が鈍くなる。
この現象は涼しく、湿度の低い気候で休養することで元に戻りうる。
最近では、水分チャンネルのaquaporin-5が馬の無汗症の病因として働いているかもしれないと考えられている。
無汗症の馬は内科的な管理と、運動をひかえてやること(あるいは運動させないこと)が必要である。
無汗症の馬を無理に運動させると、高体温による多臓器不全を含めたひどい続発症が起こる可能性があり、場合によっては死亡する。
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な~るほど。
サラブレッドは無汗症になりやすい品種なのだが、北海道で放牧だけされていたのでは無汗症は発症せずに済むのかもしれない。
本州ではどうなのだろう?