馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

黒毛子牛の中足骨粉砕骨折のキャスト固定の経過

2024-10-31 | 牛、ウシ、丑

中足骨を粉砕骨折してしまった2ヶ月齢の黒毛和種子牛

来院してもらってキャスト固定した。

その後、4週間後に農場でキャストが巻き替えられた。

これが巻き替え前のXray。

骨癒合は、背側、底側、内側、外側と皮質骨の再構築を評価する。

仮骨、贅骨の増生も評価する。

粉砕骨折で、骨片が変位していたせいもあって、皮質骨の連続性が心もとない部分がある。

巻き直しは妥当な判断だろう。

キャスト擦れはわずかで皮膚の状態は悪くなかったそうだ。

           ー

それから2週間。

骨癒合はさらに進んだ。

粉砕骨折の各破片が仮骨に覆われて連続性がかなり再建されたように見える。

骨折部の短縮(騎乗変位)もほとんどなく、変形癒合もない。

            ー

安全のために長くキャスト固定しておいた方が良いというわけではない。

荷重がかからない骨は脱灰して骨量が減り脆弱化する。

固定されている肢は筋力が衰え、関節の可動性が乏しくなるかもしれない。

屈腱が弛緩し、球節遠位が沈下する。

どこかでリスクを受け入れてキャストは外さなければならない。

            ー

この子牛は6週間でキャスト除去し、バンデージに巻き替えられた。

経過は良好なようだ。

            ー

細かいアドバイスをするとしたら、

2回目のキャストは、もう肢を牽引して巻く必要はないので、少し球節を屈曲させて巻いてやった方が、子牛は少しでも肢を使うことができただろう。

骨折肢のX線撮影では、少なくとも折れた骨の全長を画像に入れたい。評価したいのは骨折部だけではない。

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夜明けの散歩

新冠温泉 いいよ

 

 

 

 

 


「夜の牝馬」とは悪夢のこと

2024-10-30 | 図書室

サスペンスやらミステリーは読まないようにしているのだけれど・・・・

この本は読んでみようと以前から思っていた。

何せタイトルが「夜の牝馬」だし、獣医科病院や馬牧場が舞台で、ヒロイン?は女性馬外科医で、探偵役は女医にして馬牧場オーナーだそうだから。

しかし・・・・翻訳文がきつい。

タイトルも「夜の牝馬(めうま)」と読め、とわざわざルビが振ってある。

「ひんば」か、「めすうま」だろう。

あるいは、

”夜の牝馬とは悪夢”

”夜来る悪魔”

くらいのタイトルが良かったのではないだろうか。

            ー

皮肉の効いた、長い文章表現は好みが分かれるところ。

わたしは嫌いではない。

しばらく楽しみたい。

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去年の12月から夜間当番を免除してもらい、宿直も時間外診療もしなくなった。

夜中に診療の電話を受けることも、呼び出されて出て行くことも、

夜中に手術することも、徹夜することも、

早朝出かけることもなくなった。

体調はとても良くなった。

夜はよく眠れる。

夜中に起こされる、かもしれない、電話が鳴るかもしれない、というだけで休まっていないのだろう。

トイレや風呂に入るときも携帯電話を気にしていた。

夜に呼ばれれば、無影灯の明るい光の下で、とてもリラックスしてはできない仕事をすることになる。

のんびり、ゆっくり、落ちついてやりましょ、という仕事ではないのだ。

夜中に働けば、別な時間に睡眠や食事をとっても体のリズムは崩れる。

若いうちは苦にならなかったが、自分がどう思おうが、人にどう見えようが、老化した体には良いわけがない。

           ー

救命救急もやっている馬の病院は、夜間診療はなくすわけにはいかない。

馬は急患が多く、疝痛も、お産も、骨折も、翌日まわしというわけにはいかない。

(ヒトも、小動物も、牛も、かなり翌日まわしが現状だよ!)

しかし、できるかぎり昼間できる診療は昼間やった方が良い。

もう人的資源が限りがあることははっきりしているし、それも枯渇しかけている。

夜中に働きたい人などいないのだ。

           ー

”夜の牝馬” とは悪夢のこと

私が言う理由がわかるだろ?

 

* 夜の牝馬 Night Mares

  mare は古代英語で悪魔のことだそうだ。

現代英語のmare 牝馬と混同もあって、悪夢は馬に乗った悪魔が運んで来るイメージもあるらしい。

 

 

 


成乳牛の股関節脱臼整復の動画に感動した

2024-10-25 | 牛、ウシ、丑

阿部先生のブログはチェックしているつもりだったのだが、この動画は見逃していたのかもしれない。

成乳牛の股関節脱臼整復

 

すごいな~と感心した。

私は数例、子牛の股関節脱臼を診せられたことがあるが、発症から何日も経っている症例は大腿骨骨頭切除の対象にしかならない。

発症した当日に来院した症例は整復できたが、その後の経過は良くなかった。

馬でも何頭か診たことがあるが、たいてい発症から数日を経ているし、馬の股関節脱臼はたいてい大腿骨頭の骨折を伴っている。

              ー

成牛の股関節脱臼は予後は厳しい。

しかし、発症から早ければ整復して治癒させられる可能性がある。

現場ではX線撮影も無理なので、確定診断はできないのだが、外貌と触診と動きの様子で判断し、できるだけ早く対応しなければならない。

人力でやるのはかなり厳しくて、農場の人にも説明してトラクターや牽引ロープで”作業”することになる。

              ー

ただ闇雲にひっぱれば良いというわけではない。

どちら側へ脱臼していて、

骨盤と大腿骨頭がどういう位置関係にあり、

だから、飛節を内旋させることで骨頭が股関節臼にはまり込むようにもしなければならない。

日頃から文献を読んで勉強していないと、やろうとすることさえできないだろう。

やろうとしてできなかった経験も生かさないとならないだろう。

そして、始終が動画撮影できていて、それを公開してくれているのも素晴らしい。

              ー

動画を観て、私は感動した。

酪農家が言っている、

「十何年農家やってるけど(股関節傷めた牛が治るの)初めてだよ。

やっぱり獣医さんなんだよね~」

クライアント(顧客、依頼主)にこう言ってもらえる、こう思ってもらえる仕事をしたいものだよね。

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藤倉英幸さんの絵を見てきた。

日高の馬がいる風景を描いた絵もあった。

貼り絵なのだそうだ。

 

 

            

              

 


足根下腿および近位足根間関節滑膜隔壁の血管分布と鏡視下切開

2024-10-15 | 関節鏡手術

近位足根間関節へ落ち込んだ骨軟骨片の取り出し方について書いたと思ったら、

Vetrinary Surger, 2024;53; 999-1008 に

馬の足根下腿および近位足根間関節隔壁の脈管把握、そして2法の鏡視下切開手技の相対評価

なる論文が掲載されている。 

            ー

抄録

目的:足根下腿関節と近位足根間関節を分ける滑膜被覆隔壁の血管分布を調べ(part1)、2種の切開方法、電気メスあるいはFerris Smith rongeurを比較すること(part2)

研究デザイン:実験研究

供試検体数:part1、解剖検体から取り出された滑膜被覆隔壁はそれぞれ8つの部位に分けられ、検索検索用に処理され、血管同定のために抗αアクチン抗体で免疫染色された。

血管の密度はそれぞれの部位について計数された。

データは個体ごと、そして馬間で比較された。

part2では、6頭の馬に足根下腿関節の関節鏡手術を行った。

各肢は無作為に電気メスかFerris Smith rongeur 切開に割り付けられた。

滑膜被覆隔壁切開と総手術時間が記録された。

手術中の出血は点数化された。

データは2法間で比較された。

結果:滑膜被覆隔壁の血管分布には明らかな個体差があった(p=0.02)、しかし部位間では差は認められなかった。

電気メス(4.83±0.54分)とFerris Smith rongeur(4.33±0.67分)間には切開時間に差がなかった。

手技間で術中出血に差は認められなかった。

結論:滑膜被覆隔壁内の血管分布は馬により異なっていたが、部位内では差がなかった。

足根下腿関節鏡手術中、滑膜被覆隔壁内側の電気メスあるいはFerris Smith rongeur切開は迅速な手技で、近位足根間関節の背側腔へのアクセスを改善する。

             ー

Synovial Membrane Septum 滑膜隔壁とはこのSMS部分。

飛節の中で足根下腿関節(距骨と脛骨の関節)と近位足根関節を不完全に分けている。

かならずポケットがあるので、そこからOCDの骨軟骨片が近位足根間関節へ落ちていることがある。

世界中の馬関節鏡外科医が身構えて手術したり、苦労したり、摘出をあきらめている。

滑膜隔壁を切開する方法はあるが、出血が多くなることがある。

それで今回の研究が行われたわけだ。

Canada Quebec州のMontreal大学からの報告。

私は、11番ブレードで切っているし、4分もかからない。

             ー

上図が滑膜隔壁 SMS と、8部位への分け方。

上図の下は、αアクチン免疫染色により血管の平滑筋細胞がピンクに染まっている。

けっこう血行がある組織だ。

出血が多くなることはあるが、それはたまたまで血管分布を気にしても仕方がないようだ。

            ー

関節鏡手術用のFerris Smith rongeurはとても高い。

たぶんすぐに切れ味が落ちるだろう。

電気的切開器具は、いろいろあるがFerris Smith rongeurよりさらに高額。

No11ブレードは100円くらい;笑

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ニセコの秋を歩いてきた

向こうは、アンヌプリと後方羊蹄山(マッカリヌプリ)

 

 

 

 

 

 

 


空腸上位腸間膜裂は結腸を空にすることで縫える

2024-10-08 | 急性腹症

朝、出勤したら手術室で開腹手術が始まるところだった。

血液(所見)は悪くないが、痛みが強い、とのこと。

6年前に小腸纏絡で8m切除・吻合している16歳の繁殖牝馬。

小腸が素直に出てこない。

私も手洗い(手指洗浄消毒と手術用手袋装着)して助手にはいることにする。

           ー

回腸から辿って、どこかへ入り込んでいた空腸は抜けたみたい。

腸間膜には、前回の手術のときに縫合閉鎖した腸間膜に孔が残っていたので縫って閉じる。

空腸の最上位の腸間膜にも孔が見つかった。

この繁殖牝馬、前回の手術後は疝痛もなく順調で、産駒も獲れている。

今年も受胎済み。

しかし、今年のお産後は4回ほど疝痛を起こしているとのこと。

今年の分娩で空腸上位の腸間膜が裂けたのだろう。

           ー

colon tray (結腸を切開するために載せる台)を用意してもらい、大結腸を馬の右へ引っ張り出す。

骨盤曲を切開して、腹腔内の大結腸まで完全に空にする。

この空腸最上位の腸間膜裂孔は、結腸を空にすることで縫合閉鎖できる。

もう1人助手に入ってもらって、腹腔内で大結腸を押しのける。

小腸はできるだけ術創外の尾側へ出しておいて、空腸最上位の腸間膜裂孔を・・・・

と思うが、裂孔の端を確認できない。

空腸が捻れている。

もう一度、回盲部から小腸を上位へ辿ると、まだ腸間膜裂孔をくぐっていたのだった。

それを整復することで腸間膜裂孔の端を確認できるようになった。

           ー

あとは縫って閉じるだけ。

腸間膜裂孔の端を通っている血管をひっかけて出血したが、指で押さえて止血し、縫合閉鎖を続ける。

縫い終わって確認すると血腫になっているが、出血は止まったようだ。

           ー

腸間膜にはもう一つ孔が開いていたので、それも縫って閉じた。

あとは閉腹だけ。

小腸そのものは腸間膜ヘルニアで絞められたダメージはほとんどない。

また生き延びるだろう。

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腐り始めていたウッドデッキの手すりと踏み板を除去した。

踏み板は、サイズがちょうどの板は売ってないので、丸鋸で切って幅を合わせて、塗装して、コーススレッドで留めた。

手すりは横木はスギの2バイ材を塗装してはめた。

接触部分はエポキシ剤で埋めておいた。

縦の柱は4バイ4材を切って、縦の荷重に耐えられるようにした。

接触部分は木工用ボンドで水が染みこまないないようにした。

傷んでたんだ。何もなかったようには治せない。

できるだけ長持ち(長生き)させる。

そのことがたいせつ。