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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

極寒体験

2019-02-10 | 想い出

-20℃。

このあたりとしては記録的に寒い。

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こういう寒さを経験したことがない人は、-10℃も-20℃も凍ってしまえばかわらない、と思っているかもしれないが、

20℃が快適でも30℃が暑いように、マイナスでも10℃の差は大きい。

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私が大学時代をすごした帯広は冷え込む街だった。

真冬になると毎日マイナス20℃近くなる日が続く。

気象情報で発表される帯広の気温は、市街中心地近くにある帯広測候所のもので、帯広畜産大学は町外れにあるのでそれより何度か寒い。

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私は山岳部員で、冬山登山もしていたのでずいぶん寒い思いもした。

日高山脈へ深く入り込む林道の奥は畜産大学周辺より寒いし、そこから山に登ればさらに気温は下がる。

それでも、最も寒いと感じたのは日高山脈の山中ではなく、真冬の層雲峡へ行ったときだった。

120mほどある銀河の滝が凍る

それを登りに行って、銀河の滝の対岸でキャンプした。

冬用のシュラフ(寝袋)に、ヒマラヤ登山用のダウンジャケット(羽毛服)を着て寝ていたのだが、寒くて眠れなかった。

たぶんー30℃を超えていたと思う。

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帯広畜産大学に入学して冬になると、本州から来た新入生は先輩に特別な防寒対策が必要であることを教わる。

帽子、手袋、雪道用の靴は必須で、それはファッションじゃなくて、凍傷にならないための必需品なのだ。

                 ー

春じゃない冬の実習生が来始めた。

宿泊施設の水道が凍って水がでない。

部屋も寒い。

実習生のみなさん、防寒具はしっかりしたものを持ってきて下さい。

本州は温帯(近年の本州以南の夏は亜熱帯だと思った方が良いが)ですが、

北海道は亜寒帯です。

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こんなに寒いんだから!;笑

対策さえしておけば気持ちよい爽やかさを楽しめる。

                 

                 

 

 

 

 

 


初生雛雌雄判別と個体診療の狭間

2016-05-26 | 想い出

小学校2年生まで住んでいた家の、2軒向こうにひとつ年上のMH君の家があった。

MH君は、夜店で色つきのヒヨコを買ってきて、家の前に小屋を作って飼い出した。

なんと卵を産むようになったので、オスとメスだったのだ。

朝から、コケコッコーと啼いていたが、現在ではあんなことは近所迷惑で許されないだろう。

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その卵を産んだのを小屋の外から見ていると、メンドリが卵を自分で割ってしまうことがあった。

「外敵にとられるくらいなら自分で壊してしまった方がまし」という本能なのか、

「外敵に狙われるもとになる卵は処分してしまわないと、自分の身も危ない」ということなのかわからないが、

出産した動物はそっとしておいてやった方が良い、という私の産科学上の考えの元になっている経験だ。

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話がそれた;笑

夜店で売っていたカラースプレーされたヒヨコは、本当は雌雄鑑別済みで、オスだけなのが本当なのだと思う。

初生雛鑑別師という民間資格があって、生まれたヒヨコの肛門を目視で判別し、オスメスを判定する技能が資格になっている。

肛門の形状でヒヨコのオスメスを判別するのは日本で考案された技術で、日本人の初生雛鑑別師は優秀で世界中で仕事をしてきたそうだ。

ヒヨコは孵化後4-6週間経つとオスメスの特徴が表れて誰でも区別がつくようになるが、それではオスのヒヨコも1ヶ月以上育てる「無駄」がおこるので、

生まれてすぐにオスメス判別して、産卵鶏にならないオスは処分したい、というのがオスメス鑑別師の存在理由のようだ。

採卵用種のニワトリは、鶏肉にするにも効率が悪いので、オスはできるだけ早く処分したいらしい。

2つのダンボール箱にオスとメスを放り込み、オスの入ったダンボール箱はそのまま焼却炉に入れると聞いたこともある。

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今は品種改良が進み、オスとメスは羽毛で区別がつくようになっていて、初生雛鑑別師の需要は落ちているとも聞く。

いずれにしても生きたまま燃やされるヒヨコがなくなるような技術が開発されないものかと期待する。

初生雛のオスメスの鑑別というのはとても獣医学的な技術のような気もするが、私はやってみたいとは思わない。

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獣医学教育では、ニワトリの病気も学ぶし、ニワトリの解剖もした。

しかし、産業の中ではニワトリは個体診療の対象にはならない。

伝染病管理が養鶏に関わる獣医師の大きな責務だろう。

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養豚でもブタは個体診療はほとんど行われていない。

私は昔、ブタの難産で呼ばれたり、学生のときも豚丹毒のブタを診に少年院へ往診に行ったことがあるけど・・・

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大学院生だったとき、私の修士論文研究の最初のテーマは乳牛の第四胃変位だった。

その頃、第四胃変位についての文献を渉猟した。

北米の大型酪農ではすでに第四胃変位の手術は行わないで淘汰する、という農場もあった。

1000頭搾乳していたら、400頭以上メスが生まれる。「ヨンペン」になるような牛に高い獣医代をかけて治療するより、「処分・淘汰」というのがカリフォルニアなどの大規模酪農場の実状だという情報もあった。

そして、それから30年。

北海道でもメガファームと呼ばれる大型酪農場が登場している。

しかし、私はそういうところを相手に獣医師として働かずに終わりそうだ。

「絶滅危惧種」などと言われながら、サラブレッド生産地で大動物臨床獣医師として働いてこれて、良かったな、ありがたかったな、と少し思っている。

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今住んでいる家に引っ越して13年。

そのときから家の周りに勝手に咲くオダマキ。

少し減った気もするが、世話もしないのに毎年咲いてくれる。

去年は初めて種を採ってポットに蒔いてみたが発芽しなかった;涙

リンゴの樹は私が植えた。

何年か後から花が咲き、実をつけるようになった。

だけど、相棒が1本を枯らしてしまったので、残ったこの1本のリンゴも受粉できず実がならなくなった。

年数が経つのはたいへんなようで、でも速い。

 

 


20年前に他の地域の大動物診療について気になったこと

2015-07-12 | 想い出

もう20年以上前だろう、遠方の農業共済組合が獣医師を研修に寄越していた。

何名かの獣医さんが交代で数日間ずつ滞在していった。

若い先生だけではなく、40を超えた診療所長クラスの獣医師も来ていた。

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そのかなり年配の先生が、まだ30前後だった私の手術を観て、

「メスの持ち方が違う」

とおっしゃった。

「ハアッ?」という感じだった。

メスの持ち方には何種類かある。

目的にあった持ち方をすれば良いのだが、その先生は数種の持ち方をご存知なかったのだろう。

指導する立場になるには、自分がやっている方法だけでなく幅広く基本を身につけておきたいものだ。

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その年配の先生は、北海道へ来て風邪気味だったらしく、薬品棚の動物用アンピシリンを私に打ってくれという。

「イヤですよ」と断った。

ペニシリンショックを起こして死なれたら「頼まれました」では済むまい。

奥さんは看護婦さんだそうで、風邪をひくといつも奥さんにうってもらうとのことだった。

ほとんど全ての風邪は細菌感染を伴わないウィルス感染で、抗生物質投与は意味はない。

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牛の第4胃変位の手術で閉創していたら、

「丁寧に縫うんですね。私達は4糸くらいしか縫いません。」とのことだった。

「それで癒合しますか?」と尋ねたら、

「いいえ、癒合しません。でも、イイんです。」という答えだった。

何がいいんだろう?

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抗生物質も注射投与せず、バイアルの蓋を開けて、粉を傷口にふりかけるとのことだった。

アンピシリンの注射薬は液に溶かしてさえも、傷につくととても染みて痛い。

それで、筋肉注射するより静脈内投与してやりたいと私は思っているが、その遠方の診療所がどうして粉のままふりかけるのか聞いてみる気もしなかった。

たぶん、注射用シリンジや針の費用が惜しいとか、手術時の抗生物質投与は保険給付にならないから、という理由だったのだろう。

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その地域の家畜診療のレベルはあれから向上したのだろうか。

ふと、思い出して気になった。

月末、全国の若い産業動物の獣医さん相手に数時間の講習をしに行く。

ちゃんと準備して、まじめにがんばろうと思う。

へたしたら35℃を超える真夏日になるらしいけど;笑。

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きょうは、当歳馬の両前肢球節内反の矯正手術 single screw。

2歳馬の前眼房出血の検査。

午後は、当歳馬の球節内反の矯正手術をもう1頭。

1歳馬の腰痿の頚椎X線撮影。

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好天続きで牧草はとてもよく乾燥して輸入牧草のような色に仕上がっているそうだ。

うちの芝生(ただの雑草だけど;笑)は刈ったあとは茶色い。

海が見える広い芝生(ただの雑草だけど)で用足しする幸せな犬。

ナッ?!

 

 


特急「日本海」

2011-12-18 | 想い出

120pxnihonkai2425_2 特急日本海が廃止されるそうだ

帯広で学生生活をした私は何度も利用した。

近畿地方の周遊券を買うと乗車券と急行券が含まれていて、往復できた。

急行「北国」で移動したこともあったが、青函連絡船との乗り継ぎも悪く、時間がかかるので疲れ果てた。

帯広を夜行の急行「からまつ」で夜に出ると朝札幌へ着く。

そのまま汽車に乗って、昼が函館。

Photo 青函連絡船に乗って、夜に青森で特急「日本海」に乗ると、あとはそのまま乗っていれば大阪に着けるとホッとしたのを覚えている。

それでも日本列島の半縦断はひどく長く、青森を抜ける頃にはもううんざりしていて、そのあと秋田、山形を抜け、新潟、富山は真夜中で、琵琶湖畔を走る頃にはもう寝てもいられない。

 それでも夜行寝台なのは助かった。一度、日中日本海側を北上したこともあったが、一日中座っているのには辟易した。

新幹線や、夜行バスや、安価なホテルや、航空券の割引販売に押されて「日本海」は消えるらしい。

それもまた、時代の流れなのだろう。


第三なんとかコツ

2011-01-04 | 想い出

獣医師になった年、診療所長が休養馬のx線撮影を頼まれたので手伝いに行った。

「おい、第三なんとか骨が傷んでるんだと。」

と言われてもどこを撮って良いのか私もわからなかった。

第三なんとか骨は・・・・・

第三頚椎、第三胸椎、第三腰椎、第三尾椎、第三肋骨、第三手根骨、第三中手骨、第三指骨、第三足根骨、第三中足骨、第三趾骨・・・・・こんだけかな?

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 まあ、今なら見当はつく。

競走馬の骨折で多いのは、前肢の腕節か球節。

第三中手骨が骨折していたらキャスト(ギプス)も付けずにいることはないので、おそらく腕節の第三手根骨の骨折だと競馬場で言われて帰ってきた競走馬だったのだろう。

腕節を触診すれば腫脹、熱感、関節液の増量などがわかったかもしれない。

速歩させてみれば、跛行の程度もわかっただろう。

 生産地の獣医師としての1年目、私にはそんな知識もなかった。

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もっとも25年前だ。

レントゲンは自動現像機のスイッチを入れて現像液を温めてから暗室に入って現像しなければならず、うまく写っているかどうかはドキドキものだった。

関節鏡手術はUSAで始まったばかりで、関節切開しての骨片摘出術の予後は良いとは言えなかった。

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 自分がどういう順序で、どうやって臨床解剖学の知識を増やしてきたか、もう忘れてしまっているが、

思い出せるなら書き留めておこうと思う。

(下図はGoodyの「Horse Anatomy」より)

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