牛の前十字靱帯断裂を診断しても治療方法がないのでは仕方ないじゃない、と言う人もいるかもしれない。
外科的治療が可能だろう、という国内文献を紹介しておく。
この当時、鹿児島大学におられた田浦先生らの報告
日獣会誌 39 80~85 (1986)
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私が臨床獣医師になった頃の論文。
9歳と10歳のホルスタインで前十字靱帯断裂症例を経験し、実験牛2例(黒毛和種300kgと160kg)で外科手術方法を検討し、症例でも手術実施したとの報告。
関節鏡もなく、X線撮影の手間や画像の質も現代のようではなかった時代の臨床研究。
しかし、”熱い”ものを感じる。
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イントロ部分で、乳牛の前十字靱帯がかなり多いことが述べられている。
さらに、膝の跛行や、原因不明の起立不能の中に前十字靱帯断裂がかなり潜在しているであろうことも述べられている。
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行われた外科手技については、現代の牛の外科学でも採用されるべきものなのかどうか私にはわからない。
今なら、ヒトの前十字靱帯再建手術に準じて、関節鏡視下でもっと外科侵襲を小さくして手術することが可能なのではないだろうか。
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2症例や実験牛2例の経過や予後についても詳細は書かれていない。
症例牛は管理失宜により大腿骨骨折したと書かれているが、いつ、どのような経緯で、どのような骨折をしたのかも書かれていない。
このような外科侵襲が大きく、膝関節を大きく切開し、靱帯を再建?する外科手術を行うと、術後の疼痛や運動機能喪失(負重困難、伸展・屈曲制限)もかなり大きいはずだ。
”管理失宜”がなくても、大腿骨の致命的骨折のリスクはかなり大きいだろうと思う。
ヒトは関節鏡視下で行った前十字靱帯再建手術のあとも、1週間は入院して過ごす。
膝部には装具を着けて、伸展も屈曲も制限される。
腫れが少しは減るのを待って、少しずつリハビリを始める。
最初はマッサージとわずかずつの屈曲から。完全伸展はしてはいけない。
1日数回のアイシング。
これらのリハビリや術後管理は大動物では望むべきもない。
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この症例報告と実験手術は、牛の前十字靱帯断裂の外科治療の可能性を示しているが、まだまだ実践されるためにはもっと基礎研究と術後管理のHow to の確立が必要だろうと思う。
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かつて評価が高かったので読んでみたいと思っていた。
しかし、司馬遼太郎「関ヶ原」との類似点が指摘され、著者側が出版を中断し、販売もされなくなった。
・・・・と思っていたら、文庫化もされて売られているようだ。
司馬作品の著作権が・・・・切れてはいないと思うけどな。
この「島津奔る」の作者ももうとうに亡くなっている。
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歴史小説としては、かなり面白かった。
著者の、歴史上の人物への評価がかなり述べられているが、もっともだと思う部分もありながら、
歴史上の人物への侮蔑、嫌悪が鋭い部分もあり、どうかと思わされる。
そしてご自分が盗作まがいのことをしてしまっては・・・・・
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薩摩、現鹿児島の土地柄、地域性、風土、人心、というようなものを感じることができたのは楽しかった。
日本の近代史を考えるなら注目すべき部分ではないかと思わされる。