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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

蹄癌Canker と牛パピローマウィルス

2012-10-30 | 蹄病学

P5220372 蹄癌、英語ではCanker と呼ばれる。

Cancer 癌。から来ているのだろう。

紙縒り(こより)状の異常な組織が蹄底や蹄叉に増殖し、

切除しても、消毒しても治まらず、馬は跛行し、治せない。

それゆえに蹄癌と呼ばれている。

  左の写真は競走馬で、切除と消毒を行ったが良くならなかったので、

Maggot therapy ウジ虫治療を行っている経過中の写真。

蹄癌の組織にはtreponema様の螺旋菌が見つかり、その感染がこの特徴的な病態を作り出すのではないかと考えられている。

できるだけ外科的に異常組織を切除すること。

有効な抗生剤を使うこと。

Maggotに病原菌を食べてもらうこと。

が、現在の最も有効な治療ではないかと考えている。

 しかし、最近、蹄癌が牛パピローマウィルスに関係しているのではないかとの研究発表・報告が行われている。

Franのブログにも紹介されている(とても重いブログなので、ネット環境が良くないなら覗かないほうが良いです。英語ページです。)

馬の皮膚に多い馬類肉腫 Equine Sarcoid は牛パピローマウィルスが引き起こすことがほぼ証明されている。

蹄癌も。となると、頚をかしげてしまう。

 牛でもフリーストール(乳牛をつながず、広いコンクリート床の牛舎で飼う)で、趾間に肉芽を形成する病気が問題になり、螺旋菌の関与が疑われている。

そんなこともあって、馬の蹄癌も螺旋菌が病原体だと思っていたのだが・・・・・

 馬の蹄癌に牛パピローマウィルスが関係していると報告したグループは、馬Sarcoidにも使う化学療法剤を使って、蹄癌に効果があったことも報告している。

蹄癌の治療もまた考え直す必要があるかもしれない。

 馬の蹄癌は、蹄を不潔な状態にしておくと起き易いので、清潔にすることで予防するのが一番なのは間違いない。

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新ひだか町周辺の方は、こちらのHPはぜひ今晩覗いてみていただきたい。

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側頭骨舌骨関節症の角舌骨摘出手術

2012-10-27 | 整形外科

Photo 側頭骨舌骨関節症は不思議な病気だ。

もともとは舌骨と側頭骨の関節炎が起こるらしい。

そして、関節が癒合してしまう。

小さい関節でも関節炎を起こしたら痛みの症状がありそうなものだ。

関節が癒合したことで、舌骨に無理な力がかかり、左のX線の馬などは茎状舌骨が折れた痕がある。

そのときも症状が出ていたのではないかと思うが、以前に不調の履歴がない馬が多い。

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側頭骨舌骨関節が癒合すると、舌骨の動きで側頭骨が折れ、炎症や骨増勢が起こると、脳神経を障害し、

耳の麻痺、瞼の麻痺、顔の麻痺、舌の麻痺、嚥下障害、前庭障害、などが起こるとされている。

側頭骨が折れたら痛みが出そうなものだが、以前に不調の履歴がない馬が多い。

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そして、瞼の異常や、耳の異常が最初に気づかれることが多いようだ。

しかし、前庭障害が最初で、斜頚により気づかれる馬もあるようだ。

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昨年、秋に繁殖雌馬を手術したと思ったら、今年の春に乗馬がこの手術のためにやってきた。

この秋、やはり本州から乗馬が手術のためにやってきたと思ったら、

関西の乗馬で「らしき」馬が2頭ほど見つかったそうだ。

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とくに高齢馬に多い病気ではないようだ。

しかし、発症までに数週から数ヶ月はかかるのだろうから年齢はひとつの発症要因だろう。

生産地には高齢の繁殖雌馬もかなり居る。

にもかかわらず、乗馬でこれだけ見つかるのに生産地ではあまり診たことがない。

気づかないだけか?

 乗馬に多いとしたらなぜだ?

頭から水をかけて洗うので、耳に水が入り、中耳炎から側頭骨舌骨関節炎を起こすのか?

頚の屈橈が側頭骨舌骨関節に負担になるのか?

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ステロイドや抗生物質などの内科治療に反応することもあるようだが、実際には外科手術しかない。

治療しないと、眼は角膜炎を起こし、眼球摘出を余儀なくなれる。

嚥下障害から誤嚥性肺炎を起こす。

前庭障害から起立不能になる。

などして、予後は厳しくなる。

                          -

P5302232 左は手術の練習で解剖体から取り出した角状舌骨。

底舌骨と茎状舌骨をつなぐ部分である角状舌骨を摘出することで、患側の茎状舌骨は動かなくなり、

側頭骨と脳神経がダメージを受けなくなる。

これらの角舌骨はちゃんとまっすぐで、両端に関節面を持っている。

                          -

Pa263196 今回の症例の角舌骨は、生えている方向もヘンだった。

底舌骨との関節面もわからなかった。

触っても妙に太く、角舌骨かどうか確信が持てなかった。

それでも何とか底舌骨と角舌骨の間を切り離したが、角舌骨から周囲の筋肉をはがそうとしても、骨ノミで剥がして行くことができなかった。

あまりに妙な形をしていて、この骨に沿って骨ノミを動かすことができなかった。

                          -

Pa263200 そして、取り出してしげしげと眺めてみると、

角舌骨の奥1/3あたりにくっついているのは、どうも元々の底舌骨との関節面だ。

つまり、この角舌骨はかつて、完全にボッキリ折れて、

2つ折りになって、また骨癒合したのだろう。

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そんなことが起きているのに、症状も現さない。

舌骨がそういう骨なのか、あるいは動物のたくましさなのか・・・・・

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今日は、競走馬の去勢。

腰萎の2歳馬のX線撮影。

衝突した当歳2頭の診察とX線撮影。

1歳馬の開腹手術。

                       -

Pa273212 秋だね~

日向ぼっこが気持ちいいね~

え?

オラは・・・

もちろん食欲の秋さ~

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hysto- 子宮の

2012-10-25 | 日常

今日は、hysteroscopy。

hystero- は「子宮の」を意味する。

だから、子宮内視鏡検査。

ヒステリーはかつて女性は子宮があるから起こすのだと考えられていた。

これは失礼な話だ。

男だってヒステリーを起こす奴はいる。

                          -

それから会議。

                          -Pa253185

帰ってきて釘傷からの蹄底膿瘍。

装蹄師さんと相談し、協力しながらやる。

全身麻酔したり、血が出る部分を切ったり、X線を撮ったり、抗生物質を使ったりは獣医師の領分だ。

しかし、あとあと管理したり、装蹄したりは装蹄師さんにやってもらわなければならない。

お互い理解し尊重しあえば、協力して良い仕事ができるはずだ。

                          -

夕方、2頭目のhysteroscopy。

午前の馬も、午後の馬も、子宮内膜にcystがあったのでlaserで破砕した。

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夜明けの海辺は・・・・・

Pa253184

オラ、ハラ減った。

帰ってゴハンちょうだい。


DDSP & ADAEF なんのこっちゃ

2012-10-24 | 呼吸器外科

朝、当歳馬の腰萎のX線撮影。

続いて、地域外からのX線撮影。

午後は、2歳馬のDDSP&ADAF。

DDSPはDorsal Displacement of Soft Palate.

長らく「軟口蓋背方変位」と呼ばれてきたが、Dorsal は他の用語でも背側と訳されるので、

「軟口蓋背側変位」と呼びましょうという日本獣医学会の意向のようだ。

そんなモン知らん。と日本の馬医者さん達が言うならそれはそれで;笑。

                        -P6200686

ADAFは聞き慣れないかもしれない。

(右)

Axial Deviation of Aryepiglottic Folds

Arytenoid は披裂軟骨。

epiglottis は喉頭蓋。

「披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位」 と訳されることになるのだろう。

                       -

香港でDixon先生はADEFと呼んでおられた。

う~ん、ADAEFが良いかもしれない。

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この障害は運動中の喉頭を内視しないと、安静時の検査ではまったく診断できない。

運動中の喉頭を内視できる装置が利用できるようになってきたので、これから診断される症例が増えていくだろう。

手術はLaserでやるなら、立位でできる。P6200683

(右)

馬の保定者。

ヴィデオスコープとlaserの操作者。

ユニバーサル鉗子の操作者。

ヴィデオスコープを鼻に挿入する人。

の4人が慣れてないとなかなか難しい。

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今日は、立位で披裂喉頭蓋ヒダを切除しておいて、P1171711

その後、吸入麻酔してTieforward手術を行った。

右はEquine Surgery 4th ed.に載っている糸の通し方。

もちろん今日は、香港で習ってきたサラに新しい方法で行った。

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Pa243170Pa243177 とうちゃんッ!

オラを家に入れるように言ってくれ。

結露取りも手伝うゾ。

オラが舐めればきれいになるゾ。

Pa243172 Pa243176_2 「そんなデッカイ骨もらってるワンコいないんだから、

大人しく外で遊んでなさい。」

そうか~?


miscellaneous いろいろ

2012-10-23 | 日常

きのう、朝、1歳馬の去勢。

Henderson式くるくる去勢。

当歳馬の腰萎のX線撮影。

DRを使うようになったら当歳馬ならポータブルX線撮影装置で頚椎の形状は撮影できるようになった。

ただし、大型X線撮影装置で撮るような画質は望めない。

午後、腕節の血腫の切開手術。

夕方、鹿に驚いて暴れて転倒し、後頭骨の骨折を含めた外傷。

どうやら皮膚も欠損したらしく縫合できず。

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その後、側頭骨舌骨関節症のための角舌骨の摘出手術の練習。

そのために研修に来ている獣医さん1名。

私も今週、その手術を予定しているのでよい勉強になった。

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今年は学生実習生は少なかった。

しかし、変り種の研修者が多かった。

ハンガリー大学からとか、某国立大学教官の先生とか、タイの獣医さんとか、競馬場からとか、etc.

まあ、私たちそのものが相当かわった仕事をしているから;笑。

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症例があって、その手術手技を習いにすぐ職員を派遣できる職場も素晴らしい。

臨床にはそういうスピードと決断が必要だ。

できる方法を考えないで、できない理由ばかり数えている〇〇〇のいかに多いことか。

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今日は繁殖雌馬の下顎にできた腫瘍の摘出手術。

注射するのも苦労する馬だそうだが、なんとか立位でできた。

そのあと、1歳馬の去勢。

午後、3歳競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

夕方、当歳馬の後肢の外傷。