馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

navicular bone

2008-07-31 | 蹄病学

navicular bone 舟状骨。

「とう嚢骨」とも呼ばれる。この「とう」の字は簡単には変換できない。「ふねへん」に「かたな」と書くのが正しい。のか?

遠位種子骨と呼ぶのが解剖学的には正しいのかもしれない。

                               -

体の中には引っ張られるだけの骨もある。膝蓋骨や、近位種子骨、遠位種子骨などは、それぞれ後膝の前、球節の後、蹄関節の下で、引っ張られるだけだ。

関節の前や後を腱や靭帯が通っていると、関節の屈曲と骨との摩擦から腱や靭帯を守るために、腱や靭帯の一部が骨になって、関節を作っているところがある。

その骨が膝蓋骨であり、種子骨だ。

                               -

navicular bone 遠位種子骨は、とくに蹄踵部に負重するときに、蹄骨まで至っている深屈腱が、押しつぶされないように、そして、伸展する第二指骨と第三指骨(蹄骨)の関節と深屈腱が擦れないように働いている。

navicular bone が支点になることで、深屈腱は効率良く蹄骨を引っ張ることができる。

ところが、

いつもいつも踏みつけられて、引っ張られてばかりいるものだから、navicular bone とそれを取り巻く関節が炎症を起こしたり、関節症を起こしてしまうことがある。

障害競技馬のように着地の衝撃が繰り返しかかりすぎたり、

蹄角度が寝すぎていてnavicular bone がつぶされるような蹄形の馬に多いとされている。

繋(蹄?)が立った馬でも起こるそうだ。その理由は私にはわからない。

そして、老齢馬にも多いようだ。

                               -

だから、乗馬の世界では非常に多いようだが、

年齢が若い競走馬や、運動負荷がかけられていない繁殖雌馬では、ほとんど診たことがない。

ところが・・・・

(つづく)

                               -

小さい骨でもたいへん大切。

                               -

080730 いや、リリースしようと思ったんですよ。

でもできなかったんです。

娘がたべたい!と言ったので、

塩焼きにして食べました(笑)。

                               -

今日は、重種馬の臍ヘルニア2頭。

午後は急患として1歳馬の回盲部閉塞。

さらに、当歳馬の疝痛。


リフォーム

2008-07-28 | 日常

P7260282 P6280233

リフォーム工事を経て(左)、

新装開業しました!(右)

ってどこが?

え~っと・・・・

でも、まあ、以前より快適になったはず(笑)。

どこのNOSAIでも、臨床実習生は受け入れても構わないと思っている。はず。

しかし、困るのは宿泊施設なのだ。

学生達には旅館の宿泊費や食事代は高すぎる。

P7270291業動物獣医師の確保が地域の重要課題なら、考えなければいけないことのはずだ。

                               -

馬降ろし場に、私の日曜大工で(本当に日曜日だった!)

夜間照明をつけてみた。

さて、役に立つかどうか・・・・

夜の急患が楽しみだな(笑)。

              -

今日は、1歳馬の種子骨骨折の関節鏡手術。

午後は競走馬の腕節剥離骨折の関節鏡手術。

昼夜放牧している1歳馬の外傷縫合。

競走馬の喉の内視鏡検査。

1歳馬の腰痿のx線撮影。

曇りの天気予報だったのに! 大雨じゃないか!

                               -

各地で大雨と川の増水による事故や被害が起きている。

金になる針葉樹ばかり植えているので、、山は保水力を失って川がすぐ増水する。

山の木を切ってしまっているので川はすぐ泥を含んだ濁流になる。

街も川もアスファルトやコンクリートで固めているので、雨はすぐ川をあふれさせる。

地元の年寄りに聞いて見ると良い。

昔は川の水量は安定していて、すこしの雨くらいで濁ったりしなかった。


nationalism 国家主義ではなく愛国心

2008-07-27 | How to 馬医者修行

 もう少しで北京オリンピックが始まる。中国上げての大イベントになるのだろう。

なりふり構わない中華思想発揚の場になるのかもしれない。

4年に一度のスポーツの大会だ。

競技の結果はともかく、フェアな大会になって欲しいものだ。

                               -

 インターネット上で獣医科学生さん達のやりとりを見ていると、日本の馬の臨床は欧米に比べてレベルが低すぎて・・・・などと書かれていることがある。

もう20年以上も馬の臨床に身を置いている立場としては耳が痛い話だ。

そして、現状は認めながらも、現状に甘んじているわけにはいかない。

世界に遅れずに、ついて行かなきゃ!

それが馬医者の nationalism 。かな?

                              -

Photo 夏の実習生第二陣がやって来た。

羽田→千歳は1時間に1便飛んでいる。

しかし!

千歳から日高へはバスもJRも数本しかない。

バスかJRの時間にあわせて飛行機を予約した方が良い。

                              -

                              -

馬の疝痛についてのシンポジウムの抄録集を読んでいる。

  motility 運動性。腸管の運動性もこう表現する。

  mortality 死亡率。

  morbidity 病的状態。罹患率。

いまだに混乱する・・・って歳のせいか?(笑)

  抄録集を見れば、世界中には私が考えていることをすでに具体化している「仲間」がいる。

それを日本でやるのは、もう私の世代ではなく、研修・実習に来る人たちだろう。

そう思うのも私の nationalism 。かな?


下顎骨折

2008-07-26 | 整形外科

Dsc_0015 馬は下顎を折ってしまうことがある。

たいていは蹴られて折れるのだと思う。

まれに馬栓棒で遊んでいて、びっくりしたときに顎を折ってしまうこともあるようだ。

しかし、その場合はたいてい切歯骨の骨折で済むようだ。

下顎体の臼歯部の骨折でも、ひびが入っただけなら、数日で痛みが消えて咀嚼もできるようになるが、完全に折れてずれているようだと内固定することを考えなければいけなくなる。

Dsc_0008 左の下顎骨体が完全に折れて切歯骨側が内側へ変位している。

骨折線に骨のみを差し込んでなんとか整復する。

本当は、永久歯の歯槽にはスクリューを入れたくない。

プレートで固定する以外の方法もいろいろ考えられてもいるが、

結局、プレート固定が一番しっかり固定できるように思う。

DCP(ダイナミックコンプレッションプレート)を使うので、スクリューを入れること自体で骨折線を圧迫できる。

Dsc_0009 プレートの下顎骨の下側に入れるか、外側に入れるかはそれぞれ利点と欠点がある。

(左の写真では内側へ入れている。美容的には利点があるが、スクリューをプレートに入れにくい。)

口の中から感染がプレートの周囲に広がることを警戒しなければいけないが、骨折してから短時間にしっかり固定できればほとんどの症例で問題にはならない。

                                                                      -

左右両側の下顎骨を骨折することもある。そうなると、馬は痛くて、顎が不安定で餌を食べられない。

選択の余地はない。時間が経つと、骨がずれ、感染が広がり、腫れあがってプレートを入れても皮膚が寄らなくなる。

そうなる前に、固定手術するしかない。

                               -

P7260284_2今日は夏らしい1日になった。

隣町では夏祭りが行われていた。

短い夏の始まりだ。


盤状骨折 slab fracture

2008-07-25 | 整形外科

slab fracture 厚い板状に骨が剥がれてしまう骨折をいう。「板状骨折」と書く人もいるが、「厚い」板という点では「盤状」かなと思う。

治療するならスクリューで固定しなければならない。

剥離骨折 chip fracture だと思われて連れてこられることがあるが、やはり剥離骨折より腫れもひどく、痛みも強いことが多い。

P7240276 AO式馬の骨折治療の教科書の表紙の絵もこの骨折の内固定手技だ(左)。

関節鏡とスクリューの両方を使う手術なので、現在の馬の整形外科の教科書にはふさわしいのかもしれない。

関節鏡で関節腔内を見ると第三手根骨が割れているのが見える。

骨折線のあたりで浮いてしまっている軟骨や骨片があったら摘出してしまう。

P7240277 骨折線の両端に目印になる注射針を刺す。116

第三手根骨と第三中手骨の間の動かない関節腔にも注射針を刺す。

x線撮影して針が狙った位置に入っていることを確認する。

すると3本の注射針の真ん中がスクリューを入れるべき位置だということになる。

P7240280 後は第三手根骨の上を小切開し、ドリルで孔をあける。119

圧迫スクリューになるようにスクリューを入れて固定する。

剥離骨折で骨片を摘出した馬より、ずっと長い休養期間が必要だ。

競走復帰率、競走復帰後の成績も剥離骨折と同じようには行かない。

しかし、第三手根骨の盤状骨折のスクリュー固定と長い休養後に3連勝した馬もいる。 121

盤状骨折が起きたら、それと診断して、できるだけ早くスクリュー固定するのが望ましい。

治療するならの話だが・・・・・・

                             -

 何年か前に第三手根骨盤状骨折した競走馬の予後について調査した。

結果をまとめると

・競走復帰率は約50%。

・ずれてないからといって温存したり、

  ずれてしまっているからといって骨片を摘出した馬は予後が良くなかった。

・復帰後の競走成績は実にさまざま。

手術後の成績を数字で示すのは非常に難しい。

中央競馬で入着するものの勝てなかった馬が、手術後地方競馬で走って何勝かしたとする。

無事に競走を続けるという点ではたいへん良い結果なのだが、それを獲得賞金で示すと、手術前ほど活躍していないことになってしまう。

一方、中央競馬の賞金は天文学的な(ちょっとオーヴァーか?;笑)ので、重賞を勝った馬が含まれると他の馬の少々の活躍は、統計処理する上でどうでも良くなってしまう。

単純な数学的平均を出すのではなく、対数平均を使うなどしなければいけないのだろう。

                                                               -

 今日は仔馬の肋間の膿瘍切開。

夜間放牧している仔馬の外傷。

1歳馬の寛跛行の診断・・・だったが白線病からの化膿だった。

夜、繁殖雌馬の疝痛。変位疝ではなかった。