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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬の整形外科内固定の術創感染:155症例(2008-2016)

2019-09-30 | 学問

SSI Surgical Site Infection は馬の骨折内固定が失敗する大きな原因のひとつ。

内固定手術は、技術も周囲の環境も変っていくので、SSIがどれくらい起きていて、どのような手術で多いか、過去とは変ってきているかもしれない。

Veterinary Surgery にペンシルヴァニア大学New Bolton Center からの報告が載っている。

そう、あのRichardson教授が指導した学術報告だ。

             ー

Surgical site infection associated with equine orthopedic internal fixation: 155 cases (2008-2016)

馬の整形外科内固定に関連した術創感染:155症例(2008-2016)

抄録

目的:内固定後の術創感染の発生を確定し、術創感染と非生存の危険因子を同定すること。

研究のデザイン:懐古的調査。

動物:1病院で2008年から2016年に長骨骨折あるいは関節固定を内固定で治療した馬155頭。

方法:症状、診断、外科治療、外科医、手術時間、抗生物質治療、術創感染の始まり、細菌の同定、補助的治療を記録した。

周術期の多様性を分析して予後に関係する因子を同定した。

結果:術創感染は155頭のうち22頭(14.2%)で報告され、以前の報告より低かった(=.003)。

球節の関節固定、あるいは尺骨骨折の馬は、より術創感染を起こしやすかった。

局所の予防的な抗生物質投与は術創感染のリスクの増加と関係していた。

術創感染があった馬は、なかった馬より12倍生存して退院する率が低かった(P<.0001)。

球節あるいは腕節を関節固定した馬、あるいは橈骨/上腕骨/大腿骨骨折の馬は生存率が低かった。

開放骨折、切開しての整復、そして内固定、あるいは手術時間と術創感染の間の関連は認められなかった。

結論:本調査での術創感染の発生はかつての報告よりも低かった。

球節あるいは腕節の関節固定、または橈骨/上腕骨/大腿骨骨折の馬は術創感染のリスクが増加し、そして、あるいは生存して退院する率が低い傾向にあった。

術創感染に対する抗生物質局所投与の防御効果は確認することができなかった。

臨床的関連:馬の内固定症例の予後への術創感染のインパクトは今も重大である。

術創感染のリスクが高い症例を特定することが、外科手技、術後治療、そして術創感染が疑われたときの早期の介入に影響をあたえるべきである。

局所の抗生物質治療に関するさらなる調査が必要である。

              ー

師匠Richardsonは、馬の骨折内固定が失敗に終わるパターンとして、

感染、

内固定の崩壊、

不運、

をあげておられた。

経験から出た金言だと思う。

つまり、馬の骨折内固定を成功させようとしたら、感染に気をつけ、崩壊しないような内固定を行い、不運につながる要素を限りなく排除していけばよい。

私のこの10年の馬の骨折内固定の症例では、やはり感染はひとつの大きな失敗要因になっている。

特に、子馬の中手骨、中足骨をdouble plates 固定すると、術後の傷の治りと感染が問題になる。

double plates しないでキャストを併用するとか、

minimally invasive technique で手術するとか、

工夫が必要だろうと考えている。

             ー

しかし、155頭。すごい数だ。

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日暮れが早くなってきた。

夕方の散歩はもうなくなるぞ。

そんなにはしゃぐな、脚も痛いんだし。

 

              

 

 

 

 


頸椎骨髄炎の子牛への外科的介入

2019-09-29 | 学問

Veterinary Surgery誌の最新号に素晴らしい症例報告が載っていた。

Surgical intervention for vertebral osteotomyelitis in a calf

子牛の脊髄骨髄炎への外科的介入

Iowa州立大学からの報告。

やるじゃないかIowa州立大学!

著者はほとんど女性獣医師だ。

          ー

抄録

目的:頸椎骨髄炎で歩行不能の子牛の外科的治療と結果を報告すること。

研究のデザイン:症例報告。

検体の数:3か月間四肢不全麻痺の3.5か月齢の雌の交雑種子牛。

方法:CTガイドにより骨生検を行い、第四頸椎体に細菌性骨融解病変と、二次的な病理学的圧迫骨折があり、臨床的には全四肢の不全麻痺がその子牛で診断された。

第四頸椎内の病変からは培養によって Trueperella pyogenes が分離された。

結果:内科的治療には反応に乏しかったので、第四頸椎内の病変の外科的デブリドが必要であり、それに伴って頸椎脊柱の安定化が必要であった。

3部の手技が行われた。それらは(1)第四頸椎のデブリド、(2)第三から第五頸椎までの両側腹側の固定、(3)アンピシリンを含浸させた石膏ビーズの注入、であった。

術後の身体的リハビリテーションを行い、その子牛は完全な歩行機能を取り戻した。

1か月の検査では、その子牛は軽度の固有受容体運動失調を伴う歩様であったが、インプラントの崩壊の徴候はなかった。

1年後の検査では、その子牛は208kgになり、残っていた神経学的問題もない完全な歩様であった。

結論:外科的介入と抗生物質含浸インプラントの使用は今回報告する脊椎骨髄炎の長期の内科的治療に代わりうることが示された。

臨床的重要性:この症例は、外科的介入が生産動物の歴史的な致命的状態の予後を改善するための可能性がある処置であることを示した。

                 ーーー

この子牛の第四頸椎の骨融解病変の細胞診。

変性した好中球内に多量の細胞内細菌が見える。

新生細胞は観察されない。

頸椎の側方X線画像。第四頸椎の長さは、中程度に短くなっており、それは大きな中央部の骨融解(矢印)による。

第四頸椎の腹側縁は連続性がなく、病理学的骨折を示している。

頸椎の矢状断CT像。

第四頸椎の融解は第三第四椎間板腔を通って、第三頸椎の尾側骨端へ伸びている(矢印)。

術後1か月での頸椎のX線画像。

腹側のSOPプレートの位置、スクリュー、椎体は以前と変っていない。

骨融解の進行の所見もない。

             ー

本文中に、畜主はこの子牛への感情的な思い入れによって安楽殺に reluctant 抵抗した(ためらった or 気が進まなかった )、とある。

コンパニオンアニマルではないだろうが、牛をたいせつにする飼い主さんだったのだろうか。

USAでは、日本より子牛の価格は安いはずだ。

大学病院に入院させ、CTを撮り、プレートを2枚入れる手術をしたら、治療費はこの子牛の価格を飛び越しただろうと思う。

             ー

SOPプレートというのは聞き慣れないが使われたのは、3.5mm String of Pearls プレート、だそうだ。

新しいロッキングプレートだ。

真珠の首飾りプレート。たしかに。

             ー

Iowa州立大は、馬の手術頭数はうちより少ないだろうと思う。

しかし、こういう症例の診断や治療はうちではできそうにない。

CTがないだけではない。

まだまだ知識や技術や経験や、周囲の環境や、それから何だろう?足りないもの、及ばないものは?

まだまだレベルアップが必要だ。

Iowa州立大学のチームに敬意を送りたい。

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ラグビーには大して興味はなかったのだが、ラグビーワールドカップを見始めたらその迫力に感じるものがある。

アイルランドがスコットランドを圧倒した試合を観た。

フォワードの圧力がすごくて、こんな奴らと第二戦で当たるなら、怪我をしないことだけを優先させた方が良いのではないか、と思っていた。

日本-アイルランド戦は、前半は引き離されなくて良かった。同点にもできなかったが・・・・

と思っていたら!

後半は日本がアイルランドを圧倒した。

失礼した。

選手たちは本気だったんだな。

それだけの努力と準備を4年間やってきたんだな。

成せば為る。

感動した!!

 

 

 


9月の終わり

2019-09-27 | 日常

暑さが残っていたのに、突然、寒さを感じるようになった。

日は着実に短くなっている。

夜明けは遅くなり、日暮れは早くなった。

             -

教科書の執筆も終盤というのに燃え尽きてしまった。

締め切り延ばしてくれればもうちょっと頑張りますけど・・・・笑

9月も疝痛・開腹馬がバラバラとやってきた。

ゆうべも結腸捻転。

colopexyしても手術は2時間かからないで終わる。

                     -

2日間技術講習を受けてきた。

長時間のきつい講習だった。

学科試験と実技試験がある。

街の中にいる怪物。

野にいる困り者。

ここらで見かけるのははじめてだ。

繁殖しているらしい。

もう完全駆除するのは無理だろう。

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「青鹿毛」さん

コメントをいただいたようなのに、スパム削除するときに消してしまったようです。

ワンコの股関節障害についてですが、

私は、こちらのブログを注目してみています。

うちの相棒もX線撮影してみないといけないかと思いながら・・・・まだです。

 

 

 


compensatory lameness 代償性跛行

2019-09-15 | ワンコ修行

8月9日から左後ろを跛行している相棒。

突然だったし、その後は少しずつ良くなりつつあるので、股関節をひねったのだと思うが、

もともと股関節形成不全があったかもしれない。

子犬の頃からお尻をふりふり歩いている。

明らかに左後ろの跛行なのだが、歩いていると点頭運動もある。

馬の速歩だと、左後ろの跛行だと見かけ上の左前の跛行が起こることが多い。

それはcompensatory lameness 代償性跛行と呼ばれる。

            ー

左後ろが痛いと、左後ろを免重するために同時に着地する右前の荷重が増える。

それで、左前の跛行に見える点頭運動が起こるのだ。

しかし、うちの相棒は・・・・・

散歩で歩いているとき、側対歩。

それで、左後ろをかばうために左前の荷重を増やすために右前の跛行に見える。

できるだけ走らせないようにしているが、走ると、もう跛行はわからないくらいになった。

跛行診断は難しいね。

          /////////

これ食べられるだろうか?

 


10年目研修 牛の骨折プレート固定

2019-09-13 | 講習会

今年も、子牛の骨折プレート固定を教えに行ってきた。

まずはプラスチック・ボーンでの体験から。

そして、例によって講義もそこそこに、実践的練習に集中した。

今回は受講者5名だったので、充実した実習になる・・・・・はずだったのだが・・・・・

どうだっただろう??

Do you remember

the night of September

Love was changing the minds of pretenders

While chasing the clouds away

とは、行かなかったのかもしれない。

                ///////////////

Earth, Wind & Fire - September (Official Music Video)