POIにつながらないようにするには、開腹手術中に腸管のviability生存性を正しく評価することが大切。
しかし、これがなかなか難しい。
2001年のAAEPでかのDr.Freemanが発表している。
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A Clinical Grading System for Inraoperative Assessment of Small Intestinal Viability in the Horse
馬での小腸の生存性の術中評価のための臨床的グレーディングシステム
David E. Freeman, David J. Schaeffer, and Gordon J. Baker
消化管の生存性のための新しい臨床的なグレーディングシステムの術中使用は、小腸の絞扼の症例馬において、短期と長期の予後に基づいて的確であると判明した。そして、多くの馬で小腸切除の必要をなくした。
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この調査で用いられているグレーディングシステムは
GradeⅠ
病巣の整復後、15分以内に改善され、健康な隣接する腸管と同様になる。しかし、わずかに暗いピンクで、軽度の水腫があるが、斑状出血はほとんどない。自発的な蠕動があるか、腸壁を指ではじくと動く。
(Ecchymoses ; 斑状出血。 Petechia ; 点状出血。)
GradeⅡ
病変の整復後15分以内に改善される。明らかな水腫がある。広範囲の点状出血があり、暗いピンクをバックグラウンドとして、広がった赤い斑点になるまで癒合している。しかし、絞扼部の外周の緊縮はない。
GradeⅢ
GradeⅡと同様だが、腸壁に外周の緊縮があり、そして/あるいは赤いバックグラウンドに黒い斑や線がある。
GradeⅣ
病変の整復後15分以内にはわずかしか改善されないか、まったく改善されない。主に暗赤色、青、あるいは紫で、腸壁の厚さは薄かったり厚かったりで、しまりがなく、黒い溝があることもあるし、ないこともある。壊死の臭いがし、あるいは絞扼部は緊縮している。
GradeⅤ
腸壁は広範に灰色、黒、あるいは緑色で、壊死臭がする。
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イリノイ大学からの報告だが、7年間で小腸病変を手術して麻酔から覚醒した馬が88頭だから、わが診療センターとさして変らない。
88頭のうち75頭(85%)が退院している。これは素晴らしい。
端端吻合した馬の短期の生存率は92%(23/25)。これも素晴らしい。
切除しなかった馬の短期の生存率は94%(30/32)は、空腸盲腸吻合した馬の生存率77%(24/31)より有意に優れていた。
(25+32+31=88)
(ただしこの調査では麻酔から覚醒した馬だけについて調べているので、術前術中に諦めた症例は含まれていない。小腸閉塞の馬が85~94%助かったということではない。)
切除しなかった馬のうち2頭が入院中に死亡した。1頭はGradeⅠの病変で、術後イレウスで死亡した。もう1頭はGradeⅠの病変で癒着による疝痛で安楽死された。
長期の生存率は68頭の馬で追跡することができ、74%(50/68)が生存していた。
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さて、ここからがこの調査の主題なのだが、
腸管は生存すると判断され切除されなかった32頭のうち、
8頭はGradeⅠ、19頭はGradeⅡ、5頭はGradeⅢであった。
「腸管手術では疑わしきは切除する」というのがセオリーになっている。
術後に禍根を残さないためには、損傷していて生存性が疑われる部分は切除すべきだとされている。
しかしこの調査では、32頭中24頭はGradeⅡあるいはⅢの病変がありながら、小腸を温存したほとんどの馬が助かっている。
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左は私の症例。
小腸の腸間膜の孔を小腸がくぐり抜けて小腸閉塞を起こしていた。
腸間膜の孔から引き抜いたところ。
小腸の損傷は軽度だと判断した。
Freeman先生の基準でもGradeⅠだろう。
しかし、術後イレウスを起こした。
結局、剖検したときの小腸の状態はこうだった(左)。
手術のとき虚血性損傷が粘膜面で進行していることは察知できた。
しかし、漿膜側からは正確には判断できなかった。
空腸全体が損傷していたので、全長を切除するわけにはいかなかった。
切除しなかったが、術後徐々に再灌流障害として進行し、術後イレウスを起こし、ついには壊死と呼ぶような状態に至ったと思われる。
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結腸捻転の虚血性損傷でもそうなのだが、粘膜・粘膜下織・筋層・漿膜といつも同じ比率で損傷するわけではない。
漿膜面の様子はひどくないのに、粘膜はひどく損傷を受けていることもあるし、漿膜面の様子はかなりひどいのに粘膜や粘膜下織はそれほどでもないこともある。
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切り取るべきか、切り取らざるべきか。
結局・・・・・・・・難しい。