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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

分娩時の小結腸損傷を救う方法

2010-06-29 | 急性腹症

繁殖雌馬が、分娩時に直腸脱を起こしてしまうことがある。

あるいは直腸脱を起こさなくても、小結腸の腸間膜が破れて、血行がなくなるために徐々に小結腸や直腸が壊死して、腹膜炎を起こすことがある。

Equine Veterinary Education 2010 May にそういう繁殖雌馬を手術で助けた症例報告が載っている。

アルゼンチンの、私がメールをやり取りしたこともある先生の報告だ。

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      Permanent colostomy after small colon prolapse in a parturient mare

        繁殖雌馬の小結腸脱後の永続的人工肛門

               C.A.Espinosa Buschiazzo, M.C.J.Candela and M.V.Simian

要約

 小結腸脱は分娩時や下痢のときに起こりうる併発症である。

分娩時の陣痛で繁殖雌馬で小結腸脱が起こり、牧場で担当獣医師が整復した。

そして、著者のところへ搬入された。

診察、血液検査、腹水検査により結腸腸間膜の裂傷が疑われ、全身麻酔下での正中切開による探査的開腹手術が行われた。

結腸・直腸の腸間膜の損傷が確認され、腸管切除が選択された。

損傷を受けた部分を逸脱させた後、永続的人工肛門形成術を行った。

14ヵ月後、問題なく回復しており、その繁殖雌馬は非常に良い状態にあり、次の繁殖シーズンを待っている。

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P5030150_4 分娩時に小結腸の腸間膜を損傷してしまい排便できなくなったり、腹膜炎を起こす繁殖雌馬には毎年遭遇する。

開腹手術をしても、小結腸から直腸よりが壊死しているために傷んだ腸管を切除して吻合(つなぎあわせること)ができない。

助けるためには人工肛門しかない。

今年もそういう繁殖雌馬に遭遇した。

私がやろうとしたのは、Equine Veterinary Education に報告されているのとまったく同じ方法。

私は、直腸検査ができない繁殖雌馬でも、ちゃんと種付けして、受胎して、分娩できると思っている。

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牧草開花期

2010-06-28 | 日常

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レポジトリー検査と、

乳牛の第4胃左方変位と、

当歳馬の跛行診断と、

当歳馬の副鼻腔炎と、P6280351_2

1歳馬の外傷と、

1歳馬の牧柵激突事故。

そういうと1枚も自分ではカルテを書かなかった。

嬉しい;笑。

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気候とRhodococcus肺炎

2010-06-27 | 新生児学・小児科

きのう、今日と気温も上がり、すっかり夏の様相だ。

昔から(っていつから?)雨が多い年には下痢が多い。晴れた暑い夏には肺炎が多い。と言われている(って誰が言った?;笑)。

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6月下旬になって気温が高くなり、肺炎で死亡した子馬が運ばれてきた。P6190301_2

肺には膿瘍が散在していて、膿瘍以外の部分も真っ赤でとても呼吸できるような状態ではない。

数日の経過で死亡したらしいが、膿瘍は数日でできたものではない。

気温が高くなって、以前からあった肺膿瘍が全葉性の肺炎へ悪化したのだろう。

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P6220319_3 こちらも子馬の肺膿瘍。

しかし、膿瘍以外の部分はピンク色でまだ呼吸はできそうだ。

もちろん膿瘍はかなり大きく、右肺下垂部も無気肺化しており、治るとしても長期間の治療が必要だったろう。

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暑くなって牧草作業も盛んに行われている。

しかし、肺に膿瘍を持った子馬には暑さや長時間の放牧に耐えられない。

そして症状が出たら半日でも早く抗生物質治療を開始しなければならない。

子馬はRhodococcusに生後数週間以内に感染し、10日から2週間の潜伏期間の後、病巣ができてくる。

45日齢以降の子馬が発症したときはそれは初発症状ではないだろうと考えている。

膿瘍はすでに大きく、簡単に治す方法はない。

                         ---P6250337_3

  今年は急に暑くなったせいか、エゾハルゼミの鳴き声も例年より大きい気がする。

いつもの年は、あまり姿は見かけないのだが、今年は過密で留まるところがないのか壁や電柱に止まっているのを良く見かける。

思えば、あんなに大声で鳴かなくてもいいだろうに。

残り少ない命を知っているからだろうか。P6250328_4


サッカーWカップ

2010-06-25 | How to 馬医者修行

サッカーワールドカップを観ているとサッカーを通じてその国の国民性が見えるようで興味深い。

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各グループにシード国はあるが、優勝経験がある国は限られている。優勝候補に挙げられていても、どこかでいつも負けてしまう国もある。

国の中に地域ごとの対立を抱えていたり(スペイン)、個性が強すぎてまとまれないお国柄の国(オランダ)なのかもしれない。フランスは惨憺たる結果だった。

チームとして本当に一つになることが優勝の要件なのだろう。

診療チームでも同じかな。

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USAはサッカーは盛んではないのに勝負強い。

世界で唯一の、民族によらない、法律で定義された国。出場国中、最大の人口を持つ、世界最大のスポーツ経済大国。

それが作り出す積極性、諦めないしぶとさはUSAの国民性と呼べるのかもしれない。

そして、その基礎には競争と選抜のシステムがあるように思う。

馬の臨床の世界でも、USAのレベルが高いのは単に馬の頭数が多いからや、経済が豊かだからだけではないように思う。

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基本的には人口が多い国が強いはずだ。

100万人から選ばれた才能は、1億人から選ばれた才能にかなわないはず。

しかし、ニュージーランドや、今回は出ていないがアイルランドも活躍する。

たとえ1次リーグで消えても、味のある、しぶとい、その国らしい、誇りを感じる試合をする国があるものだ。

自分が弱者であるとき、そうありたいものだと思う。

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中南米で開かれたWカップでは、南米の国が強い。

ヨーロッパで開かれたWカップではヨーロッパの国が優勝する。

さて、アフリカではと思ったら、どうも南米の国の活躍が目立つ。

ヨーロッパの強豪も苦戦しているし、アフリカは総崩れだ。アジアもだけど。

時差より、季節や標高差への慣れの方が大きく影響するのかもしれない。

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暗いニュースやろくでもない出来事ばかりの昨今、日本代表の活躍には励まされる。

ガンバレ!! 日本!!!

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朝?夜中?3時からサッカー応援(観戦ではない!)。

午前中獣医師会総会。

油断していたら、夜、開腹手術。

有茎脂肪腫による小腸絞扼だった。


肝障害と繁殖障害のミステリー

2010-06-24 | 急性腹症

肝臓は生殖ホルモンを代謝する臓器でもあるので、肝障害が繁殖障害の原因になっても不思議ではない。

受胎はするが、早期胎芽死や流産を繰り返すという可能性もあるかもしれない。

それで、長期間の、あるいは頻回のホルモン治療が行われていたりする。

ところが、ホルモン剤投与も肝障害を引き起こす可能性があるので、肝障害が原因で繁殖障害になっているのか、ホルモン投与が原因で肝障害が起こったのかわからなくなる。

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ウィルス性肝炎もなく、酒も飲まない馬がどうして肝臓を傷めることがあるのか不思議なのだが・・・・・・・

高蛋白の飼料を与えると、腸内でアンモニアの発生が増え、これが肝臓や腎臓に負担を与えるのではとも考えられている。

その他、先に書いたホルモン剤も含めて薬も可能性がある。

実際には、馬でひどい肝障害を見つけることは多くない。

そして、今まで診た肝障害の症例でも原因がわかったことはほとんどない・・・・

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今日は北海道獣医師会産業動物臨床部会の会議で札幌だった。

ほとんどの話は口蹄疫についてだった。

「国家的危機」だという認識は一部政治家にはできたようだ。

しかし、牛や豚が全滅するわけでもなく、人にもうつらない病気がどうしてそんなに大騒ぎされるの?が一般の人の感じ方なのではないだろうか。

今日の会議でも、このまま終息しそうだということを前提に、義援金がとか、労力支援がとか、話されていた。

他地域へ飛び火したら、予算も、補償も、支援活動も、算段も何もあったものではない。

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