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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

下顎嚢胞性線維腫

2020-06-30 | 歯科・口腔外科

顎が腫れているのに気付かれた子馬。

X線撮影で泡だったようなX線透過亢進域が腫れた部分にある。

嚢胞性線維腫、だろう。

ことし、先に1歳馬を1頭手術した。そして、今度は当歳。

倒馬室で、仰臥にして、静脈麻酔で手術することにした。

もう歯肉まで腫れ上がり、柔らかい部分がある。

しかし、口の中を破ると食べ物で汚れてあとあとやっかいだ。

ドリルで大きな孔を開けると、内容はほとんど血様漿液だった。

内腔を掻爬した。

歯の発生と関係すると考えていて、この場合は永久切歯になれない異常な組織が増殖したのだと思う。

傷が塞がっても、異常な組織が残っていると再発する。

腫瘍、なのだろうが、転移することはほとんどないので、もし再発しても早く気付いてまたやればいい。

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完成しました。

快適に泊まってもらえると思う(夜中に急患で起こされなければ;笑)が、

コロナ禍で学生実習は受付中止。

獣医科学生たちも可哀想だが、夢や将来まで先延ばしにはできない。

 

 

 

 

 


頚椎症腰痿の頚椎関節固定手術 part3

2020-06-29 | 馬神経病学

頚を切り開いても、骨は見えてこない。

筋肉を剥がして骨が見えても、何番目の頚椎かはわからない。

X線撮影して、確認する。

12孔のブロードLCPを使うことになった。

完成形。

1歳馬の頚椎はとても柔らかい。

そして対側皮質を貫くわけにはいかない。

LCPを頚椎に押し付けるために皮質骨screwが入っていて、

抜けてこないようにLocking cancellus screw が入っていて、

残りはLocking Head Screw が入っている。

さすがに頚椎基部を腹-背方向で撮影するのは厳しい。

しかし、LCPはちゃんと正中に乗っかっている。

                    -

懸念したとおり、覚醒起立はとても悪かった。

立とうとするようになっても後肢がちゃんと使えない。

腰が上がったこともあったが、前肢が開いてしまった。

Anderson Sling でぶら下げると苦しいのか立とうとしなくなる。

                    ---

翌朝、馬は自力で立ち上がっていた。

歩ける!

水をグビグビ飲んだ。

青草をバリバリ食べた。

日本人馬外科医による頚椎関節固定の1頭目だ。

なんとか症状が改善されてほしい。

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巣は完成している。

卵を産んだのかどうか・・・わからない。

どうしてそこに居る?

飛び交っているのは二羽だけではないように見える。

なぜ?

 

 

 


頸椎症による腰痿に対する頸椎関節固定手術 part2

2020-06-27 | 整形外科

腰痿 Wobbler's syndrome の馬は、

・少し腰が甘い

・肢を振り回す、叩く、後肢を広げて歩く

・動くと動揺する、ヨタつく、自分の肢をぶつける、蹄を踏む

・立てないことがある、転びそうになる

・起立不能、あるいは突然死

という程度に分かれると思う。

腰痿症状がある馬は全身麻酔からの起立はとても懸念される。

ただでさえ寝起きが不自由なのに、それに鎮静剤・麻酔薬の影響と、長時間寝かされていた負担と、いつもと違う環境での興奮と、手術の痛みや負担が加わる。

           ー

それで、完全に馬を吊るすことができる吊起帯 Anderson sling を借りてきてもらって使うことにした。

倒馬前につけておいて馬を精神的に慣らしておいた方が良い。

鎮静剤を投与してAnderson sling を着け、そのまま麻酔導入する。

            ー

頸椎基部は中央部に比べてアプローチもたいへん。

邪魔になる気管をどけると筋肉に囲まれた頸椎の腹側が露出される。

その筋肉を骨から剥がす(言うのは簡単だが、しっかり張り付いているし、出血する)。

頸椎は腹側の正中が飛び出るように盛り上がっているので大きなノミで削って、プレートを乗せやすくする。

金属製バスケットを関節に埋め込む手術と、

プレートで固定する手術方法がある。

併用することもあるらしい。

プレートを曲げて骨に沿わせ、スクリューで固定していくのはX線撮影しながら行う。

ドリリングする向こうには頚髄がある。

骨を貫くわけにはいかない。

(つづく)

                   /////////////////

あいにくの天気だけど、久しぶりに海に来た。

 

 

 

 

 

 

 


頸椎症腰痿の頸椎関節固定手術 

2020-06-27 | 馬神経病学

頸椎症 Cervical Vertebral Stenotic Malformation or Myelopathy による頚髄変性から腰痿症状を示す馬はとても多い。

私たちは例年50頭前後のX線撮影を行う。

「治療法はありません」と説明してきた。

欧米では、頸椎の関節固定手術が行われている。

その手術の評価については以前に書いた。

          ー

多くの症例の場合、治療はお勧めできないし、諦めた方が良いと思っている。

しかし、この馬だけでもなんとかならんの?

ダメ元でもやってみる方法はないの?

という状況もありうる。

種付けさえできれば十分な経済価値がある種雄馬とか、

なんとか軽い運動だけできるなら生かしておいてもらえる馬とか、etc.

手術手技としては、「やってみることはできます」としておきたかった。

現在のところ、腰痿の馬にできる治療はそれだけで、北米やヨーロッパではすでにそれぞれ1000頭以上が手術を受けている。

今は、馬外科学の成書にも記載がある。

          ー

で、チャレンジ、することになった。

私は自分ではやらない;笑

もう新しい手技を身につける歳ではないし、身につけたところで馬外科医としての老い先は知れている。

若い優秀な人たちに頼む。

文献を調べ、経験者にメールを送り、余所へ話を聞きに行き、器具を購入し、準備を進めてくれた。

解剖体で何度も試行、練習した。

          ー

患者さんも、CTと脊髄造影の検査に行ってくれた。

C5-6, C6-7(第5-6、6-7頸椎)の関節突起が大きくなった椎孔の狭窄で手術による予後が良いタイプではない。

馬はときどき起立が困難になるほど症状は強い。

          ー

そして、決行の日が来た。

(つづく)

             //////////

疎にして、野にあれば、密ではない。

粗にして野だが卑ではない

 

 

 

 

 


子馬の鼻中隔切除

2020-06-22 | 呼吸器外科

2.5ヶ月齢の子馬が呼吸が苦しい。

右の鼻は内視鏡も通らない。左の鼻は内視鏡は通ったが鼻道が狭く、咽喉頭の粘膜も腫れている。

鼻孔から指を入れたら、鼻中隔が変形している。

X線撮影したら、鼻道の入り口近くで「く」字型に曲がっている。

          ー

北米外科専門医Yoshi先生に海外の情報を調べてもらった。

子馬で鼻中隔を切除すると、鼻梁を含めた顔の発育に問題が起こるかもしれない、という記載はある。

しかし、実際にそうなった、という情報はないし、ひどいものではなさそうだ。

海外の先生にメールを送ったら、部分切除すると断端が肥厚するので、全摘を勧める、とのことだった。

          ー

少し小さめで、肉付きも良くはない。呼吸が苦しいというのは辛いことだ。

鼻梁を円鋸する代わりに喉頭切開して、線鋸を鼻中隔の背側と腹側へかける。

あとは引っ張れば鼻中隔の背側と腹側が切れてくる。

鼻の中へストッキネットにガーゼを入れたパックを詰めて止血を助ける。

取り出した鼻中隔。

大きく曲がっていた。

気管切開創に残す気管鏡をどうするか問題だった。

おとな馬用の気管鏡や気管チューブは子馬に大きすぎる。

斜めに切り落とした水道ホースの片側にテーピングテープを巻きつけたらうまく行った。

翌日、鼻の詰め物を抜いたら鼻で楽に呼吸できたそうだ。

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手術がうまくいったらオラもうれしいです

とうちゃんきげんがよくて ふーどふえるです