ヒト医療でも、小動物でも、馬でも、骨折の内固定に取り組んでいる獣医外科医でAO法を無視している者はいないだろう。
AOとは、Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen
この発音は難しい。岡山の日獣年次学会で講演されたコーネル大学准教授の林慶先生も、「私には発音できません」とおっしゃっていた。
1958年にスイスで発足した骨折治療に関する研究グループで、その後発展を続け、現在では研究財団として、全世界で12,000以上の外科医、外傷医、手術室看護師、獣医師がメンバーとなっている。私も!;笑
ASIFと表記されていることがあるのは、The Association for Study of the problems of Internal Fixation という英語表記の略だ。
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教義や理念が掲げられていて、熱心な信奉者も多いので宗教じみた印象さえ受けるが、あくまで科学にもとづいた研究・開発・教育・記録と解析の推進による骨折治療の進歩への貢献を目的としている。
「生とは動であり、動くことが生である」
う~ん、これは禅の言葉のようでますます教義っぽいが、要は、骨折部の完全な機能回復を目指し、そのために、
・解剖学的な回復のための整復と固定
・その骨折と損傷が必要とする固定と安定化
・注意深い操作と愛護的な整復技術による骨、軟部組織への血行の保存
・患部と患者の早期かつ安全な運動の開始
が基本原則とされている。
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この基本原則は昔の骨折治療への反省と批判から出ているのだろう。
内固定による骨折治療ができなかった時代には、骨はなんとかくっついても変形や機能上の問題が残ることが多かった。
様々な内固定が試行錯誤されてきたが、強度があり安定した内固定ができないと失敗に終わることも多かった。
解剖学的な整復と強固な固定が行われても、外科侵襲が大きすぎて血行が阻害され骨癒合が遅れたり、感染を引き起こすことも少なくなかった。
長期間の治療と身動きできない安静が必要とされることで二次的な問題も引き起こされる。
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それらの反省にもとづいて、骨折部を解剖学的に完全に整復し、充分に強度がある方法で固定し、血行が維持されているなら、早期に動かし始めることが可能となる。
そのための骨折内固定法がつぎつぎにAO法として考案、開発、普及されてきた。
今は多くのスクリューやプレートや器具がAO式の規格品になっている。
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獣医分野でもAOVetとして活動が行われている。
ただし、今のところ、いやこれからもウシは公式には対象にならないだろう。
ウシの骨折についてAOVetが研究、開発、教育、啓蒙・普及活動をすることはないだろう。
世界的に見れば乳牛も肉牛も個体診療の対象にならなくなってきており、とくに骨折内固定のような難易度が高く、高額治療が行われることが少ないからだ。
AOVetがSurgery Referenceとして示しているのはウマとイヌとネコだけだ。
ではウシの骨折内固定は、かつてのヒトの骨折治療のように「ほねつぎ」レベルで試行錯誤しながらやっていくのか?
それではよろしくない。
ウシの骨折内固定にはウマの知識、技術を用いることができるはずだ。
そして、ウシはウマより、
気性がおとなしく、
活動が穏やかで、
皮膚が厚く、
感染に強い。
多くの時間を寝てすごしてくれて、興奮して飛び上がるように立ち上がることもなく、獣医師を蹴りにくることもなく、皮膚が厚いので開放骨折になりにくく、キャストずれを起こしにくく、褥創にもなりにくく、感染にも強いように思う。
「ウシは整形の優秀な患者」とはよく言われるとおりだ。
(逆にサラブレッドは整形外科の問題患者だ;涙)
ウシの骨折をなんとか治そうと努力している若い獣医さん達への馬医者からの提言だ。
ウマのAO法は、ウシの骨折内固定に大いに参考になる。
次回、ウシにAO法を適応する上での課題について考えてみたい。
(つづく)
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