馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

牛の骨折内固定への提言 まずはAOでしょ

2015-02-28 | 牛、ウシ、丑

ヒト医療でも、小動物でも、馬でも、骨折の内固定に取り組んでいる獣医外科医でAO法を無視している者はいないだろう。

AOとは、Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthesefragen 

この発音は難しい。岡山の日獣年次学会で講演されたコーネル大学准教授の林慶先生も、「私には発音できません」とおっしゃっていた。

1958年にスイスで発足した骨折治療に関する研究グループで、その後発展を続け、現在では研究財団として、全世界で12,000以上の外科医、外傷医、手術室看護師、獣医師がメンバーとなっている。私も!;笑

ASIFと表記されていることがあるのは、The Association for Study of the problems of Internal Fixation という英語表記の略だ。

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教義や理念が掲げられていて、熱心な信奉者も多いので宗教じみた印象さえ受けるが、あくまで科学にもとづいた研究・開発・教育・記録と解析の推進による骨折治療の進歩への貢献を目的としている。

「生とは動であり、動くことが生である」

う~ん、これは禅の言葉のようでますます教義っぽいが、要は、骨折部の完全な機能回復を目指し、そのために、

・解剖学的な回復のための整復と固定

・その骨折と損傷が必要とする固定と安定化

・注意深い操作と愛護的な整復技術による骨、軟部組織への血行の保存

・患部と患者の早期かつ安全な運動の開始

が基本原則とされている。

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この基本原則は昔の骨折治療への反省と批判から出ているのだろう。

内固定による骨折治療ができなかった時代には、骨はなんとかくっついても変形や機能上の問題が残ることが多かった。

様々な内固定が試行錯誤されてきたが、強度があり安定した内固定ができないと失敗に終わることも多かった。

解剖学的な整復と強固な固定が行われても、外科侵襲が大きすぎて血行が阻害され骨癒合が遅れたり、感染を引き起こすことも少なくなかった。

長期間の治療と身動きできない安静が必要とされることで二次的な問題も引き起こされる。

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それらの反省にもとづいて、骨折部を解剖学的に完全に整復し、充分に強度がある方法で固定し、血行が維持されているなら、早期に動かし始めることが可能となる。

そのための骨折内固定法がつぎつぎにAO法として考案、開発、普及されてきた。

今は多くのスクリューやプレートや器具がAO式の規格品になっている。

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獣医分野でもAOVetとして活動が行われている。

ただし、今のところ、いやこれからもウシは公式には対象にならないだろう。

ウシの骨折についてAOVetが研究、開発、教育、啓蒙・普及活動をすることはないだろう。

世界的に見れば乳牛も肉牛も個体診療の対象にならなくなってきており、とくに骨折内固定のような難易度が高く、高額治療が行われることが少ないからだ。

AOVetがSurgery Referenceとして示しているのはウマとイヌとネコだけだ。

ではウシの骨折内固定は、かつてのヒトの骨折治療のように「ほねつぎ」レベルで試行錯誤しながらやっていくのか?

それではよろしくない。

ウシの骨折内固定にはウマの知識、技術を用いることができるはずだ。

そして、ウシはウマより、

気性がおとなしく、

活動が穏やかで、

皮膚が厚く、

感染に強い。

多くの時間を寝てすごしてくれて、興奮して飛び上がるように立ち上がることもなく、獣医師を蹴りにくることもなく、皮膚が厚いので開放骨折になりにくく、キャストずれを起こしにくく、褥創にもなりにくく、感染にも強いように思う。

「ウシは整形の優秀な患者」とはよく言われるとおりだ。

(逆にサラブレッドは整形外科の問題患者だ;涙)

ウシの骨折をなんとか治そうと努力している若い獣医さん達への馬医者からの提言だ。

ウマのAO法は、ウシの骨折内固定に大いに参考になる。

次回、ウシにAO法を適応する上での課題について考えてみたい。

(つづく)

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散歩するともう暑いらしい。

 

 

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ブログ9周年

2015-02-27 | 日常

いけね、忘れてた。

2006年2月26日に書き始めたこのブログ。

今年で9周年となりました。

ブログというインターネット・ツールは定着はしているものの、近年はTwitterやFaceBookへかなりシフトしているように感じます。

この9年間、閉じられてしまったり、更新がないまま放置されているブログも多いのは残念です。

ときどきFaceBookへのお誘いが届きますが、どうも近寄り難い気がしていますし、Twitterに到っては意味と価値が理解できません。

ブログでさえ、「ブログ書いてないで、きちんとした症例報告や原著論文を書かなきゃ」とも思いますが、

啓蒙・普及・備忘録の効果は学術誌をはるかに超える面もあるので、まあぼちぼちと続けたいと考えています。

どうぞよろしくお付き合いください。

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昨年、OCNのブログサーヴィス「blog人」が終了し、なかば強制的にgooブログへ移行。

まだ使い方もマスターしたとも言い難く、トータルのアクセス数もわからなくなってしまいました。

内容も2012年から登場したこのお方にすっかり人気を奪われています。

これからは「馬医者残日録+愛犬日記」かな;笑

 

 

 

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春の気配

2015-02-24 | 日常

月曜の朝、難産。

両前肢と頭から産道へ来ているのだが、さらに後肢飛節も産道に入って来ていて、下胎向気味の横胎向。

帝王切開することにした。

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夜は1歳馬の疝痛。0:00に受診。

実習生を電話で呼ぶが、いくら鳴らして起きない。別の実習生に電話するが、こちらはすぐ留守電になった。もう1人の実習生に電話したらやっと起きた。

馬は来院したら落ち着いていて、PCV43%、乳酸値0.8mmol/l未満だが、超音波検査で小腸の膨満が見えた。

朝までに抜けてくれればと考えて、入院厩舎で様子を観てもらう。

が、2時過ぎに痛くなった。

さらに痛くなったので、フルニキシン投与。

しかし、もっと痛くなったので開腹手術決断。

午前3時過ぎから準備して、3時40分ごろ手術開始。

空腸が大きなループで纏絡していた。

幸運なことにこれだけ手術を遅らせたのに腸管は壊死も変色もしていなかった。

空腸下部を切開し、内容を抜いてから、捻転を整復する。

盲腸が背中側のヘンな位置へ変位していた。

終わって朝6時半。

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きのう帝王切開した馬にオキシトシンの点滴をしようかと観にいったら、後産は落ちていた。

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6時40分。今度は黒毛和種の尾位の難産だという。

また実習生に電話して呼ぶ。

しかし、この牛は後肢から引張り出せたので帝王切開せずに済んだ。

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やれやれぼちぼち春の気配だ。

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冬太り?

気のせいです・・・・バレたら餌へらされる・・・・・・

 

 

 

 

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日本獣医師会2015 骨折治療の基本と最新情報

2015-02-22 | 学会

学会も3日目。いいかげん疲れてきたが、私自身の出番は最終日の午後。

午前中は、小動物の骨折治療の基本と最新情報についての講演を聴いた。

講師はコーネル大学の林慶先生。

USAで小動物外科専門医となって、さらにいくつかの大学で教育・指導に当たっておられることは素晴らしい。

林先生には、以前、札幌で外科麻酔学会があったときに馬のセッションとしてUSAの外科専門医制度について講演していただいた。

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今回の講演では、基本に忠実に!を繰り返し述べておられた。

日本では小型犬が圧倒的に多く、それも室内飼育されることがほとんどなので、骨折事故はテーブルから飛び降りたとか、飼い主から落ちたとかによる橈尺骨骨折がとても多いらしい。

実は、USAでも近年は小型犬が増加していると聞いたことがある。

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犬も骨折内固定手術後は、2週間はケージレストさせ、その後、すこしずつ歩かせ始める。

犬はケージに入れておけばほとんどの時間を寝て過ごすので、馬房内でも立って歩き回る馬とはかなり事情が異なる。

馬は体重が重いだけでなく、気性的にも、種の動物としての生活様式でも、骨折の良い患者とは言えない。

同じ大動物でも牛は気性が穏やかで、ほとんどの時間を寝てすごし、骨の形も太くて短かく丈夫で、馬よりははるかに骨折の良い患者だ。

最近は牛の骨折を治療した症例報告を見かけるようになっているのだが、あまりに獣医さんに整形外科の基礎知識がなくて残念に思うことが多い。

いきあたりばったりで、あるいは目の前で骨折した動物を見て、はじめて考えてやってみる。というのは「素人」がすることだ。

それでは失敗した経験談だけが積み重ねられていく。

あるいはうまく行ったとしても、それは幸運に支えられたまねをしない方が良い経験でしかない。

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腕節を屈曲させてキャストを巻くとか、

髄内ピンによる牛の骨折の治療とか、

創外固定とか、

私はナンセンスだと思う。

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基本を学ぶことの大切さをあらためて教わった講演であった。

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日本獣医師会年次大会2015 CTとMRIと核医学

2015-02-20 | 学会

岡山の2日目午前はCTとMRIと核医学のセッションを聞いた。

学生の頃、超音波画像診断装置を初めて見せられて、これが断面なのだ、ということがなかなか理解できなかった。

今や獣医科大学にはCTかMRIかどちらかは設備されていて、両方を備えた大学も多い。

セッションの中で、どなたかが述べておられたが、X線画像診断はX線による「影絵」だが、CTやMRIは被写体そのものを立像化できる。

CTは骨、MRIは軟部組織、という区分とは限らず、CTもかなり軟部組織にも使えるし、MRIに比べて検査時間が短いのも利点のようだ。

器械そのものの値段も高いが、ランニングコストも問題で、産業動物診療では畜主に負担願える症例は多くない。

大学では教育や研究のためということで牛の診療に用いることが多いとのこと。

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経済動物の診療では、ただ診断がついた、というだけでは喜んでもらえない。

診療費がかかっても、「治せる」ということになって初めて診断の意味を感じてもらえる。

その点では、治せる可能性がある病気や事故の診断や、手術前の診断や術中検査に使う適応症例があるか?も課題だろう。

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馬の核医学、シンチグラフィーも欧米では馬の臨床に取り入れられて久しい。

最も多い適応症例は疲労骨折なのだろう。

しかし、放射性物質の取り扱いに厳格な日本では、検査のランニングコストもかなり高くなる。

そして、病傷が疲労骨折にしても、腱や靭帯の付着部炎にしても、積極的な治療というよりは保存療法が選択されることになる。

診断されないまま無理な調教や競走を続けて致命的な骨折につながるリスクは減らせるかもしれないが、費用をかけて検査をする馬がどれだけいるのか想像するのは難しい。

立地条件にもよるだろう。

美浦や栗東周辺ならJRAの現役競走馬が使うかもしれないが、それらの馬も帯広や鹿児島まで検査に行くかどうか・・・・

ただ、欧米で行われているBoneScanを、日本の獣医科学生は知らない、見たことがないという状況が続くことになるのはよろしくないというのは理解できる。

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CTはこんなのもあるゾ。

私のところなら馬の骨折手術に年間10症例、肢の診断に年間10-20症例、頚椎症による腰痿の診断に50症例、頭と喉の診断に10症例くらいは使うカナ?

NeuroLogica Portable CT Scanners

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 暖かい日が続いて、抜け毛がひどい。

今が一番のモコモコ、モフモフ状態なのだろう。

 

 

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