馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子宮頚管奥の背側の穿孔

2018-03-31 | 繁殖学・産科学

3日前に分娩した繁殖雌馬。

きのうから発熱し、元気食欲不振。

その日は、超音波で腹水増量は見えなかったが、翌日には腹水増量している、とのことで来院。

PCV47、白血球数4,780/μl。

産道から子宮を触ってみるが子宮角先端に穿孔は触れない。

しかし、超音波検査では腹水は明らかに増量している。

「お産は重かったですか?」と訊いたら、

「仰向けで出てきかけていたので、直すのに時間がかかった」とのこと。

下胎向だと産道の背中側を傷つけることが多い。

もう一度、直検エプロンと手袋をつけなおして、産道から子宮へ背中側を探ると・・・・

子宮頚管の奥の背中側に指3本ほどの穿孔創が確認できた。

さて・・・・この部位だと開腹手術しても開腹手術創からは縫合できない。

立位で膣から手を入れて縫うしかないが、膣穿孔とちがって遠くて厳しい。

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尾椎硬膜外麻酔をして、

2の合成吸収糸150cm長に三稜針を付け、

左手で裂創の辺縁を持って、右手で手探りでそれを貫き刺して、左手で針を引き抜いてくる。

それを数回繰り返して、最後の糸結びは膣鏡で広げておいて、長い把針器で頚管の粘膜を貫いて、針をはずして膣内で手結びした。

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そのあいだ、腹底に32Fr(フレンチ)のトロッカーカテーテルを刺し込んで、

最初にマンゴージュースのような汚い腹水を抜いて、

次に子宮穿孔創から6リットル生理食塩液を入れて、それをドレインから抜いて、

もう一度それを繰り返して、

あとは、ドレインから生理食塩液を12リットル入れて、ドレインから抜いた。

最後に抗生物質入り生理食塩液を1リットル入れて、ドレインを閉じた。

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翌朝、ドレインを開放したが、腹水は少量しか出なかった。

前の晩に最初に出た腹水より濁りは少ない。

生理食塩液を5リットル入れたら、4リットルは回収できた。

濁りはさらに減っている。

抗生物質を溶かした1リットルを注入してドレインを閉じた。

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抗生物質は全身投与もする。

夜中に前搔きが止まなかったのでフルニキシンをうったせいもあって体温は平熱。

血液検査所見はすくなくとも悪くはなっていない。

子馬を連れて来て一緒にしても大丈夫だろう。

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とうちゃん まいあさ おらとしっかりさんぽして からだきたえとけよ

たいりょく しょうぶだぞ

 

 

 


日本の馬の1/4に責任をもって

2018-03-28 | 疫学

昨年の日高のサラブレッド生産頭数は4,909頭。

だから、1歳馬は4,500頭ほどは居るだろう。

2歳馬は順次生産地から居なくなるが、2-3,000頭と考えて良いか。

4,900頭の子馬を産ませるためには、繁殖雌馬が7,000頭前後必要だろう。

この地域には、ほかに種雄馬、あて馬、重種馬、乗馬、乳母馬、ポニーが飼われている。

合わせれば2万頭を超えているだろうと思う。

日本の馬飼養頭数は8万頭とされている。

われわれは日本全体の馬の1/4に二次診療施設として対応している。

その責任は十分に感じている。

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午前中、飛節OCDの関節鏡手術の予定だが、当歳馬の疝痛の来院。

超音波で小腸が完全膨満。

前日夕方からの疝痛だと言う。

小腸の根部捻転だろうな、と見当をつける。

痛みはひどくないが、徐々に小腸全体が膨満してくる。

開腹したら案の定、小腸全体が完全膨満。

一箇所を切開し内容を棄てないと整復もできない。

そして内容を推送する。

それらの操作がすべて癒着の要因になる。

おまけに空腸末端の走行がハート型した奇形だった。

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午後は、腕節の骨折の関節鏡手術。

そのあと、育成牧場で喉の集団検診。

チェーンシャンクで、連れ歩いて、つぎつぎと鼻捻子をかけてくれる。

昼からの関節鏡手術の馬も、注射が嫌いで、珍しく鼻捻子をとるのがたいへんな馬だった。

馬のプロ達と仕事をできていることに感謝する。

馬の診療が一番危ないのは、馬を扱うのがヘタな人と診療しなければならないときだ。

馬の扱いに慣れていない獣医さん向けに文章を頼まれている。

「近づくな!」以外に何を書けば良いのか、考え込んでいる;笑

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オラはもう暑いです

日陰を求めて、ログハウスへ入りました

 

 


高齢馬の分娩後の疝痛は子宮動脈破裂を疑う必要がある

2018-03-28 | 繁殖学・産科学

午前中、飛節OCDの関節鏡手術。

その最中に分娩直後からの疝痛の依頼。

18歳だと言う。

「子宮動脈破裂なんじゃないの?」

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来院したら、口粘膜は貧血+++。

心拍60、呼吸数54。

超音波で腹腔に血腫か血餅らしきものが見えた。

PCV36%、乳酸16mmol/l。

やはり子宮動脈破裂だ。

持続点滴するか、膠質輸液するか、考えるが、いずれにしてももう助からないだろう。

輸送すべきじゃなかった。

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午後も、飛節OCDの関節鏡手術。

それが終わって育成牧場へ喉の集団検診をさせてもらいに行った。

その最中、難産の連絡。

集団検診を終えて、戻ったら枠場で難産整復中。

球節が硬く屈曲変形しているようだ。腕節も伸びないので難産になったのだろう。

放牧地でお産を見つけてからすでに2時間以上経っている。

遅れていた頭を直してひっぱったら子馬は生きていた。

ヒップロックしたのか男4人でひっぱっても出てこない。

あとはひっぱるしかない。

なんとか引っ張り出した子馬はもう死んでいた。

やはり前肢の腱拘縮だ。背中も曲がっていた。

生きて生まれても安楽殺するしかない。

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無事に生まれて、健康に育って、元気に調教されている2歳馬たちの影には多くのリスクがある。

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オラがレトリーヴ(回収)してきたものは、おやつと引き換えです

 

 

 


分娩後の結腸捻転

2018-03-27 | 急性腹症

午前中、4歳競走馬の喉頭片麻痺のTieback&Cordectomy。

腕節にも損傷があり、X線撮影もしたのでいつもより時間がかかった。

その途中、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

分娩後24時間で疝痛が始まり、今分娩後36時間ほど。

フルニキシンで一度は痛みが治まったが、また痛くなった、とのこと。

来院したら、PCV50%、乳酸値2.0mmol/l。

口粘膜は貧血気味でわずかにチアノーゼ。

直腸検査ではっきりした異常は触らない。

超音波で右腹で肥厚した大腸壁が見えた。

典型的な分娩後の結腸捻転の経過だ。

大きな妊娠子宮が抜けた後に大結腸がおかしな位置に行ってしまうのだろう。

分娩の負担で消化管の動きが悪くなっていることも要因だろう。

口粘膜の色調と、引っ張り出した結腸の色調は相関していることが多いように思う。

この馬も、口粘膜は白っぽくて、結腸も白っぽい。

変位のしかたはひどくて、盲腸との位置関係を直すのに苦労した。

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その手術の最中、2歳馬の下顎切歯骨骨折の依頼。

ひどい跛行が3週間続いている馬だと言う。

来院して、立位で股関節を撮影した。

ひどく筋肉が落ちていることもあって寛骨臼の骨折と大腿骨頭の変位が写せた。

馬として生きていくこともできない。あきらめるしかない。

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でっかい夕陽がしずむ。

冬の寒さはなくなったし、日は長くなった。

年度末だし、4月がやってくる。

どうぞ、お手柔らかに。

 

 


1歳馬の空回腸絞扼

2018-03-26 | 急性腹症

朝、1歳馬の疝痛の依頼。

午前中に予定していた副手根骨の骨折のスクリュー固定を午後にずらしてもらって、

午後に予定していた関節鏡手術を別な日にずらしてもらう。

来週も、もう手術予定でいっぱいだ。

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1歳馬は来院したら、もうあまり痛くなさそうだ。

しかし、顔は擦りむいているし、牧場では痛くてフルニキシンも効かなかったとのこと。

痛みは重要な所見だが、痛みだけを診て判断してはいけない。

小腸の一部がギュッと捻れてしまうのは、最も痛いタイプの疝痛のひとつだが、

激しく痛いのは最初の数時間で、そのあとは麻痺して痛みは和らいだように見えることが多い。

乳酸値が高く、超音波で小腸の完全膨満が確認できたので、すぐ開腹することにした。

空腸と回腸に茎のある2cmほどの塊が巻きついて絞扼していた。

閉塞部の上位の空腸の膨満もひどい。

まず壊死部の腸間膜の血管を結紮止血して、壊死部を切断して腸内容を棄てた。

回腸を盲端にして、空腸も健常部で切断しなおす。

空腸を盲腸へ端側吻合した。

私はそこで手術室を出て、入院厩舎へ輸液を準備しに行った。

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とうちゃん休みの日

おらは良い子でるすばんしたので

めずらしいごちそうを買ってもらった

うまかった