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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

文献「子牛2頭での角度固定インターロッキングネイルを用いた脛骨骨折の修復」part3

2022-12-31 | 整形外科

Fig5のA(上)は、Ortho Viewでの、頭尾方向でのX線画像のプランニング。

3.5mmLCPを当てて、

(どうして4.5mmLCPを使わない?)

近位は成長板を貫かないように、(貫いても問題が起こる可能性はほとんどないのだが・・・)

3.5mm皮質骨スクリューを入れると、そんなに長いスクリューは市販されていないので対側皮質に効かせることができない。

(4.5mm皮質骨スクリューはより長いスクリューが市販されているはず。

なるほど、だから3.5mmで検討してるのね)

B(下)は、インターロッキングネイルで検討していて、遠位も近位も、成長板に並行に骨端にボルトを入れることができ、この骨折に理想的な固定である、としている。

しかし、近位骨端は割れてしまっていることがわかっている。

その部分に2本、bicortical でボルトが入っているだけだ。

このボルトが効かなければ、髄内ピンは近位骨端を固定する力を失うだろう。

近位骨端の長さが短く、子牛の骨髄はとても柔らかいからだ。

そして、子牛での内固定の経験がある外科医は、子牛の骨端部の皮質がとても薄くて弱いことを知っている。

4.5mm皮質骨スクリューより、6.5mm海綿骨スクリューを使うことが推奨されているほどだ。

インターロッキングネイルが、骨の中心軸に挿入されていて、折れた骨の補強として理想的なのは理解できる。

しかし、ただの髄内ピンは、このような骨端が短い骨折の内固定にはむかない。

つまるところ、ボルト、あるいはスクリューを何本、どこに効かせられるかが重要なのだ。

割れてしまっている骨端部に2本しかボルトを入れずに、理想だとは言えないと私は思う。

成長板をまたぐ内固定になってしまうが、プレートを当てて、近位骨端にスクリューを入れれば、その方が確実な内固定ができたはずだ。

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年末年始体制に入った30日は、大掃除。

入院厩舎を掃除して、診療室の枠場を拭き掃除。

午後には気力・体力の限界が来た;笑

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正月飾りは、29日に付けるのは”二重苦”と言って、嫌う人が居るのだそうだ。

大晦日に付けるのは、一夜飾りになるのでよろしくない、という人が居るのだそうだ。

すると30日に付けるしかないじゃない。

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ことしは、相棒を亡くし、生活が少し変化した年だった。

piebaldさんが手描きの絵を送ってくれた。

幼かったころの相棒だ。

相棒が居た部屋に飾ってやろうと思う。

ありがとうございます!!

            -

みなさん、今年一年お世話になりました。

どうぞ良い年をお迎えください。

 

 

 


文献「子牛2頭での角度固定インターロッキングネイルを用いた脛骨骨折の修復」part2

2022-12-29 | 牛、ウシ、丑

引き続き、子牛の脛骨骨折をインターロッキングネイルで治した。

プレート固定は適応ではなかった。という症例報告への私の反論。

             -

この文献で面白いのは、Ortho Viewという整形外科手術計画用のソフトウェアを用いていること。

取り込んだ画像にプレートを乗せたり、インターロッキングネイルを描き加えて、検討できるらしい。

3.5mm(ブロードだね)LCP(A;左上)

4.5mm(ブロード)LCP(B;左下)

3.5mm(ナロー)LCP 2枚(C;右上)

3.5mm(ナロー)LCP2枚(D;右下)

プレート内固定は次の理由のうち、少なくとも一つで不適切だと思われた。

(1)近位骨幹端部が短いので、プレートスクリューが多くても3本しか入らない。

(2)最も近位の骨幹端のじょうご状の広がりに沿うようにプレートを曲げるとLHSは必ず骨端板を貫通する方へ向いてしまう。あるいは望ましくない短いスクリューを使わなければならない。

(3)骨端板の下を狙って皮質骨スクリューを使うことはスクリューが引き抜かれるリスクを増やす。特に使えるスクリューの長さが制限されるのでbicortical (対側皮質にもスクリューを効かせる) ことができなくなると考えられる。

内側にプレートを2枚当てることも、幅の狭い骨には乗りそうもないので不適切だと思われる(右上)。

最終的に、垂直の位置関係でプレートを当てるのが機械的により強いのだが、脛骨隆起の骨折があるので適切な選択とは考えられない。

            -

と長々と屁理屈を書いている。

私がレフリーなら、

「50kgの子牛はナロープレートで大丈夫だろう。細い脛骨に2枚プレートを並べて乗せる(C;右上)案は基本から外れているので検討する必要はない。垂直に2枚当てる方法(D;右下)はやれば成功した可能性がある。

著者は、スクリューが成長板を貫くことを怖れているが、子牛や子馬では成長板が損傷することもあり、成長板をまたぐ内固定や、成長板を貫くスクリューは後遺症を残すことはほとんどない。

この段落の記述は短くするか、削除しなさい」

と指摘する。

            -

この著者は、だからインターロッキングネイルを使ったのだ、と主張したいのだ。

それが果たして適切か?

本当にプレート固定より優位性があったか?

引き続き考えてみよう。

          /////////

今日は、

腕節骨折の関節鏡手術。

午後は、橈骨の腐骨・骨柩摘出。

疝痛の入院馬2頭は帰っていった。

きのうは、スノボ2年目シーズンの初滑り。

雪少なくて、硬かったが充分滑れた。

今日は、体が痛い。

いつにも増してしゃがむのが億劫。

シニアだからね;笑

 

 

 

 

 


文献「子牛2頭での角度固定インターロッキングネイルを用いた脛骨骨折の修復」

2022-12-28 | 学問

牛の骨折治療の文献は少ない。

少数例の成功報告はあるが、まとまった症例集はほとんどなく、そして成績(成功率)はよろしくない。

最近の文献を検索していて、ひとつhitした。

          -

Tibial fracture repair with angle-stable interlocking nailing in 2 calves

Veterinary Surgery 2019,48:597-606

Michigan州立大学からの報告だ。

理由はわからないが、著者は3名ともミシガン州立大学の小動物臨床研究室所属。

普通は小動物の獣医外科医は牛の手術はしない。

food animal の先生たちが居るし、骨折内固定でも馬外科医も居るからLarge animal 講座が対応するからだ。

なんだか、裏事情がありそうだ。

怪しい;笑

            -

子牛の脛骨骨折をインターロッキングネイルで治療した2例報告なのだが、書き方も内容もかなりかわっている。

著者が小動物外科医だからだろう。

intro にはこんな記載がある。

            -

4つの理由で生産動物の外科治療には制限がある。

最初に、経済的負担が商品価値をしばしば超えてしまう。

二つ目に、成長板損傷を伴う骨幹端部を含めた骨折は長期的には肢の短縮や肢軸異常につながり、歩行を妨げることになりうる。

三つ目に、近年使用出来るようになった長骨内固定の医療器材は、体重が重い動物や倍量体種ではインプラントの破損が起こりうるので外科的修復を行わない、となりうる。

四つ目に、未熟な骨は、種を問わず、本質的に機械的に弱い。それゆえに幼若な動物ではスクリューが引き抜かれてしまうことによるプレート固定の崩壊は重大な挑戦であると推察されるかもしれない。

            -

以下、私の反論。

一つ目。

経済的制限はたしかにある。それは、その地域での牛の価格にもよる。

しかし、治るなら充分に元は獲れる。

二つ目。

骨端板(成長板)を含めた骨端部の骨折が、肢の短縮や肢軸異常につながるかというと、子牛ではほとんど大丈夫。

ひょっとすると、イヌやネコでは問題が起こりやすいのだろうか??

三つ目。

インプラントの強度が足りないのは、300kgを越すような牛では厳しいのはそのとおり。

しかし、牛の骨折の多くは子牛で、人用に設計されたインプラントで大丈夫だ。

四つ目。

新生子牛の骨が弱いのはそのとおり。しかし、6.5mm海綿骨screwを使うなどの注意で充分に対応できる。

           -

この文献の症例報告は2例。

1例は、5日齢のホルスタイン。難産で産科チェーンでひっぱって折れたらしい。

私が経験した最新の新生黒毛子牛の脛骨骨折とそっくり。

近位骨幹端が、中程度に変位していて、ひどく粉砕していて、近位皮質には盤状骨折がある。

CTも撮っていて、そこはさすがにUSAの大学病院。

(でも、CT撮ると経済的負担になるんじゃないの?;笑)

CTを撮ることでさらに骨折の性状が把握でき、内側皮質の盤状骨折がわかる。

加えて、必要なインターロッキングボルトの長さを断面で測定することができる。

とあるが、まあ、必須だったとは思わない。

           -

この症例報告は興味深いのだが、プレート固定を推進し、実践してきた私としては納得がいかない部分が多々ある。

長くなるので、何度かに分けて、反論していきたい。

年越しちゃうな;笑

         ///////////

クリスマス寒波で、大雪だったり、停電が続いたり、たいへんな思いをしておられる方もいる。

お見舞い申し上げます。

これから始まる1日のグラデーション。

 

 


熊撃ち

2022-12-27 | 図書室

 

この表紙はいただけない。

内容は、熊撃ち猟師たちが主人公の短編集。

この作者の特徴で、感傷を抑え、無駄をはぶき、とてもハードボイルド。

取材を元にしていて、実話なのだそうだ。

名作「熊嵐」を書いたあとに、同じテーマで短編の連作を頼まれたのだろう、と思ったら、

この連作の取材の中で苫前事件についても取材し、苫前三毛別事件だけは短編に収まらないので独立させたのだそうだ。

            ー

この短編集に出てくる猟師たちを取り巻く事情もいろいろ。

老練な熊撃ち猟師も居るし、まだ熊を獲ったことがない若者も居る。

共通するのは、連射できない村田銃で危険な猛獣に立ち向かう恐怖だろうか。

スコープ付きの高性能ライフルではなく、丸い鉛弾を射っていた時代の物語だ。

            ー

人が襲われる。

復讐と危険排除のために熊撃ちを請われる。

依頼に応えて人食いヒグマを山中に追い、撃ち果たす猟師たちはヒーローなのだけれど、彼らの喜びはほとんど描かれていない。

            ー

背景にあるのは山奥の集落の貧しさ。

豊かな農村ではなく、山に入り山菜を採り、茸を採り、生活の足しにする暮らし。

猟師もまた熊を撃てば、胆嚢は薬として高く売れ、毛皮も手に入り、肉は食糧になる。

先人たちの暮らし、野生動物や自然との緊張感を持ったつきあいに思いを馳せるのも悪くない。

            ー

各短編の表紙のページに描かれた絵は素晴らしい。

シュールでありながら、短編の内容と関係していてリアルでもある。

           ---

もっとリアルでハードボイルドなもの(資料)

            -

もう40年前、ずいぶん日高山脈や他の山々を登ったが、ヒグマには一度も会わなかった。

NHKのアルバイトで、日高のカムイエクウチカウシ山の近くで、ヒグマを撮影したいと稜線から1日見張っていたこともある。

それでも姿も見えなかった。

10年ちょっと前に家の近所で見たけど;笑)

最近、北海道のヒグマも増えているのかもしれない。

そして、行動がおかしいヒグマも散発しているのかも。

          //////////

週明け、午前中、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

1ヶ月前にTieback&cordectomy した競走馬の再検査。

昼、ショック状態の当歳馬が来院。消化管破裂のようだった。

午後、当歳馬の肢軸異常のscrew抜去。

夕方、当歳馬の飛節の細菌性関節炎。全身麻酔して関節洗浄。

有茎脂肪腫が巻きついて空腸切除・吻合した高齢馬は、POI(術後イレウス)が改善し退院していった。

           -

年末だ。

 


クリスマスイヴは

2022-12-25 | 急性腹症

24日朝、浅屈腱炎のPRPの腱内投与とキャスト固定。

PRPは130万/μlと良いでき;笑

PRPは必ず血小板数を確認した方が良い。

ちょっとしたことが、できあがりに影響するようだ。

         ー

1歳馬の舌裂傷の急患。

ハミでざっくり切ったのではなく、舌の先を縦に切ってしまった。

ナス環でやったんじゃないか、とのこと。

立位で縫合。

         ー

当歳馬の疝痛の急患。

超音波検査で盲腸重積のようだ、とのこと。

痛みはひどくなくても、超音波所見がはっきりしていたら開腹手術適応の判断ができる。

小腸重積のような二重丸(Bull's eye, Fish eye, Target mark などと呼ばれる)とはちょっとちがう。

内側の塊が何なかの気になったが、あとで思い当たった。

血管がある盲腸紐が腫れ上がったものだ。

開腹したが、盲腸は半分が右腹側結腸へ入ってしまっていて抜き出せない。

開腹手術創を切り広げ、右腹側結腸へ入り込んでいる盲腸を外から押したのが良かったかもしれない。

なんとか抜けた。

小腸重積でも、回腸盲腸重積でも、引っ張って抜けてこないときは、入り込んでいる腸を外から包むように圧力をかけて押し出してみると良い。

腸重積は腸が裏返って、他の腸に飲み込まれている。

引き出すとき、その中から漿液が出てくる。

超音波画像で裏返った盲腸の中にあるのも液体だ。

それが少しでも抜けると、重積した腸を引き出しやすくなるのだろう。

引っ張り出して、切除した盲腸を裏返したところ。

多数の葉状条虫。

盲腸重積は葉状条虫症だと考えている。

条虫多数寄生で腫れ上がった盲腸が、動きも悪くなって結腸へ飲み込まれるのだろう。

11月にイベルメクチン・プラジクワンテルの合剤で駆虫した、とのこと。

効果がなかった? ちゃんと飲み込まなかった? そもそも情報の間違い??

            ー

2時半から予定していた1歳馬の管骨瘤の摘出。

腫れて、熱感があって、跛行もしている。

第二中手骨と第三中手骨の間の靱帯が傷んだことで造られた骨瘤だった。

繋靱帯側にかなりの骨増勢があり削るのはなかなかたいへんだった。

           ーーー

今週は学生実習が来ていて、それらの診療と手術を全部見ていった。

昼食は抜き;笑

「ぜひ来年、就職試験を受けて、日高希望と言って下さい」

と言ったら、

「よろしくお願いします!!」

という良い返事だった;笑

           ーーー

クリスマス・イヴ。

夜中、電話で呼ばれる。

盲腸重積だった子馬が突然馬房の中を回り、壁にぶつかり、転がった、とのこと。

疝痛か?

と思って着替えて入院厩舎へ行った。

冬は何をするにも時間がかかる。

馬はすでに落ちついていた。

何だったんだろう。

そんなクリスマス・イヴ、星空が綺麗だった。