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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

馬の栄養補助食品?としてのグルコサミン+コンドロイチン硫酸

2011-04-30 | 学問

引き続き Adams and Stashak's Lameness in Horses より。

Glucosamine and Chondroitin Sulfate グルコサミンとコンドロイチン硫酸

 多くの馬用栄養補助食品はグルコサミンとコンドロイチン硫酸の組み合わせを含んでいる。相乗効果はウサギの不安定化モデルで示唆されていて、その研究では組み合わせた方が、それぞれの単独よりも軟骨病変を遅らせるのに効果があった。また、組み合わせは腱細胞と靭帯細胞のコラーゲンの合成を良くすることも示されており、そのことは関節の付随組織にとって重要かもしれない。

 体外での研究では、グルコサミンとコンドロイチン硫酸は軟骨の代謝に有害な効果を示さないことが明らかにされている。また、体外での研究では、組み合わせが、蛋白分解活性を抑制することも示されている。それは、おそらく、PGE2やNOレベルを減少させることも含めて、前炎症サイトカインに関係した分子レベルの生化学的事象を変調させることによるもので、GAGの分解を防ぎもする。これらの研究はグルコサミンが骨関節症の進行を抑える可能性が最もあり、一方コンドロイチン硫酸は骨関節症の症状をコントロールするのに最も良いかもしれない。

 グルコサミンとコンドロイチン硫酸の馬で推奨されている以上の量の経口投与は、血液学的あるいは凝固の状態に変化を与えず、安全だと思われる。馬での滑膜炎作出モデルでは、グルコサミンとコンドロイチン硫酸製品は臨床的に判断できる効果を示さなかった。しかしながら、別のひとつの研究では、経口と筋肉内投与のどちらにおいても治療効果があった。この組み合わせを用いて臨床例を治療した研究では、馬は跛行、屈曲、ストライドの長さ、が改善された。一方、舟嚢炎の馬はプラセボ対照群と比較して明らかに改善された。グルコサミンとコンドロイチン硫酸の組み合わせは、足根関節骨関節症の馬での歩様分析において、足根関節の動きの範囲と立位での関節のエネルギー発生と同様に、床面からの垂直方向への反作用力と衝撃のピークを左右均等に改善した。

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ん~さらにややこしい。グルコサミン、コンドロイチン硫酸、それぞれ単体でも、吸収や、作用(もしあるとすればだが)についてわからないのに、合剤(「剤」はふさわしくないが)になるとさらにわからない。

もっともそれも、「相乗効果があるなら」という話で、まだ信頼するに足る証拠は得られていないようだ。

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先週あたりから、結腸便秘の繁殖雌馬が数例来院、入院した。

まだ青草も食べられないのだろうが、それにしても少し続いている。

冷たい雨が降って、子馬がいるので放牧しなかったせいだろうか。

青草の季節までもう少し。

                           

 


馬の栄養補助食品?としてのコンドロイチン硫酸

2011-04-27 | 学問

引き続き、Adams and Stashaks' Lameness in Horsesの記載。

Chondroitin Sulfate コンドロイチン硫酸300pxchondroitin4sulfate

(右図はWikipediaから)

 コンドロイチン硫酸は長い糖鎖であり、アグリカンの正常な構成成分である。コンドロイチン硫酸は関節軟骨のすべてのグリコサアミノグリカン glycosaaminoglycan の約80%を占めている。また、骨、靭帯、腱の細胞外マトリックスの重要な成分でもある。軟骨の中では、コンドロイチン硫酸は多くのアミノ基を持っていることにより浸透圧を作り出す重要な働きをしている。コンドロイチン硫酸はしばしばサメや牛の軟骨から取り出されている。合成や抽出するとかえって高価になる。コンドロイチン硫酸の由来する動物種や組織により濃度、薬理学的動態、分子量の組成と重量、代謝の終末、治療の結果、に違いを生じうる。それゆえに、すべてのコンドロイチン硫酸製品が同じ臨床的効果を示すとは考えられない。

 コンドロイチン硫酸は馬でも経口的に吸収される;しかし、分子量と由来が消化管の透過性や生物利用性に直接影響しうる。他の動物種での研究では、消化管の粘膜は様々なグリコサアミノグリカン分解酵素を持っていることが示されており、そのことは酵素による分解の可能性があるので、コンドロイチン硫酸がそのままの分子では吸収されないことを示唆している。肝臓は、コンドロイチン硫酸の最終的な分子をさらに変質させうることも唱えられてきた。放射線でラベルしたコンドロイチン硫酸を用いた報告では、血漿、関節軟骨、滑液の中で高濃度になることが示されている。

 摂取されたコンドロイチン硫酸は体外での研究では、正常な関節軟骨培養細胞に副作用を示さないこと、プロテオグリカン/GAGの合成を増加させること、あるいは逆に減少させることが示されてきた。体外研究はまた、関節の代謝に関わるいくつかの組織に重大な抗炎症作用を示すことを示している。これは部分的には、摂取されたコンドロイチン硫酸が滑膜細胞でのヒアルロン酸の合成を刺激し、ヒアルロン酸の組成(潤滑性)を改善することによるのかもしれない。加えて、抗炎症作用はNO産生と同様PGE2のダウンレギュレーションから派生するのかもしれない。コンドロイチン硫酸はMMPとアグリカナーゼの発現・活性を用量依存性に抑制することも示されている。

 馬の滑膜炎モデルにおいて、コンドロイチン硫酸は明らかに筋肉内投与されたポリ硫酸グリコサアミノグリカン(PSGAG)(Adequan)ほどは跛行の軽減、ストライドの長さ、手根関節の屈曲性において効果がなかった。同じ実験モデルを用いた他の研究では、コンドロイチン硫酸が投与経路によらず(経口あるいは筋肉内投与で)関節の機能を改善し、跛行スコアを軽減する治療効果を示した確証がある。しかし、臨床的な改善の始まりはコンドロイチン硫酸の経口投与ではより遅かった。人での研究において、コンドロイチン硫酸の経口投与による治療への反応は遅くに現れ(60日後)、3ヶ月の治療の最後においてより大きく、そして治療後3ヶ月まで続いた。このことは、反応には時間がかかるが、最後の投与後も続くのかもしれないことを示している。5つのコンドロイチン硫酸製品を調べたある研究では、コンドロイチン硫酸の実際の含有量はラベル表示の22.5%から155.7%であった。

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コンドロイチン硫酸については、グルコサミンより構造が複雑なだけ、吸収されるかどうか、由来や微妙な構造の違いによる差はどうか、効果があるかどうか、さらに難しいように思う。

・馬でもコンドロイチン硫酸は吸収されるが、どんな形でどれくらい吸収されるかはわかっていないし、どのように利用されているかもわからない。

・ポリ硫酸グリコサアミノグリカンの筋肉内投与ほどは効果がなさそうだ。

・コンドロイチン硫酸を経口摂取しても効果が現れるのに2ヶ月以上かかる。

・コンドロイチン硫酸が入っているとされる製品にはばらつきがある。

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P4211032昨年度は180頭、関節の中から骨・軟骨片を取り出す手術をした。

予防、補助治療、代替療法には大いに興味がある。

ほんとうに効果があるなら・・・・


断水騒動

2011-04-26 | 日常

きのうは、昼前から突然断水した。

予告されていれば水を汲み置きしたり、手術の予定を入れないとかするのだが、突然だったのでどうしようもない。

何とか予定の手術もできた。

難産でも来ていたらそこらじゅう羊水と血だらけで、手も洗えず、掃除も洗濯もできず・・・だったかもしれない。

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断水すると検査機器も動かない。

断水解除されてからも、水は気泡で白く濁り、水道管の錆が混じり、血清蛋白自動電気泳動装置がエラー続出で動かない。

夕方、ホルスタインの消化器病の開腹手術。

飼い主さんは搾乳時間なので、付いていられない。

そういうと、今の酪農家も停電や断水すると、お手上げなのだろうと思う。

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手術も終わり、なんとか出た検査結果を報告していたら、難産の連絡。

尾位で引っ張り出した子馬は生きていた。

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P4251037_2 「どこへ手いれてんのよ」


馬の栄養補助食品?としてのグルコサミン 2

2011-04-25 | 学問

さて、Adams and Stashak's Lameness in Horses の記載。

Glucosamine グルコサミン

 グルコサミンは関節軟骨の正常な成長や修復に不可欠なアミノ糖である。グルコサミンは、関節軟骨の軟骨細胞の代謝を刺激したり炎症を抑える役割を果たす可能性があるとされて、馬の栄養補助食品として用いられてきた。

 摂取用グルコサミンは合成するか、海の甲殻類あるいは牛から抽出することができる。市販されている摂取用グルコサミンには3つの形状に分けられる。塩酸グルコサミン、硫酸グルコサミン、N-アセチル-D-グルコサミンである。用いられるグルコサミンの形状による差異を示した報告がいくつかある。例えば、いくつかの体外での研究は、塩酸グルコサミンと硫酸グルコサミンがN-アセチル-D-グルコサミンより以上に安定して軟骨の障害を防いだように思われることを示している。血清および滑液の硫酸塩濃度は硫酸グルコサミン投与の後に増加するので、硫酸グルコサミンはより効果的だと主張されてきた。

 馬における塩酸グルコサミンの経口による生体活性は2.5%から6.1%であると報告されてきた。そのため大量投与が必要であり、消化管では吸収が悪く、末梢で利用されにくい。放射性物質でラベルした研究では、血漿中を越えるレベルで関節軟骨にグルコサミンが分布しており、数倍の濃度まで軟骨にグルコサミンが蓄積していることが示された。しかし、関節軟骨へのグルコサミンの分布は必ずしも関節軟骨へと合成されたことを意味しない。実際には、馬での経口投与の後、グルコサミンの滑液中濃度は、同じ時点での血清中の濃度の10%未満であった。このことは、グルコサミンは血漿から滑液へと容易には拡散しないことを示唆しており、グルコサミンの効果が関節以外の組織への効果によるものであるかもしれないことを示している。関節の疾患のあるなしは関節内のグルコサミン濃度に影響を与えうる。ある研究では、手根関節においてE.coliのリポポリサッカライド(訳者注;エンドトキシン)により引き起こした滑膜の炎症は、塩酸グルコサミンの経口投与後の健康な関節でのレベルに比べて、滑液中のグルコサミン濃度を明らかに増加させた。

 摂取用グルコサミンは体外では正常な関節軟骨培養細胞や軟骨細胞の代謝に、長期間の暴露後も有害な影響を与えないことが示されてきた。多くの体外での研究は一般的に、グルコサミンが新しい軟骨の生成を促進し、一方すでにある軟骨を保護することを示してきた。グルコサミンはプロテオグリカン(訳者注;共有結合型錯体の蛋白鎖に結合したグリコサアミノグリカン(ムコ多糖類)。結合組織の細胞外基質においてみられる。wikipediaより)とコラーゲンの合成を刺激し、一方プロテオアミノグリカンの変性を抑制する。これは、部分的にはMMP(マトリックスメタロプロテイナーゼ)とアグリカナーゼのダウンレギュレーションを通じて起こる。抗炎症効果は抗プロスタグランジンとは関係していないように思われ、滑膜細胞によるヒアルロン酸の産生を促進することによるのかもしれない。加えて、メチルプレドニゾロンによって引き起こされたプロテオグリカン産生の抑制に抵抗してグルコサミンが保護効果を示したという体外での馬軟骨培養細胞ペレットモデルにおいて示されたように、軟骨へのステロイドの有害作用のいくつかから保護するかもしれない。

 グルコサミンのみをもちいた馬での体内研究はほとんどない。調教している若い馬でのグルコサミンの経口投与は、骨と軟骨の代謝についての血清中の生体指標に明らかな治療効果を示さなかった。体外実験で効果があったグルコサミンの高レベルは、人や動物の実験モデルでは成し遂げられていない。それゆえに、体外研究の結果から体内での状況を推定することには注意が必要である。人での研究から推測しうるもっとも信頼できる情報は、グルコサミンが働き始めるのに4から8週間はかかるように思われることと、グルコサミンは予防的に用いられるとき、つまり病気の進行プロセス前の小さな病変があるときに用いると最も効果を示すであろうこと、である。

 グルコサミンを含んでいる製品の品質には疑問が唱えられている。あるひとつの研究は市販されている馬の経口用サプリメント中のグルコサミンの量を測定し、それぞれの製品のラベルの表示と比較した。調査された23の製品のうち、9製品(39.1%)が製造元が主張しているより少ないグルコサミンしか含んでおらず、4製品(17.4%)は表示された値の30%未満の含有量であった。馬用グルコサミン5製品を検査したもうひとつの研究ではグルコサミンの実際の組成はラベルに表示されている63.6%から112.2%のばらつきがあった。グルコサミンの推奨1日摂取量は製品のラベルにおいてもたいへん差があり、平均的なサイズの成馬で1日1,800~12,000mgのグルコサミンを経口摂取することになっている。このばらつきはこれらの製品の効果を評価するとき考慮されるべきだ。

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非常に難解だ。(私を含めて、たいていの馬臨床獣医師は化学は得意ではない;笑)

独断と偏見を含めて要点を取り出すなら、

・グルコサミンの中では硫酸グルコサミンが利用され易いことが確かめられている。

・グルコサミンの吸収は良くない。が、吸収され、利用されるようだ。

・副作用はなさそうだが、軟骨や関節の保護作用の機序は(もしあるとしても)推測の域を出ない。

・馬の生体を用いた研究はほとんど行われていない。

・「効果」が現れるとしても4-8週間はかかるだろうし、「予防的」に与えておくのが最も良い結果を期待できる・・・・かもしれない。

・グルコサミン製品の品質はかなりいい加減なものが多い。

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 本来、栄養補助食品は薬ではない。もし、経口投与で本当に効果が確かめられれば、経口薬として認められるだろう。

だから、摂取しないよりしておいた方が良いかも知れない・・程度の期待で使うべきものなのだろう。

しかし、人でも馬でも、あまりに期待が大きく、また値段も高い。海外では馬用の製品でも市場が広いので、大きな市場規模になっている。

本当に、その馬にとってその栄養補助食品を与える価値があるかどうかは、獣医師にも判断が難しい。

馬を飼っている人も、獣医師も、企業のコマーシャルに踊らされるのではなくて、よく考えて使った方が良さそうだ。

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P4251033_2去勢に連れて来られたのは1歳の道産子君兄弟。

まだ玉がちいさいこともあるけど、

なんだかやりやすかった。

サラブレッドが馬としても特殊なんだと思う。

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被災地、そして原発避難地域の動物達がどうなっているのか、助けるためにはどうすればいいのか、あまり情報もない。

やっと、動物のことまで少しは報道されるようになってきたというところだろう。

その間に、すでに悲惨なことにもなっているようだ。

「被災地」「動物」などで検索すると救援活動や署名運動が出てくるのだが、今、何ができて、何をすべきなのか、私にはわからない・・・・・


馬の栄養補助食品?としてのグルコサミン 1

2011-04-24 | 学問

Adams and Stashak's Lameness in Horses には Principles of Theraphy for Lameness (跛行の治療の原則)の章がある。

その一つは Oral/Nutrition 経口投与/栄養 が項になっている。

経口投与で使える非ステロイド抗炎症剤などについての記載に続いて書かれてい るのは、

Nutraceuticals。

これは最近よく聞く単語だが、nutrition 栄養 と pharmaceutical 薬学 を併せた造語で、

栄養補助食品とか、機能性食品functional food とほぼ同義語のようだ。

その中に、運動器疾患、おもに関節や関節軟骨に効くことが期待されるグルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸も含まれている。

80pxdglucose_fischer_svg_2                      -

  さて、グルコサミンとは何かを理解するためには、グルコースについて思い出しておいた方が良い。

150pxglucose_structure_svg_2グルコースは炭素を6つ持った6炭糖(ヘキソース)で、鎖状構造のときは左のように化学式で書かれる。

環状構造をとっていると右図のようになる。

200pxbetadglucose_svgこれを斜め上から見ると左図のようになる。

                    -

グルコサミンはグルコースの一部の水酸基がアミノ酸に置換されたアミノ糖のひとつである。

100pxalphadglucosamine 構造式は左図。

こうやってみると、「グルコサミン」もそうそう複雑だったり特殊な物質ではないように思えてくる。

まあ、そう言ってしまえば動物の体はほとんど炭素や水でできているのだろうけど。

<図や記載はWikipediaからお借りしました。>

(つづく)