馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

繁殖雌馬の慢性跛行 What’s your diagnosis ?

2022-10-31 | How to 馬医者修行

慢性の後肢跛行が続いている繁殖雌馬。

一時よりは落ち着いたようだが、はっきりわかる跛行。

血液検査でSAAが高く急性炎症像が認められていたが、SAAは正常値近くまで下がったそうだ。

当初は飛節周りが腫れたそうだ。

腫れは下がったがまだ残っている。

X線撮影してみて・・・

おや?脛骨の遠位に透過亢進部がある。

角度を変えて撮っても骨の中に写るので、骨の中心部に透過亢進部はあるようだ。

よく観ると中足骨近位にも透過亢進部があった。

コントラストを強くするとはっきりする。

何だ?

          ///////////

獣医師3人勤務の診療センターで働いていた頃は、連休をとることはほとんどなかった。

4人勤務になった頃には忙しく、3連休するのは夏休みか正月休みくらい。

今は5人勤務になり、週休二日制になり、おまけにコロナ禍で出張も少ないので休みを取りやすい。

それで・・・

地獄、を観て来た;笑

 

 


肉弾

2022-10-19 | 図書室

調べ物をしていて、1年間のカルテを全部めくった。

2021年度も鹿の角でやられた外傷のカルテがあった。

鹿による被害を調べているわけではないけど。

あと3年分調べる。

           -

ときどきニュースで、「クマが・・・」と報道されている。

本州だと「ツキノワグマ」か、となるし、北海道のニュースだと「ひゃ~ヒグマだ」とわかる。

しかし、ツキノワグマに襲われるのと、ヒグマに襲われるのはぜんぜんリスクが違う。

チワワに噛まれてもニュースにする必要はないし、土佐闘犬が人を襲ったら大事件だ。

クマのニュースは、クマの種類も報道すべきだと思う。

           -

さて、本の話題。本題。

あの川﨑秋子さんの冒険小説。

ひきこもりの大学生が、父親に連れて行かれた道東の山中で、ヒグマと野犬と闘うことで生きる力を再生させていく物語。

動物との格闘のリアリティーについてはもうちょっと、かな。

しかし、道東で羊飼いとして生活しながら小説を書いていたこの作家の言いたいことは伝わってきた。

           ー

道東で、野犬の群れがシカを襲っているのが観られているそうだ。

人の被害が出る前に捕獲しようとしているらしい。

犬たちにも狩りができるんだな。

増えすぎたシカ対策に狼を導入してはどうかという意見もあるそうだ。

(小説「肉弾」の中でも紹介されている)

犬じゃあだめか?

           -

最近、筋トレしている獣医さんが増えてきたようだ。

世の中が筋トレブームだということを除いても、

診療の中で体を鍛えておく必要を感じるのだろう。

都会では、お化粧する男子が増えているそうだ。

筋肉を使わない都市生活より、体を使い筋肉の必要性を感じる田舎獣医の生活の方が、

生きる力を呼び覚ましてくれる生活なのかもしれない。

         ////////////////////

おまえは狩りをして生きていく才能はなかったな。

でも本気出したら父ちゃんより強かったかな。

な。

 

 

 


第三腓骨筋断裂の歩様

2022-10-17 | 整形外科

「跛行診断」を整形外科に含めてしまうのはどうかと思うが、

「頭以外のすべて」を扱うのが整形外科だ、ということなら馬の跛行はまちがいなく整形外科の一分野なのだろう。

             -

「1.5ヶ月前に四肢がバラバラの歩様になり、徐々に良くなったが、左後肢にだけ異常な動きが残った」という当歳馬。

歩かせてみると、たしかに左後の動きがおかしい。

前へ出す動きが遅れるし、逆に大きく高く動かす。

過測尺?

hypermetria ; 測定過大、推尺過大 

求める対象物または目標を通り越してしまう運動失調。通常、小脳疾患でみられる。

------------ステッドマン医学大辞典

速歩させてみると、過大な動きが強調された。

痛みじゃないんだな、と思った。

              -

飛節以下はX線撮影済みということで、要望の骨盤のX線撮影をすることにした。

全身麻酔して仰向けにすると、

あれっ?左の飛節が伸びてしまう。

骨盤や股関節にX線画像で異常なし。

典型的な、腓骨筋断裂のテストをしてみる。

後膝を曲げた状態で飛節を伸展できてしまう。

後膝には、大腿骨の腓骨筋付着部から剥がれたのであろう大きな骨片がみつかった。

ずいぶん遠位まで離れてしまっている。

この骨片を摘出することで歩様が改善した、と言っていたDrがいたが、私は賛同しかねる。

後肢の重要な機能が失われているのだ。

競走馬に成れるとは思えない。 

            -

膝部の腫脹や、痛みが消えて、跛行、歩様異常、として見せられたので気づくのが遅れた。

逆に、第三腓骨筋断裂の症例が、こういう歩様になるんだな、と勉強になった。

            -

正確には第三腓骨筋 Peroneus Tertius

Lameness in Horse

のそのページには、”PT” と書かれている。

もちろん2回目以降の本文でだけど、”PT”はやめてほしいな・・・・

          /////////////

シラカバの玉に生えてきたキノコ。

食べられそうなんだけどな。

やめといた方がいいだろうな。

毎年、秋になるとこんなことを書いている気がする;笑

 


猟犬探偵

2022-10-15 | 図書室

帯広の書店でみつけて購入。

漫画家も、原作者ももう亡くなっている。

舞台も、昭和61年。

あのころは、携帯もまだ普及しておらず、世の中の連絡は電話かFAXが主で・・・

しかし、現代の物語として読んでもそう違和感はない。

            ー

行方不明になった猟犬を探すことを生業にしている男。

祖父の遺産の広大な山林を相続し、ログハウスで一人暮らしている。

愛犬と。

そこへ舞い込む困った依頼。

連れ去られた盲導犬を探してくれとか、

シェパードと一緒にいなくなったサラブレッドを追ってくれとか・・・・

            ー

ハードボイルド小説へのオマージュも含まれている。

「ハードボイルド」なんてもう流行らないのだろうけど。

今はもう拡散して、薄まって、それでも多くの小説やドラマや映画に要素として含まれている。

あるいは、それと意識されずにベースになってはいる。

ひょっとしたら、私たちの世代を狙った復刻版なのかもしれない。

サイドキックとは相棒のことなのだそうだ。

相棒を亡くした私には楽しんで読めた。

            ー

犬の一生は人よりもはるかに短い。

犬を飼い続けるということは、犬のいくつかの生と死を見つめ見送ることになる。

人は犬の命の輝きと

避け難い終焉を

自分の人生に照射しつつ暮らすことになる。

            -

人が犬の生と死から学び教えられることは多い。

            -

相談してくれていたら、サラブレッドの物語はもう少しリアルにする方法を提案してあげられたかも;笑

          /////////////

きょうは、予定の手術はなし。

昼、血液検査業務。

当歳馬の跛行診断。

大腿骨内顆のひどいOCD,あるいは形成不全、あるいは虚血性壊死だった。

繁殖雌馬の剖検。大腿骨頭の粉砕骨折。

夕方、1歳馬の腕節の外傷縫合。

 


種子骨軸側縦骨折 成書の記載 症例報告での予後

2022-10-11 | 整形外科

外顆骨折に伴って種子骨が縦に割れてしまう骨折についての成書 Equine Fracture Repair の記載の続き。

             -

 文献には、種子骨軸側骨折についてふたつの報告がある。

一つは、2頭の馬での第三中手骨外顆骨折に伴って起きた外側種子骨の軸側骨折について注意を喚起するものだ。

2頭とも重度の変形性関節症を骨折と顆骨折の修復の3ヶ月以内に起こした。

もう一つは3頭の症例報告で、第三中手骨の変位した外顆骨折に伴って起きた外側種子骨の軸側骨折を報告している。

2頭の馬は顆骨折を手術したが、2頭には跛行が残り、変形性関節症を起こした。

軸側種子骨骨折の結果として深指屈腱への損傷について記載した報告もあり、のちのちの予後を悪化させる。

 軸側骨折を関節鏡で評価することは正当なことであるが、予後を改善するかもしれないという症例報告はまだない。

中手骨骨折に適切な治療をすれば、受傷した馬は引退して快適にすごせるし、繁殖供用することもできる。

まれに、必然的に継発する変形性の関節障害が問題となるかもしれない。特に種雄馬では。

修復を可能にするほど内外の幅が充分ある骨折がときには判明する、しかし併発している関節の損傷の進行は運動機能が戻ることを阻害しうる。

             -

今のところ、この外顆骨折に伴う種子骨の軸側縦骨折の症例報告は多くないし、軸側縦骨折を内固定した報告もない、ということだ。

私は、外側から3.5mm皮質骨screwか、4.0mmscrewを入れて内固定してはどうかと考えたが、競走馬を引退して繁殖供用するということなのでやらなかった。

牡馬たちのために、練習しておく必要があるかもしれない。

          /////////////

このブログを書いている私の書斎

じゃないよ;笑

これじゃあ書き物できないし。