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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

去勢後の出血

2018-10-30 | その他外科

去勢したら出血が止まらない、とのことで開業獣医さんから診療依頼。

術後出血は去勢手術の併発症の代表的なもののひとつ。

しかし、たいていは特別な処置をしなくても自然に止まる。

私もせいぜいガーゼを入れておくことしかしたことがないので、自分の経験からはどのくらいの出血が危険か知らない。

古い外科の教科書を見ると、

滴下している出血は自然に止まるが、線状につながっている出血は止血処置しなければならない、

というようなことが書かれている。

しかし、来院する頃には止まっているだろう・・・と考えながら待った。

                 -

線状につながって出血してる・・・・・

フラッシュ撮影すると途切れているように写るが、人の目には紐状。

去勢してからすでに3時間。

口粘膜はやや貧血。PCV27%。これでは全身麻酔はしたくない。

                -

鎮静処置して、枠場に入れて、鉗子を術創へ入れて、精索らしきものをつかんで引っ張り出して、

さらに何本か鉗子をかけたら、なんとか血は外へは出てこなくなった。

創内で出血しているかどうかはわからない。

血腫が大きくなってこないように鉗子をかけなおして・・・・・

1 monocryl で精索を何度も貫いて、しっかり締めながら1本ずつ鉗子をはずした。

なんとか血は落ちなくなった。

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Henderson式と呼ばれる捻転式去勢は、2005年にAAEPで発表された。

全身麻酔して、総鞘膜ごと、自然に捻り切れるまで回転させる、というのが大事な手技だ。

つい不安を感じて、結紮しておいたり、鉗子をかけてから捻転させたくなるが、

そんなことをすると結紮したり、鉗子をかけた部位で切れてしまいやすいだろう。

そして総鞘膜ごと捻ることで、総鞘膜に絞扼されて止血されるのだろう。

開放(総鞘膜も切開してしまう手技)でやると術後出血のリスクが高まるはずだ。

工夫してアレンジを加えることは悪いことではないが、その方法を間違うと危険だ。

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危なかったのだ。

貧血するほど出血した馬も、

育成馬の股に手を入れなければならなかった私も;笑

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家の裏の林で見つけた秋。

滴るような”赤”を観るなら、こっちの方がイイね。

 

 

 


頚の付け根の膿瘍だった

2018-10-29 | 感染症

肘関節炎で前肢の跛行している当歳馬の診療依頼。

来院したら、ひどく痛いのか歩けない。

両前肢とも負重できず、前へ出して、頭を下げて、無理に歩かそうとすると倒れてしまった。

両側の肘関節、ということだが、触診しても肘関節の腫れはほとんどない。

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倒れたままX線室へ引きずり込んで、大型X線撮影した。

肩関節には異常なし。

肘関節にも異常なし。

両前が負重できない、痛い、あるいは麻痺しているというのは、頚椎、胸椎の問題なのではないか、と考えて胸椎棘突起も撮影したが、異常なし。

超音波で上腕二頭筋滑液嚢の滑液がわずかに増量していたので、抗生物質を入れた。

局所麻酔薬も入れたのだが、痛みは取れなかった。

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馬運車まで歩けず、また倒れたので、ブルーシートに乗せて運び込んだ。

2日後、起立不能になり、前肢は麻痺しているようなので安楽殺した、とのこと。

剖検したら、第七頚椎と第一胸椎の関節の近くに膿瘍が見つかった。

髄腔には感染は及んでいないように見えた。

症状が、後躯を含めた体全体の麻痺ではないことからも髄腔は大丈夫だったのだろう。

左右の腕神経叢へ行く大きな神経が障害を受けたのだろう。

膿汁の培養で、Rhodococcus equi が分離された。

左右の肺には膿瘍はなかった。

後でX線画像を見直したら、第七頚椎に重なる透過部が写っている。

誤診は知らないことより、見ないことで起こる」 

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そう、あちこち見渡すことがたいせつ。

 

 

 

 

 


秋の妙な腰痿 エンドファイト中毒か?

2018-10-27 | 馬神経病学

10月半ば、当歳馬が歩様がおかしいとのことで診療依頼。

おかしくなり出してもう1ヶ月近くなる、とのこと。

歩かせると強硬歩様。

小さいストライドで、突っ張って歩く。

後肢は特に広げ気味。

地面を叩くようでもある。

転びそうにもなる。

明らかに、頚椎症の腰痿とは症状が異なる。

しかし、念のために頚椎のX線撮影をし、血液検査もした。

頚椎に疑わしい所見はなし。

血液検査で炎症像はなし。

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その日、開業の先生から神経症状の当歳馬の動画を見せられた。

2頭。

頭を小刻みに振っている。

歩きもまともではない、とのこと。

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秋にこのような歩様異常を示す若馬を診せられる年がある。

腰痿?と思われるような症状のこともあるが、見慣れた頚椎症の腰痿とは症状が異なる。

今年の馬は特に頚椎症の腰痿とはまったく症状が違った。

                -

カビ毒(エンドファイト中毒)かもしれない。

カビの生えたものなど与えていない、と言われるが、目で見えるようなカビではなく、

植物の細胞内に増殖して、さまざまな生理活性物質や毒素を産生する。

尋ねると、具合が悪くなってからも草が生えたパドックに出している、とのこと。

生草を食べないようにしたら良いよ。とアドバイスした。

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1週間ほどで症状は良くなったそうだ。

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秋、健康なワンコ、至福のとき;笑

 


重症の腸骨体骨折

2018-10-27 | 整形外科

後肢を前へ出せず、後膝や飛節、球節を曲げることができない2歳競走馬。

立位で内側膝蓋靭帯を切断したが、それでも曲げられるようにならなかった。

危険を覚悟で、全身麻酔して骨盤のX線撮影をしたら、

右の腸骨が股関節近くで折れて、ひどく変位していた。

変位した腸骨が大腿骨に当たっている。

それで大腿骨を前へ出せなかったのだ。

この2ヶ月近くが可哀想だが、これではまともに歩けるようにはならない。

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あれっ、この牛、角はえてる・・・・

歩きを見ていると、左前肢の跛行していた。

Dyson Grade で直線常歩4/8の跛行だった。

シカは速歩はせず、ピョンピョン跳ぶが、そうなると跛行はわからなかった。

「常歩の跛行が、速歩させると悪化するとは限らない。」

Dyson先生の指摘は、シカの跛行にも当てはまる。


上腕骨骨折DCP固定 実践

2018-10-21 | 牛、ウシ、丑

その黒毛和種子牛は、受精卵移植でホルスタインから生まれた。

そして、その代理母牛につぶされたらしい。

そんなわけで子牛共済にも入っていない。

そのために手術は躊躇された。

私が休みから帰ってきて相談された。

あきらめるには高価な子牛だし、子牛の一般状態は悪くない。

もう4日経っている・・・・・治ると保証はできないけど、やってみるかい?

              -

 

思ったとおり、思いっきり騎乗変位 over-ride している。

破片 piece があることに注意。

それでも新生子牛なので、牽引するとかなり変位は直せる。

頭側切開 cranial approach で上腕骨に到るが、牽引だけでは完全には整復できない。

骨鉗子で挟んで仮固定し、スクリュー screw をうった。

まず5.5mmスクリュー。

圧迫スクリュー lag screw として入れたかったが、5.5mmのグライディングホールは大きすぎて怖いので、

固定スクリュー position screw にした。

その遠位にも screw を入れたが、骨折部に近すぎたので骨が割れた。

で、今度は最初に入れた screwの近位に6.5mm海綿骨スクリューを入れた。

6.5mmシャフトスクリューを使いたかったが、スクリューケースに在庫がなかった。

ので、これも固定スクリュー。

2本のscrew head が近いが、効いてはいる。

5孔DCPを当ててみる。

もっと骨に押し付けないといけない。

頭方向から見ると、遠位側はもう少し内側に当てて、

screwが内側の骨幹端内側へ入るようにしなければならない。

骨鉗子でプレートを押さえておいて・・・

push-pull device を遠位から2つ目の孔に入れて、プレートを押し付けた。

いいんじゃない?

画像右上に出ているのがpush-pull device の根元。先は狙った骨幹端内側へ向いている。

一番近位に6.5mm screw を入れた。

一番遠位のドリリングの角度をX線撮影して確かめた。

成長板をまたいでも仕方ないだろう。それより頑丈な固定をしたい。

そして、プレートとスクリューは全部抜いておけば肥育素牛として買い叩かれ難い、はず。

plate screws は全部6.5mmを選択して入れたが、近位から2番目のscrewが効いた感触がない。

X線撮影してみると対側皮質を貫いていない。

子牛の皮質骨は薄いし、海綿骨が柔らかいので、ドリリングしても角度が定まらず、screwを入れるときによほど注意しないと、対側皮質に開けた孔へ向かわない。

やり直して、今度は対側皮質を貫くことができた。

screwの長さを入れた図を貼り付けておく。

6.5mmキャンセラスは、5mm刻みでしか販売されていない。

だから近位から、55・45・45・60mmだったのだろうと思う。

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そして、2本の固定screwを避けて、斜めにplate screw を入れた。

頭側から見ても良さそうだ。

遠位のスクリューも尺骨に当たったりしないはず。

肢の牽引をすっかりゆるめて、肘関節を曲げてみる。?

完全には屈曲できない。

DCPの遠位端に橈骨が当たるのだ。

DCPの先の曲がりが長すぎた。

子牛は寝て過ごす時間が長いが、肘関節が完全には屈曲できないと、伏臥していられないかもしれない。

しかし、この1ヶ月ほどで骨癒合さえできれば大丈夫だろう。

                ////////////

当歳馬の肩甲骨骨折。

LCPを3枚使って内固定した。

今年は、馬と牛で何頭プレート固定しただろう。

数え切れない。

骨が折れても治してやれるようになりたい。

そう願えばかなう、はず。きっと。