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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

足根下腿および近位足根間関節滑膜隔壁の血管分布と鏡視下切開

2024-10-15 | 関節鏡手術

近位足根間関節へ落ち込んだ骨軟骨片の取り出し方について書いたと思ったら、

Vetrinary Surger, 2024;53; 999-1008 に

馬の足根下腿および近位足根間関節隔壁の脈管把握、そして2法の鏡視下切開手技の相対評価

なる論文が掲載されている。 

            ー

抄録

目的:足根下腿関節と近位足根間関節を分ける滑膜被覆隔壁の血管分布を調べ(part1)、2種の切開方法、電気メスあるいはFerris Smith rongeurを比較すること(part2)

研究デザイン:実験研究

供試検体数:part1、解剖検体から取り出された滑膜被覆隔壁はそれぞれ8つの部位に分けられ、検索検索用に処理され、血管同定のために抗αアクチン抗体で免疫染色された。

血管の密度はそれぞれの部位について計数された。

データは個体ごと、そして馬間で比較された。

part2では、6頭の馬に足根下腿関節の関節鏡手術を行った。

各肢は無作為に電気メスかFerris Smith rongeur 切開に割り付けられた。

滑膜被覆隔壁切開と総手術時間が記録された。

手術中の出血は点数化された。

データは2法間で比較された。

結果:滑膜被覆隔壁の血管分布には明らかな個体差があった(p=0.02)、しかし部位間では差は認められなかった。

電気メス(4.83±0.54分)とFerris Smith rongeur(4.33±0.67分)間には切開時間に差がなかった。

手技間で術中出血に差は認められなかった。

結論:滑膜被覆隔壁内の血管分布は馬により異なっていたが、部位内では差がなかった。

足根下腿関節鏡手術中、滑膜被覆隔壁内側の電気メスあるいはFerris Smith rongeur切開は迅速な手技で、近位足根間関節の背側腔へのアクセスを改善する。

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Synovial Membrane Septum 滑膜隔壁とはこのSMS部分。

飛節の中で足根下腿関節(距骨と脛骨の関節)と近位足根関節を不完全に分けている。

かならずポケットがあるので、そこからOCDの骨軟骨片が近位足根間関節へ落ちていることがある。

世界中の馬関節鏡外科医が身構えて手術したり、苦労したり、摘出をあきらめている。

滑膜隔壁を切開する方法はあるが、出血が多くなることがある。

それで今回の研究が行われたわけだ。

Canada Quebec州のMontreal大学からの報告。

私は、11番ブレードで切っているし、4分もかからない。

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上図が滑膜隔壁 SMS と、8部位への分け方。

上図の下は、αアクチン免疫染色により血管の平滑筋細胞がピンクに染まっている。

けっこう血行がある組織だ。

出血が多くなることはあるが、それはたまたまで血管分布を気にしても仕方がないようだ。

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関節鏡手術用のFerris Smith rongeurはとても高い。

たぶんすぐに切れ味が落ちるだろう。

電気的切開器具は、いろいろあるがFerris Smith rongeurよりさらに高額。

No11ブレードは100円くらい;笑

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ニセコの秋を歩いてきた

向こうは、アンヌプリと後方羊蹄山(マッカリヌプリ)

 

 

 

 

 

 

 


飛節OCD関節鏡手術も近位足根骨関節まで含めると難易度が高くなる

2024-09-30 | 関節鏡手術

片足だけの飛節OCDの関節鏡手術。

足根骨の背側に骨軟骨片が落ちている。

中間稜には陥凹部があり、そこから剥がれた骨軟骨片のようだ。

長いメス柄につけたNo11ブレードで、近位足根間関節包を切開する。

これは私のオリジナルテクニック。

直接、近位足根骨間関節へ関節鏡を入れる手技や、

10万以上する関節鏡手術用の鋏を使う手技があるが、

私はNo11ブレードで関節包を安全に切開できる。

           ー

それで容易に骨軟骨片を取り出したのだが、なんと外側にもう1個残っている。

その骨軟骨片は、関節鏡を内側から入れても、外側から入れても、近位足根骨間関節内には見えなかった。

しかし、距骨外側滑車の遠位にしっかり写る。

検討をつけてロンジャーで掴もうとしていると、伸腱部の内側の関節包の中に海綿骨が一部見えた。

飛節の内側、伏在静脈の内側に器具孔をもうひとつ開けて、関節鏡とロンジャーを並べるように入れて・・・

骨軟骨片を掴み出した。

Xray画像上でも骨軟骨片は消えた。

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手術時間は2時間を超えてしまった。

なかなか難易度の高い飛節OCDの関節鏡手術だった。

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スズメバチがブンブン飛んでいると思ったら・・・・

なんと、薪棚に径15cmほどの巣。

その向こうには、10cmほどの徳利型の巣。

どちらももう使われてはいなかった。

念のため殺虫剤をかけてから、撤去した。

熊よけスプレーだけじゃなく、アブハチジェットも登山やトレッキングには必携かも。

 

 

 


除雪 関節鏡2頭 牛の帝王切開 外科医は悪い奴じゃないとつとまらない

2023-01-20 | 関節鏡手術

朝、自宅で1時間ほど除雪。

ウッドデッキと敷地内と前の道路と。

診療所へ出勤して、7時半から除雪。

除雪しておかないと、手術に来た馬が歩けない。

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朝は1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

左が間違いなくて、右は確認が必要、とのことだった。

しかし、馬を観たら滑液が増えているのは右。

手術台に乗せてから左右ともにX線撮影し、右には病変があり、左は病変なし。

右だけ手術した。

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昼、予定日を10日過ぎている黒毛和種の帝王切開。

子宮頚管の開きはまだまだ不十分で、しかし胎盤が剥がれてきている。

女性獣医師2名で始めたが、子宮を術創へひっぱってこれない。

「無理そう?」と確認して、ワンポイントリリーフに入る。

左膁部を切開しているのに、どういうわけか脂肪たっぷりの大網が子宮を覆っていて触りにくいが、子宮越しに胎児の後肢をつかんで術創から引っ張り出す。

子宮弛緩剤もよく効いているし、子宮捻転ではないし、それほど大きくないし、たいへんな症例ではなかった。

力の入れ方にコツがあるのか、単に握力や腕力なのか自分ではわからない。

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午後の予定は競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

競馬場からは左腕節の骨折のX線画像が付いてきている。

しかし、馬を観ると右の腕節が腫れている。

この馬はすぐに左右ともX線撮影した。

右に病変を確認し、左は異常なし。

競馬場の獣医師が左右を間違えたのだろう。

毛を刈ってみると、右腕節には以前の手術痕もあった。

だいじな情報なのだが、伝わってこないこともしばしば。

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人を信用しないで、自分で確認することがたいせつ。

生き物を切り、骨を削る外科医は人を信じない悪い奴でないとならない。

人にだまされるお人好しではつとまらない;笑

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これこれ。

薪の間で越冬していて、薪といっしょに部屋へはいってくる”糸トンボ”

捕まえて窓から逃がすのがけっこう面倒。

 

         

           

           

 


診療実績2021 関節鏡手術

2022-11-10 | 関節鏡手術

令和4年 2021年度は、関節鏡手術が

飛節 141 頭

腕節 98 頭

球節 28 頭 (種子骨10頭を除く)

後膝 17 頭

種子骨 10 頭

腱鞘鏡 13 頭

近位指/趾節 3 頭

遠位指/趾節 1 頭

感染性関節炎/腱鞘炎 5 頭

え~っと 合計316頭。

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1年365日だよ。

土曜日曜祝日も関節鏡手術を受けているが、盆正月、夜中まではやっていない。

それでも、昔のように1週間以上先まで予定が埋まっている、ということはない。

機材はオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)できるので、1日2頭こなせるようになっている・・・いつからだっけ?

operator ; arthroscopist が増えたことも大きい。

もう1セット機材があれば1日に3頭こなせなくはない。

故障や滅菌トラブルに対応するためにも考えておく必要がある。

(実は、今も長期修理で借り物でやっている)

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件数をこなすことは、1例1例に適用する技術レベルの担保にもなっている。

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きのうは、

午前中、5歳競走馬の球節の関節鏡手術。両前。

調教を始めた1歳馬の「のど鳴り」の喉頭内視鏡検査。

午後、関節鏡手術の予定だったが、変更してもらって当歳馬の尺骨骨折のプレート固定手術。

夕方、繁殖雌馬の食道”閉塞”の処置。

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いよいよ阿蘇のカルデラを望めるところまで来た。

まあ、なんという景色!

世界でも指折りのカルデラの広さなのだそうだ。

あちこちで温泉の湯気や、噴火口の蒸気が上がっている。

人口密集地にならなかったのは、水が乏しいのか?火山灰地で米が作りにくかったからか?

草千里。

馬が働いていた。

馬医者にとって、馬さえ居れば良いところ;笑

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多和平や、開陽台にも、勝るとも劣らない展望だった。

 

 

 

 


飛節OCDの関節鏡手術 IMR;inter medial ridge

2021-10-13 | 関節鏡手術

サラブレッド生産地の馬病院なので、関節鏡手術では1歳馬の飛節OCDが最も多い。

部位では脛骨遠位の中間稜の背側。distal intermedial ridge of tibia

この1歳馬の骨軟骨片は1cmほど。小さい。

外側から針を刺入し、病変部へのアクセスを確かめておいて、外側切開部の目安にする。

この馬、距骨の中間溝に軟骨が欠損した部位がある。

しかし、これは異常ではない。必要がないから軟骨が生えていないだけ。

McIlwraithのエレベーター(骨起子)を入れて、骨軟骨片を起こす。

が、完全に遊離させてしまわない方が良い。

付着していた方がつかみやすいからだ。

大きな骨軟骨片は縦につかみたい。そのことで、少しでも小さい傷口からつかみ出せる。

離断母床は鋭匙で掻爬する。

私はバキバキ骨を割って病巣を大きくするのは好まない。

術前のX線画像での透過部の大きさ、骨の柔らかさ、海綿骨の断面、出血の程度、などを判断しながら必要最小限だけ削る。

中間稜と距骨が接する部分が削りにくく、軟骨が残りやすい。

しかし、距骨の関節軟骨に傷つけないように心がける。

削った軟骨の屑は、管を入れて灌流液の流量を増やして洗い出す。

関節腔の内側、近位部、距骨内側滑車と脛骨のすきま、足根骨の背側、関節腔の外側に破片が残らないように注意する。

最後に飛節の尾側もよく圧迫して灌流液と関節液を押し出しておく。

皮膚を縫合したら、ガーゼと綿包帯を当て手早く包帯を巻いて圧迫したい。

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いままで何頭この手術をやっただろう?

千頭くらいか・・・・

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とうちゃん くらくなるまでかえってこない

はらへった