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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

腸管の穿刺

2019-04-30 | 急性腹症

分娩後1ヶ月の繁殖雌馬が疝痛を示して来院。

ひどく痛いわけではないが、寝る、前搔きする。

便がほとんど出ない。

血液検査所見は悪くない。PCV30%代。

超音波では著しい気張。右でも左でも。

直腸検査では、膨満がひどくて手が入っていかない。

                -

分娩で腸間膜が裂けて、今になって小結腸が入り込んで閉塞したのか?と考えたが、

少しは硬めの便が出た。

入院して様子を観ることになった。

翌朝も状態は変わらず、開腹手術することになった。

                -

開腹したら、まずガスが張った盲腸が出てきた。

チューブ付きの針(補液管だが)を刺してガスを抜く。

大結腸も腸紐の上から針を刺してガスを抜く。

このように腸管を刺すときは、漿膜を刺したあと針を斜めにして、少しずれた箇所で粘膜を貫くように刺す。

そのことで針を抜いたあとに腸内容が漏れてくるのを減らせる。

しかし、針穴からわずかに腸内容が漏れることがまれにあり、そのときはガーゼで拭いてしばらく穿刺部をつまんでいる。

それでも心配があるときは、糸で縫う。

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この馬は、大結腸の右背側変位だった。

大結腸の血行障害はほとんどなく、結腸壁は肥厚していなかった。

大結腸が変位して、ガスが出なくなって、盲腸と大結腸がひどく膨満していたのだ。

変位を整復し、結腸骨盤曲を切開して内容を捨て、大結腸を正常な位置に戻して結腸固定術を行った。

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このような経過と症状の馬で、体表から腸管を穿刺しようとする獣医師が居るが、私たちはまずやることはない。

1年に150頭以上の重症の疝痛馬を診て、120頭ほど開腹手術をするが、体表から腸管穿刺することはまずない。

目の前で腸管穿刺することで腸液が多少漏れることがあるのを知っているし、

ガスを抜くだけで治るような疝痛は、そんなことをしなくてもいずれガスは抜けるのを知っているし、

どうしてもガスが抜けないような疝痛は開腹手術して治すしかないことを知っていて、開腹手術できるからだ。

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今週はオラの週です エッヘン

 

 


GW2019

2019-04-28 | 日常

Golden Weekが始まった。

世間では10連休だそうだ。

午前中、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

当歳馬の後肢の跛行。

股関節炎が疑われるので、全身麻酔して骨盤をX線撮影して、

超音波で股関節を観て、股関節を穿刺して、抗生剤を投与した。

昼は、血液検査業務。

午後は、子馬の肢軸異常のsingle screw × 2。

繁殖雌馬の疝痛も来院するし、

膀胱破裂疑いの子馬も来院する。

難産も来た。

予定していた、神経症状の子馬や、もう1頭は別な日にまわってもらった。

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きのう一番たいへんだったのは、

こいつを風呂にいれたことでした。

 

 


臍静脈膿瘍

2019-04-26 | 牛、ウシ、丑

子牛は臍静脈が膿瘍化してしまうことがある。

元気・飲乳不振、発熱、成長遅延、削痩、などが症状。

血液検査で炎症像・感染像があり、超音波画像診断で臍から肝臓へと続く管状の膿瘍が見つかる。

抗生物質投与で治療するが、完治しないと、一度は症状が落ち着いてもぶり返す。

膿瘍をなんとかしようと、外科手術が選択される。が・・・・・

3週間前に造袋術をやった子牛は感染が治まらずダメになった。

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今日、午前中はそんな子牛の開腹手術。

手術室で、滅菌ガウンと滅菌手袋を着け、吸入麻酔で手術した。

太いチクワのようになった臍静脈。

(食べ物に例えるのはやめろ!)

中にはクリーム状の膿が入っている。

”乾酪”というがチーズのこと。

チーズにもクリームチーズとか、くさいブルーチーズとか、もろもろのカッテージチーズとかあるからね。

(だから食べ物に例えるな!)

造袋術、といって、膿瘍が管状であることを生かして、

体外へ膿が廃液されるように固定する方法をやろうとした。

しかし、とても奥まできれいになるとは思えない。

吸引するが、ドロドロの膿は吸えない。

マックシェイクはストローで吸いにくいのと同じ。

(だから飲み物も連想するな!!)

結合織が増勢していて、管としてはつまり気味。

できるだけ引張り出して、肝臓近くで切断した。

まるでホヤみたい。

(生ものはとくにやめろ!!)

残る部分をデブリドして腹腔内へ放置。

排水溝の上に置いたら、まるでホルモン。

(やめろって!!)

                  -

午後は、

繁殖雌馬の腕節のDJDのX線撮影。

子馬の球節ALD肢軸異常の手術。

子馬の眼球破裂。

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こぶしが咲いた。

きのうは暖かかったのに、きょうは寒い。

 


吸入麻酔ことはじめ

2019-04-25 | 麻酔学

私が今の職場で勤め始めた1985年頃、馬の長時間手術はハロセンの吸入麻酔器でやっていた。

吸入薬ハロセンは呼吸抑制が強くなく、自発呼吸が続くので人工換気 ventilation なしで麻酔状態を維持できる。

モニターは何もなかった。

そのうち心電図と呼吸はモニターするようになったのだったか。

もっとも吸入麻酔頭数自体が、年に20-30頭くらいだっただろう。

           ー

馬の麻酔の研究はJRAが熱心にやっていて、そのリポートから麻酔中の輸液の必要性を知って、私も実践しようとしたら、先輩獣医師に、

「必要ない」「誰が費用を負担する」

と言われた。ような時代だった。

           ー

生産地研修に来られたMZN先生が、

「オレは麻酔の専門家や」と言って、人工換気による吸入麻酔のメリット・デメリットを講義してくれた。

とてもわかりやすく、いまだに私の吸入麻酔理解の基礎になっている。

           ー

私が関節鏡手術を始めたのが1992年。

初年度から30頭ほど関節鏡手術したし、年々増加した。

安定した、安全な吸入麻酔が必要だと感じていた。

しかし、その頃JRAのトレセンで使われていた人工呼吸器はメカニカルなものでトラブルが多い、とも聞いていた。

USA製なので故障が起きると修理に時間がかかり、そのためにJRAでは予備の麻酔器も用意していた。

資金も置き場所もなく、業者から遠いこちらではそれでは困る。

           ー

麻酔外科学会で関節鏡手術の講演をしに行ったら、人工呼吸器がついた吸入麻酔器が展示されていた。

”動物用”となっていて、「馬にも使えるか?」と訊いたら「使えます」との返事。

「本当に使えるか? 生産地では、50kgの子馬から500kgを超える成馬まで使いたい。」と言ったら、

「やってみないとわからない」と言う。

展示場へMZN先生を連れて行って、どうでしょう?と観てもらったら、

「トレセンへ持ってこい。試験してやる。」と業者に言ってくれた。

           ー

1年ほど経って、

「できたぞ。子馬から競走馬まで麻酔できるようになった。」

と電話が来た。

やはりヒト用を動物用にアレンジしただけでは成馬には使えず、

換気量を大きくし、チューブなどを太くすると死腔が大きすぎて子馬にはよくないので、

子馬にも使えるように、と考えて改良してくれたとのこと。

その吸入麻酔器を導入したのが、1995年頃だったろう。

             ー

吸入麻酔剤はハロセンからイソフルレンになった。

イソフルレンは、ハロセンに比べると循環抑制が少ないので、麻酔中の口粘膜の色が悪くならずピンクなのが驚きだった。

しかし、呼吸抑制が強いので、麻酔担当者が人工呼吸器で換気して管理することになる。

自発呼吸とちがって圧をかけて空気を送り込んで肺を膨らませるので、肺胞の圧が高くなり血管を押しつぶす。

血圧もモニターしなければならないし、動脈ガスもモニターしなければならない。

当初は、吸入麻酔器の上に乗っかった呼気吸気中の麻酔ガス・酸素・二酸化炭素をモニターしていた。

動脈ガスはポータブルのカートリッジ式血ガスモニター装置で測っていた。

             ー

振り返れば、人工換気の吸入麻酔器を導入してから四半世紀だ。

その麻酔装置自体は今でも働いてくれている。

今では年間400症例近いだろう。

馬の外科の進歩と普及は、安全で安定した麻酔に負うところが大きい。

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冬が終わっても薪stoverの薪仕事に終わりはない。

また来冬にそなえて薪を準備しないと。

 

 


1歳馬410kgの尺骨骨折

2019-04-24 | 整形外科

この1歳馬、どうやら他の馬に蹴られたらしい。

肘の骨折部の皮膚にわずかな傷があった。

2月生まれで410kgある大きな1歳だった。

当歳馬の尺骨骨折は生産地では毎年のようにお目にかかる。

変位していなければ、温存で大丈夫なことが多い。

しかし、馬が大きくなると上腕三頭筋の牽引も強力になり、立っている時間も長くなる。

当歳馬の尺骨骨折が、温存でも手術でも治りやすいからと言って、あまく見るとたいへんなことになる。

                    -

9孔のナローLCPを使うことにした。

ナローのDCPの8孔・9孔が在庫がなかったのだ。

そして、DCP固定よりLCP固定の方が強度に優れている。

頑強な固定ができれば、早く痛みもとれるはず。

近位部に3本。遠位部に3本。そして骨折線を貫くように3本screwを入れるよう考えた。

骨折線を貫くscrewはlag法でいれても良いが、position screwとして入れても良い。

プレートの1箇所に力がかかるのを分散してくれる、はず。

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近位から3つ目のscrew holeに5.5mm皮質骨screwを入れた、が完全には締めない。

遠位から3つ目のscrew holeに4.5mm皮質骨screwを入れて、compressionをかけた。

近位部は外側へ変位していたのだが、外から押し付けておいてcompressionをかけたら、うまく密着してくれた。

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骨折線を貫くように5.5mm皮質骨screwを入れた。

あとはLocking Head Screwを4本入れた。

尺骨骨折のプレート固定では、とくにLCPにLHSを使う場合は、screwが尺骨からはみ出さないか注意が必要。

そして、7ヶ月齢を過ぎていたら橈骨の尾側皮質をscrewが貫いていて構わない。

しかし、橈骨の頭側皮質にはドリル孔を開けない方が良い。

橈骨の強度が落ちてしまう。

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成馬(この馬は1歳だが)の上腕三頭筋の牽引力は強大。

ナロープレートにその力が繰り返しかかると勤続金属疲労で折れてしまう。

骨折の形状にもよるが、プレートの破損を防ぐ固定が必要。

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 重機でカシワ林の中に造られた切通し道。

このあたりの山が、火山灰地でできていることがわかる。

そして、大きな樹がならんだ林でも、樹も笹もわずかな表土だけで生きていることが見て取れる。

削っちまったら、簡単には再生しない。