分娩3日目で中程度(転げまわるほどではないが、前掻き・横臥する)の疝痛を示した高齢の繁殖雌馬。
血液もそれほど悪くなく、直腸検査でも著変なく、超音波検査でも膨満した腸管は見当たらなかった。
後で思えば・・・・
ずいぶん頭より(胸腔側)で結腸が見え、腎臓はずいぶん腹側(低い位置)に見えた。しかし、高齢馬の分娩後で腹部がゆるんでいるせいだと考えてしまった。
実際には、結腸が胸腔へ逸脱していたのだった。
疝痛はなんとなく治まっており、輸液をして帰っていった。
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夜中も疝痛が続いたので翌朝再来院した。血液はさほど悪化してはいなかった。
胃液の逆流もあったので、開腹手術を決断した。
麻酔をかけて仰向けにすると腹部が異常にへこんでいる。
呼吸もおかしい。
横隔膜ヘルニアを疑って、頭よりを開腹する。
おそらく妊娠末期の腹圧で破れたのだろう。
横隔膜のほぼ中央が裂けている。
胸腔へ入りこんだ大結腸はなかなか抜けなかったが、腸内容をなんとか揉み出すことで徐々に腹腔へ引きずり出した。
裂孔は両端がはっきり確認できたので、充分縫合できると思ったが、
縫合を始めるとこれがなかなか難しい。
CO2濃度が高いせいで自発呼吸がでていて、その呼吸のタイミングで縫える数秒がある。
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動脈血の酸素濃度低く、酸素飽和度低く、CO2濃度高い。
覚醒室で胸部を穿刺し、吸引機につないで胸腔の空気を抜いた。
起立には吊起帯を使ったが、それほど悪い覚醒ではなかった。
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横隔膜ヘルニアにはいくつかタイプがある。
ひとつは肋骨骨折で横隔膜に孔があいたタイプ。横隔膜の背中側の端近くが多い。
もうひとつは、今回のような妊娠末期の腹圧で避けてしまったタイプ。
正中で腹側よりが多い。
もうひとつは食道裂孔などが先天的に閉じていないタイプ。
孔が大きいことを除けば、今回のような横隔膜の正中の腹側よりが破れている「妊娠末期腹圧タイプ」は縫いやすい症例が多い。