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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

横隔膜ヘルニア(妊娠末期に腹圧で中央が裂けたタイプ)

2012-05-31 | 急性腹症

分娩3日目で中程度(転げまわるほどではないが、前掻き・横臥する)の疝痛を示した高齢の繁殖雌馬。

血液もそれほど悪くなく、直腸検査でも著変なく、超音波検査でも膨満した腸管は見当たらなかった。

後で思えば・・・・

ずいぶん頭より(胸腔側)で結腸が見え、腎臓はずいぶん腹側(低い位置)に見えた。しかし、高齢馬の分娩後で腹部がゆるんでいるせいだと考えてしまった。

実際には、結腸が胸腔へ逸脱していたのだった。

疝痛はなんとなく治まっており、輸液をして帰っていった。

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夜中も疝痛が続いたので翌朝再来院した。血液はさほど悪化してはいなかった。

胃液の逆流もあったので、開腹手術を決断した。

麻酔をかけて仰向けにすると腹部が異常にへこんでいる。

呼吸もおかしい。

横隔膜ヘルニアを疑って、頭よりを開腹する。

P5302226  やはり横隔膜ヘルニアだった。

おそらく妊娠末期の腹圧で破れたのだろう。

横隔膜のほぼ中央が裂けている。

胸腔へ入りこんだ大結腸はなかなか抜けなかったが、腸内容をなんとか揉み出すことで徐々に腹腔へ引きずり出した。

裂孔は両端がはっきり確認できたので、充分縫合できると思ったが、

縫合を始めるとこれがなかなか難しい。

CO2濃度が高いせいで自発呼吸がでていて、その呼吸のタイミングで縫える数秒がある。

非吸収糸でいったん縫い、吸収糸で補強した。P5302228

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動脈血の酸素濃度低く、酸素飽和度低く、CO2濃度高い。

覚醒室で胸部を穿刺し、吸引機につないで胸腔の空気を抜いた。

起立には吊起帯を使ったが、それほど悪い覚醒ではなかった。

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横隔膜ヘルニアにはいくつかタイプがある。

ひとつは肋骨骨折で横隔膜に孔があいたタイプ。横隔膜の背中側の端近くが多い。

もうひとつは、今回のような妊娠末期の腹圧で避けてしまったタイプ。

正中で腹側よりが多い。

もうひとつは食道裂孔などが先天的に閉じていないタイプ。

 孔が大きいことを除けば、今回のような横隔膜の正中の腹側よりが破れている「妊娠末期腹圧タイプ」は縫いやすい症例が多い。

P5282196


万歩計

2012-05-29 | 日常

新しくなった携帯電話には万歩計の機能がついている。

朝、予定の手術前に1歳馬の眼瞼裂創の縫合。

続いて1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

子宮動脈破裂の剖検。

繁殖雌馬の子宮内膜シストのlaser焼烙。

午後は、競走馬の第二中手骨の骨折の摘出。P5292219

(右)

当歳馬の肢軸異常。

夕方、繁殖雌馬の疝痛。

入院厩舎に3頭。

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今日は朝は雨で散歩も運動もしなかったが、日中の診療だけで8800歩。

まあまあかな?


1歳馬の細菌性心内膜炎

2012-05-28 | 馬内科学

元気がなく、食べるのに痩せてくる。心音がひどくおかしい。という1歳馬。

P9020789 心拍そのものがバラバラで、強勢。

心臓の超音波検査では、左右の房室弁の肥厚が認められた。

馬では心疾患に遭遇することは多くはないが、まれに細菌性心内膜炎と思われる症例に当たる。

細菌感染が心臓の弁に起こり、弁の先に瘤ができることで弁がうまく閉じなくなり、逆流が起きて心機能が低下する。

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この瘤。

疣贅(ゆうぜい)と呼ばれることが多いが、人の循環器学会用語集では疣腫(ゆうしゅ)となっているようだ。

いずれにしても「疣(いぼ)」。

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この馬の場合は、疣腫というより弁そのものが肥厚しているように見えるのが特徴的だった。

心臓そのものも大きくなっていて、ひどい不整脈はそのために刺激電導がおかしくなっていたのかもしれない。

もう治療の対象にはならない。と判断したのだが・・・・・

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1ヶ月あまりの経過で死亡した。P5202120

剖検すると、心臓は丸くて弛緩し、左右の房室弁は超音波で観たとおり肥厚し、一部には瘤が付いていた。

人では細菌性心内膜炎はお年寄りに多く、

男性が女性の数倍多いそうだ。

もともと弁の働きが悪くて心臓内の血流がおかしいとか、

心内膜に傷が付くような基礎疾患があると起こりやすいことも人では知られている。

健康だった1歳馬がどうして心内膜炎を起こすのか、細菌はどこから来たのか・・・・わからない。

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今日は、入院馬2頭の治療。

朝、当歳馬の顔陥没骨折のプレート除去。

飛び入りで2歳馬の疝痛。

1歳馬の膣弁切開。

午後、2歳馬の去勢。

2歳競走馬の副手根骨のスクリュー固定。

P5282215


真菌性子宮内膜炎

2012-05-27 | 繁殖学・産科学

P5242166 子宮洗浄したら毛糸玉みたいなものが出てきた。とのことで子宮洗浄液が検体として送られてきた。

毛糸玉みたいなものを、スライドグラスに乗せ、カヴァーグラスで押しつぶすようにして、顕微鏡で観察する。

(右)

カビの菌糸と胞子の塊であることがわかる。

しかし、カビの種類まではわからない。

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P5262179 培養すると細菌のコロニー以外に、毛カビ状の真菌のコロニーが生えてきた。

真菌の発育は細菌より遅いことが多いが、臨床検査ではゆっくり培養して、時間をかけて同定して、というわけにはいかない。

さっさと治療方針を立てて治療を始める必要がある。

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コロニーの形態だけでは真菌の種類までは判別できないことが多い。

とくに真菌のコロニーの発育初期にはわかりにくい。P5262178

細菌のコロニーだとコロニーをスライドグラスに塗って、グラム染色して形態と染色性を観察するが、真菌はそうはいかない。

それで、セロファンテープをコロニーに接触させて、そのセロテープをスライドグラスに貼ったものを顕微鏡で観察する。

(右)

これはセロファンテープ法という正式な検査方法だ。

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P5262177 拡大すると、頂嚢と呼ばれる、胞子をくっつける頭が形成されている。

Aspergillus属の特徴だ。

培養を続ければコロニーの中央が緑色を帯びてくるはずだ。

もっともポピュラーなAspergillusであるfumigatusだろう。

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今日は、競走馬の腕節の関節鏡手術。

2歳馬の腸炎が入院。

1歳馬の外傷。

Darby !!

まあ、こういうもんだろう。

手術した馬が2頭も出走するなんて、それだけでも光栄だ。

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言うの忘れてた。

ハリーさん、おめでとう!!!!


最後の?難産

2012-05-26 | 日常

昨夜、難産の依頼。

まだ生まれていない馬は1割居るだろうか?

もう最後の難産かもしれない。

それでも2月の難産に比べれば、寒さも、慣れているという点からも、楽だ。

頭、両前肢の失位で、整復がたいへんそうなので、即全身麻酔し、後肢を吊り上げる。

失位整復し、引っ張り出したときは子馬は生きていたが、ひどい腕節の拘縮で伸びない。

それが難産を引き起こしたのだ。

よく見ると、背中も曲がり、後肢も曲がっていたのであきらめる。

                       -

今日は、4歳馬の喉頭内視鏡検査。

当歳馬の腰萎のX線撮影。

午後は子馬の肢軸異常のsingle screw 。

初産のお母さん馬が子馬を噛むのだという。

子馬には噛まれ傷があった。

夕方、当歳馬のお尻の外傷。

お母さんを骨折で亡くし、他の母馬のところへ寄っていって噛まれたらしい。

その後、当歳馬の重症のロタ腸炎。

血液検査して脱水・アシドーシス・白血球減少を評価し、糞便のイムノクロマト法でロタウィルスを調べ、超音波で小腸の閉塞や肥厚、腹水をチェックし、内視鏡検査で胃潰瘍を確定診断し、腹水を採取して胃穿孔を否定する。

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さあ、明日はダービーだ!!

がんばれ!!!!!!!!!!!!!!

P5242149